幾筋いくすぢ)” の例文
かれその手先てさき自由じいううしなうたとき自棄やけこゝろからかれ風呂敷包ふろしきづゝみいた。野田のだころ主人しゆじんまた主人しゆじんようでの出先でさきからもらつた幾筋いくすぢ手拭てぬぐひあはせてこしらへた浴衣ゆかたした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
微笑びせうふくみてみもてゆく、こゝろ大瀧おほだきにあたりて濁世じよくせあかながさんとせし、それ上人しやうにんがためしにもおなじく、戀人こひゞとなみだ文字もじ幾筋いくすぢたきほとばしりにもて、うしなはん心弱こゝろよわ女子をなごならば。
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
根方ねかたところつちくづれて大鰻おほうなぎねたやうな幾筋いくすぢともなくあらはれた、そのから一すぢみづさつちて、うへながれるのが、つてすゝまうとするみち真中まんなか流出ながれだしてあたりは一めん
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すべ溝渠こうきよ運河の眺望の最も変化に富みつ活気を帯びる処は、この中洲なかずの水のやうに彼方かなた此方こなたから幾筋いくすぢの細い流れがやゝ広い堀割を中心にして一個所に落合つて来る処、しくは深川の扇橋あふぎばしの如く
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「また始めやがツた。」と俊男はまゆの間に幾筋いくすぢとなくしわを寄せて舌打したうちする。しきり燥々いら/\して來た氣味きみで、奧の方を見て眼をきらつかせたが、それでもこらえて、體をなゝめに兩足をブラりえんの板に落してゐた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
全くに暮果くれはてたり然ども宵月の時分なれば少しもたゆまず何處迄もと追行ども更に駕籠の見えざるのみかとはんと思ふ人にもたえて逢ざれば若此儘尋ね得ずばお花は如何に成やらんと案事あんじる程猶胸安からず暫しも猶豫いうよならざれば足に任せて追程に何時いつしか廣き野中へ出みち幾筋いくすぢとなく有ければ何に行て能事よきことかと定め兼四方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今日けふおもこゝろもらさんか明日あすむねうちうちけんかと、眞實まめなるひとほどこひるし、かるおもひの幾筋いくすぢはされしなるものから、糸子いとここゝろはるやなぎ、そむかずびかずなよ/\として
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なんでえ※等あねら勘次かんじ無意識むいしきにさういつた。かれむねのあたりにいづあせは、わづか曲折きよくせつをなしつゝ幾筋いくすぢかのながるゝみちつくつてる。其處そこには蕎麥そばからからられぬほどづつほこりいてしめつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とて、微笑を含みて読みもてゆく、心は大滝おほだきにあたりて濁世だくせあかを流さんとせし、それの上人がためしにも同じく、恋人が涙の文字もんじ幾筋いくすぢの滝のほとばしりにも似て、気や失なはん、心弱き女子をなごならば。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くちにはへどむづかしかるべしとは十指じつしのさすところあはれや一日ひとひばかりのほどせもせたり片靨かたゑくぼあいらしかりしほうにくいたくちてしろきおもてはいとゞとほほどりかかる幾筋いくすぢ黒髪くろかみみどりもとみどりながらあぶらけもなきいた/\しさよわれならぬひとるとてもたれかは
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)