幾干いくばく)” の例文
彼が生立おひたちの状況洋行の源因就学の有様を描きたりとて本篇に幾干いくばくの光彩を増すや、本篇に幾干の関係あるや、予はがうも之が必要を見ざるなり。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
心に礼ある人を尋ねなば滔々とうとうたる天下幾干いくばくかある。形の礼も軽んずべからず、しかれども心の礼のなお一層重き事を思うべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
くこといま幾干いくばくならず、予に先むじて駈込かけこみたる犬は奥深く進みて見えずなりしが、哬呀あなや何事なにごとおこりしぞ、乳虎にうこ一声いつせい高く吠えて藪中さうちうにはか物騒ものさわがし
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
幾干いくばくもない自己の生命を、正太は自覚するもののように見えた。その日は沈着おちついて、言うことも平常いつもと変らなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
高山こうざんふもとの谷は深い。世界第一の高峻こうしゅん雪山せつさんつ印度のうみは、幾干いくばくの人の死体を埋めても埋めても埋めきれぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼は租税と価格とを合計して土地が幾干いくばくに値するかを考慮する。租税の方に多くを支払うを余儀なくされるほど、彼は価格の方により少く与える気になるであろう。
庄兵衛は黙ってうなずき紙入れから幾干いくばくかを取出し、懐紙に包んで差出した、すべて無言だし、こちらへ眼も向けない、「済みません」伝七郎は手早くたもとへ押込むと
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
くてイワン、デミトリチは宿やどかりことも、療治れうぢすることも、ぜにいので出來兼できかぬるところから、幾干いくばくもなくして町立病院ちやうりつびやうゐんれられ、梅毒病患者ばいどくびやうくわんじや同室どうしつすることとなつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
また後進をも益するようになったならば、彼世における夫の満足は果して幾干いくばくであろうぞなど、かく考え直した結果、夫人は遂に故人の友人、門弟らの勧告に同意して
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
しかして来年の計を為し貯蓄を有するもの幾干いくばくかある、来月に備うる貯蓄を有せざる家何ぞ多きや、人類の過半数は軒端のきばを求むる雀のごとく、山野に食を探る熊のごとく
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
今は我が立てるところを去る幾干いくばくもあらぬ下より遙に向ふの方際涯はて知らぬあたりまで、平らかにして大江の水の如くなる白雲たなびき渡り、村もかくし川もかくし山々谿々もかくしはてゝ
雲のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
パトロンが幾干いくばくの年金を出したことがあったにしても、晩年はそれさえも絶え、いろいろ運動があったにもかかわらずウィーンの政府は進んでこの巨人の生活を保護してはくれなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
一同が途中で待合せつつ幾干いくばくか日数を費すような訳になったのである。
利尻山とその植物 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
僕は近頃屡ば面会して当時の事情を詳しく聞ひたが、阪崎氏の「汗血千里駒かんけつせんりのこま」や民友社の「阪本龍馬」などとは事実が余程違つて居る、符合した処も幾干いくばくか有るがさぎからすと言ひ黒めた処も尠なからぬ。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
激しく火を噴き墜つるたまゆらの機上幾干いくばくまなこ見すゑし
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
親元へ引渡ひきわたすより外に了簡れうけんなしと評決して其段奉行所へ願ひ出でければ大岡殿聞屆られ親元へ相對に致すべきむね申渡されしにより其段豐島屋より親元へ掛合かけあひ猶又双方さうはうよりうかゞずみの上豐島屋より衣類其外殘る所なく支度して金子も幾干いくばくか相添七右衞門方へ娘を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かくてイワン、デミトリチは宿やどかりることも、療治りょうじすることも、ぜにいので出来兼できかぬるところから、幾干いくばくもなくして町立病院ちょうりつびょういんれられ、梅毒病患者ばいどくびょうかんじゃ同室どうしつすることとなった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いま幾干いくばくならざるに、昌黎しやうれいてう佛骨ぶつこつへうたてまつるにり、潮州てうしうながされぬ。八千はつせんみちみちれんとしたま/\ゆきる。晦冥陰慘くわいめいいんさんくもつめたく、かぜさむく、征衣せいいわづかくろくしてかみたちましろし。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
大原ぬしがあの誠実と熱心とを以て西洋の家庭教育を調べ給わば帰来我邦わがくにを益する事幾干いくばくぞ。学校教育には学士や博士の多きこと山のごとくなれどもいまだ著しき教育の効果を見ず。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ああ事業よ事業よ幾干いくばくの偽善と卑劣手段と嫉妬とあらそいとは汝の名により惹起ひきおこされしや。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
今日は釣る人の幾干いくばくもあらじと思ひけるに、釣るべきところに来りて見れば釣り舟の数もいと多くして、なか/\数へ得べくもあらぬまでおびたゞしく、秋の木の葉と散り浮きたるさま
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
旅順りよじゆん吉報きつぱうつたはるとともに幾干いくばく猛將まうしやう勇士ゆうしあるひ士卒しそつ——あるひきずつきほねかは散々ちり/″\に、かげとゞめぬさへあるなかをつと天晴あつぱれ功名こうみやうして、たゞわづかひだり微傷かすりきずけたばかりといたとき
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ああ幾干いくばくの無神論者は基督教信徒自身の製造にかかるや、余はかつて聞けり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ならかつら山毛欅ぶなかしつき大木たいぼく大樹たいじゆよはひ幾干いくばくなるをれないのが、蘚苔せんたい蘿蔦らてうを、烏金しやくどうに、青銅せいどうに、錬鉄れんてつに、きざんでけ、まとうて、左右さいうも、前後ぜんごも、もりやまつゝみ、やまいはたゝ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)