尖端せんたん)” の例文
そういう意味で、現代物理学の最尖端せんたんを行く原子論方面の研究は、国防に関聯かんれんある研究所でも一応の関心を持っていて良いであろう。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
即ち生活の技術の尖端せんたんにはつねにイマジネーションがなければならない。あらゆる小さな事柄に至るまで、工夫と発明が必要である。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
惣兵衛は左右の手の、指の尖端せんたんを交互にみながら聞いていた。指の尖端をつまんで、静かに揉み、次つぎとそれを繰り返すのである。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
赤黒い棍棒こんぼうの様なものであった。その棍棒の尖端せんたんがパックリ二つに割れて、内側にギザギザしたのこぎりの歯みたいなものがついていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
尖端せんたんうへけてゐるくぎと、へい、さてはまた別室べつしつ、こは露西亞ロシアおいて、たゞ病院びやうゐんと、監獄かんごくとにのみる、はかなき、あはれな、さびしい建物たてもの
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
仙台地方に流行するポンポコやり尖端せんたんに附いているひさごには、元来穀物の種子が貯えられたのである。これが一転して玩具化したのである。
土俗玩具の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
さような人物になると座席など決して贅沢ぜいたくはいわない。いつも鯛でいえばおかしら尖端せんたんか、尻尾しっぽの後端へじりついて眺めている。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
急に、角度を切って、その船列の尖端せんたんは、和田ノみさきの南寄りのなぎさへ接岸して行った。——磯松のあいだに高い燈籠台とうろうだいがそびえている。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
対立が即綜合そうごうである。そこに弁証法的論理があるのである。矛盾の尖端せんたんとしては、時の瞬間の如きものが考えられるであろう。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
ドイツの最尖端せんたん作曲家、ジャズの手法を採り入れて一風変った刺激しげきを持つ音楽を作っている。しかも芸術的であり、楽しくもあるのが面白い。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ほそつる尖端せんたんが宙に浮んで、何かまきつくものをさがしている、そのかぼそいもののいとなみは見ているものの心をうっとりとさせるのであったが
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
突然僕ハ舌ノ尖端せんたん齕噬こつぜいヲ感ジタ。………次イデ耳朶ニモソレヲ感ジタ。………コンナヿハ今マデニナイヿデアッタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それが見えれば、本船は、その尖端せんたんのカビエンの町を左に見つつ南方へ針路をまげ、そして島ぞいにラボール港まで下っていくことになっていたのだ。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とでも形容したいくらいに軽く鮮やかにスプウンをお口と直角になるように持ち運んで、スプウンの尖端せんたんから、スウプをお唇のあいだに流し込むのである。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
寒空には初冬はつふゆらしい雲が望まれた。一目見たばかりで、皆な氷だということが思われる。氷線の群合とも言いたい。白い、冷い、透明な尖端せんたんは針のようだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実は、これは心すべき事だつた。……船につくあやかしは、魔の影も、鬼火も、燃ゆるりんも、可恐おそろしき星の光も、皆、ものの尖端せんたんへ来てかかるのが例だと言ふから。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
妻は、しずまった空に樹の尖端せんたんがまた震えているのを見ながらそう云って、私が一人で飛び出したことを、べつに何とも言わなかった。私は赤児の瞳を見た。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
4 帆柱の尖端せんたんに飜る船旗。——新しき五月の花よ。モンテ・カルロへ! 万歳!——と書かれてある。
氷れる花嫁 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
これは秋には真赤まつかに紅葉したのであつたが、今は小さい芽が枝の尖端せんたんのところから萌えいでてゐる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
銛はするど尖端せんたんと槍の如きとより成る物なるが魚の力つよき時は假令たとへ骨にさりたるも其儘そのままにて水中深く入る事も有るべく、又漁夫があやまつて此道具をながす事も有るべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
すぐ身近なところに大きな説教壇があり、その小さな、まる天蓋てんがいには、半ば横になって二つの黄金のの十字架がつけられてあり、そのいちばん尖端せんたんで相交わっていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
彼はそれをひらくと無造作に左手のくすり指をその尖端せんたんでつっついた。そしてちょっと顔をしかめてその指先を見つめていたが、すぐそれを自分の名前の下におしつけた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
村が山から遠くに独立することになって、こういう土地はまず肥料の補給によって、切替畑の利用法から脱却したのである。この地名は遠く飛んで東北の尖端せんたんだけにある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
知っているとも、その意味はわかるまいが、この子供は、いつも尖端せんたんを歩きたがる子供である。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
時と所と人と、三拍子びょうしそろって、あの歴史的なスパイ戦線の尖端せんたんに踊りぬいていたのだった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
焔の舌が三つに分かれ、ヒラヒラ空の方へ立ち上るていは、芍薬の蕾が花弁を開き、その尖端せんたんふるわせるようであった。焔が延びるにしたがって、闇の領分が押し退けられた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここを通り越せば、その尖端せんたん雲にるかと思わる天狗岩が掃川はきがわの岸からそびえ立っているワイ。
今朝行って見ると、枝の尖端せんたんありが二、三びきずつついていて、何かしら仕事をしている。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
木の枝に褪紅色たいこうしょくの栗の実が、今にも落ちそうにイガの外にはみ出している。私はそれを尖端せんたん二叉ふたまたになった棒切れでねじ折る。そしてそれを草履の下でんで栗の実を採り出す。
麻川氏は自分の屹々きつきつした神経の尖端せんたんを傷めないK氏の外廓形態の感触に安心してK氏のなか味のデリカな神経に触接し得る適宜さでK氏をますます愛好して居るのではあるまいか。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは新しいガーゼを巻き付けた眼鏡型のの処から、薄っペラになった尖端せんたんまで一直線に、つるぎのように細くなっている、非常に鋭利なものであったが、その鋏を二三度開いたり
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
殊に胴体から胸・顔面にかけて剥脱した白色が、光背こうはい尖端せんたんに残った朱のくすんだ色とけあっている状態は無比であった。全体としてやはり焔とよぶのが一番ふさわしいようだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
流行の尖端せんたんを自覚した日本女が、弛緩しかんしたような朝鮮女が、ニグロの女が、そしてノラの属する混血種の支那女が黄浦灘パンドを横切って蘇州路へ、北京路へ、南京路へと立ち去って行く。
新種族ノラ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
クリスマス前の銀座は、デコレーションの競いで、ことにともし時のめまぐるしさは、流行の尖端せんたんを心がけぬものは立入るべからずとでもいうほど、すさまじい波がどよみうねっている。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私はそのときハイキング用の尖端せんたんにとがった鉄のついたステッキを持っていた。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そのロープの尖端せんたんには人間の腕まわりほどの太さのかぎがついていた。この鉤自体が一人ひとりではとても動かないのであった。そこへ持って来て室蘭では、この種の荷役になれた仲仕がいなかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
真田久吉の印象派風の作品など当時にあっては尖端せんたんをゆくものであった。
ヒウザン会とパンの会 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
底の深い筆筒やうの筒に割箸わりばしが沢山に入れてあつて、その割箸の尖端せんたんの赤く染めてあるやつを引つこぬけば当り籤なのであつたが、私はあまりにはづれてばかりゐたので、抽籤のとき、筒の中の箸を
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
すでにそれはぼくを支える力ではなく、ぼくの生身を、その自己欺瞞ぎまんを、裏面からするどい尖端せんたんで突つきつづけてめない。……「率直」な実行力とは、健康の同義語なのだ、とふいにぼくは思った。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
しぶきの白くあがる尖端せんたん
死の淵より (新字新仮名) / 高見順(著)
この尖端せんたんうえけているくぎと、へい、さてはまたこの別室べっしつ、こは露西亜ロシアにおいて、ただ病院びょういんと、監獄かんごくとにのみる、はかなき、あわれな、さびしい建物たてもの
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
右手の拇指と食指の尖端せんたんで巧みに鼻毛を摘み、くいと引張って抜くのであるが、抜いたとたんに彼は大きなくしゃみをした。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
置文のぬしが生きていた時代とは時勢そのものがちがっている。尊氏はとうに置文を越えた“時”の尖端せんたんに立って現在と未来の間に戦っていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次に言葉はそれほど難しくなくても、むやみと最近の物理学の尖端せんたんの問題、量子力学や原子論の結果を引用したものもちょっと始末が悪いのである。
科学と文化 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ふり仰ぐと土藏の壁だけを殘して、あとは嚴重な黒板塀をめぐらし、眞新しい忍び返しが、中空に無氣味な尖端せんたんを並べて菊屋の安全を保證して居ります。
現在において、我々が何処までも個人的自己として、個人的自己の尖端せんたんにおいて行為的直観的に物を把握する所に、客観的実在の判断的知識が成立するのである。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
木炭はその尖端せんたんを使用し、時には木炭の横腹を以て広い部分を一抹いちまつする事もよろしい。鉛筆画と違って、調子を作るために線の網目や並行の斜線を使用する必要がない。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
遠近おちこち樹立こだちも、森も、日盛ひざかりに煙のごとく、かさなる屋根に山も低い。町はずれを、蒼空あおぞらへ突出た、青い薬研やげんの底かと見るのに、きらきらとまばゆい水銀を湛えたのは湖の尖端せんたんである。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年は、高いところにいている電灯の電球たまを、ねじって消すために、長い竿竹さおだけ尖端せんたんを、五つほどに割って、繃帯ほうたいで止めてある長道具ながどうぐを担ぐと、急いで駈け出していった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
肉づきのいいうなじにはにじのようにギラギラ光る水晶の頸飾くびかざりをして、眼深まぶかに被った黒天鵞絨びろうどの帽子の下には、一種神秘な感じがするほど恐ろしく白い鼻の尖端せんたんあごの先が見え
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)