将棋しょうぎ)” の例文
旧字:將棋
初冬の夕陽がい寄る縁側、今までガラッ八の八五郎を相手に、将棋しょうぎの詰手を考えている——といった、泰平無事な日だったのです。
「ああそうか。あすこはすずしいからな。将棋しょうぎをさしたり、ひるねをしたりするのにはいいだろう。」と、おとうさんはわらわれました。
おさらい帳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
親指の爪先つまさきから、はじき落すようにして、きーんと畳の上へ投げ出した二分金ぶきんが一枚、れたへりの間へ、将棋しょうぎの駒のように突立った。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
門番達に礼をいうと、教えられた中門の奥の方へスタスタと立去ってゆく、次いでまもなく、尺取の姿も将棋しょうぎのそばからかき消えました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町内の口きき連から、用のないてあいが、将棋しょうぎ盤や盤を持込んで、しきりに無駄話をしていた。彼等の目は一斉に隣人の一身にそそがれた。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
厚みも大きさも将棋しょうぎ飛車角ひしゃかくぐらいに当る札を五六十枚ほど四人で分けて、それをいろいろに並べかえて勝負を決していた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
豹一は近くの長願寺の和尚に将棋しょうぎを習った。和尚は無類のお人よしであったが、将棋好きのためしばしば人にきらわれた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
そこは西に面した高い城壁の上であったが、あわい月光の下、人影とおぼしきものが数十体、まるで将棋しょうぎこまをおいたように並んでいるのであった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
の手将棋しょうぎの手といふものに汚ないと汚なくないとの別がある。それがまたその人の性質の汚ないのと汚なくないのと必ずしも一致して居ないから不思議だ。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これは、ほんの小手こてしらべだよ。まだまだおどろくことがある。さあ、何をやらせようかな。うん、そうだ。将棋しょうぎをさすことにしよう。Qは将棋がうまいのだよ。
鉄人Q (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
古いころの双六は今ある一枚刷いちまいずりの道中双六どうちゅうすごろくなどとはちがって、将棋しょうぎと同じようなばんの上の競技であった。そうしてその遊びをすることを打つといっていた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
のちに思えば例の三馬の『浮世風呂』をそのままで、茶を飲みながら将棋しょうぎをさしている人もあった。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山形市の近くに天童てんどうと呼ぶ小さな静な温泉町があります。ここは将棋しょうぎの駒を作るのに忙しい所であります。吾々がもてあそぶ駒の大部分はこの小さな町から出るといわれます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
将棋しょうぎなどは十四、五で初段になる、特別天分を要するものだから、その道では天来の才能に恵まれているが、ほかのことをやらせると国民学校の子供よりも役に立たない
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「ああいう暮しを永年していると、僕らぐらいの人間は将棋しょうぎの駒みたいに見えて来るんだろうね。きっと性格なんてものだって、使用価値からだけ見えているんだろうな」
杉垣 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
若いざん切り頭の先生は、蒲団ふとんを隅の方へ押しやって、ちゃいろい畳の上で火鉢で御飯ごはんをたいていた。そして飯の出来るまでと言って、将棋しょうぎを教えてくれたりしたものであった。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
赤いペンキで「○○理髪店」と書いてある硝子戸ガラスどに顔をくっつけて中をのぞくと、彼と同年ぐらいの、白い仕事着をた男が、読んでいる将棋しょうぎの本ごしに億劫おっくうそうにこっちをみたが
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
蹴鞠けまり・茶道・あるいは連歌れんが俳諧はいかい・碁・将棋しょうぎ等の遊び業これあるところ、今にては御旗本に似合わざる三味線さみせん浄瑠璃じょうるりをかたりこうじては川原ものの真似を致すやからも間々これある由
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そのおのおのが持っている任務と力量とを彼は指揮官のように知っていた。彼はそれを用いてある勝敗を争おうとするのだ。彼の得意とする将棋しょうぎ囲碁いご以上にこれは興味のあるものだった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
馭者は宿場しゅくばの横の饅頭屋まんじゅうや店頭みせさきで、将棋しょうぎを三番さして負け通した。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
この男はまだ健在で今は長大なピンセットで紙の将棋しょうぎの駒を動かしながら「何とかして角べろりん」などと例のふし廻しでしゃべりながら将棋の必勝か何かの本を売っているが、銀座では見かけない。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
右の一行が、木津屋の暖簾のれんの中へ入ってしまい、そのあとから男が二人、黒塗りの長持のような大きな箱を担ぎ込むところまで見ておりましたが、その箱の一方は、将棋しょうぎの駒の形をした木札きふだがあって
「君のは好い隠し芸だよ。碁や将棋しょうぎよりも気が利いている」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「何しろ荘左衛門という人は、町人のくせに学問が好きで、小唄も将棋しょうぎもやらないかわりに、四角な文字を読んで、から都々逸どどいつを作った」
にんは、小西こにしのあとについてゆきました。みせつぎでは、小西こにし父親ちちおやらしいひとが、肌脱はだぬぎで、わかおとこ相手あいてにして、将棋しょうぎをさしていました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
というわけは、彼らと恐竜の間には、将棋しょうぎこまのような岩があって、恐竜どもの姿を、彼らからかくしていたのだ。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうしてむかし兄と自分と将棋しょうぎを指した時、自分が何か一口ひとくち云ったのをしゃくに、いきなり将棋の駒を自分の額へぶつけた騒ぎを、新しく自分の記憶から呼びさました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
空を見さだめて、非番の者たちは、夕虹の下を帰って行ったが、平四郎は、宿直とのい部屋の同僚と話しているうちに、将棋しょうぎが初まったので、つい燈火ともしびを見てしまった。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
チンピラどもは、将棋しょうぎだおしさ。いきおいあまって、かさなりあって、たおれてしまった。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「おばはん小遣い足らんぜ」そして三円ぐらい手ににぎると、昼間は将棋しょうぎなどして時間をつぶし、夜はふた井戸いどの「おにいちゃん」という安カフェへ出掛けて、女給の手にさわり
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
将棋しょうぎを差していた閑人ひまじんどもであります。
将棋しょうぎは如何でございましょうか?」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
未開みかい温泉宿おんせんやどでは、よる谷川たにがわおとこえてしずかだった。行燈あんどんしたで、ずねをして、おとこどもが、あぐらをんで、したいて将棋しょうぎをさしていた。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
将棋しょうぎの相手がありますから、三日のうち一日はここで暮します。あの騒ぎの時も、ここに居たように思いますが、お菊さんとお吉さんが銭湯へ行く姿を
それは下にせまっている警官隊のまん中で大きな音をあげて破裂はれつした。警官たちは将棋しょうぎだおしになった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「最前、お長屋で門番と将棋しょうぎをさしていたようだ。その窓から大きな声をして呼んだら聞こえるだろう」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある時将棋しょうぎをさしたら卑怯ひきょう待駒まちごまをして、人が困るとうれしそうに冷やかした。あんまり腹が立ったから、手に在った飛車を眉間みけんたたきつけてやった。眉間が割れて少々血が出た。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
木戸口に殺到する群集のわめき声、将棋しょうぎ倒しの下敷きになって悲鳴を上げる老人、泣き叫ぶ女子供、その騒然たる物音の中にときわ高い怒号の声が、彼方此方かなたこなたに響きわたっていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
奇行、珍癖の横紙破りが多い将棋しょうぎ界でも、坂田は最後の人ではあるまいか。
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「ねえ、おとうさん。きょう紙芝居かみしばいのおじさんが、じてんしゃをほったらかしてしたで、道具屋どうぐやのおじさんと将棋しょうぎをさしていましたよ。」と、はなしました。
おさらい帳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それも彼がお重から、あなたの顔は将棋しょうぎこま見たいよと云われてからの事である。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尺取しゃくとりはこのきょに乗じて、役宅のなかへまぎれ込んでしまおうかとも思いましたが、急いではあぶないと、わる度胸をすえて、わざわざ将棋しょうぎの仲間へ首を寄せてゆきながら、同じように及び腰で
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うたつくるとか、をかくとか、ならうとか、またや、将棋しょうぎをするとか。わしなどは、一ぱいやり、はたけて、花造はなづくりをするのも、じつは、そのためなのじゃ。
世の中のために (新字新仮名) / 小川未明(著)
父はこの前の冬に帰って来た時ほど将棋しょうぎを差したがらなくなった。将棋盤はほこりのたまったまま、とこの隅に片寄せられてあった。ことに陛下のご病気以後父はじっと考え込んでいるように見えた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、将棋しょうぎへ顔をそらしている尺取の十太郎を横目に見て笑いました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小西こにしが、受取証うけとりしょう父親ちちおやせると、父親ちちおやは、しばらくだまってかんがんでいました。将棋しょうぎ相手あいてをしているわかおとこが、「どうしたんだ?」と、のぞきみました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
中で、将棋しょうぎをやっているらしい。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人ふたりは、かおると、将棋しょうぎをさしました。げんさんのほうが、いくらかさんよりはつよいようでした。
クラリネットを吹く男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
将棋しょうぎだおしにやぶれた剣道方けんどうがた
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、さんは、音楽おんがくにも趣味しゅみをもっていて、ラジオで、うた放送ほうそうするときなど、将棋しょうぎをさしながら、自分じぶんこまがとられるのもらず、うたのほうにをとられていました。
クラリネットを吹く男 (新字新仮名) / 小川未明(著)