ばば)” の例文
お前様みたいな方は、若いうちも年取りなっても同じなんべえけど、己等みたいなものは、ばばになったらはあ、もうこれだ、これだ。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
平生へいぜい私の処にく来るおばばさんがあって、私の母より少し年長のお婆さんで、お八重やえさんと云う人。今でもの人のかおを覚えて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
だから彼はそそくさに四つの大根を引抜いて葉をむしり捨て著物の下まえの中にしまい込んだが、その時もうばばの尼は見つけていた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
え? だってあの女は(と彼は死骸しがいのある方を指さした)、どこかの金貸ばばあみたいに、『しらみ』だったわけじゃありませんからね。
ちょいとどうぞと店前みせさきから声を懸けられたので、荒物屋のばばは急いで蚊帳をまくって、店へ出て、一枚着物を着換えたお雪を見た。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
継妻光子は結婚当時は愛くるしい円顔であったのがいつか肥満したばばとなり、日蓮宗に凝りかたまって、信徒の団体の委員に挙げられている。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼は寺の掃除ばばに命じて、画像の前の窓障子まどしょうじをすつかり解放させ、四方を清浄に掃除させて置いた。彼は自分の身をもよく冷水でき清めた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「最後になったら、斬り死にするばかりだ。本位田のばばや、姫路の武士さむらいどもや、憎い奴らを、斬ッて斬ッて、斬り捲くッて」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだ、あの草っぱらは好いな、あちこちに犬小屋のような小屋がけをして、ばあさんがいるじゃないか、いやばばあだよ」
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
薪取り草取り縫針飯炊はばばの役で、お光は時々おやじと一処に、舟に乗って行くこともあれば、ひとり勝手に遊ぶこともある。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ばばさん! 丈夫になっていろな。五年や六年位は、すんぐに経って了うもの。そのうちに、鶴だの亀らが大きくなったら、俺家もよくなんべから。」
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
後に残すんです。ピエエル、おれの末の孫っ子ね、この冬死んじまった。それに、なんにも役に立たないばばのおれが、まだこうしてるじゃないかね
新兵衛のばばにあって、昔の話もし、そうして今お菊はどんなふうでいるかも聞いてみたい心持ちがしてならなかった。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あるところでばばが座敷を掃いていたら、豆が一粒落ちていた。婆が拾うべとしたら、豆はコロコロと転がって行った。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かぼちゃのつるまたぎ越え、すえ葉も枯れて生垣いけがきに汚くへばりついている朝顔の実一つ一つ取り集めているばばの、この種を植えてまた来年のたのしみ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのありさまを冷たく笑って、欠け歯をむき出して、茶碗ざけを、ぐびりぐびりやっていたお三ばば——ニヤリとして
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こめかみに頭痛膏ずつうこうを貼ったばあさんの顔が、長火鉢の向うにのぞかれた。「あいよ」はこのばばあの声だったのかと見たとき、障子がぴしゃりとしめられた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
それを女同志のことで、こちらの奥の人たちが勧められたものか、自分たちでその気になったか、とにかく、そのばばさまに師匠を見せるということになった。
「重ねてそのようなことを言うたら、すぐわしに知らしてくれ、あのばばめが店さきへ石塊いしくれなと打ち込んで、新しい壺の三つ四つも微塵みじんに打ち砕いてくるるわ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ばばは、いつも、馬のいるところに、影が無いから、聞かずともわかっていそうなものだ、というような態度で
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
あるある島田には間があれど小春こはる尤物ゆうぶつ介添えは大吉だいきちばば呼びにやれと命ずるをまだ来ぬ先から俊雄は卒業証書授与式以来の胸おどらせもしも伽羅きゃらの香の間から扇を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
東京では今年生まれたハゼを「デキ」といい、きょねんから年を越したのを「シネハゼ」または「ばばハゼ」というが、上方では「フルセ」、「じじハゼ」という。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
しかし召使の百姓上りのよぼよぼばばが入口へ出て何かぼそぼそと云っていたようだったが、帰ったのか入ったのか、それきりで此方へは何も通じは仕無かった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それから高一は、口の中で、「奥の山のぢぢばばア、金太の目へゴミが入つた、貝殻杓子かひがらじやくしすくうてくれ!」
栗ひろひ週間 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
されば遠野郷の人は、今でも風の騒がしき日には、きょうはサムトのばばが帰って来そうな日なりという。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ふみの言葉や仮名づかいには田舎のばばが書いたらしいおぼつかないふしぶしも見えるけれども、文字はそのわりにまずくなく、お家流の正しいくずし方で書いてあるのは
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
嘘を詠むなら全くないこととてつもなき嘘を詠むべし、しからざればありのままに正直に詠むがよろしく候。すずめが舌られたとかたぬきばばに化けたなどの嘘は面白く候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
とてもたまらん! あなたがたのおかげで、くたくたです! (ガーエフに)あなたはばばあだ、まるで!
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
漂母ひょうぼは洗濯ばばのことで、韓信かんしんが漂浪時代に食をうたという、支那の故事から引用している。しかし蕪村一流の技法によって、これを全く自己流の表現に用いている。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
お近婆さんは、地獄の率土そっとばばみたいに、骨と皮ばかりの青い顔を、ひっつらせながしゃべった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
案内せる附添のばばは戸口の外に立ちて請じ入れんとすれば、客はその老に似気なく、今更内の様子を心惑こころまどひせらるるていにて、彼にさへ可慎つつましう小声に言付けつつ名刺を渡せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
年寄のくせにいつまでも大きな顔をして、何かにつけ嫁をいぢめる、いやらしいばばアであると考へました。世間で因業婆アといふのは、うちの婆アのことであると考へました。
百姓の足、坊さんの足 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
母親おふくろ父親おやぢも乞食かも知れない、表を通る襤褸ぼろを下げた奴がやつぱり己れが親類まきで毎朝きまつてもらひに来る跣跋びつこ片眼めつかちのあのばばあ何かが己れの為の何に当るか知れはしない
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
北多摩郡中では最も東京に近い千歳村字粕谷かすや南耕地みなみこうちと云って、昔は追剥おいはぎが出たの、大蛇が出てばばが腰をぬかしたのと伝説がある徳川の御林おはやしを、明治近くにひらいたものである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうしたら弟の言草は、「このばばサも、まだこれで色気がある」と。あまり憎い口を弟がきくから、「あるぞい——うん、ある、ある」そう言っておげんは皆に別れを告げて来た。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『ひでえばばあでさあ、因業な——いやはや、どっかいい家はないでしょうかえ。』
ことに終わりの方の場面は予審判事とラスコーリニコフの対話の場面を連想させるほど、中々よく書いてある。けれども第一に犯罪が無理にこしらえてある。ばばを殺す理由が実に薄弱である。
豚吉は、何をこの梅干ばばと、馬鹿にしてつかみかかって行きました。ところがその強いこと、橋番のお婆さんはイキナリ豚吉を捕まえますと、手鞠てまりのように河の中へ投げ込んでしまいました。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
クリストフは彼らを、めかしばば、ジプシー、綱渡り、などと呼んでいた。
お祖師様の産れ代りのき如来様、どうぞ饑えたこのばばにも生命の握飯を
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……されば、逐々ありありて戻り来しか。来る年も来る年も待ちったが、冥土の便宜びんぎ覚束いぶせしないか、いっこう、すがたをお見されぬ。今もいま、ばば刀自とじ愚痴かごというていた。……ああ、ようまあ戻り来しぞ。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「お母様じゃないや。お母様は死んでしまったよ。お母様は、もっときたなばばあだったよ。この人は綺麗きれいだよ。此人は美奈ちゃんと同じように、綺麗だよ。お母様じゃないや、ねえそうだろう、美奈ちゃん。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
追つかけてつちめろ、おばばきだよ、お若いの。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「なんだ、鈴川、新しいばばあが来ておるではないか」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
りんごかじりのばばおかみ
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
「八百屋のばばあだよ。」
ばばあ」
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
懐にしてペテルブルグ三界へ来るんだろう? ルーブリ銀貨三つか「おさつ」の二枚も持ってか(これはあいつの言い草だ……あのばばあの)
行懸ゆきがかり、ことばの端、察するに頼母たのもしき紳士と思い、且つ小山をばばが目からその風采ふうさいを推して、名のある医士であるとしたらしい。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お杉ばばは、あんな巧いことをいっていたけれど、お通さんをだまくらかして、どうかしているのかも知れないぞ? ……」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)