大蛇だいじゃ)” の例文
ろうをぬったひげだるまの目は、むこうのすみでぴかぴか光っているし、すさのおのみことは刀をいて八頭の大蛇だいじゃを切っていました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
立っているひとりの胸にもうひとりの黄金女が、大蛇だいじゃのように巻きついて、首と胸とに顔のある一身二頭の異形の舞踊を踊っていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
亮二は、アセチレンの火は青くてきれいだけれどもどうも大蛇だいじゃのような悪いにおいがある、などと思いながら、そこを通り抜けました。
祭の晩 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
秩父ちちぶ大蛇だいじゃ八幡やはた手品師、軽わざ乗りの看板があるかと思えば、その隣にはさるしばいの小屋が軒をつらねているといったぐあいでした。
これに反してとら大蛇だいじゃとの取り組みは実にあざやかである。へびの闘法は人間にはちょっとまねができず、想像することもできない方法である。
風船乗り、大蛇だいじゃ、鬼の首、なんとか言う西洋人が非常に高いさおの上からとんぼを切って落ちて見せるもの、——数え立てていれば際限はない。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
したがって、乱心者のいうことも周囲の影響を受ける場合がしばしばある。たとえば、あるところで大蛇だいじゃが殺されたとする。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その池の水際みずぎわには、あしやよしが沢山え茂っている上に、池のぐるりには大木がい茂って、大蛇だいじゃでも住みそうな気味の悪い大池でありました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
森の奥から火を消すばかり冷たい風で、大蛇だいじゃがさっと追ったようで、遁げたてまいは、野兎のうさぎの飛んで落ちるように見えたということでございまして。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ヤレまあよかったと、旅人がホット一呼吸いきしていると、井戸の底にはおそろしい大蛇だいじゃが口を開いて、旅人の落ちてくるのを待っているではありませんか。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
それが次第に近寄って、むくむくと大蛇だいじゃが横にうように舟のへさきへ寄って来たかと思うと、舳をならべていた小舟は一斉いっせいに首をもたげて波の上に乗りました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
三人は、地上に大蛇だいじゃのようにはっている水道のホースのうえをとびこえながら、なおも奥の方へすすんだ。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そいつは大蛇だいじゃたつといって、からだぜんたいに大蛇の刺青いれずみのある、博奕ばくち打ちなかまでは相当に顔の売れた男ですよ、あっしが御放免になって十日ばかり経った或る日
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三郎があとからかけつけた時には、八郎はおそろしい大蛇だいじゃになって川を泳いでいた。八郎やあ、と呼ぶと、川の中から大蛇が涙をこぼして、三郎やあ、とこたえた。
魚服記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
動物園で大蛇だいじゃに呑まれようとする兎のふるえてすくんだ様子を見たことのある人には、誰でも想像ができるに相違ない。わたしの犬の姿はあたかもそれと同様であった。
三角の帽子は禿鷹はげたかの形の煙となって消えました。赤と白とのだんだらの服は大蛇だいじゃの形の煙となって消えました。汚れたあさのシャツはなめくじの形の煙となって消えました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
きしはどこもかしこもみなったようないわで、それにまつすぎその老木ろうぼくが、大蛇だいじゃのようにさがっているところは、風情ふぜいいというよりか、むしろものすごかんぜられました。
目のまえの鉄筋コンクリートだての大工場だいこうばの屋根がわらがうねうねと大蛇だいじゃが歩くように波をうつと見るまに、その瓦の大部分が、どしんとずりおちる、あわてて外へとび出すはずみに
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
すると、犬芝居いぬしばいや、やまがらの芸当げいとうや、大蛇だいじゃせものや、河童かっぱせものや、剣舞けんぶや、手品てじなや、娘踊むすめおどりなどというふうに、いろいろなものがならんでいました。そのなかに、おんな軽業かるわざがありました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
雷電峠と反対の湾の一角から長く突き出た造りぞこねの防波堤は大蛇だいじゃ亡骸むくろのようなまっ黒い姿を遠く海の面に横たえて、夜目にも白く見える波濤はとうきばが、小休おやみもなくその胴腹にいかかっている。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大蛇だいじゃを見るとも女人にょにんを見るべからず」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし気違いでもない事がわかると、今度は大蛇だいじゃとか一角獣いっかくじゅうとか、とにかく人倫じんりんには縁のない動物のような気がし出した。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大蛇だいじゃあぎといたような、真紅まっかな土の空洞うつろの中に、づほらとした黒いかたまりが見えたのを、くわの先で掻出かきだして見ると——かめで。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
熔岩流がそれを目がけて沢に沿うておりて来るのは、あたかも大蛇だいじゃ酒甕さかがめをねらって来るようにも見られるであろう。
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もう堪まらなくなって、あわてて土蔵の扉をしめ切って一目散いちもくさんに逃げて帰りました。大蛇だいじゃが口をきく筈がありません。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
シシにだって、ヒョウにだって、大蛇だいじゃにだって、ばけられるのだ。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その郷里のある女が妖魅ようみに取りつかれた時に、寿は何かの法をおこなうと、長さ幾丈の大蛇だいじゃが門前に死んで横たわって、女の病いはすぐに平癒した。
さすがのへびもぐにゃぐにゃした上着ではちょっとどうしていいか見当がつかないであろう。この映画ではまた金網でひょう大蛇だいじゃをつかまえる場面もある。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大蛇うわばみでも居てねらうか、と若い者ちと恐気おじけがついたげな、四辺あたりまがいそうな松の樹もなし、天窓あたまの上から、四斗樽しとだるほどな大蛇だいじゃの頭がのぞくというでもござるまい。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから大きい硝子戸棚ガラスとだなの中に太い枯れ木をまいている南洋の大蛇だいじゃの前に立った。この爬虫類の標本室はちょうど去年の夏以来、三重子みえこと出合う場所にさだめられている。
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かの蛇は舟をくつがえすような大蛇だいじゃとなって、土地の人びとに沼のぬしと呼ばれるようになった。迂闊に沼に入る者は、かならず彼に呑まれてしまった。
キューテックの染料でつめを染め、きつね一匹をまるごと首に巻きつけ、大蛇だいじゃの皮のくつ爪立つまだってはき歩く姿を昔の女の眼前に出現させたらどうであったか。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
磧も狭しと見世物小屋を掛けつらねて、猿芝居さるしばい、娘軽業かるわざ山雀やまがらの芸当、剣の刃渡り、き人形、名所ののぞ機関からくり、電気手品、盲人相撲めくらずもう、評判の大蛇だいじゃ天狗てんぐ骸骨がいこつ、手なし娘
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軽井沢かるいざわに避暑中のアメリカ富豪エドワアド・バアクレエ氏の夫人はペルシア産の猫を寵愛ちょうあいしている。すると最近同氏の別荘へ七尺余りの大蛇だいじゃが現れ、ヴェランダにいる猫を呑もうとした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それに又いろいろの作り話も加わって、かの女は清水山の洞穴に年ひさしく棲む大蛇だいじゃの精であるなどと、云いふらす者も出て来た。いや、大蛇ではない。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
映画「マルガ」の中でいちばんおもしろいと思ったのは猛獣大蛇だいじゃなどの闘争の場面である。
仕丁 樹に掛けましたら、なお、ずるずると大蛇だいじゃに成ってります。(一層胸に抱く。)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大蛇だいじゃもいよいよ弱り果てたのを見て、さらに五、六人が駈け寄って来て、思い思いの武器をふるったので、大蛇はありにさいなまれるみみずのようにのたうち廻って
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大蛇だいじゃが豚を一匹丸のみにして寝ている。「満腹」という言語では不十分である。三百パーセントか四百パーセントの満腹である。からだの直径がどう見ても三四倍になっている。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大蛇だいじゃかごに入れてになう者と、馬にまたがりて行く曲馬芝居の座頭ざがしらとを先に立てて、さまざまの動物と異形の人類が、絡繹らくえきとして森蔭もりかげに列を成せるそのさまは、げに百鬼夜行一幅の活図かっとなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と思うと、自分の可愛がっている青い蛇が忽ち一丈あまりの大蛇だいじゃになって、林之助とお里の二人を巻き殺そうとしている。男と女は悲鳴をあげて苦しみもがいている。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
前年だれか八頭の大蛇だいじゃとヒドラのお化けとを比較した人があった。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
東越とうえつ閩中みんちゅう庸嶺ようれいという山があって、高さ数十里といわれている。その西北のかいに長さ七、八丈、太さ十囲とかかえもあるという大蛇だいじゃんでいて、土地の者を恐れさせていた。
八頭の大蛇だいじゃを「ヤマタノオロチ」という。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
試みにこれ手繰たぐって見ると、綱は古代の大蛇だいじゃのように際限はてしもなく長いもので、れどもれども容易に其端そのはしにはとどかなかったが、こんよく手繰たぐっているうちに、ようやく残りなく引揚ひきあげた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがて巌穴のなかでは雷の吼えるような声がして、大蛇だいじゃは躍り出てのたうち廻ると、数里のあいだの木も草も皆その毒気に焼けるばかりであった。蛇は狂い疲れて、日の暮れる頃にたおれた。
観世物は剣舞、大蛇だいじゃ、ろくろ首のたぐいである。
灰吹はいふきからも大蛇だいじゃが出るからな
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)