大嫌だいきら)” の例文
母は自分とは正反対に謡がまた大嫌だいきらいだった。「何だか知らないがね。早くいらっしゃいよ。皆さんが待っていらっしゃるんだから」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とつ! 心頭しんとう滅却めつきやくすればなんとかで、さとればさとれるのださうだけれど、あついからあつい。さとることなんぞはいまもつて大嫌だいきらひだ。……
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「お金ほど難有ありがたいものが今日の世の中にあるものかね……お金が無くて今日どうして生きて行かれるものかね……あたいは耶蘇やそ大嫌だいきらいだ……」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そんなのはわたくしとしても勿論もちろん大嫌だいきらいで、皆様みなさまるべくそんな悪性あくせい天狗てんぐにはかかりわれぬことをこころからおねがいたします。
「だからせっかくだけれど、己はそういうことは大嫌だいきらいさ。ただ友達として清く附き合う分にはかまわないと思う。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いやになっちまうな、また日済集めにやられるんだ。日済集めは俺らは大嫌だいきらいだ、ナゼだと言えば、あの申しわけを
「学校の先生なんテ、私は大嫌だいきらいサ、ぐずぐずして眼ばかりパチつかしているところは蚊をつかまそこなった疣蛙えぼがえるみたようだ」とはかつて自分をののしった言葉。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
チッバ なんぢゃ、いてゐながら、和睦わぼくぢゃ! 和睦わぼくといふことば大嫌だいきらひぢゃ、地獄ぢごくほどに、モンタギューの奴等やつらほどに、うぬほどにぢゃ。卑怯者ひけふものめ、覺悟かくごせい!
「よせ、よせ。ぼくはそんな貯金ちよきんなんて、けちくさい、打算的ださんてきなやりかた大嫌だいきらひだ。なアに、そのときはまたそのときでどうにかなる。いや、きつと、どうにかするよ」
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
けれども、ひよどりは、先生を大嫌だいきらひでした。毎日、じっと先生の腹の中に居るのでしたが、もう、それを見るのもいやでしたから、いつも目をつぶってゐました。
鳥箱先生とフウねずみ (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
玄竹げんちくべんちやらが大嫌だいきらひでござりますで、正直しやうぢきなところ、殿樣とのさまほどのお奉行樣ぶぎやうさまむかしからございません。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
もしもし、馬の脚だけは勘忍かんにんして下さい。わたしは馬は大嫌だいきらいなのです。どうか後生ごしょう一生のお願いですから、人間の脚をつけて下さい。ヘンリイなんとかの脚でもかまいません。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「う、う、う……」と低くうなる声がした。木之助はぎくりとした。犬が大嫌だいきらいだったのだ。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
もう此樣こんはなしはしにして陽氣ようきにおあそびなさりまし、わたしなにしづんだこと大嫌だいきら
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なぜかと云って、くなった父親の陽気で派手な性質を誰よりも濃く受け継いでいる彼女は、家の中の淋しいことが大嫌だいきらいで、いつもにぎやかに若やいで暮して行きたかったからであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
アハヽヽ精神たましいを籠めた処が分りましたか、わっちゃア自慢をいう事ア大嫌だいきらいだが、それさえ分ればうがす、此様こんなに瑕が付いちゃア道具にはなりませんから、持って帰って其の内に見付かり次第
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そんな憂鬱ゆううつな顔をしないでよ。わたし、人に同情されることなんか大嫌だいきらい」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
虚言うそ仰しゃい。たとえばネ熱心でも、貴君のような同権論者は私ア大嫌だいきらい」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼の言ってることを軽蔑けいべつするようなふうをした。それから突然怒りだして、編み針を彼の頭に投げつけ、帰ってゆけと怒鳴り、大嫌だいきらいだと叫んだ。そして両手に顔を隠した。彼は帰っていった。
おれは文章がまずい上に字を知らないから手紙を書くのが大嫌だいきらいだ。またやる所もない。しかし清は心配しているだろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はっきりわかります。私達わたくしたちらい、むご人間にんげん大嫌だいきらいでございます。そんな人間にんげんだと私達わたくしたちけっして姿すがたせませぬ。
「私はこの猫という奴が大嫌だいきらいですが、本家でもって無理に貰ってくれッて、連れて来やした」
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そ、それが五分ごぶがない、はなくち一所いつしよに、ぼくかほとぴつたりと附着くツつきました、——あなたのお住居すまひ時分じぶんから怪猫ばけねこたんでせうか……一體いつたいねこ大嫌だいきらひで、いえ可恐おそろしいので。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おいらは痘痕あばたしつつかきは大嫌だいきらひとちかられるに、主人あるじをんな吹出ふきだして、れでもしようさんわたしみせくださるの、伯母おばさんの痘痕あばたえぬかえとわらふに、れでもおまへ年寄としよりだもの
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
姿色きりょうは少し劣る代り、遊芸は一通り出来て、それでいて、おとなしく、愛想あいそがよくて、お政に云わせれば、如才の無いで、お勢に云わせれば、旧弊なむすめ、お勢は大嫌だいきらい、母親が贔負ひいきにするだけに
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「だって、僕は、猫や、犬や、獅子ししや、とらは、大嫌だいきらひなんです。」
鳥箱先生とフウねずみ (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「だってあなたはあの人は大嫌だいきらいだって言っていたじゃないの?」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「何だかそんなこといっていたけれど、あたいあんな男大嫌だいきらいさ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
友人を相手に心理研究をやるような奴を、僕は大嫌だいきらいです。
元来僕は漢学が好で随分興味を有って漢籍は沢山たくさん読んだものである。今は英文学などをやって居るが、其頃は英語と来たら大嫌だいきらいで手に取るのもいやな様な気がした。
落第 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第二の農夫 しかし王女はあの王様が大嫌だいきらいだと云ううわさだぜ。
三つの宝 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「意地悪! 私大嫌だいきらいよ。」
「積極的ってどうするの。御世辞おせじを使うの。妾御世辞は大嫌だいきらいよ。兄さんも御嫌いよ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あたしは毛虫は大嫌だいきらい。」
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
したがって詩とか哲学とかいう文字も、月の世界でなければ役に立たない夢のようなものとして、ほとんど一顧にあたいしないくらいに見限みかぎっていた。その上彼は理窟りくつ大嫌だいきらいであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「……そんな頓珍漢とんちんかんな、処分は大嫌だいきらいです」とつけたら、職員が一同笑い出した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
野だは大嫌だいきらいだ。こんなやつ沢庵石たくあんいしをつけて海の底へしずめちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)