もとい)” の例文
平素その心を失はずば半生世路せろの辛苦は万巻の書を読破するにもまさりて真に深く人生に触れたる雄篇大作をなすもといともなりぬべし。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
どうも広い原で雪に降られるのみならず暴風に当られますと凍え死をするもといですから、それだけの用心をして池のような中へ入って
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
すでに平民へ苗字みょうじ・乗馬を許せしがごときは開闢かいびゃく以来の一美事びじ、士農工商四民の位を一様にするのもといここに定まりたりと言うべきなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
老嫗ろうおう一口噺ひとくちばなしが一生涯のもといかためたり、おのれながらなんでそんなつまらぬことが、こんなに自分を刺激したろうと驚くことがままある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
グロチウスが平戦条規を出して天下を風靡し、ついにウェストファリヤの平和会議も開かれて、今日の欧州列国組織のもといが出来たのである。
大戦乱後の国際平和 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「不和、不穏のもといに相成るから、不憫ふびんであっても、厳重に処置する方策をもって臨んでもらいい——と、いう相談じゃ」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
勉強するは上達のもといで、って止めもせず好きに任せておりましたが、師匠に素月という名を頂いて美術協会の展覧会にも二度ほど出品をしました。
かえで これもわたしが姉様に、意見がましいことなど言うたがもとい。姉様も春彦どのも必ずしかって下さりまするな。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
我が国の偉大な事は教育にるのであります。そのうちでも大学の支度をする寄宿舎学校が国のもといになるのであります
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小山君、君も知っている通り僕は平生風流亡国論を唱えて日本人の似非えせ風流は亡国のもといと主張するが玉子の話についてもいよいよその事をおもい起すね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
道徳とは自己と外界(それが自然であろうと人間であろうと)との知識にもといする正しい自己の立場の決定である。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
若し、未だ勤苦せざるに、先づ休養を名として釣遊に耽らば、身を誤り家を破るのもとい、酒色の害と何ぞ択ばん。
研堂釣規 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
一つはそれも長屋うちに憎まれるもといであった滝太郎が、さも嬉しげに見て、じっとみつめた、星のような一双のまなこの異様なかがやきは、お兼が黒い目でにらんでおいた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
波蘭ポーランド独立後、選ばれて初代の大統領となり、外務大臣を兼ねて、よく今日の波蘭ポーランドの繁栄を築くのもといとなったことも、また大方の知っておられる筈のことである。
それよりも、われわれが身命を賭して土佐兵を撃ち退け、徳川家長久のもといを成せば、お家繁盛のためにもなり、御先祖以来の御鴻恩ごこうおんに報いることにもなるではないか。
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これがわたくし破滅はめつもといだったのでございます。その性質せいしつはこちらの世界せかいてもなかなかけず、御指導ごしどう神様かみさまたいしてさえ、すべてをかくそうかくそうといたしました。
このもう旧聞である、物語を繰返すことは、あるいは興味索然とするかもしれないがしかし審理の結果得られた事実をもといとして、ここに概括してみようと思うのである。
といつて、私を椽先ゑんさきまで手を引いて行き、そばすわらせ柔和に私のうれひもといを問ふてくれた父に私は心をすつかり打あけて、どうぞ決心のよく守れる仕方を教へてと頼み升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
太祖たいそみんもといを開くに前後しておおいいきおいを得、洪武五年より後、征戦三十余年、威名亜非利加アフリカ欧羅巴ヨウロッパに及ぶ。帖木児チモルは回教を奉ず。明のはじめ回教の徒の甘粛に居る者を放つ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しからばこのもといってさらに斟酌しんしゃくを加えば、いくらも妙策あるべし。また懐徳堂には霊元上皇宸筆しんぴつの勅額あり。このもといに因りさらに一堂を興すもまた妙なりと小林いえり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
義公御遺訓にもこれ有り、百姓は国のもといだ。時機を待て。いいか、時機を待て! さらばだ。
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
こうしてユリは子房しぼうの中の卵子らんしはらみ、のち種子となって、子孫をもといをなすのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
義を宇内うだいに唱え、仁を布き、四百余年のもといを建てられしも、末世現代にいたり、中央は逆臣の府、地方は乱賊の巣と化し、みだれに紊れ、百姓の塗炭は連年まざる状態にある。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小栗等の目的もくてき一意いちい軍備のもといかたうするがために幕末財政ざいせい窮迫きゅうはく最中さいちゅうにもかかわらずふるってこの計画けいかくくわだてたるに外ならずといえども、日本人がかかる事には全く不案内ふあんないなる時に際し
地のもといを我がえたりし時なんじいずこにありしや、汝もし穎悟さとりあらば言え、汝もし知らんには誰が度量どりょうを定めたりしや、誰が準縄はかりなわを地の上に張りたりしや、その基は何の上に置かれしや
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
既に一閑斎に詰め腹を切らせようと云う所まで取りめたのであったが、略〻ほゞ勢力の伯仲する両家がしのぎを削って争っていたのでは世の中がいつも騒がしく、ひいては天下動乱のもといにもなるので
ここに帝国のもといを定め給い、それより皇威四方に発展して、次第にその大をなすに至ったのであったから、自然とヤマトの名が、その国家を指示する場合に用いられるようになっていたのである。
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
周八百年の世のもといをひらく大業となったではないか。
破るもといであります
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
京都の学校は明治二年よりもといを開きしものにて、目今もっこん、中学校となづくる者四所、小学校と名るもの六十四所あり。
京都学校の記 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
判官に、法を守るの良心が無ければ、法が乱れ、法の乱れは、政治を乱すもといで御座りまする。判官は、洩れなければよい、と申すような心掛では勤まりませぬ。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
似非えせ風流は亡国のもとい、似非美文は子弟教育の害になるという。しかしそれは今ここで説明する場合でないが食卓に花を飾るのは食事の愉快を増さしむるためだ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一の弊あるも九の徳あらばその弊何ぞ言ふに足らんや。風流の人は言ふ風流人の淫行は人間の淫行にして野獣の淫にらず、人情の美をもといとするを忘れざるなり。
猥褻独問答 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
維新の国家事業が神武天皇の雄大なる帝国のもといを御開きになったその時代に復するというその時に当っては、なんら他の支那、印度インドその他の文明も何も眼中にない。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「土地繁昌のもといで、それはお目出度い。時に、その小川の温泉までは、どのくらいの道だろう。」
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
義公御遺訓にもこれあり、百姓は国のもといだ。時機を待て。いいか、時機を待て! さらばだ。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
ます/\士気を弱めるもといであると思ったので、小早川自身がその法螺貝を取って、馬上で高くふき立てると、それが北風に冴えて、味方は勿論、敵の陣中までもひゞき渡る。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それまでの日本は行基ぎょうき本地垂迹説ほんちすいじゃくせつもといを開いた、神仏混交時代が長く長く続きました。
「ムム、それで六兵衛ろくべえ一家いっかもといを成したというが、あるいはマアお話じゃ無いかネ。」
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「高祖三尺の剣をさげて、秦楚しんそを亡ぼし、朕に及ぶこと四百年。なんぞ軽々しく不朽のもといを捨て去らんや」と、あくまで彼らの佞弁ねいべん退しりぞけ、依然として屈服遊ばす色を示さなかった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼がかく神に対して呟くのは、その抱ける神観の誤謬ごびゅうもといするのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かつこれが持久のもといと思う。聖書に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
第十条 一夫一婦の間に生るゝ子女は、其父母のほかに父母なく、其子女の他に子女なし。親子の愛は真純の親愛にして、之をきずつけざるは一家幸福のもといなり。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
この両大家はいづれも西洋画遠近法と浮世絵在来の写生をもといとして幾度いくたびか同様の地点を描きたり。然れどもその画風の相同じからざるは一見して瞭然りょうぜんたるものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
第一それからして夫人と衝突するもといじゃあったろうけれども、神月は先天的、むしろ家庭的か、そうだ、家庭的信心者で、寄宿舎に居る時分から、湯島の天神へ参詣さんけいをするのが例で
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
全体大学に学ぶものは多数ではない。多数国民の少数である。この少数の高等教育を受けたるものが国民の模範となる。国民の中堅はここに存する。国民の勢力はここにもといするのである。
早稲田大学の教旨 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
且つみんもといを開きし太祖高皇帝はもと僧にましましき。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いろはは智見(ノウレジ)なり。五十韻は日本語を活用する文法のもといにして、いろははただ言葉の符牒ふちょうのみ。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これを以てれば北斎の思想は根本よりして平民的また写実的たりといふべきなり。浮世絵派の画人は北斎の以前においても皆写実をもといとなしたるは勿論もちろんの事なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして、そのもといを為すものは、実に先帝のご聡明と大御英断にるのである。
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)