かまびす)” の例文
プラットフォオムには給仕がパンや珈琲コオフィイを持って駈けまわっている。旅客の中には、ここで下車するものもある。人の呼び交す声がかまびすしい。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
ひそかに世情をるに、近来は政治の議論ようやかまびすしくして、社会の公権即ち政権の受授につき、これを守らんとする者もまた取らんとする者も
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
河内の道明寺中興住持の尼、覚寿かくじゅ菅丞相かんしょうじょうの伯母で、菅神左遷の時、当寺に行き終夜別れを惜しむ。暁に向い鶏啼きてかまびすし。
これより先政府は民間政論の漸くかまびすしきを見、明治八年半ばごろ厳重なる法律を制定し、もって志士の横議を抑制したり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
日ならず江戸の市中へ乗込もうというのは、まだうわさだけであって事実に現われたわけではないが、その噂は早くもこちらに響いてかまびすしいものです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さるにても彼婦人は誰にかあらん。椅子を借さんとて、觀棚さじき々々(ルオジ、ルオジ、パトロニ)と呼ぶ聲いとかまびすし。われは思慮するいとまあらざりき。
いわゆる思想問題のかまびすしい近ごろになって特にこういう語を声高く叫ぼうとするもののあるのも、これがためであろう。
当主が一代で財をなしたは、嘗て異人館のコックをしてゐてそこの主人を殺害し、獲たものであるとか、何とかそのころいろ/\の悪評がかまびすしく立つた。
大正東京錦絵 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
四下あたりには若葉が日に日にしげって、遠い田圃たんぼからは、かまびすしいかえるの声が、物悲しく聞えた。春の支度でやって来た二人には、ここの陽気はもう大分暑かった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
世の識者といわれる人々の批判はかまびすしいかも知れぬが、伝統と因襲に捉われた平和な山村において、この重病の病人を動かすことは、我と我が手で一挙に
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
かまびすしくおの家号やごう呼立よびたてる、中にもはげしいのは、素早すばやく手荷物を引手繰ひったくって、へい難有ありがとさまで、をくらわす、頭痛持は血が上るほどこらえ切れないのが
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして小さな経済から大きな資本へと変ってゆきました。また静かな手機からかまびすしい織機へと転じました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
四邊あたり部室へやでは甲乙たれかれかたこゑかまびすしく、廊下ろうかはしひと足音あしおともたゞならずはやい、濱島はまじまむかしから沈着ちんちやくひとで、何事なにごとにも平然へいぜんかまへてるからそれとはわからぬが
青い田の中を蝙蝠傘こうもりがさをさした人が通る、それは町の裏通りで、そこには路にそって里川が流れ、川楊かわやなぎがこんもり茂っている。森にはせみの鳴き声がかまびすしく聞こえた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そしてそれらのくさむらにすだく虫の音が、二人が近づくとふっと止み、遠のくと又鳴き出しながら、町はずれへ行けば行くほど雨のようにしげくかまびすしくなって行った。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
されば變り果てし容姿に慣れて、笑ひそしる人も漸く少くなりし頃、蝉聲せみかまびすしき夏の暮にもなりけん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
大型時計の上部にかまびすしく鳴るベルをとめようと手をかけると一緒に刀がはずれ出て胸を突き刺す。
いわれなき講和、償われぬ要求であると、内閣不信任はかまびすしい喧噪けんそうとなった。寵妾ちょうしょうお鯉の家に大臣は隠れているといって、麻布の妾宅焼打ちを、宣伝するものがあった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そして玄関脇の押しボタンを少年の指先が押すと、奥の間のベルがかまびすしくジジーンと鳴るであろう。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
屋台店を並べて犠牲用いけにえようの家畜や鳩を売る者、奉納用の貨幣を両替する者などのかまびすしく叫ぶ声、おまけに籠や鍋釜なべかまさげてこの門からかの門へと宮の庭を自由に通り抜ける市民もあって
同士討ちの声がやがやとかまびすし。かかる騒ぎも広やかなる家の奥の方へは聞こえず。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
義務として愛国を呼称するの国民は愛国心を失いつつある国民なり、孝を称する子は孝子にあらざるなり、愛国の空言かまびすしくして愛国の実跡じっせきを絶つに至る、余は国を愛する人となりて
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
と、遭難そうなん当時の一と頃、世上にかまびすしく聞えた種々な取沙汰を今更のように思い出して、その流説るせつにまどわされて、きょうまで官兵衛に抱いていた誤った認識をそれぞれ心のうちで急に是正ぜせいしていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが哲学といふものを覗いて見た初で、なぜハルトマンにしたかといふと、その頃十九世紀は鉄道とハルトマンの哲学とをもたらしたと云つた位、最新の大系統として賛否さんぴの声がかまびすしかつたからである。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
なにもかもかまびすしい、だが小鳥らの囀りではない。
高山の変事はここまで持ち越されて、湯の中での流言蜚語りゅうげんひごは、高山の町のちまたのそれよりもかまびすしいものがありました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かまびすしくおの家号やがう呼立よびたてる、なかにもはげしいのは、素早すばや手荷物てにもつ引手繰ひツたぐつて、へい有難ありがたさまで、をくらはす、頭痛持づゝうもちのぼるほどこられないのが
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私もまた自分で考えて見るに、世の中の形勢は次第に変化して、政治の事も商売の事も日々夜々運動の最中、相互あいたがいに敵味方が出来て議論は次第にかまびすしくなるに違いない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
屋内からも種々雑多な犬のき声がかまびすしく、プウンと動物特有の臭気が鼻を衝いてきた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
だが諸君よ、今の個人陶工がこれに近いほどのものを画いた場合、何というさわぎがそこに起るか。ただちにそれを主張しまた弁護する展覧と評論とのかまびすしい世界が湧いてくるのだ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
わがくびすめぐらしてかへらむとするとき、馬よ/\と呼ぶ聲俄にかまびすしく、競馬の内なる一頭の馬、さきなるらちにて留まらず、そが儘街を引きかへし來れるに、最早馬過ぎたりと心許しゝ群衆は
買ひて見れば、国王ベルヒの城にうつりて、容体ようだい穏なれば、侍医グッデンも護衛をゆるめさせきとなり。滊車きしゃ中には湖水のほとりにあつさ避くる人の、物買ひに府に出でし帰るさなるが多し。王のうわさいとかまびすし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
熊野の勝浦などで、以前は猴が磯に群集し蟹を採り食うに石でその殻を打ち破った。しばしば螫ではさまれ叫喚の声耳にかまびすしかったと古老から聞いた。しかるに予幼時すぐ隣りの家にお徳という牝猴あり。
日本国に道徳の根本標準を立てんなどかまびすしく議論して、あるいは儒道にらんといい、あるいは仏法に従わんといい、あるいは耶蘇ヤソ教を用いんというものあれば、また一方にはこれをよろこばず
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なお前途ゆくての空をながめ視め、かかる日の高い松の上に、蝉の声のかまびすしい中にも、ねぐらしてその鵲が居はせぬかと、仰いで幹をたたきなどして、右瞻左瞻とみこうみながら、うかうかと並木を辿たどる——おおき蜻蛉とんぼ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一行の姿が見えなくなってから、また噂はかまびすしくなりました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
或は市中公会等の席にて旧套きゅうとう門閥流もんばつりゅうを通用せしめざるは無論なれども、家に帰れば老人の口碑こうひも聞き細君さいくん愚痴ぐちかまびすしきがために、残夢ざんむまさにめんとしてまた間眠かんみんするの状なきにあらず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
弛担したんの旗亭、酔午かまびす
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)