うてな)” の例文
旧字:
おそらく、姉も城下の獄につながれているのであろう。そうなれば、姉妹きょうだいひとつはすうてなだと思う。どうしてもない一命とすれば、せめて
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それら、花にもうてなにも、丸柱まるばしらは言うまでもない。狐格子きつねごうし唐戸からどけたうつばりみまわすものの此処ここ彼処かしこ巡拝じゅんぱいふだの貼りつけてないのは殆どない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのことばのいまだ終わらぬうちに、高いうてなの上から黄色い煙りがうず巻いて噴き出した。老人は煙りを仰いで舌打ちをした。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
地獄を語り合うときばかりは蓮のうてなに居並ぶ老夫婦の眼に輝きが添う姿、「羽衣」をかたに天女を妻とした伯龍が、女の天人性に悩まされて
蓮華の一片ひとひらが、散るほどの変化も起らなかった。おかんの心の中の目算では、五年ばかりも蓮のうてなに坐って居ただろう。
極楽 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「諸法実相の理を按ずるに、かの狂言綺語きょうげんきごの戯、かへりて讃仏乗の縁なり」とする思想は、単に『十訓抄じっきんしょう』の著者(「はすうてなを西土の雲に望む翁」)
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
味わったことがないむしろ反対にこの世が極楽浄土じょうどにでもなったように思われお師匠様とただ二人生きながらはすうてなの上に住んでいるような心地がした
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『大いなる事業』ちょう言葉の宮の壮麗うるわしきうてな金色こんじきの霧のうちに描いて、かれはその古き城下を立ちで、大阪京都をも見ないで直ちに東京へ乗り込んだ。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
シャロットの女の投ぐるの音を聴く者は、さびしきおかの上に立つ、高きうてなの窓を恐る恐る見上げぬ事はない。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分だけは不安なく玉のうてなに永住することのできるようにきめてしまうことは不可能な人生であるなどと薫は考えるのであった。薫はすずりを借りて奥へ消息を書いた。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
わたしゃもう、歎きも、哀しみもいたしますまい。(首にものいう如く)期するところは極楽浄土。一つうてなで花嫁花婿。のう、こちの人、〽忘れまいぞえあのことを。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今でこそ樟脳しょうのうくさいお殿様とのさまたまりたる華族会館に相応ふさわしい古風な建造物であるが、当時は鹿鳴館といえば倫敦ロンドン巴黎パリの燦爛たる新文明の栄華を複現した玉のうてなであって
だから極楽に生まれ、浄土へ行っても、自分独りが蓮華はすうてな安座あんざして、迦陵頻伽かりょうびんがたえなる声をききつつ、百飲食おんじきに舌鼓を打って遊んでいるのでは決してありません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
殊にまた死者の霊魂死の前後、身分の上下に関係なくすみやかに一仏真門のうてなにいたり、法報応三身の功徳集らんことを願う。よって勧進修行の趣、けだし以てかくの如し。
月はうてなに輝くであろうが、しずをも照らすであろう。貧しき者も無学な者も、共に神の光を浴びる。イエスは学者を友とするより、好んで漁夫たちに交わったではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
けたまへ、いとも輝かしきうてなの新しきとばりを。
失楽 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
春のうてなといふべけれ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
雲のうてなか山のたて
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
または、大きな声では云えないが、頭はただきれいに分けた髪の毛のうてなに過ぎないので、ああやって無気力な薄笑いを反射させただけなのか……
北へ行く (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
こうして、二人は同じ蓮のうてなに、未来永劫坐り続けることであろう。彼等が行けなかった『地獄』の話をすることをたゞ一つの退屈紛らしとしながら。
極楽 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
七左 おふくろどの、ぬしがような後生の好人いいひとは、可厭いやでも極楽。……百味の飲食おんじきはすうてなに居すくまっては、ここに(胃をたたく)もたれてうない。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その夜、鴛鴦楼えんおうろううてなには、仲秋の宴があった。ここのみならず、孟州の城内外の灯も、地の星と眺められる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ありのままなる浮世を見ず、鏡に写る浮世のみを見るシャロットの女は高きうてなの中に只一人住む。ける世を鏡のうちにのみ知る者に、おもてを合わす友のあるべき由なし。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大将さんが修繕をしてくだすったら、またもう一度玉のうてなにもなるでしょうと期待されますがね。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
月はうてなに輝くであろうが、しずをも照らすであろう。貧しき者も無学な者も、共に神の光を浴びる。イエスは学者を友とするより、好んで漁夫たちに交わったではないか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
千枝松はそっとあとをつけてゆくと、二人は手をとって高いうてなへ登って行った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
花のうてなに泣きまどふ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
死んだ姉に恩をせる、と乗ってるはすうてなが裂ける……姉は私に泣いてましょう、泣いてくれるのは嬉しいけれど、気の毒がられては、私は済まない。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
会下山、さいごの死所は、そこを一蓮いちれんうてなにして——と、暗黙のうちに、一同これへ目ざして来たらしい。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おかんは、御仏に手を取られて夫宗兵衛の坐って居る蓮のうてなへと導かれた。おかんは、絶えて久しい夫の姿を見ると、わっ! と嬉し泣きに泣きながら縋り付いた。
極楽 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ランスロットはかぶとひさしの下より耀かがやく眼を放って、シャロットの高きうてなを見上げる。爛々らんらんたる騎士の眼と、針をつかねたる如き女の鋭どき眼とは鏡のうちにてはたと出合った。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の通って行く所はいわゆる玉のうてななのだからね。そんな場所へ不風流な私が出入りすることは、よけいに人目を引くことだろうと片腹痛くてね、自分のやしきへ早くつれて来ようと私は思うのだ。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
玉のうてな欄干おばしま
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
帆の中より、水際立って、美しく水浅葱みずあさぎに朝露置いた大輪おおりんの花一輪、白砂の清き浜に、うてなや開くと、もすそさばいてと下り立った、洋装したる一人の婦人。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
西行が白峯紀行にも書いた「——清涼せいりやう紫宸ししいの間、百官にかしづかれ給ひ後宮後坊のうてなには、三千の美翠びすゐかんざし、あざらかにて、おんまなじりに懸らんとのみしあはせし給ひし……」
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六条院の春の御殿と言って地上の極楽のように言われた玉のうてなもただ一人の女性の子孫のためになされたものであったかと見えて、明石あかし夫人は幾人もの宮様がたのお世話をして幸福に暮らしていた。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
(ほんとに貴下あなた、心細い。はすうてなに乗ったって一人切ひとりぼっちではさみしいんですのに、おまけにここは地獄ですもの。)
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、これは血ぐさい遊戯なので、禁裏の催しには、春ならば、藤花とうかをかざり、牡丹ぼたんうてなをつくったりなどして、陪観ばいかんの公卿朝臣あそんも、みな衣冠をただして、中門廊ちゅうもんろうのうちにいならぶのである。
此のたびの不思議な其の大輪たいりんの虹のうてな紅玉こうぎょくしべに咲いた花にも、俺たちが、何と、手を着けるか。雛芥子ひなげしが散つてに成るまで、風が誘ふをながめて居るのだ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そしてたまうてな願文がんもんをささげ拈香ねんこう十拝、花に水をそそいで静かに退がる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桜の枝を踏めばといって、虫の数ほど花片はなびらも露もこぼさぬ俺たちだ。このたびの不思議なその大輪の虹のうてな、紅玉のしべに咲いた花にも、俺たちが、何と、手を着けるか。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うてなに立っていられないほど風も強い闇夜である。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一顆ひとつは渋かりき。他の一顆をあじわわむとせしに、真紅の色の黒ずみたる、うてななきは、虫のつけるなり。熟せしものにはあらず、毒なればとて、亡き母棄てさせたまいぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いっそ、この一堂を一れんうてなとなして」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
露の光をうけるためのうてなのような建ものが、中空にも立てば、水にも映る。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼のいる高きうてなを仰いで、悲鳴を放った。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白金しろがねの草は深けれども、君が住居すまいと思えばよしや、玉のうてなは富士である。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その芋虫にまた早や、うてなしべめられる、二度添どのもあるわいの。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うてなを頂く日に二十を下らず、けだし、春寒き朝、めづらしき早起の折から、女形とともに道芝みちしばの霜を分けておほりの土手より得たるもの、根を掘らんとして、袂に火箸を忍ばせしを、羽織の袖の破目やぶれめより
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)