博奕ばくち)” の例文
彼は遂にやむをえず、かたまりのそとへ出て、後ろの方に立って人の事で心配しているうちに、博奕ばくちはずんずん進行しておしまいになる。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
さうして、丁度去年の暮頃から博奕ばくちに勝つたと云つて、急に身なりをこしらへたり、酒を飮んだり、女を買つたりして遊びあるいている。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
私はいかにチベットでもそんな事はあるまいと思いましたが、それは非常なものでお寺の中で公然骰子さいを転がして博奕ばくちをやって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
留さんはせっせと貯金した、博奕ばくちもしなかったし女遊びもきわめてときたまのことであった、それもできれば誰かにおぶさるのだ。
留さんとその女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どこの家庭でも、メンコや根ッ木みたいな博奕ばくち的遊戯は、決していいとはしていなかった。ぼくなども隠れてやっていたのである。
「息子の冬瓜野郎が少しくらゐ陽當りが惡くたつて、三文博奕ばくちの安松や、分散しかけて居る貧乏質屋の伜とは比べものにならない」
お裁を見ていたって、町人には厳しいが、少し羽振りのいい、旗本だと、邸内の博奕ばくち位は、皆大目に見ている。それが今の時世だ。
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
子弟の或る者は博奕ばくちにふけり群盗に伍している。摂政関白の子さえもそうである。市中は盗賊横行のために無警察の状態に陥った。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
今も、博奕ばくちに負けて無一物、たった一枚の着物も、擦り切れないように緊縮して、家にいる時は、いつも裸で済ましている長庵だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
老人の説によると、釣魚はただに神経衰弱の自然療法ばかりでない。釣れるか釣れないかという不確実なところに博奕ばくちの興味を備えている。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
諸方の部屋へやへ行って銀張りの博奕ばくちなどをして遊人あそびにんの仲間入りをするというような始末になって、家道は段々と衰えて行ったのでありました。
昼のうちはそんなでもなかったのが、いつ集まったか、盛んな人集ひとだかりで、一方の隅にかたまって博奕ばくちに夢中なのもありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はなはだしく平等の思想に欠け、人は恋愛の奴隷、虚栄の従僕となつて納まり返り、大臣からしてがかけをしてひとの妻を取るほど博奕ばくち思想は行はれ
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
仁右衛門は押太おしぶとく腹を据えた。彼れは自分の夢をまだ取消そうとはしなかった。彼れの後悔しているものは博奕ばくちだけだった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この「マルガリイダの家」の呼び物は、テレサという白熊のような仏蘭西フランス女の一夜の身体からだを懸賞に博奕ばくちをさせるのだった。
んぬる長光寺ちょうこうじの城攻めの折も、夫は博奕ばくちに負けましたために、馬はもとより鎧兜よろいかぶとさえ奪われて居ったそうでございます。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それはそうと耳寄りなのは、山窩の大軍がいるということだ。こいつアいいぞ、一思案! 面白い博奕ばくちを打ってやろう」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四万の軍勢を擁する今川義元を、わずか三百の手兵で一夜のうちに討ち滅したのも博奕ばくちなら、滝川一益が骰子一つで長島の城をちとったのも博奕。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それからおにが集まってきて博奕ばくちをうつという条でも、一方は地蔵に言われて遠慮をしいしいその肩に乗り、好い頃あいを見てにわとりの鳴声をまねすると
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ナニ、車夫の野郎、又た博奕ばくちに敗けたから少し貸してくれろと言うんだ。……要領を得ないたア何だ! 大に要領を
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
勇は博奕ばくちの世界で言うならば、「盆ござねぶり」であった。彼は勝っても負けても、立ち時を知らず、どこまでも堕ちて行く。見切りの潮時を知らないのだ。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
その方は、うち見るところ、ただの博奕ばくち打ちや、小泥棒ではない。拙者に油断が、毛程でもあったら、もうその匕首を、とっくに胸元に突き刺していた頃だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
酒を飲むか飯盛を買うか博奕ばくちをうつかの外はせず、駕籠の客に対しても何をするかわからぬ物騒な者どもであるが、侍の一行に対しては極めておとなしくした。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
見て權三助十の兩人の大いにはらたて此方こちら貧乏びんばふしても明白手堅しらきちやうめん駕籠舁かごかき勘太郎は商賣なし年中ねんちう博奕ばくちかたりなどを渡世に暮せど大屋へ鼻藥はなぐすりやるゆゑなにをしても小言を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
Anatole France の書いたものの中に、難船に逢つた船頭が、海に背中を露はしてゐる鯨につて、鯨の背の上で博奕ばくちを始めたといふ話があつた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
どうして若い時の勢ですもの。私はこれで、どんなことでも人のすることは大概してみましたが、博奕ばくちと牢屋の味ばかしは知らない——ええこればかしは知らない
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このモースという男は小柄ながっしりした体格をして黒い頬鬚をはやし、さっぱりした服装をしていたが、性質は善良とはいえない方で、博奕ばくちが非常に好きであった。
初太郎の死後幾日ならずして彼の父は博奕ばくちのことから仲間を傷けて、牢屋に送られたのみならずその入獄の際には彼は烈しい眼病をわづらつてゐたとのことである。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
婆等ばゝあらればさあれば博奕ばくちなんぞするにばかしつて」ぢいさんは依然いぜんとして惡口わるくちめなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ばあやは親がはりの兄がある博奕ばくちうちの親分のとこへ嫁にゆけといふのをきかなかつたため生綿を百めほどあてがはれて これでどうなりとひとりでやれ といはれた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
酒舗バアの奥の一隅では目を赤くして麦酒ビイルを傾けながら前夜から博奕ばくちを引続き闘はして居る一団がある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
この界隈かいわいでも有名な祭文読み、博奕ばくちが好きで、女が好きで、ことに声が好いので評判であった。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
坊主も、百姓も、有らん限りの動物がそろうて、其奴等そいつらが狭い船の中で、酒を飲み、博奕ばくちをする。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あんなことつて、おまへさんまたおだましだよ。筑波つくばへおまゐりぢやありますまい。博奕ばくち元手もとでか、うでなければ、瓜井戸うりゐどだれさんか、意氣いき女郎衆ぢよらうしうかほにおいでなんだよ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二階が荷主のへやだと云うんで、二階へあがって見ると、なるほど室がたくさん並んでいる。そのうちの一つでは四人よつたり博奕ばくちを打っていた。博奕の道具はすこぶるなものであった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時は博奕ばくちでごまかしをやったために蹴られたのか? そういうような意味のことを、自分にそういう乱暴を加えた酔っ払いの嘘つきが言った。がそれはほんとうではない。
あなたは一箇寺いっかじ住職の身の上で、このお梅さんと間男をするのみならず、亭主の七兵衞が邪魔になるというので、薪割で打殺ぶちころして縁の下へ隠した事が、博奕ばくちの混雑から割れて
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
博奕ばくち打ちの仲間へ入って、博奕は打つ、赤坂あかさかの勘兵衛長屋の比丘尼びくに狂いはする、そのうえ、このごろは、その比丘尼をうけだして、夜も昼も入り浸ってると云うことだが、だいち
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いや、もうお判りになったでしょう……その連中は、妙な博奕ばくちを打ってたんですよ。
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
投網打とあみうち帰途かへりに岩鼻の崖から川中へ転げ落ちて、したたか腰骨を痛めて三日寝た、その三日だけは、流石に、盃を手にしなかつたさうなと不審がられた程の大酒呑、酒の次には博奕ばくち所好すき
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一体どこの連隊に属しているとも分りもしない或る騎兵の二等大尉と駆落かけおちをして、父親が軍人という奴はみんな博奕ばくちうちで道楽者だという不思議な偏見から士官嫌いなことを知っていたので
しかし、月給の半分は博奕ばくち狂ひの父のもとへ送つてゐると、正直に答へた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
親の口から申しますのも可笑おかしゅうございますがと、言訳しながら語るのであるが、彼女の娘はなかなかスマートな性質であって、年に似合わず博奕ばくちの才があり、おまけに、勝気で辛抱強くて
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「お前さん達もう博奕ばくちはやらんことだかんな!」
親方コブセ (新字新仮名) / 金史良(著)
亦当時は博奕ばくちが非常に盛んであった。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
まけ博奕ばくちを打ちました。
「ナニ……博奕ばくち……」
べりの下駄も、遺書かきおきも、俺のさせた狂言で、うまく国許をずらかってから、彼女あいつは、江戸で女師匠、俺は、持ったがやまい博奕ばくち、酒。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入口の格子を叩いたのは、顔見知りの隣町の指物職人というよりは、小博奕ばくちを渡世にして居る、投げぶしの小三郎という男でした。
あるとき十余人の男おんなが入りまじって博奕ばくちをしているのを見た者があって、かれらは白や黄の着物をきていたと伝えられた。