何時なんどき)” の例文
抽斎は師迷庵の校刻した六朝本りくちょうぼんの如きは、何時なんどきでも毎葉まいよう毎行まいこうの文字の配置に至るまで、くうって思い浮べることが出来たのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこに見えている二、三人の人影には、思い当りもなかったが、いつ何時なんどきでも、自分の生命に対する敵への心構えは、武蔵にあった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文「フーム、この十四日に蟠龍軒が權三郎方へ来るとな、かたじけない、その大伴は十四日の何時なんどき頃来ますか、定めし御存じでしょうな」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
病院に入切はいりきりで居ながら、いつの何時なんどきには、姉さんが誰と話をしたッて事、不残のこらず旦那様御存じなの、もう思召おぼしめしったらないんですからね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この後にも、何日いつ何時なんどきそういったふらちな奴らの言葉に耳をお傾けになって、院宣をお下しになるか、わかったものではない。
わたしがこうして、どうかこうかしているうちは好い。好いがこの通りの身体だから、いつ何時なんどきどんな事がないとも限らない。その時が困る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一般人の足あとがその便利さを示しているところはそれらがいつ何時なんどきでも通れるよう、谷間には橋がかかっていて渡れるようにしておいた。
お前さえ還る気になりゃ、あの人あいつ何時なんどきでもひき取ってくれらあ、それだけは俺が受合う。悪いことは言わねえから、そうしねえ、よ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
いつ何時なんどきほかのお客に呼びつけられるかもしれないのに、それを承知しながら、心からかわいがれるはずがないじゃないか。
「ちっとやそっとでいてくれりゃいが、——何しろこう云う景気じゃ、いつ何時なんどきうちなんぞも、どんな事になるか知れないんだから、——」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それで客が突然牛乳を持って来て分析試験を請求すれば何時なんどきでも無代で分析試験に応ずる事になっていますから決して不正な事は出来ません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
レニエ氏も何時なんどき夏季の旅行に出掛けるか知れないし、其処そこへ僕達夫婦が小林萬吾石井柏亭両君と一緒に英国へ遊ぶ日も三四日さんよつかのちに迫つたので
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
迂濶うかつに妨害を加えたらば、彼等は何時なんどき如何いかなる復讐をするかも知れぬので、何事も殆ど𤢖が為すままに任して置く。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『然うよ。だがの男の予定位アテにならないものは無いんだ。雷みたいな奴よ、雲次第で何時なんどきでも鳴り出す……。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いつ何時なんどき他の止宿人ししゅくにんや女中などが通り合わさないとも限りませんから、非常に危険ですけれど、天井裏の通路からでは、絶対にその危険がありません。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「よろしゆおま。御膳の支度やつたらとつくに出來たるさかい、何時なんどきなりと上つとくんなれ。そやけどなあ、御ぜんが濟んだら早うにいんで貰ひまつせ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
なるほど、蛸もあの素晴らしき足の八本を裸のままで見せている事はまことに危険だと私は思った。全く、いつ何時なんどき如何いかなる災難がふりかかるか知れない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
忙がわしく身づくろいしてみた米友には、今の時刻が、夜には相違ないが、夜の何時なんどきであるか見当がつきません。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生きて居る身はいつ何時なんどき死ぬかも知れぬから、その死ぬ時に落付おちついて静にしようとうのは誰も考えて居ましょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
炬燵こたつの火もいとよし、酒もあたゝめんばかりなるを。時は今何時なんどきにか、あれ、空に聞ゆるは上野うへのの鐘ならん。二ツ三ツ四ツ、八時はちじか、いな九時くじになりけり。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼らは農業者から、家屋と、ほぼ一家を支えるに足る土地を受け、これに対して、何時なんどきなりとも要求された場合に安い一定の価格で働らく義務を負うている。
若い御婦人が今日きょうここへ何時なんどき来られるかもしれないが、そのかたのために部屋を用意しておいてもらいたい。
何時なんどきにても直様すぐさま出発し得られるような境遇に身を置きながら、一向に巴里パリーを離れず、かえって旅人のような心持で巴里の町々を彷徨ほうこうしている男の話が書いてある。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もう日本の敗北は眼の前に迫っており、「波屋」の復活も「花屋」のトタン張り生活も、いつ何時なんどきくつがえってしまうかも知れず、私は首を垂れてトボトボ歩いた。
神経 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
口頭こうとうをもって、わたしの母は力のおよぶ限りいつ何時なんどきでも奥様おくさまのお役に立ちたいと存じているむねを述べ、十二時過ぎに御光来ごこうらいをお待ちすると伝えるように言いつけた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
加うるに、薩州長州においては夷船えびすぶね打ち払い等これあり、公辺においてもいよいよ攘夷御決定との趣にも相聞こえ、内乱外寇がいこう何時なんどき相発し候儀も計りがたき時節に候。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかも、もし夫人の顔に、ちょっとでも疲れた飽きた色が見えるようなら、何時なんどきたりとも、すぐさま大急ぎで引きさがって、姿を消してしまう心構えができているのである。
トリスタン (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
いつ何時なんどき大地震に襲われるかわからぬことを充分心得ていなければならないと思うのである。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
いつ何時なんどきどういうことを書かれるかわからないという不安が全く除かれたわけでもなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「二タ月ぐらいは大丈夫と思うが、いつ何時なんどきどうなるか解らん。二タ月先きに本が着いた時、幸い息がかよっていたにしてもヒクヒクして最う眼が見えないでは何にもならない。」
どうかせがれが中学を卒業する迄首尾よく役所を勤めて居たい、其迄に小金の少しも溜めて、いつ何時なんどき私に如何どんな事が有っても、妻子が路頭に迷わぬ程にして置きたいと思うだけだが
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
……ナアニ……ヨタじゃないったら……恐ろしく疑い深い読者だね君は……虚構うそだと思うならイツ何時なんどきでも本人に紹介してやるよ。スグこの向うの七号室に居るのだから訳はない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
避けたいことはいつ何時なんどきだつて避けたいのだが、而も事に面前すれば、どうせ理想家の私のこと、どうせへとへとになるまでは打つ衝かることは知れたことだが、まあなんとしても
いつ何時なんどき意外な現象が飛び出して来るかもわからないのみならず、眼前に起こっている現象の中から一つの「事実」を抽出し、仕留めるには非常な知能の早わざを要するものである。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いつ何時なんどきどんなところで無残むざんななくなりようをすることやらと、つねづねそればかりをんでたのだから、まことにいい終わりようでありましたとげられて非常ひじょうによろこんだ。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
時とわずかな費用とさえかければ、一人でならば何時なんどきだってこういう事はできる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お望み次第、いつ何時なんどきでも用意の出来ている、今もいう甘ったるい渦巻型の肉饅頭だとか——そう言った料理の、暖めなおしたのや冷たいままのがぎと運ばれる間に彼は宿屋の下男
いよいよそうしようとさえ思えば、たれも待てといって束縛するもののないのが、ほとんど慰めのようにも思われる。しようとさえ思えば、何時なんどきでもこの世のいとまを取るに、差支さしつかえはないのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
何時なんどきほど眠ったか知らない。軒を伝わる雨垂れの音に、伝二郎が寝返りを打ったときには、雨後の雲間を洩れる月影に畳の目が青く読まれたことを彼は覚えている。もう夜明けまで間があるまい。
それにしても、もう何時なんどきだろう? おそくなるとは言ってきたが、今夜自分が帰らないのを見たら、俺まで庄左衛門の二の舞いをしたものと極めて、横川がまたいつものように腹を立てていはせぬか。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「だが御安心ごあんしん御無用ごむようじゃ。いつ何時なんどき変化へんかがあるかわからぬからのう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
成程なるほどわたくしじゆくには規則きそくまをしても何時なんどきる、おきるといふだけで、其外そのほかこれまもれ、これをおこなへといふやうな命令的めいれいてきことさらまをさないが、かはり、何事なにごと自營獨立じえいどくりつ精神せいしんめてつてもらひたい。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
「僕はいつ何時なんどきでも自分の姿は絵になって居ると信じて居る。」
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ハア、どうやら目がさめ申した。今、何時なんどきでごぜえますな?」
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いや、職工の中へ、ロシアの手が這入り出したんだ。俺は職工係りだから、一番危い所にいるわけだ。いつ何時なんどき機械の間から、ぽんとやられるかもしれないさ。もうそろそろ、冗談事じゃないんだよ。」
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
夜が更けて行くが、はたして何時なんどきか分からぬ。
土淵村にての日記 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
「うまい、まずいを言うのじゃない。いつの幾日いくかにも何時なんどきにも、洒落しゃれにもな、生れてからまだ一度も按摩さんの味を知らないんだよ。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清「旦那静かになせえ証拠のないものは取りに来ません、三千円確かに預かった、入用にゅうようの時は何時なんどきでもえそうという証書があります」
橋谷はついて来ていた家隷けらいに、外へ出て何時なんどきか聞いて来いと言った。家隷は帰って、「しまいの四つだけは聞きましたが、総体の桴数ばちかずはわかりません」
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
が、彼等は何処どこに隠れているか判らぬ、又何時なんどき不意に近寄って来るか判らぬ。う思うとちっとも油断ができぬので、市郎は絶えず八方に気を配っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)