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一縷
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いちる
ふりがな文庫
“
一縷
(
いちる
)” の例文
然
(
しか
)
し、伸子にして見ると、このどうにもならない窮境を、どうにかして切抜けたいと、そこに
一縷
(
いちる
)
の望みを抱くのにも無理はなかった。
罠に掛った人
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
何故に僕等は知らず識らずのうちに
一縷
(
いちる
)
の血脈を相伝したか、——つまり何故に当時の僕は茂吉を好んだかと云ふことだけである。
僻見
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
何かしら心の隅に
一縷
(
いちる
)
の望みが残っているような気がした。彼はそれをたしかめるまでは、この勝負をあきらめる気にはなれなかった。
黒蜥蜴
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
むかしの静な村落が戦後一変して物質的文明の利器を集めた一新市街になっているのを目撃し、悲愁の情と共にまた
一縷
(
いちる
)
の希望を感じ
深川の散歩
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
一陣の北風に
颯
(
さ
)
と音していっせいに南に
靡
(
なび
)
くこと、はるかあなたにぬっくと立てる電燈局の煙筒より
一縷
(
いちる
)
の煙の立ち
騰
(
のぼ
)
ること等
夜行巡査
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
径
(
みち
)
は
一縷
(
いちる
)
、危い崖の上を
繞
(
めぐ
)
って深い谿を
瞰下
(
みおろ
)
しながら行くのである。ちょっとの注意も
緩
(
ゆる
)
められない径だ、谿の中には一木も一草もない。
木曽御嶽の両面
(新字新仮名)
/
吉江喬松
(著)
この夜お登和嬢は
一縷
(
いちる
)
の
望
(
のぞみ
)
を抱いて
寝
(
い
)
ねぬ。小山ぬしの尽力その
甲斐
(
かい
)
あらば大原ぬしは
押付婚礼
(
おしつけこんれい
)
を
免
(
のが
)
れて
忽
(
たちま
)
ち海外へ
赴
(
おもむ
)
き給わん。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
渓川
(
たにがわ
)
に危うく渡せる一本橋を前後して横切った二人の影は、草山の草繁き中を、
辛
(
かろ
)
うじて
一縷
(
いちる
)
の細き力に
頂
(
いただ
)
きへ抜ける
小径
(
こみち
)
のなかに隠れた。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
姉の問題もあるが、しかし、今よるべき
一縷
(
いちる
)
の糸もない新子のよりどころない心の寂しさが、そう決心させたのかもしれない。
貞操問答
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
それならば脈がある……あれほど無惨に殺された琵琶に、まだ
一縷
(
いちる
)
の生命が残っていたか……地上に残された琵琶の形が助けを呼んでいる。
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
しかしその
一縷
(
いちる
)
の望みも絶え、今はその死を安からしめるために人々は集まり、慰めの言葉で臨終を見送ろうとするのだった。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
私共の農村移住は随分吾儘な不徹底なものでしたが、それですら都鄙の間に通う血の
一縷
(
いちる
)
となったと思えば、自ら慰むるところがあります。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
我邦
(
わがくに
)
の昔の「
歌垣
(
うたがき
)
」の習俗の真相は伝わっていないが、もしかすると、これと
一縷
(
いちる
)
の縁を
曳
(
ひ
)
いているのではないかという空想も起し得られる。
映画雑感(Ⅵ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
しかし、そういう物の一つも見えない水平線の彼方に、ぽっと
射
(
さ
)
し
露
(
あら
)
われて来た
一縷
(
いちる
)
の光線に似たうす光が、あるいはそれかとも梶は思った。
微笑
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
人間は不幸のどん底につき落され、ころげ廻りながらも、いつかしら
一縷
(
いちる
)
の希望の糸を手さぐりで捜し当てているものだ。
パンドラの匣
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
だがやつぱり不治なぞといふことはないだらうと、私は猶
一縷
(
いちる
)
の望みは消さないで持つてゐたことに、誇りをさへ感じた。
亡弟
(新字旧仮名)
/
中原中也
(著)
しかし、その晦迷錯綜としたものを、過去の言動に照し合わせてみると、そこに
一縷
(
いちる
)
脈絡するものが発見されるのである。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
新九郎はその人達を見ると、また
一縷
(
いちる
)
の未練をつないで、およその
風姿
(
なり
)
恰好
(
かっこう
)
を話し、この街道でそれらしい人を見かけなかったかと訊ねてみた。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
ると
隨分
(
ずゐぶん
)
覺束
(
おぼつか
)
ない
事
(
こと
)
だが、
夫
(
それ
)
でも
一縷
(
いちる
)
の
望
(
のぞみ
)
の
繋
(
つなが
)
る
樣
(
やう
)
にも
感
(
かん
)
じて、
吾等
(
われら
)
は
如何
(
いか
)
にもして
生命
(
いのち
)
のあらん
限
(
かぎ
)
り、
櫻木大佐
(
さくらぎたいさ
)
の
援助
(
たすけ
)
を
待
(
ま
)
つ
積
(
つも
)
りだ。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
そして彼は、自分の心に
一縷
(
いちる
)
の望みがわきあがってくるのを覚えて、ほんとに兄のために救いの道が開けたのかもしれないというような気がした。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
見渡すかぎり、両側の森林これを覆ふのみにて、一個の
人影
(
じんえい
)
すらなく、
一縷
(
いちる
)
の軽煙すら起らず、一の人語すら聞えず、
寂々
(
せき/\
)
寥々
(
れう/\
)
として横はつて居る。
空知川の岸辺
(新字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
当時三十二三歳ぐらいであった光明后は、観音像のモデルとしてもふさわしい。——かく考えれば、興福寺の伝説は
一縷
(
いちる
)
の生命を得て来るであろう。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
一縷
(
いちる
)
の望みに妻の声はあかるかった。野菜スープも口にしない病人ではあるが、これならのどを通るかもしれない。
日めくり
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
泉下
(
せんか
)
の父よ、幸に我を
容
(
ゆる
)
せと、地に伏して瞑目合掌すること多時、
頭
(
かしら
)
をあぐれば
一縷
(
いちる
)
の線香は消えて灰となりぬ。
父の墓
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
鴎外が抽斎や
蘭軒
(
らんけん
)
等の事跡を考証したのはこれらの古書校勘家と
一縷
(
いちる
)
の相通ずる共通の趣味があったからだろう。
鴎外博士の追憶
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
重衡は、もともと不可能なこととは思っていたものの、さすがに
一縷
(
いちる
)
の望みも絶たれたという想いは強かった。
現代語訳 平家物語:10 第十巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
そもそも歌の腐敗は『古今集』に始まり足利時代に至ってその極点に達したるを、
真淵
(
まぶち
)
ら一派古学を
闢
(
ひら
)
き『万葉』を解きようやく
一縷
(
いちる
)
の生命を
繋
(
つな
)
ぎ得たり。
曙覧の歌
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
私は絶大の悲哀に沈みましたが、何だか其処に
一縷
(
いちる
)
の希望があるようにも思いました。いう迄もなく人工心臓によって妻を救い
得
(
う
)
るだろうという希望です。
人工心臓
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
医者が今日日の暮までがどうもと小首をひねった危篤の新造は、注射の薬力に辛くも
一縷
(
いちる
)
の死命を
支
(
ささ
)
えている。
深川女房
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
一縷
(
いちる
)
の望みだけをつないで、また車をつかまえると「
渋谷
(
しぶや
)
、七十銭」と前二回とも乗った値段をつけました。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
南の方へ転地して、体が不思議に好くなったものは幾らもある。たとえ
一縷
(
いちる
)
の望みでもある以上は、何も手を
束
(
つか
)
ねているには及ばない。僕にだってまだ望みはある。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
船の姿はわしの
一縷
(
いちる
)
の希望だ。だってそれででもなくて何をたのしみに生きるのだろう。もしも何かの不思議であの遠くを
通
(
かよ
)
う船がこっちにやってくるかもしれない。
俊寛
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
一縷
(
いちる
)
の望みは、藩校主宰たる彼の人格が宗藩官吏に知己をもっていることであった。待つこと二カ月。弁舌や人格で左右出来るものでなかった。一切は無駄であった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
一縷
(
いちる
)
の望みを抱いて百瀬さんの家へ行ってみる。留守なり。知った家へ来て、寒い風に当る事は、腹がへって苦しいことだ。留守居の爺さんに断って家へ入れて貰う。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
戦争前、美術学校の助教授が巴里を
発
(
た
)
つという際にも、その他の時にも、まだ岡は
一縷
(
いちる
)
の望みをそれらの人達の帰国に
繋
(
つな
)
いでいた。最早岡の意中の人も行ってしまった。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
「弁士! 滅びたる我世界は、何年の後に復活すべきや、かつ如何なる動機に依って
燦然
(
さんぜん
)
たる光輝を放つに至るか、希くは不安なる吾らが胸に
一縷
(
いちる
)
の光を望ませて下さい」
太陽系統の滅亡
(新字新仮名)
/
木村小舟
(著)
しかし奴が吐き出すかも知れないと思って、途中で動物園に行くことを
廃
(
や
)
めにして料理店へ這入ってしまった。幸におれは一工夫して、これならばと
一縷
(
いちる
)
の希望を繋いだ。
襟
(新字新仮名)
/
オシップ・ディモフ
(著)
いわんや
一縷
(
いちる
)
の望みを掛けているものならば、なおさらその覚悟の中に用意が無ければならぬ。
水害雑録
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
思いがけなく、
旧
(
ふる
)
い
型
(
かた
)
ではあるが宇宙艇が手に入ったので、地球へ帰る
一縷
(
いちる
)
の望みができてきた。調べてみると、何という
幸
(
さいわ
)
いだろう。燃料はかなり十分に
貯
(
たくわ
)
えられていた。
月世界探険記
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
しかし倉地は知らず、葉子に取ってはこのいまわしい腐敗の中にも
一縷
(
いちる
)
の期待が潜んでいた。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
はいってゆく時には
一縷
(
いちる
)
の希望を持っていたが、出て来る時には深い絶望をいだいていた。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
命は実に
一縷
(
いちる
)
につながれしなりき。浪子は喜んで死を待ちぬ。死はなかなかうれしかりき。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
妙子もそれが
狙
(
ねら
)
いであり、それに
一縷
(
いちる
)
の望みをつないで東京行きを思い立ったのに違いないので、義兄は彼女に
掴
(
つか
)
まえられないように逃げ廻るであろうが、彼女もさるもので
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
此処
(
ここ
)
でも二百米近くも削立した峭壁で、鹿島槍側に在りては其縁に沿うて登降することは絶対に不可能であるが、五竜側は横を
搦
(
から
)
めば窓の底に達し得る
一縷
(
いちる
)
の望がないでもない。
八ヶ峰の断裂
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
さう、たしかに
一縷
(
いちる
)
の望みは残されてゐる。それにとり縋つて見ようではないか。……
母たち
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
併し、
凄
(
すご
)
く恐ろしい感じを彼に与へたものは、自然の持つて居るこの暴力的な意志ではなかつた。反つて、この混乱のなかに絶え絶えになつて残つて居る人工の
一縷
(
いちる
)
の典雅であつた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
もし果してさるものありとせば、
好
(
よ
)
しこの身自由となりし時、
所有
(
あらゆる
)
不幸不遇の人をも吸収して、彼らに
一縷
(
いちる
)
の光明を授けんこと、
強
(
あなが
)
ちに
難
(
かた
)
からざるべしとは、当時の妾が感想なりき。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
ヨブは大苦難の
真只中
(
まっただなか
)
にありて前後左右を暗黒に囲まれつつ、
一縷
(
いちる
)
この光明を抱いたのである。以てこの語の偉大さを知るのである。これ人生の
根柢
(
こんてい
)
における彼の確信の発表である。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
純一はそれをはっきりとは考えなかった。
或
(
あるい
)
は彼が自ら愛する心に
一縷
(
いちる
)
の
encens
(
アンサン
)
を
焚
(
た
)
いて遣った女の記念ではなかっただろうか。純一はそれをはっきりとは考えなかった。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
恋人に捨てられ、かなしみに
悶
(
もだ
)
えながら、でも
一縷
(
いちる
)
の望みをつなぎじっと待ちつづけている——彼は、彼女には、若い美しい彼女にだけは、そんな「不幸」は想像したくなかったのだ。
待っている女
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
“一縷”の意味
《名詞》
一筋の細い糸。
僅かにつながっていること。
(出典:Wiktionary)
一
常用漢字
小1
部首:⼀
1画
縷
漢検1級
部首:⽷
17画
“一”で始まる語句
一
一人
一寸
一言
一時
一昨日
一日
一度
一所
一瞥