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一朶
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いちだ
ふりがな文庫
“
一朶
(
いちだ
)” の例文
あまり結構でない煙草の煙が、風のない庭にスーッと棚引くと、形ばかりの糸瓜の棚に、
一朶
(
いちだ
)
の雲がゆらゆらとかかる風情でした。
銭形平次捕物控:112 狐の嫁入
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
悚然
(
ぞっ
)
として、
向直
(
むきなお
)
ると、
突当
(
つきあた
)
りが、樹の枝から
梢
(
こずえ
)
の葉へ
搦
(
から
)
んだような石段で、上に、
茅
(
かや
)
ぶきの堂の屋根が、
目近
(
まぢか
)
な
一朶
(
いちだ
)
の雲かと見える。
春昼
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
なんという寺院か知らないが、山門があり堂閣がそばだち、五重の塔の腰をつつんだ
一朶
(
いちだ
)
の桜が満地を落花の
斑
(
ふ
)
に染めている。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
寒く
潤沢
(
じゅんたく
)
を帯びたる肌の上に、はっと、
一息懸
(
ひといきか
)
けたなら、
直
(
ただ
)
ちに
凝
(
こ
)
って、
一朶
(
いちだ
)
の雲を起すだろうと思われる。ことに驚くべきは眼の色である。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
最後に
護身刀
(
まもりがたな
)
を引抜て真一文字に
掻切
(
かききり
)
たる時に、
一朶
(
いちだ
)
の白気閃めき出で、空に舞ひ上りたる八珠「
粲然
(
さんぜん
)
として
光明
(
ひかり
)
をはな」
処女の純潔を論ず:(富山洞伏姫の一例の観察)
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
▼ もっと見る
「天地一白の間に紅梅
一朶
(
いちだ
)
の美観を現出したるものは即ち我が新築の社屋なり。」と云ふ句があつて、私が思はず微笑したのを、今でも
記憶
(
おぼ
)
えて居る。
菊池君
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
おやッと思う間に、
一朶
(
いちだ
)
の黒雲が青空に拡がって、文字通りの
驟雨沛然
(
しゅううはいぜん
)
、水けむりを立てて瀧のように降って来る。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
怪
(
あや
)
しと見返れば、更に怪し!
芳芬
(
ほうふん
)
鼻を
撲
(
う
)
ちて、
一朶
(
いちだ
)
の
白百合
(
しろゆり
)
大
(
おほい
)
さ
人面
(
じんめん
)
の
若
(
ごと
)
きが、満開の
葩
(
はなびら
)
を垂れて肩に
懸
(
かか
)
れり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
一朶
(
いちだ
)
の
薔薇
(
ばら
)
の花を愛する唯の紅毛の女人である。見給へ。その女人の下にはかう云ふ金色の横文字さへある。ウイルヘルム煙草商会、アムステルダム。
阿蘭陀
(
オランダ
)
……
商賈聖母
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
瑠璃
(
るり
)
色なる不二の
翅脈
(
しみやく
)
なだらかに、
絮
(
じよ
)
の如き積雪を
膚
(
はだへ
)
の衣に
著
(
つ
)
けて、
悠々
(
いう/\
)
と天空に
伸
(
の
)
ぶるを仰ぐに、絶高にして
一朶
(
いちだ
)
の
芙蓉
(
ふよう
)
、人間の光学的分析を許さゞる天色を
佩
(
お
)
ぶ
霧の不二、月の不二
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
一朶
(
いちだ
)
の雲は全く響を収めていても、雷の名残だけに何となくただならぬものがあるように思う。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
この深夜に役場へゆくのはなんのためだろう、巌の頭に
一朶
(
いちだ
)
の
疑雲
(
ぎうん
)
がただようた。
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
時
(
とき
)
に、
真先
(
まつさき
)
に、
一朶
(
いちだ
)
の
桜
(
さくら
)
が
靉靆
(
あいたい
)
として、
霞
(
かすみ
)
の
中
(
なか
)
に
朦朧
(
もうろう
)
たる
光
(
ひかり
)
を
放
(
はな
)
つて、
山懐
(
やまふところ
)
に
靡
(
なび
)
くのが、
翌方
(
あけがた
)
の
明星
(
みやうじやう
)
見
(
み
)
るやう、
巌陰
(
いはかげ
)
を
出
(
で
)
た
目
(
め
)
に
颯
(
さつ
)
と
映
(
うつ
)
つた。
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
一朶
(
いちだ
)
の紫雲かとまごう
琵琶
(
びわ
)
の
湖
(
みずうみ
)
を見出していたろうに——
迅
(
はや
)
さは觔斗雲に劣らないまでも、そんな
他見
(
よそみ
)
などは、城太郎にはちっとも出来ない。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
平次は何やら掴んでグイと引くと、
一朶
(
いちだ
)
の黒いものが手に残って、曲者はパッと飛びました。恐ろしい
軽捷
(
けいしょう
)
な身のこなし。
銭形平次捕物控:027 幻の民五郎
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
その上に
紫
(
むらさき
)
のうずまくは
一朶
(
いちだ
)
の暗き髪を
束
(
つか
)
ねながらも
額際
(
ひたいぎわ
)
に浮かせたのである。金台に
深紅
(
しんく
)
の
七宝
(
しっぽう
)
を
鏤
(
ちりば
)
めたヌーボー式の
簪
(
かんざし
)
が紫の影から顔だけ出している。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
黄袗
(
くわうしん
)
は古びて
赭
(
あか
)
く、四合目辺にたなびく
一朶
(
いちだ
)
の雲は、
垂氷
(
たるひ
)
の如く
倒懸
(
たうけん
)
して満山を
冷
(
ひ
)
やす、別に風より
迅
(
はや
)
き雲あり、大虚を
亘
(
わた
)
りて、不二より高きこと百尺
許
(
ばかり
)
なるところより、
之
(
これ
)
を
翳
(
かざ
)
し
霧の不二、月の不二
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
所謂
(
いはゆる
)
一朶
(
いちだ
)
の
梨花海棠
(
りかかいどう
)
を圧してからに、娘の満枝は自由にされて
了
(
しま
)
つた訳だ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
その「多情多恨」の如き、「
伽羅枕
(
からまくら
)
」の如き、「二人女房」の如き、今日
猶
(
なほ
)
之を翻読するも
宛然
(
えんぜん
)
たる
一朶
(
いちだ
)
の
鼈甲牡丹
(
べつかうぼたん
)
、光彩更に磨滅すべからざるが如し。人亡んで業
顕
(
あらは
)
るとは誠にこの人の
謂
(
いひ
)
なるかな。
骨董羹:―寿陵余子の仮名のもとに筆を執れる戯文―
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
……鋭い小鳥の声が、
劈
(
つんざ
)
くように
翔
(
か
)
け去ってゆく。風のせいか滝の轟きが急に耳へついて、
一朶
(
いちだ
)
の雲の
裡
(
うち
)
に、陽の光も
淡
(
うす
)
れて来たかのように思える。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
仰いで、
浅間
(
せんげん
)
の森の流るるを見、
俯
(
ふ
)
して、
濠
(
ほり
)
の水の走るを見た。たちまち
一朶
(
いちだ
)
紅
(
くれない
)
の雲あり、夢のごとく
眼
(
まなこ
)
を遮る。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
何やら怪しい者、——
一朶
(
いちだ
)
の黒雲のようなものが、平次の寝室に忍び込みました。鼾も何にも聞えませんが、床の側に這い寄ると、手探りで蒲団を剥いて、闇にもキラリと
閃
(
ひらめ
)
く
刃
(
やいば
)
。
銭形平次捕物控:027 幻の民五郎
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
奇雲の夕日を浴ぶるもの、火峰の如く
兀々然
(
こつこつぜん
)
として天を
衝
(
つ
)
き、乱焼の焔は、
茅萱
(
ちがや
)
の葉々を
辷
(
すべ
)
りて、一
泓水
(
こうすい
)
の底に聖火を蔵す、富士山その残照の間に、
一朶
(
いちだ
)
の
玉蘭
(
はもくれん
)
、紫を吸ひて遠く漂ふごとくなるや
山を讃する文
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
一朶
(
いちだ
)
の白雲が漂うかのような法然の眉、のどかな
陽溜
(
ひだま
)
りを抱いている
山陰
(
やまかげ
)
のように、
寛
(
ひろ
)
くて風のないそのふところ。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
那須嶽連山の
嶺
(
みね
)
に、たちまち
一朶
(
いちだ
)
の黒雲の
湧
(
わ
)
いたのも気にしないで、
折敷
(
おりしき
)
にカンと打った。
神鷺之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そして、次の風雲を
孕
(
はら
)
み、明日の世代を分つともない
一朶
(
いちだ
)
の夏雲が、
清洲
(
きよす
)
の上に、じっと、動きもせずあった。
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あわれ、その胸にかけたる繃帯は、ほぐれて
靉靆
(
たなび
)
いて、
一朶
(
いちだ
)
の細き霞の布、
暁方
(
あけがた
)
の雨上りに、
疵
(
きず
)
はいえていたお夏と放れて、眠れるごとき姿を残して、
揺曳
(
ようえい
)
して、空に消えた。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ちょうど
如意
(
にょい
)
ヶ
嶽
(
たけ
)
と東山のあいだあたりに当るだろう。
一朶
(
いちだ
)
の雲の
縁
(
ふち
)
がキラと真っ赤に
映
(
は
)
えた。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一朶
(
いちだ
)
の
珊瑚島
(
さんごとう
)
のごとく水平線上に浮いた夕日の雲が反射したのである。
ピストルの使い方:――(前題――楊弓)
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
誰やらの句も
偲
(
しの
)
ばれて、足の裏すら熱かった。——一刀斎はふと杖を止め、
一朶
(
いちだ
)
の白雲を仰いでいたが、このときもう彼の考えは
定
(
き
)
まっていたものの如く、善鬼と典膳を顧みて
剣の四君子:05 小野忠明
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
屋の棟を、うしろ下りに、山の中腹と思う位置に、
一朶
(
いちだ
)
の黒雲の舞下ったようなのが、年数を知らない椎の古木の
梢
(
こずえ
)
である。大昔から、その根に椎の樹
婆叉
(
ばばしゃ
)
というのが居て、事々に異霊
妖変
(
ようへん
)
を
顕
(
あら
)
わす。
古狢
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
妖しい気勢を
戦
(
そよ
)
がせていたのもつかのま、たちまち、龍を乗せた
一朶
(
いちだ
)
の黒雲のように、この一団の怪影は、まだ宵の人通りもあった時刻だけに、かえって、洛内の人目を
紛
(
まぎ
)
れ、すべて
私本太平記:12 湊川帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一朶
(
いちだ
)
の雲を、見ていた。ふと見たのである、われに返って。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“一朶”の意味
《名詞》
ひとかたまり。特に花のひと枝や一輪の花を指す。
(出典:Wiktionary)
一
常用漢字
小1
部首:⼀
1画
朶
漢検1級
部首:⽊
6画
“一”で始まる語句
一
一人
一寸
一言
一時
一昨日
一日
一度
一所
一瞥