一日いちじつ)” の例文
一日いちじつ島田はかつて爾汝じじょの友であった唖々子とわたしとを新橋の一旗亭に招き、俳人にして集書家なる洒竹大野しゃちくおおの氏をわれわれに紹介した。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一日いちじつに一銭たりとも多く貯えて又一が手許に送り、牧塲の資本を増加せん事をとて熱心に働き、自らも大快楽なりとて喜び居れり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
何しろ熊女が書いたというので土地ではおお評判、新潟あたりへ聞えることもござります。一日いちじつ名主紋左衞門が寺へやってまいりまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老媼もお通に言出しかねて一日いちじつのがれに猶予ためらいしが、厳しく乞食僧に催促されて、わで果つべきことならねば、止むことを得で取次たるなり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一日いちじつに二三回位怖々こわ/″\ながらためしてゐるうちに、うやら、ウエーバーと同じ様になりさうなので、急に驚ろいて已めにした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
僕達のイギリス文学科の先生は、ロオレンス先生なり、先生は一日いちじつ僕を路上にとらへ、娓々びび数千言を述べられてやまず。
その頃の赤門生活 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(巴里の春三カ月の一日いちじつ、市内すべてが人の往来もかまびすしい。珈琲コーヒー店の前には客が席を占め、夜おそくまで家に帰ろうとはしないのである。)
南半球五万哩 (新字新仮名) / 井上円了(著)
彼の学びてこれを忍得るの故は、爾来じらい終天の失望と恨との一日いちじつも忘るるあたはざるが為に、その苦悶くもんの余勢を駆りて他の方面に注がしむるに過ぎず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一日いちじつ、お勢の何時になく眼鏡を外して頸巾くびまきを取ッているを怪んで文三が尋ぬれば、「それでも貴君あなたが、健康な者にはかえって害になるとおっしゃッたものヲ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
原稿用紙も、やっぱり中井の駅の近くの文房具屋でこの頃は千枚ずつとどけて貰うのだが、十年一日いちじつの如く、小学生の使う上落合池添紙店製のをつかっている。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
でその地の景色を見たでも何でも無いのに、始終、夢にある地の景色を見る。一日いちじつ不図ふと或る道へ出た。するとその道は夢に、その或る景色を見に行く道に寸分たがわぬ。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
いろいろの反証があるにもかかわらず、私は十七、八年一日いちじつの如く、相変らずロージングはうまいと思い込んでいる。ロージングは決して派手でもなく、美しくもない。
身内の者が死ねば、その血筋の者はその日一日いちじつ一夜ひとよの間、宮中へ出られないのがこの国の掟だ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
上の子二人は小学校へも行くといふ年になつた。父親は小学校の教員を勤めて十円か十一円の月給を取つて居る。二十年一日いちじつの如く働いて居るが月給も二十年居坐いすわりである。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
僕はその頃まだ女の種性すじょうを好くも知らなかったが、それを裁縫の師匠の隣に囲って置くのが末造だと云うことだけは知っていた。僕の智識には岡田に比べて一日いちじつの長があった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
四月一日いちじつを以て余は判決の宣告を受けぬ、四月二日を以て堺兄の公判は開廷せられぬ、而して其の結果は共に意外なりき、余は罰金に処せられたり、堺兄は軽禁錮三月に処せられたり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今年かしこくも即位の大典を挙げさせたまふ拾一月の一日いちじつに、この集の校正を終りぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
一日いちじつ東角門とうかくもんに坐して、侍読じどく太常卿たいじょうけい黄子澄こうしちょうというものに、諸王驕慢きょうまんの状を告げ、しょ叔父しゅくふ各大封重兵ちょうへいを擁し、叔父の尊きをたのみて傲然ごうぜんとして予に臨む、行末ゆくすえの事も如何いかがあるべきや、これに処し
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
十一月のある一日いちじつ、その日は朝から清々すがすがしく晴れ渡って、高台の窓からは、富士山の頭が、ハッキリ眺められる様な日和ひよりであったが、っても、肌寒いそよ風が渡って、空には梨地なしじの星が
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一日いちじつまたにちと、全力ぜんりよくつくしてはたらく、これが其實行そのじつかうなのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
深き憂愁と激しき勞役との一日いちじつの終りに
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
終りに臨んで君が延岡に赴任ふにんされたら、その地の淑女しゅくじょにして、君子の好逑こうきゅうとなるべき資格あるものをえらんで一日いちじつも早く円満なる家庭をかたち作って
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
百二十里半ひやくにじふりはん——丁數ちやうすう四千三十八を、早飛脚はやびきやく滿五日まんいつかふゆ短日たんじつおいてさへこれにくはふることわづか一日いちじつ二時にときであつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一日いちじつ深川の高橋から行徳ぎょうとくへ通う小さな汚い乗合のりあいのモーター船に乗って、浦安うらやすの海村に遊んだことがある。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これで先ず露命をつなぐ趣向が出来たというもの、此の上は一日いちじつも早く此の島をでて、再び蟠龍軒にめぐり合い、武士のたしなみ思う存分にかたきを討たなければならぬ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
汗出でて厚く着重ねたる木綿ぎものは汗にて流るるが如きに至るを以て、おのずから臭気を発して、一種の不快を覚ゆると其くるしさとにて、一日いちじつには僅に三四時間の労働に当るのみ。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
昨日きのうは私、本当に参りたくて参りたくてたまりませんで御座いましたよ。本当に私は一日いちじつ王様にお眼にかかりませぬと、淋しくて淋しくて一年も二年も独りで居るような心地が致しますよ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
弘前にってから、五百らは土手町どてまちの古着商伊勢屋の家に、藩から一人いちにん一日いちじつ一分いちぶ為向しむけを受けて、下宿することになり、そこに半年余りいた。船廻しにした荷物は、ほど経てのちに着いた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その後のある日にもまた自分が有毒のものを採ってしかられたことを記憶きおくしているが、三十余年前のかの晩春の一日いちじつかすみおくの花のように楽しい面白かった情景として、春ごとの頭に浮んで来る。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今日は酒をいだして一日いちじつ彼を還さじなど、心忙こころせはしきまでによろこばれぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
九月一日いちじつ、地震の記念日
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
経験に乏しい処女の期待するような予言はともかくも、男女なんにょ関係に一日いちじつの長ある年上の女として、相当の注意を与えてやりたい親切もないではなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなはち長崎の夕凪ゆうなぎとかとなへて、烈しい炎暑の一日いちじつあと、入日と共に空気は死するが如くに沈静し、木葉このは一枚動かぬやうな森閑とした黄昏たそがれ、自分は海岸から堀割をつたはつて
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
依て一日いちじつの旅行には弁当を携え、一泊する時は前以て粥と時間を早くするとを頼むとして、注意を怠らざるのみ。依て次第に心身共に復常するを得たり。アア老境は実にアワレなり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
鎖縶さしつされて逍遙城しょうようじょうれらるゝや、一日いちじつ帝の之を熟視するにあう。高煦急に立って帝の不意にで、一足いっそくのばして帝をこうし地にばいせしむ。帝おおいに怒って力士に命じ、大銅缸だいどうこうもって之をおおわしむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
九月一日いちじつ、地震の記念日。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼は一日いちじつも早く父に逢って話をしたかった。万一の差支さしつかえを恐れて、三千代が来た翌日、又電話を掛けて都合を聞き合せた。父は留守だと云う返事を得た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
じつ身體攝養しんたいせつやうことは、一日いちじついへどゆるかせからず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
彼は一日いちじつも早くちゝに逢つてはなしをしたかつた。万一の差支を恐れて、三千代がた翌日、又電話を掛けて都合を聞き合せた。ちゝは留守だと云ふ返事を得た。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今まで自分の安心を得る最後の手段として、一日いちじつも早く彼女の縁談がまとまれば好いがと念じていた僕の心臓は、この答と共にどきんと音のするなみを打った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山嵐は何を云うかと思うとただ今校長始めことに教頭は古賀君の転任を非常に残念がられたが、私は少々反対で古賀君が一日いちじつも早く当地を去られるのを希望しております。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それに甲野もあんな風に突然外国でくなりますような仕儀で、まことに心配でなりませんから、どうか一日いちじつも早く彼人のために身の落つきをつけてやりたいと思いまして……本当に
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)