りん)” の例文
あのしろ着物きものに、しろ鉢巻はちまきをした山登やまのぼりの人達ひとたちが、こしにさげたりんをちりん/\らしながら多勢おほぜいそろつてとほるのは、いさましいものでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私が勢のいゝ返事をすると、おふさは子供のやうな笑顏をしてりて行つたが、それから大分つても容易に門口かどぐちりんの音がせぬ。
金魚 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
紳士は手ずから瓦斯ガスストーブに火をつけて電気をひねった。その前の椅子に徳市を坐らせて差し向いになった。机の上のりんを押した。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
路地ろじうちしんとしているので、向側むこうがわの待合吉川で掛ける電話のりんのみならず、仕出しを注文する声までがよく聞こえる。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と——真っ暗な、女坂のくだり口にかかろうとした時、すぐそのあたりの物蔭から、りんを振り鳴らして、一同の前へ歩みだしてきた者があった。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
豌豆えんどう隠元いんげんは畑に数珠じゅずりでも、もいでて食うひまは無い。如才じょさいない東京場末の煮豆屋にまめやりんを鳴らして来る。飯の代りにきびの餅で済ます日もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
渡邊が速記簿を出そうとすると、春日は黙って、首を振って静かに名簿を閉じると同時に、放課のりんを小使が振った。
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
春日長次郎はかなりの能弁で、一通り由来を述べ終って卓の上なるりんを振ると、後ろの幕が二つに裂けて、そこから賑やかな音楽が湧き起りました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
為さんは小机の前にいざり寄って、線香を立て、りんを鳴らして殊勝らしげに拝んだが、座を退すべると、「お寂しゅうがしょうね?」と同じことを言う。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
りんの音もあのきれいな余韻を曳いていたに相違ない。しかし聴覚的な、嗅覚的な、視覚的な、明確な記憶はない。
澪標 (新字新仮名) / 外村繁(著)
日曜日は保育園は休みなので、その日にはおしづは末吉についてきて、アパートの子供たちと、屋台車の柄に下げてある商売用のりんを鳴らしたりして遊んだ。
日日の麺麭 (新字新仮名) / 小山清(著)
そのうちに、窓の障子しょうじに女の影が射して、それが消えたかと思うと、「ちーん!」とりんの音が聞えてきた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
電話のりんが鳴る度に、プラトンは全身を震はせて、一種の恐怖が熱いものゝやうに心の臓に迫つて来るのを感じた。そして床に起き直つて耳をそばだてゝ聞いてゐる。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
途端に十二時、りんを打つのが、ブンブンと風に響くや、一つずつ十二ヶ所、一時に起る摺半鉦すりばん、早鐘。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七日目になア其の亥刻こゝのつ前じゃったか、下駄をいて墓場へき、線香を上げ、其処そこりんならし、長らく血盆経を読んでしもうて、わしがすうと立って帰ろうとすると
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その時よく冴えたりんの音が乾いた收納所のなかの空氣をふるはして響き渡つた。八時の鈴であつた。鑑定開始の合圖である。係員や人夫が出て來て、それぞれの持場についた。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
荒筵の遥かの奥の方から、祈祷の声が絶えず聞こえ、りんを振る音が合間あいま合間に聞こえた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
訪問のりんが鳴った。アルノー夫人はいつもより早く夢想から呼びまされて、ぞっと身震いをした。丁寧ていねいに編み物を片付けて、立って行ってとびらを開いた。クリストフがはいって来た。
此涼しきりんの音が、わが肉體を貫いて、わが心を透して無限の幽境に赴くからは、身も魂も氷盤の如く清く、雪甌せつおうの如く冷かでなくてはならぬ。太織の夜具のなかなる余はいよ/\寒かつた。
京に着ける夕 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
レイモンドは寝床のそばの呼鈴を強く押した。……りりっりんりりっりん……と下男部屋の方に鳴ったりんの音が、しーんとした家の中に響き渡った。二人の少女は抱き合って息をひそめた。
〔時辰儀〕めざまし時計の一種なるべし、曳きかつ押すとは齒車の一が小槌を曳きかつ押してりんを鳴らす意か、この時代に用ゐし自鳴鐘の構造明らかならざるがゆゑに定かにいひがたし。
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
やがて強盗谷、強盗泉あり。岩壁の下、草地くさぢ数弓すきう、荷を卸して駱駝臥し、人憩ふ。我儕われらの馬も水のみて行く。やがてまた十数頭の駱駝りんを鳴らし驢馬の人これを駆り来るを見る。荷は皆あんず
こうちゃん、このもんふるいんだね、ここについているのは、りんだろう。」
子供どうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
羅宇しかえ屋の婆さんがくやみに来て、他吉の胸の上で御詠歌のりんを鳴らし
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
りんの草堤来る夜の雨間あままをあかくつけて胸とどろる 何の号外ぞや
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
座敷の話し声がしずまったと思うと、時々りんの音などが聞えて来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
持っていた蝙蝠傘こうもりがさの握りの端で門のりんのボタンを押した。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼等屡々、目覚時計の、けざやかなりんの音には
暫すると、下で佛壇のりんのなる音がした。
一九二八年三月十五日 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
夫人 りんは聞えなかつたの。
動員挿話(二幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
遠方ゑんぱうに電話のりんの鳴るごとく
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
星のりんを響かす。
深夜 (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
りん一つ鳴らせば足る
こんべりの道者笠どうじゃがさをかぶり、白木の杖と一個のりんを手にしていた。そして、黙然もくねんと、そこに突っ立った白い姿に、かすりのような木の影が落ちている。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうどここへ立った時分に、今開けた門の、からからと鳴る、ばねつきのりんの音がんで、あたかもし、玄関へ書生が取次にあらわれて、あえてものを言うまでもない。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その侏儒こびとが廊下を曲がって、ほかの廊下の方へ姿を消した時、りんの音が聞こえて来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ごらんよ、あのりんは、きこえるのだから。」と、清吉せいきちが、いいました。
子供どうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
「号外! 号外! 朝鮮事件の号外!」とりんの音のけたたましゅう呼びあるく新聞売り子のあとより、一ちょうの車がらがらと番町なる川島家の門に入りたり。武男は今しも帰り来たれるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
りんの音が聴えるのはアイスクリーム屋だろうか夜泣きうどんだろうか。
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
家の裏手には木柵がめぐらしてあって、台所口の前にあたる所に格子戸がとりつけてあった。格子戸にはりんがついていて、開閉するたびに音を立てた。格子戸の際に、洗濯する場所が設けてあった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
りんの草堤來る夜の雨間あままをあかくつけて胸とどろる何の號外ぞや
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
この涼しきりんが、わが肉体をつらぬいて、わが心をすかして無限の幽境におもむくからは、身も魂も氷盤のごとく清く、雪甌せつおうのごとくひややかでなくてはならぬ。太織の夜具のなかなる余はいよいよ寒かった。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東京に往けば、人間にけます、と皆が云う。むぎ程人間の顔がある東京では、人間の顔見るばかりでも田舎者はくたびれてしまう。其処そこ電話でんわりんが鳴る。電車がとおる。自動車が走る。号外ごうがいが飛ぶ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
電話のりんの鳴りて止みたり
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さっきから間の抜けたりんを振って、しきりと医王山の境内をウロついていた奴だろう。それがどうしたンだ?」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
途端にちりりんとりんの音、袖に擦合うばかりの処へ、自転車一輛、またたきする間もあらせず
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
根もとの土を掘り下げて、そこへ小さいへやを造り、その上へ土をおっ冠ぶせ、呼吸抜いきぬきの竹筒つつ空気いきを取り、夜昼この室へ坐ったまま、時々りんを振り立てるのが、役目と云えば役目のようなもの
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
りんだけど、きっときかないんだよ。」と、孝二こうじがいいました。
子供どうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
りんが鼓膜の及ばないかすかな世界に潜り込むように。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白銀はくぎんりんを振る様な鋭いひぐらしの音が響いた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)