象嵌ぞうがん)” の例文
象嵌ぞうがんあるものにはちょっと高麗時代のものと見分けのつかないものさえある。第三に九州系統のもの、特に薩摩さつまの窯の影響が少くない。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
旅行鞄トランクについで、木目もくめ白樺で象嵌ぞうがんをほどこしたマホガニイの手箱だの、長靴の型木だの、青い紙に包んだ鶏の丸焼だのが持ちこまれた。
またイエスの語録ロギアは、非常に優れた譬喩ひゆによって象嵌ぞうがんせられた美しい説教であって、今は福音書の戯曲的な物語の中にはめ込まれている。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
濃厚にかさを持って、延板のべいたのように平たく澄んでいる、大岳の影が万斤の重さです、あまりしずかで、心臓ハート形の桔梗の大弁を、象嵌ぞうがんしたようだ
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ぼくはYさんの世話で、その後まもなく、浅草三筋町のT氏の許へ、一年ぽっきりの約束で、輸出金属象嵌ぞうがんの下絵描きの徒弟に住みこんだ。
ギリシアの神殿になぞらえた納骨堂であった。柱列の間に高くはめこまれている白大理石の板に、おびただしい名前が金で象嵌ぞうがんされている。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その中央で王座のようにわだかまって君臨しているのが、黄銅製の台座の柱身にはオスマン風の檣楼しょうろう羽目パネルには海人獣が象嵌ぞうがんされていて、その上に
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
丸山勇仙は、その武者ぶりをほめたり、けなしたりしながら、物の具のおどし方や、糸の色、革の性質、象嵌ぞうがんの模様などを仔細らしく調べている。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なみ珠玉しゆぎよくちりばめ、白銀しろがねくも浮彫うきぼりよそほひ、緑金りよくきん象嵌ぞうがん好木奇樹かうぼくきじゆ姿すがたらして、粧壁彩巌しやうへきさいがんきざんだのが、一である。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この紋がねえ、三蓋松に実の花菱が、そっくり象嵌ぞうがんで出て居るってんだ、こいつア妙じゃアございませんか、これが突込つっこんだなりで有るんでがすが
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
博覧会には結構な漆器、青銅、磁器にまざって、いろいろな木で精巧を極めた象嵌ぞうがんを施した、浅い洗足桶があった。
それは空虚な空間ではなくて、人間にいちばんだいじな酸素と窒素の混合物で充填じゅうてんされ、そうしてあらゆる膠質的こうしつてき浮游物で象嵌ぞうがんされた空間の美しさである。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
花かつたあるは葉か、所々がはげしく光線を反射して余所よそよりも際立きわだちて視線を襲うのは昔し象嵌ぞうがんのあった名残でもあろう。猶内側へ這入はいると延板のべいたの平らな地になる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
姫の屍体もまたプリゴネと称する薬草の液に浸し麝香草じゃこうそうの花を詰めて腐敗をふせぎ、金銀を象嵌ぞうがんしたる瑪瑙めのうの寝棺に納め、さらにこれを桃金花てんにんかの木にて造れるかくに入れ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
内蔵助は、青空に象嵌ぞうがんをしたような、堅くつめたい花を仰ぎながら、いつまでもじっとたたずんでいた。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鉄に銀の象嵌ぞうがんをした朝鮮の煙草箱たばこばこを引き寄せながらその長いひざをグッと突き出してすわった。
廻りを総金蒔絵きんまきえにし、台の中に湯を入れて、寒中でも足の冷えぬようにしたとか、——雪駄の廻りを赤銅で縁取り、裏に真鍮の象嵌ぞうがんを入れ、舟などに乗って、それを仰向にすると
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
すっかり葉の落ち尽した無数の唐松の間から、灰色に曇った空のなかに象嵌ぞうがんしたような雪の浅間山が見えて来た。少しずつ噴き出している煙は風のためにちぎれちぎれになっていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
鏡はただこの部屋をあるがままにうつすのみで、ほかには何物もみえなかった。それは中央の宝石を取り去られた金の象嵌ぞうがんのごとく、または夜の空にかがやく星の消えたるがごとくであった。
その中に正誤表を作った事や、象嵌ぞうがんで版型を改めた事を言った。然るにその正誤表がまだ世間に行き渡っていない。そこで正誤表を作ったと云うのは虚言だと云う人がある。あれは虚言ではない。
不苦心談 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
朝鮮の工藝品において、私たちの眼を引く一つの特色は象嵌ぞうがんの手法である。人々はあの壁に石や煉瓦れんがめて美しい模様を出すことを好む。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
と、お蔦の気質は、つむじを曲げたかも知れないが、脇差わきざしこうがいが一本、手紙の中にくるんであった。後藤彫ごとうぼり象嵌ぞうがんだけでも、安くない品だった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
指環をめた白い指をツト挙げて、びん後毛おくれげを掻いた次手ついでに、白金プラチナ高彫たかぼりの、翼に金剛石ダイヤちりばめ、目には血膸玉スルウドストンくちばしと爪に緑宝玉エメラルド象嵌ぞうがんした
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、その時、中央の大きな象嵌ぞうがん柱身の上に置かれた人形時計が、突然弾条ぜんまいゆるむ音を響かせたかと思うと、古風なミニュエットを奏ではじめたのであった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
木地きじはむろんひのきに相違ないが、赤黒の漆を塗り、金銀か螺鈿らでんかなにかで象嵌ぞうがんをした形跡も充分である。蓋はかぶぶたで絵がある。捨て難い古代中の古代ものだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは釈迦の哲学の根本命題という形を持っている。後にかかる法要を象嵌ぞうがんした物語が作られ、さらにそれが発展して大きい戯曲的構図を持った経典となった。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そのうちでも実に立派だと思ったのはたしかヘンリー六世の着用したものと覚えている。全体が鋼鉄製で所々に象嵌ぞうがんがある。もっとも驚くのはその偉大な事である。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今年のは表紙が非常に軟かで、つよい鞣革なめしがわで玉虫色の象嵌ぞうがんがあります。装幀も年々に含蓄を加えます。
非常に数の多い骨董品店で、人は屡々漆器、象嵌ぞうがん、籠細工、その他にまざって、色あせた錦の袋に入った、陶器の壺(図524)があるのに気がつく(図525)。
第一これは顔を除いて、他はことごとく黒檀こくたんを刻んだ、一尺ばかりの立像である。のみならずくびのまわりへ懸けた十字架形じゅうじかがた瓔珞ようらくも、金と青貝とを象嵌ぞうがんした、極めて精巧な細工さいくらしい。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
亡骸なきがらはプリゴネと称する薬草の液に浸し、麝香草じゃこうそうの花を詰めて腐敗をふせぎ、金銀を象嵌ぞうがんしたる瑪瑙めのうの寝棺に納め、さらにこれを桃金花てんにんかの木にてつくれるかくに入れ、薬蝋やくろうをもって密封し
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
幸な事にはまだ紙型が築地の活版所から受け取って無かったので、これは災を免れた。そのうちに第一部の正誤が出来たので、一面紙型を象嵌ぞうがんで直し、一面正誤表を印刷することを富山房に要求した。
訳本ファウストについて (新字新仮名) / 森鴎外(著)
土を練る者、轆轤ろくろく者、削る者、絵附えつけをする者、または象嵌ぞうがんをする者、白絵しろえを引く者、釉掛くすりがけをする者、または焼く者、ことごとくが分業である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
短剣というのは正寸しょうすん一尺一分、黄金こがねづくりのつかにすばらしい夜光珠をめこみ、刀身なかみの一面には南欧美少女のおもが青金で象嵌ぞうがんしてあるとのこと。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その指には、白金プラチナ小蛇こへびの目に、小さな黒金剛石くろダイヤ象嵌ぞうがんしたのが、影の白魚のごとくまつわっていたのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例の五連発の室内銃を胸のあたりに取り上げて、銃口をこちらへ向けていましたが、その銃身に象嵌ぞうがんした金と銀と赤銅しゃくどうの雲竜が、蝋燭の光でキラキラとかがやきます。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そういう象嵌ぞうがんだけとり出して小さい宝ばこに入れておく魔法もなし、ねえ。
金や宝石で象嵌ぞうがんをして彫刻を施した七宝しっぽうの高脚の盃に、常春藤きづたの絡んだ壺から雪で冷やした蕃紅花サフランの香り高い酒が並々と注がれて、今沐浴から上ってきたらしい幾人かの美しい侍女が足許にひざまずいて
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「左様——このやみでは、奇異な装剣も、切羽せっぱ象嵌ぞうがんも、よく見ることはできなかろう。おう、時に万殿、何刻なんどきであろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
支那における筆画、朝鮮における象嵌ぞうがん、日本における流し釉、これらの特色に近いものを西洋の焼物に求めれば「絞り出し」の手法であろうと思う。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
地の総銀一面に浮彫の波の中に、うつくしい竜宮を色で象嵌ぞうがんに透かして、片面へ、兎を走らす。
この時に能登守は起き上って寝衣ねまきの帯を締め直しました。寝衣の帯を締め直すと共に床の間にあった、銃身へ金と銀と赤銅しゃくどうで竜の象嵌ぞうがんをしてある秘蔵の室内銃を取り上げました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この節は佐々の陶器の蒐集棚が立ち、メディチの紋が象嵌ぞうがんしてあるエックス・レッグスの椅子などが置かれている。第一次欧州大戦の後、日本の経済は膨脹して、全国に種々様々の大建築が行われた。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
染付はもとより、象嵌ぞうがん流釉ながしぐすり、陰刻、黒釉、飴釉、白釉、緑釉等々、多過ぎるほどの変化です。中で一番特筆されてよいものは赤絵と線描の二種類です。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しなやかなこと、くじらのヒゲの如き薄銅うすがねの長い二本のむちだった。鞭には西域模様せいいきもようの金銀象嵌ぞうがんがちらしてある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒繻子くろじゅすと打合せらしい帯を緩くして、……しかし寝ていたのではありません。迎えるように、こっちから橋に進んで——象嵌ぞうがんなどを職にします——話して、瓜の事を頼みました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっと板を分厚くし模様を単純にするなら、力を得てくるでありましょう。近頃は象嵌ぞうがんも試みますが図案がありきたりで、無地むじものの方がずっとましであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
羅馬ローマの王家からあらゆる手を廻して日本に求め来つつある、刀身に南欧美少女の象嵌ぞうがん——つかに夜光珠をちりばめたる奇剣のいわれ因縁を、縷々るる低音に語り聞かせます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
びん後毛おくれげを掻いたついでに、白金プラチナ高彫たかぼりの、翼に金剛石ダイヤちりばめ、目には血膸玉スルウドストンくちばしと爪に緑宝玉エメラルド象嵌ぞうがんした、白く輝く鸚鵡おうむかんざし——何某なにがしの伯爵が心を籠めたおくりものとて、人は知って
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花菖蒲はなあやめ象嵌ぞうがんした刀の目貫めぬきが、かつての形のまま帯留おびどめの金具となって用いられてあるのだった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)