こうむ)” の例文
先生はこの頃になって酒をこうむること益々ますますはなはだしく倉蔵の言った通りその言語が益々荒ら荒らしくその機嫌きげん愈々いよいよむずかしくなって来た。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そしてその大きな推移に逆らう者は、必ず汚名と悲運をこうむって、時代の外へ影を没して亡んでしまうことも顕然けんぜんとした事実であった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
簡単に申せば、小山田六郎氏は、彼の余りにも悪魔的な所業が、神の怒りに触れたのでもありましょうか、天罰をこうむったのであります。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
天保十四年癸卯きぼう 夏、村田清風毛利侯をたすけて、羽賀台の大調練をもよおす。水戸烈公驕慢につのれりとのとがこうむり、幽蟄ゆうちつせしめらる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その上このあたりには昼間でも時とすると狐狸こりたぐいが出没すると云われ、その害をこうむった惨めな話が無数に流布されている。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
山奥の児童こどもにも似合わないかしこいことを考え出して、既にかつてえられぬ虐遇ぎゃくぐうこうむった時、夢中になって走り出したのである。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
言合わせたように順々に……さきへ御免をこうむりますつもりで、私が釣っておいた蚊帳へ、総勢六人で、小さくなってかがみました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親戚の営むべき一周忌にわざと一月遅れて、昔香以の恩蔭をこうむった人々が、団子坂の小倉是阿弥の家に集まって旧を話し、打連れて墓に詣でた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その某大臣はじめ重立おもだった恋人たちに手紙を書いて、あの第二号とのいきさつ、彼女のこうむった「迷惑」などを訴えている。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
それならば助けて見ようというおぼししが神にもあって、おかげこうむることが多いということを、久しくわたしたちの祖先は経験していたのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
長い間非難をこうむっているが、しかしピアノの詩人ショパンの特色は協奏曲に一脈の特異な生命を吹込んで、二つとも世の常ならず美しいものである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
が、破廉恥の罪人になることを考えると、泥棒と同じ汚名をこうむることを考えると、何も考えておられなくなったのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一切の事情をば問わずして、ただ喫驚きっきょうの余りに、日本の紳士は下郎なりと放言し去ることならん。君らはかかる評論をこうむりて、果たしてずる所なきか。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
女の無智は今更のことでなく、昔からそれがために女自身も苦痛と侮蔑を受け、男も多大の迷惑をこうむっています。
婦人改造と高等教育 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
しばらくも安らかなることなし、一度ひとたび梟身きょうしんつくして、又あらたに梟身を得。つまびらかに諸の苦患くげんこうむりて又尽くることなし。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「いや、君そのものは申分ない。俺が不用意のうちに余計なことを言ったものだから、妙な誤解をこうむってしまった」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
長者町の道庵までがそのおかげをこうむるようになったのは、みなこの道益先生の親切だ——医者に限ったことはねえ、天下の政治でも、実業界の仕事でも
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また最も甚だしく風水害をこうむった三千百五十九家のために「開倉廩賑給之そうりんをひらきてこれにしんごうす」という応急善後策も施されている。
颱風雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四幕目紋三郎宅の場は紋三郎が汚名をこうむり自殺せんとするをお蔦の亡霊出でて留め、悪人の密書を渡す処なり。
可成かなりの変質者なのです。以後、浮気は固くつつしまなければいけません。このみそかは、それじゃ困るのでしょう? 私は、もうお世話ごめんこうむります。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
讓は奇怪な圧迫をこうむっているじぶんの体を意識した。そして、一時間たったのか二時間たったのか、怪しい時間がたったところで、顔を一方にねじ向けられた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
表徳は御免をこうむなかへ往ってチョン/\格子か何かで自腹遊びをする積りで御免を被って師匠に逢おうと思ってると、此処で出会でっくわすなんざア不思議でしょう
彼らは雀躍こおどりして喜んでいた。こうむっていた迫害の意趣晴らしを、久しく期待していたのが今得られたのであった。争闘の結果にはまだ思い及ぼしていなかった。
さなきだに時として烈しい雪や雨やまたはひでりなどが続いて、災害をこうむることが度々であります。こういう事情は東北人を貧乏にさせ、その働きをにぶらせました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
故にもしその一地方に於て経済上の変調を来さば、世界全体またこれが影響をこうむるのである。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
武男が乗り組める連合艦隊旗艦松島号は他の諸艦を率いて佐世保に集中すべき命をこうむりつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この政党関係のためにいかなる弊害へいがいこうむって居るかということは今更ここで例をあげて申しあげるまでもなく、演説会やその他で長年の間わたくしが、いや、わたくしではありませんでした
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
北海道などでもひどい所では一しゃく位も持ち上げられることがあって、そのためにこうむる鉄道の被害は著しいものである。それが実は地下の霜柱によることを、最近に確めることが出来たのである。
これ淫念をたつなり。十に曰く、他人の財をむさぼるなかれ。これ貪心どんしんいましむるなり。以上七誡のごとき、人もしこれを犯せば、みな必ず政府の罰をこうむるに足る。教門の道、ただ刑法のもくを設けざるのみ。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
即ち小石川柳町こいしかわやなぎちょう小流こながれの如き、本郷ほんごうなる本妙寺坂下ほんみょうじざかしたの溝川の如き、団子坂下だんござかしたから根津ねづに通ずる藍染川あいそめがわの如き、かかる溝川流るる裏町は大雨たいうの降る折といえば必ず雨潦うりょうの氾濫に災害をこうむる処である。
さてその事実を極端まで辿たどって行くと、いっさい万事自分の生活に関した事は衣食住ともいかなる方面にせよ人のおかげこうむらないで、自分だけで用を弁じておった時期があり得るという推測になる。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私が第四階級の人々に対してなんらかの暗示を与ええたと考えたら、それは私の謬見びゅうけんであるし、第四階級の人が私の言葉からなんらかの影響をこうむったと想感したら、それは第四階級の人の誤算である。
宣言一つ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こうむるかも知れぬ
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
地蔵十輪経じぞうじゅうりんきょうに、この菩薩はあるいは阿索洛アシュラ身を現わすとあるから、かぶとこうむり馬に乗って、甘くない顔をしていられても不思議はないのである。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何せい、煙硝庫と聞いたばかりでも、清水がくようではない。ちとあらたまっては出たれども、また一つ山を越すのじゃ、御免をこうむる。一度羽織を
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
某が買求め候香木、かしこくも至尊の御賞美をこうむり、御当家の誉と相成り候事、存じ寄らざる仕合せと存じ、落涙候事に候。
○同九月十九日、九条公た出でて事を視、近衛公内覧を辞す(九条公は去る四日関東内応の非難をこうむり、公卿の衆議に迫られて辞職したるもの)
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
妻が夫を天とすれば、夫は妻を以て神とす可し。夫に逆いて天罰を受く可らずと言えば、妻を虐待して神罰をこうむなかれと、我輩は言わんと欲する者なり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いやに気位を高くして、家が広いから、それにどうせ遊んでいる身体からだ、若いものを世話してやるだけのこと、もっとも性の知れぬお方は御免こうむるとの触込ふれこみ。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しばらくも安らかなるなし、一度ひとたび梟身きょうしんつくして、又あらたに梟身をつまびらかに諸の苦患くげんこうむりて、又尽ることなし。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこで自分のことを考えて、自分は前世で罪を犯して地獄の責め苦をこうむっているから、今またこんなことをしてはならないと思ったので、大声をあげて人を呼んだ。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「オイオイ、おどかしちゃいやだぜ」品川は思わずビクッとして云った、「まだ別に害をこうむった訳じゃないけど、もう捨てては置けないね。非常に危険な気がする。 ...
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
多数の飲んだくれと、是にって不幸をこうむる者とを、生ずるのは当然の結果であろう。弊害がないものなら考える必要はない。しかもその弊害はみな現代のものなのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
種々の民衆のうちに居を定めても少しもその影響をこうむらず、特殊な同一性質を有する一民衆を、ヨーロッパにまたがって形成してるということをもってするのは、まさしく不当である。
甲府で二度目の災害をこうむり、行くところが無くなって、私たち親子四人は津軽に向って出発したのだが、それからたっぷり四昼夜かかってようやくの事で津軽の生家にたどりついたのである。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「この玄沢坊、昨夜霊夢をこうむり、かしこくも仏勅をたまわって参ったぞ」
両軍相争い、一進一退す、喊声かんせい天に震い 飛矢ひし雨の如し。王の馬、三たびきずこうむり、三たび之をう。王く射る。射るところの、三ふく皆尽く。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
某が買い求め候香木、かしこくも至尊の御賞美をこうむり、御当家のほまれと相成り候事、存じ寄らざると存じ、落涙候事に候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
渠等かれらが炎熱を冒して、流汗面にこうむり、気息奄々えんえんとして労役せる頃、高楼の窓半ば開きて、へいげんとばりを掲げて白皙はくせきおもてあらわし、微笑を含みて見物せり。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は明治九年前原一誠の乱、嫌疑をこうむり、官囚となるをいさぎよしとせず、みずから六十余歳の皺腹しわばらほふりて死せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)