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薹
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とう
ふりがな文庫
“
薹
(
とう
)” の例文
しかし胴の
肥
(
ふと
)
り方の
可憐
(
かれん
)
で、貴重品の感じがするところは、
譬
(
たと
)
えば
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
といったような、草の芽株に属するたちの品かともおもえる。
食魔
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
その頃ではもう
嫁
(
い
)
き遲れの二十二、非凡の美しさで、娘姿に
薹
(
とう
)
も立ちませんが、はたの者に氣を揉ませることは一と通りではありません。
銭形平次捕物控:267 百草園の娘
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
珊瑚樹垣
(
さんごじゅがき
)
の根には
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
が無邪気に伸びて花を咲きかけている。外の小川にはところどころ
隈取
(
くまど
)
りを作って
芹生
(
せりふ
)
が水の流れを
狭
(
せば
)
めている。
春の潮
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
能登の
鹿島
(
かしま
)
郡でスギナノトー、越中上新川郡ではスギナコート、コートは
蕗
(
ふき
)
などの
薹
(
とう
)
のことだから、これも杉菜の方を主にしたのである。
野草雑記・野鳥雑記:01 野草雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
ちっと
薹
(
とう
)
が立ち過ぎて使う方でも使いにくくて困るといったもの……十四にもなってぶらぶら子供を遊ばして置く家があると
幕末維新懐古談:02 私の子供の時のはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
▼ もっと見る
同八年正月三日徳川殿
謡初
(
うたいぞめ
)
にかの兎を羹としたまえり松平家
歳首
(
さいしゅ
)
兎の御羹これより起る、林氏この時
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
を献ぜしこれ蕗の薹の
権輿
(
はじまり
)
と云々
十二支考:02 兎に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
石垣の草には、
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
も
萌
(
も
)
えていよう。特に桃の花を
真先
(
まっさき
)
に挙げたのは、むかしこの一廓は桃の組といった組屋敷だった、と聞くからである。
絵本の春
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
越しているから、お嫁さんとしては若い方じゃないが、お婿さんだってもう
好
(
い
)
い加減
薹
(
とう
)
が立っている。何だか縁がありそうに思えて仕方がない
変人伝
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
並んで腰を下しながら、途の土手で見つけて来た
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
を見せると、ん、もうそんな節になったのだと、目を細めて呟いた。
和紙
(新字新仮名)
/
東野辺薫
(著)
お前さん方が
仰
(
おっし
)
ゃるから、お玉も来年は
二十
(
はたち
)
になるし、余り
薹
(
とう
)
の立たないうちに、どうかして遣りたさに、とうとうわたしは折れ合ったのだ。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
梅干を使わない時は
酢
(
す
)
の
物
(
もの
)
を
拵
(
こしら
)
えるとか百合のない時には
款冬
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
とか
鮎
(
あゆ
)
のウルカとか必ず苦味と酸味を膳の上に欠かないのが五味の調和だ。
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
その周りに三人の女を置いて男達はその外から手を拡げながら丁度蕗の
薹
(
とう
)
のように女達を包んで互に温度を保ち合った。
時間
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
路傍
(
みちばた
)
にはもう
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
などが芽を出していました。あなたは歩きながら、
山辺
(
やまべ
)
も
野辺
(
のべ
)
も春の
霞
(
かすみ
)
、小川は
囁
(
ささや
)
き、桃の
莟
(
つぼみ
)
ゆるむ、という唱歌をうたって。
冬の花火
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
いつか観音谷で、つなが
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
を摘んでいたときのことである。そんな物は見るのも初めてで、なんという植物であるかさっぱりわからなかった。
風流太平記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
誠に恥かしいが、これに居るのは私の娘で、年は廿一に成って
薹
(
とう
)
に立って、誠に
良
(
い
)
い縁がありませんが、あの炭屋さんを
塩原多助一代記
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
さながらに漬物の味見でもするように、異性の性愛の芽立ちから
薹
(
とう
)
立ち迄、又は
生
(
なま
)
なれから
本
(
ほん
)
なれへと
漁
(
あさ
)
り歩きます。
鼻の表現
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
桑畑
(
くはばた
)
の
端
(
はし
)
の
方
(
はう
)
に
薹
(
とう
)
に
立
(
た
)
つた
菜種
(
なたね
)
の
少
(
すこ
)
し
黄色
(
きいろ
)
く
膨
(
ふく
)
れた
蕾
(
つぼみ
)
は
聳然
(
すつくり
)
と
其
(
その
)
雪
(
ゆき
)
から
伸
(
の
)
び
上
(
あが
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
其處
(
そこ
)
らには
枯
(
か
)
れた
蓬
(
よもぎ
)
もぽつり/\と
白
(
しろ
)
い
褥
(
しとね
)
に
上體
(
じやうたい
)
を
擡
(
もた
)
げた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
庭におくれ咲きの
薹
(
とう
)
のたった福寿草。草花が、剪り花ながら新陳代謝早くなり、じき水がくもるようになって来た。
日記:12 一九二六年(大正十五年・昭和元年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
「番頭さん。一体あのお此さんという子は、なぜいつまでも独りでいるんですね。いい子だけれども、惜しいことにちっと
薹
(
とう
)
が立ってしまいましたね」
半七捕物帳:13 弁天娘
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
池のはたに出ていた
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
がのびだした。空が
暈
(
ぼ
)
かされて日の影がなく日が暮れた。春がめぐって来たのである。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
を
摘
(
つ
)
んだ
小笊
(
こざる
)
の中へ、
藪椿
(
やぶつばき
)
を一枝折って、それを袂に
抱
(
かか
)
えながら、彼女はわが家の台所口へ戻って来た。
死んだ千鳥
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
これが女中だとか、娘にしても出戻り娘とか何とか
薹
(
とう
)
のたつた女ならとにかくとして、四十三にもなつて、女学生の主家の娘と通じることは良心が許さぬ。
古都
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
思兼尊はこう云うと、実際つまらなそうな顔をしながら、どこかで摘んで来たらしい
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
の
匀
(
におい
)
を
嗅
(
か
)
ぎ始めた。
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
早春、崖の南側の
陽
(
ひ
)
だまりに、
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
が立つ頃になると、渓間の
佳饌
(
かせん
)
山女魚は、
俄
(
にわか
)
に食趣をそそるのである。
雪代山女魚
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
時勢はいつまでも彼を娘と見るような甘いものでもなく、彼もまた
薹
(
とう
)
のたった
女男
(
おんなおとこ
)
になってしまったが、娘ぶりより、御後室の方がまだしも気味わるくない。
旧聞日本橋:19 明治座今昔
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
そういう事情から、泰文の気持が浮きあがっているので、
薹
(
とう
)
のたった古女房のことなどはどちらでもよく、白女のいうことなどは身にしみて聞いてもいなかった。
無月物語
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
いずれ坊主どもの食用であろうが、その食い残りの菜に
薹
(
とう
)
が立って花が咲いた、という風に解せられる。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
花は兎に角、
吾儕
(
われら
)
の
附近
(
あたり
)
は自然の食物には極めて貧しい処である。
芹
(
せり
)
少々、
嫁菜
(
よめな
)
少々、
蒲公英
(
たんぽぽ
)
少々、
野蒜
(
のびる
)
少々、
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
が唯三つ四つ、
穫物
(
えもの
)
は此れっきりであった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
堀は本所小梅町にいるころ、私に言問のおだんごを持って来てくれ、追分にいて達者な時には冬も温かい清水に生える芹とか、春先には蕗の
薹
(
とう
)
をさげて上京して私にくれた。
我が愛する詩人の伝記
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
なんと楽しげな生活がこの溪間にはあるではないか。森林の伐採。杉苗の植付。夏の蔓切。枯萱を刈って山を焼く。春になると
蕨
(
わらび
)
。
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
。夏になると溪を鮎がのぼって来る。
温泉
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
は土を破り、紫の
菫
(
すみれ
)
は匂いを発し、
蒲公英
(
たんぽぽ
)
の花は手を開き、桜草は蜂を呼んでいた。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
四月上旬には此処から残雪があって、法師の手前のムタコ沢の落合まで断続していた。其頃は新緑も未だ萌えず、路傍の
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
だけが雪解の跡の赤土から淡緑の頭を
擡
(
もた
)
げていた。
三国山と苗場山
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
いわゆるフキの
薹
(
とう
)
である。中央に一本の茎があってその周囲に淡緑色の多数の大形鱗片を着ける。茎頂に沢山な白色頭状花が聚り着き、その各頭状花は多数の小花より成っている。
植物記
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
嫌がらない人になれば銭を
捐
(
す
)
てて渋うるかを買って食べて喜んでいる。
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
を温灰焼にして食えば苦いには違い無い、しかし中々佳い味だ。甘いものは好む人が多いには相違無い。
貧富幸不幸
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
という
薹
(
とう
)
の立ちすぎた女の声が、
藪
(
やぶ
)
から棒に聞こえて来たから、富五郎が槌の手を休めてヒョイと戸口の方を見やると、田原町の家主喜左衛門といっしょにいろいろ面倒を見てやった
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
早く春になったら、どんなに楽しい事だろう、日向の小高い丘に軟く暖く香高い土があらわれて、
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
が上衣を脱ぎ、水晶の様に澄んだ水が、小川を流れ、小魚がピチピチ泳いでいる。
春の土へ
(新字新仮名)
/
今野大力
(著)
尤
(
もっとも
)
、最近の娘形は、
薹
(
とう
)
が立つ以上にすさまじいものになってしまったけれども。
役者の一生
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
つぼみと、それを包む
薹
(
とう
)
とは、赤と白とを
市松格子形
(
いちまつこうしがた
)
に
互層
(
ごそう
)
にして、
御供物
(
おくもつ
)
の菓子のように盛り上っている。花として美しく開くものは、つぼみとしてまず麗わしく装わねばならなかった。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
春さきゃ
啖呵
(
たんか
)
がじきに腐るんだ。かけてえ慈悲にも、じきに
薹
(
とう
)
がたつんだ。世を忍ぶもこの位牌ゆえ、人を切ったもこの位牌ゆえ、——すなおに白状しろとお位牌がにらんでおるじゃねえか。
右門捕物帖:38 やまがら美人影絵
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
冬至には、三吉の家でも
南瓜
(
かぼちゃ
)
と
蕗味噌
(
ふきみそ
)
を祝うことにした。蕗の
薹
(
とう
)
はお雪が裏の方へ行って、桑畑の間を流れる水の
辺
(
ほとり
)
から頭を持上げたやつを摘取って来た。復た雪の来そうな空模様であった。
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
枯れ芝の中に花さく
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
を見いでて、何となしに物の哀れを感じ
侍
(
はべ
)
る。
柿の種
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
灰汁
(
あく
)
がぬけると見違えるような意気な芸者になったりするかと思うと、十八にもなって、
振袖
(
ふりそで
)
に鈴のついた
木履
(
ぽっくり
)
をちゃらちゃらいわせ、陰でなあにと
恍
(
とぼ
)
けて見せる
薹
(
とう
)
の立った半玉もあるのだった。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
睡れずに過した朝は、暗いうちから湿った薪を炉に
燻
(
くす
)
べて、往来を通る
馬子
(
まご
)
の田舎唄に聴惚れた。そして周囲のもの珍しさから、午後は耕太郎を伴れて散歩した。
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
がそこらじゅうに出ていた。
贋物
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
「
薹
(
とう
)
がたってはお終いだから……」
泣虫小僧
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
の舌を逃げゆくにがさかな
五百句
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
その頃にしては少し
薹
(
とう
)
の立ちかけた
二十歳
(
はたち
)
、さして美しくはありませんが、育ちのせいか
垢抜
(
あかぬ
)
けがして、娘らしい魅力に申分はありません。
銭形平次捕物控:062 城の絵図面
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
これまではもっと巧みだったが、いまではもう
薹
(
とう
)
が立ってしまった。みじめだなと、功兵衛は相手から眼をそらした。
醜聞
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
フクタチ
茎立
(
くきだち
)
すなわち蔬菜の春になって
薹
(
とう
)
に立つことであるが、それをククタチと呼んだのは古く、東北ではまた一般に始めのクをハ行に発音していて
食料名彙
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
のゾックリ出た草地に足を投げ出して、あたりを見はらすのが、六にとって何よりの楽しみなのである。
禰宜様宮田
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
少しばかり
薹
(
とう
)
は立っていたが、恋人同志には相違ない、鬼火の姥と範覚とであった。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
“薹”の意味
《名詞》
(とう)あぶらなやふきなどの花軸や花茎。
(出典:Wiktionary)
薹
漢検1級
部首:⾋
17画