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やげん
ふりがな文庫
“
薬研
(
やげん
)” の例文
雲は暗かろう……水はもの凄く白かろう……空の所々に
颯
(
さっ
)
と
薬研
(
やげん
)
のようなひびが
入
(
い
)
って、霰はその中から、銀河の
珠
(
たま
)
を砕くが如く
迸
(
ほとばし
)
る。
霰ふる
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
書斎、薬室、寝間、すべてを兼ねた玄堂の居間とみえる奥の一間に、徳川万太郎はそこの机や
薬研
(
やげん
)
と雑居して、今しも一面の鏡をすえ
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
薬研
(
やげん
)
のような谷底を
甲武信
(
こぶし
)
岳の直下まで遡り得るのは、この種類の峡谷としては、恐らく東沢にのみ見られる特色であろう。
渓三題
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
中廊下を隔てた薬部屋を覗くと、妻のおくにが
薬研
(
やげん
)
にかかっていた。彼と三つ違いの三十五歳であるが、四十歳より下とみる者はないだろう。
五瓣の椿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
震災がこの大都をバラックにした以前から、形ばかりの大通りは
只
(
ただ
)
吹き通しの用を勤めるのみで、これを
薬研
(
やげん
)
にして
轍
(
わだち
)
が土と馬糞とを粉に砕く。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
▼ もっと見る
それと同時に、足一歩、青梅の宿に入れば、身は全く武蔵アルプスの尾根に包まれて、道は全く奥多摩渓谷の
薬研
(
やげん
)
の中を走ることになっている。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
摺鉢
(
すりばち
)
の底のような
窪地
(
くぼち
)
になった庭の前には
薬研
(
やげん
)
のように
刳
(
えぐ
)
れた
渓川
(
たにがわ
)
が流れて、もう七つさがりの
輝
(
かがやき
)
のない
陽
(
ひ
)
が渓川の
前方
(
むこう
)
に在る山を
静
(
しずか
)
に染めていた。
山寺の怪
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
細長い、
薬研
(
やげん
)
づくりの、グイと
舳
(
みよし
)
のあがった二間船。
屈強
(
くっきょう
)
の船頭が三人、足拍子を踏み、声をそろえて漕ぎ立て漕ぎ立て、飛ぶようにしてやって来る。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
そして、いま買ってきた何やら木の実のようなものを
薬研
(
やげん
)
に入れて、ゴリゴリていねいにくだきはじめました。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
はじめの程は小さき平流なりしが、間もなく
渓壑
(
けいがく
)
迫りて、
薬研
(
やげん
)
を立てたるようになり、瀑布連続す。
層雲峡より大雪山へ
(新字新仮名)
/
大町桂月
(著)
そこでアンポンタンは、武家は
精
(
しら
)
けた
白米
(
こめ
)
をもらうのでないという事を知った。どんな風にして、お米を
精
(
しら
)
けるのかきくと、
薬研
(
やげん
)
で薬を刻むようにするのだといった。
旧聞日本橋:11 朝散太夫の末裔
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
この両山脈の間の
薬研
(
やげん
)
の底のような溝が、私どもの行く谷である、長い青草が巨大な手で、掻き分けられたように左右に靡いているのが、おのずといい径になっている
谷より峰へ峰より谷へ
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
禿頭の
先端
(
さき
)
の
尖
(
と
)
ンがった、
赭
(
あか
)
ら顔の五十男が、恐ろしく憂鬱な
表情
(
かお
)
をしながら、盛んに木の葉を乾かした奴を
薬研
(
やげん
)
でゴリゴリこなしていましたが、助役の註文を受けると
とむらい機関車
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
其処に父は帳合ひを
検
(
しら
)
べ、兄はせつせつと片隅の
薬研
(
やげん
)
に
甘草
(
かんざう
)
か何かを
下
(
おろ
)
して居りました。
雛
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
薬研
(
やげん
)
で物を
刻
(
おろ
)
す音が壁に響いて来る。部屋の障子の開いたところから、
斜
(
はす
)
に中の間の一部が見られる。そこには番頭や手代が集って、先祖からこの家に伝わった製薬の仕事を励んでいる。
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
まだ座敷の隅にある
百味箪笥
(
ひゃくみだんす
)
——今は薬ばかりでなく、いろいろの品の入れてあるその箪笥から、古い袋を取出して、もう
薬研
(
やげん
)
にかけて調合はしてあるのですから、ただ量だけを計って
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
薬研
(
やげん
)
に入れて粉に砕いた。幾度も幾度も調合した。黄色い沢山の粉薬が出来た。棚から黄袋を取り出した。それへ薬を一杯に詰めた。五合余りも詰めたろう。それをさらに風呂敷に包んだ。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
宛然
(
さながら
)
青銅の
薬研
(
やげん
)
に
瑠璃末
(
るりまつ
)
を砕くに似たり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
扉の方へうしろ向けに、
大
(
おおき
)
な
賽銭箱
(
さいせんばこ
)
のこなた、
薬研
(
やげん
)
のような
破目
(
われめ
)
の入った
丸柱
(
まるばしら
)
を
視
(
なが
)
めた時、一枚
懐紙
(
かいし
)
の
切端
(
きれはし
)
に、すらすらとした
女文字
(
おんなもじ
)
。
春昼
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
角の
煙草屋
(
たばこや
)
の老婆が、姿を見て、
薬研
(
やげん
)
の側からあいさつした。賛五郎は
水府
(
すいふ
)
のたまを一つ求めながら、軽い言葉で
訊
(
き
)
いてみた。
死んだ千鳥
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
道庵先生がムックリと
跳
(
は
)
ね起きて、寝巻の帯を締め直す
隙
(
ひま
)
もなく、枕許にあった
薬研
(
やげん
)
を抱えて玄関へ飛び出しました。
大菩薩峠:16 道庵と鯔八の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
硫黄沢の大抜けは其一つだ、磨きをかけた銅の
薬研
(
やげん
)
を竪てたような此沢は、痛い程に神経を刺激せずには置かない。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
この癖は非常に執拗で、だから「トントン」のいつも立っている窓の下の畳の一部は、トントンとやる度毎の足裏の摩擦でガサガサに
逆毛
(
さかげ
)
立ち、
薬研
(
やげん
)
のように
穿
(
ほじ
)
くれていた。
三狂人
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
この
薬研
(
やげん
)
型の大砲は、差しわたし一尺五寸、重さ五十六カティ、日本の貫目にして六貫七百二十目の
炸弾
(
さくだん
)
を打ちだし、八百歩のむこうにある目標を微塵にうち砕くとでござる。
ひどい煙
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
八右衛門岳が立っている、東西は一里に足らず、南北は三里という
薬研
(
やげん
)
の底のような谷地であるが、今憶い出しても脳神経が盛に
顫動
(
せんどう
)
をはじめて来る心地のするのは、晶明、透徹のその水
梓川の上流
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
此処
(
ここ
)
を通るのは二度目である。この前来た時には
馬場先
(
ばばさき
)
の
濠
(
ほり
)
に何人も泳いでゐる人があつた。けふは——僕は見覚えのある
濠
(
ほり
)
の向うを眺めた。堀の向うには
薬研
(
やげん
)
なりに石垣の
崩
(
くづ
)
れた処がある。
大正十二年九月一日の大震に際して
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それを船型の
薬研
(
やげん
)
に入れて、ごろごろ丹念に摺りつぶしている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
山清水
(
やましみず
)
がしとしとと
湧
(
わ
)
く
径
(
こみち
)
が
薬研
(
やげん
)
の底のようで、両側の
篠笹
(
しのざさ
)
を
跨
(
また
)
いで通るなど、ものの
小半道
(
こはんみち
)
踏分
(
ふみわ
)
けて参りますと、
其処
(
そこ
)
までが
一峰
(
ひとみね
)
で。
春昼
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
薬研
(
やげん
)
を
挽
(
ひ
)
く音がしていたが、それがやむと、たちまち召使の影と影がかさなって出迎えに溢れ出てくる。——そして老公のすがたをかこみ
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
どうするんだ——なかなかこれで、十年や二十年
薬研
(
やげん
)
をころがしたって、誰にも代ってやれるという商売ではねえ——
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
それから下り気味に岩壁の根方を廻って、片麻岩の大塊が古城の石垣のように
孕
(
はら
)
み出したり脱け落ちたりしている
薬研
(
やげん
)
を立てたような窪に衝き当った。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
その間に
薬研
(
やげん
)
のやうな天竜の大峡谷があるともおもはれない。
天竜川
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
薬研
(
やげん
)
を
摺
(
す
)
る手に、力を入れて
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
煙管
(
きせる
)
へ一服つめてみたが、うまくないのでほうりだした。今度は
薬研
(
やげん
)
を引きよせて、
桂皮
(
けいひ
)
か何かをザクザクと刻みはじめる。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
烈
(
はげ
)
しい
暴風雨
(
あらし
)
があつて、鉄道が不通に成り、
新道
(
しんどう
)
とても
薬研
(
やげん
)
に刻んで崩れたため、
旅客
(
りょかく
)
は皆こゝを
辿
(
たど
)
つたのであるが、其も当時だけで、又
中絶
(
なかだ
)
えして、今は
最
(
も
)
う
貴婦人
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
林が尽ると、
薬研
(
やげん
)
を少し伏せて立てたように
抉
(
えぐ
)
れ落ちた懸崖の上に出た。川に下って近道を取るか、尾根を登って遠いが安全な道を辿るか、どっちかを選ばなければならなかった。
黒部川を遡る
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
例の秩父山脈の余波の山脚が没入している山の
裾
(
すそ
)
よりも原野が高くなっているところを見ると、成るほど
薬研
(
やげん
)
のような山谷から来た人の眼には高原と云った感じがするかも知れない。
百姓弥之助の話:01 第一冊 植民地の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
だが、こんな日でも、悠長なのは、そこここと退屈なく遊んでいる鹿と、お
小納戸
(
こなんど
)
の隣りでする
薬研
(
やげん
)
の音だった。
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
いや、
昨日
(
きのふ
)
も、はら/\したつけが、まだ
濡
(
ぬ
)
れて
居
(
ゐ
)
たから、
輪
(
わ
)
をくつて、お
前
(
まへ
)
さんが
挽
(
ひ
)
きにくいまでも、まだ
可
(
よ
)
かつた。
泥濘
(
ぬかるみ
)
が
薬研
(
やげん
)
のやうに
乾
(
かは
)
いたんぢやあ、
大変
(
たいへん
)
だ。
続銀鼎
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
何事ならんと
馳
(
は
)
せ集まった者共を前に置いて、先生は
薬研
(
やげん
)
の軸を
斜
(
しゃ
)
に構え
大菩薩峠:22 白骨の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
旭の光は早川の西岸に眉を圧して聳え立つ
白峰
(
しらね
)
山脈の中腹を照らしている。しかし
薬研
(
やげん
)
の底のような低い谷間では、河上からおろす風が湯のぬくもりのさめない肌に、ひやりと感ずる程涼しい。
朝香宮殿下に侍して南アルプスの旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
この家は、
膏薬練
(
こうやくね
)
りを業としているので、母屋のほうでは、伜たちや男どもが、
薬研
(
やげん
)
の音や
薬練
(
くすりね
)
りをしていた。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
実際魔所でなくとも、大崩壊の絶頂は
薬研
(
やげん
)
を
俯向
(
うつむ
)
けに伏せたようで、
跨
(
また
)
ぐと
鐙
(
あぶみ
)
の無いばかり。
草迷宮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
しかし、先生はまたあらたまって、
薬研
(
やげん
)
の軸を取り直し、
真面
(
まがお
)
になって
大菩薩峠:22 白骨の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
右から石のごろごろした空沢が合してからは、花崗岩の大塊が次第に多く見られるようになる。間もなく河床が
薬研
(
やげん
)
を立てたように傾くと、前方の空が急に低く垂れて、脚の下まで押寄せて来た。
秋の鬼怒沼
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
舶載
(
はくさい
)
のエレキテルだの、そうかと思うと、薬を
刻
(
きざ
)
む
薬研
(
やげん
)
が見えるし、机の上には
下手
(
へた
)
な
蘭字
(
らんじ
)
が書きかけてあり、異人墓の石のかけらがその
文鎮
(
ぶんちん
)
になっている。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
大楠
(
おおくす
)
、
老樫
(
ふるかし
)
、
森々
(
しんしん
)
と暗く
聳
(
そび
)
えて、
瑠璃
(
るり
)
、
瑪瑙
(
めのう
)
の盤、また
薬研
(
やげん
)
が幾つも並んだように、
蟠
(
わだかま
)
った樹の根の脈々、
巌
(
いわ
)
の底、青い小石一つの、その下からも、むくむくとも噴出さず
半島一奇抄
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
右側に
薬研
(
やげん
)
状の長い窪地が続いて内側には竹が少ない。
利根川水源地の山々
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
それに力をえて、彼が、城市では
槐橋
(
かいきょう
)
のそばと聞いた、安道全の宅まで来てみると、折もよく、ちょうど店の一ト
間
(
ま
)
に
薬研
(
やげん
)
をすえて
薬刻
(
くすりきざ
)
みをしている彼の姿が見えた。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
遠近
(
おちこち
)
の
樹立
(
こだち
)
も、森も、
日盛
(
ひざかり
)
に煙のごとく、
重
(
かさな
)
る屋根に山も低い。町はずれを、
蒼空
(
あおぞら
)
へ突出た、青い
薬研
(
やげん
)
の底かと見るのに、きらきらと
眩
(
まばゆ
)
い水銀を湛えたのは湖の
尖端
(
せんたん
)
である。
瓜の涙
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
“薬研”の解説
薬研(やげん、藥硏)とは、薬材(生薬など)などをいて粉末化したり、磨り潰して汁を作ったりするための伝統的器具である"韓中館_白磁薬碾"(その日本語名を代表する一つ)。舟形の溝を彫った碾(字義は石臼)"韓中館_白磁薬碾"の「"岡崎"」と、軸の付いた車輪状の碾き具「薬研車(やげんぐるま)"岡崎"」からなる"韓中館_白磁薬碾"。
(出典:Wikipedia)
薬
常用漢字
小3
部首:⾋
16画
研
常用漢字
小3
部首:⽯
9画
“薬研”で始まる語句
薬研堀
薬研坂
薬研形
薬研部屋
薬研台
薬研状
薬研石
薬研堀辺