莫迦ばか)” の例文
「おい、隊長に莫迦ばかな真似はやめろと云え。三十分以内に交替しないと砲撃されるぞ。向うの丘に砲を二門えたのが見えないのか」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
お高は、何という悠長ゆうちょうな人であろうと、まじめに応対するのが、莫迦ばか々々しくなった。しかし、返事をしないわけにはゆかないので
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その話はね、誰れでも五月蠅く聞くんだ、その癖皆んな途中で莫迦ばからしいと笑ってしまうんだ。それで僕もあまり話したくないんだ。
息を止める男 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
むしろ、冷然として、煙管きせるくわえたり、鼻毛をぬいたりしながら、莫迦ばかにしたような眼で、舞台の上に周旋する鼠の役者を眺めている。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
宋にはしり、続いてしんに逃れた太子蒯聵かいがいは、人毎に語って言った。淫婦刺殺という折角せっかくの義挙も臆病な莫迦ばか者の裏切によって失敗したと。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
莫迦ばかなことを云っちゃ嫌だわ。そんな事誰がするもんですか。妾には何のめか分らないけれど、あんた今夜は嘘をついてるわね。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今日は名にし金精こんせい峠である。ほとんど直立せる断崖絶壁を登ること一里八丁、樵夫きこりが連れて来た犬が莫迦ばかえ付いて始未におえぬ。
あなたも子供ではないのだから、莫迦ばかなことはよい加減によさないか。僕だって、この家をただ遊ばせて置いてあるのじゃないよ。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
「解んねえな。どうせ素人しろうとじゃあるめえ。莫迦ばかに意気な風だぜ、と言って、芸者にしちゃどこか渋皮のけねえところもあるし……。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
如何にも莫迦ばかげているが、これは屋根板をめくり取るのを容易にする為で、かくするとたるきから棰へ火が飛びうつらぬことが観察される。
莫迦ばかな! そんな莫迦莫迦しい理屈がどこにある! 第一、二匹のゴリラがこの婦人を争ったなどという推測がどこからついてくる!」
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
莫迦ばかッ。折角せっかく訓辞くんじが、効目ききめなしに、なっちまったじゃないか!」口のところへ持ってゆきかけたさかずきを途中で停めて、長造は破顔はがんした。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
慧鶴は何を問われても「うんうん」と返事をするだけなので、みんなは気狂いか莫迦ばかになったものと思い、呆れて帰って行った。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あのあらい髪を丁寧にでつけ額を光らせ莫迦ばかに腰の低いところは大将にそっくりな若者が、あれが吉どんか、と思われるほどで
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうしたのがいわゆる露西亜気質きしつというものかと私は感嘆した。全く何と好きな国民だろうと。彼女の中にもイワンの莫迦ばかは光っていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
りがない。後ろにはもうたくさんな往来人がつかえている。素直に答えているのも莫迦ばからしく、ひとにも迷惑と考えて、武蔵は答えた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり、誰彼となく話しかけたくて仕様がなくなるし、同時に、相手に莫迦ばかにされてゐるやうな気がして仕方がないのである。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
お定は、水汲から帰ると直ぐ朝草刈に平田野へいだのへ行つたが、莫迦ばかに気がそは/\して、朝露に濡れた利鎌とがまが、兎角休み勝になる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
といって二十円損をするのも莫迦ばからしく、馬の片脚五円ずつ出し合って四人で一枚の馬券を買う仲間を探しているのだった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
……が、その莫迦ばかげた空想にすぐ自分で気がついて、彼はそれを踊り子のための現在の苦痛から回避しようとしている自分自身のせいにした。
聖家族 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
昌允 そんな莫迦ばかな……。しかし、どうしてもと言われるなら、それはそれで構いませんよ。あなたの意志は、尊重します。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
この男の眼の中には、人を莫迦ばかにしたところがある。内職をする女の姿が、チンドン屋みたいに写っているのかも知れない。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
莫迦ばかにするのも程があります。何の証拠も無いのに無垢の人間に疑いを掛けて、研究だとは何と云う云い方です。単なる一ツの出来事とは何です
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
もっとも一週間速成油絵講習会といった風の事を企てる香具師やしもあるだろうけれども、先ず正直な処さような話し位い莫迦ばか々々しいものはない。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
幾世紀にわたってグレンジル城の城主は莫迦ばかの限りをつくした、今ではもう莫迦も種ぎれになったろうと思われても決して無理はないのであった。
そんな大言壮語したあとではきつと、頭が痛いと苦しがつて両手で顳顬こめかみを揉むのが例になつてゐる。莫迦ばかなことである。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
ところが薄莫迦ばかげた物腰や異様な風采のために、爺は周囲の支械チゲ軍(担荷人)達に取り囲まれてなぶられるようになった。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
僕は剣を振りかざしながら明るく平坦へいたんな街道を駆けていた。頭の鳥の羽根が、バザバザという音をたてて莫迦ばかに心地颯爽さっそうとして風を切っている。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
と言うと、莫迦ばかに十九世紀的にひびくが、この事実は、いまも国際的「底の社会アンダアワウルド」の暗黒を貰いて立派に存在している。
こちらは、莫迦ばかみたいに、頬笑ほほえんで、瞰下していると、あなたは、ぐ気づき、上をむいて、にっこりした。となりのお嬢さんも、おなじく見上げる。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
なんでもい、もう二其處そこへはかないから!』ひながらあいちやんは、もりなか徒歩おひろひきました。『莫迦ばかげた茶話會さわくわいよ、はじめてたわ!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
真面目まじめな反論を出すのが莫迦ばからしくなったくらい、不思議なほど冷静な、反響一つ戻ってゆかないという静けさだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
気をきかしたつもりで莫迦ばかなことをしたもので、あとから種々の点を綜合してみると、この壁の文字こそは、それこそ千載一遇せんざいいちぐうの好材料だったのだ。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ラランはいつものやうに、カラカラとわらつた。五千メートル。いつもならこのへんるまでにつかれてちてしまうはづなのに、今度こんど莫迦ばか調子てうしがいい。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
道理をわきまへない怒り方や彼女の莫迦ばからしい、矛盾した、嚴しい命令に苦しめられることなどを耐へてはゐないから
大分つかれて来たし、足もとが悪いから、若し辷りでもしようものなら莫迦ばかげている。今晩は東信の小舎で泊って、あしたゆっくり路をさがしましょう。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
性来憂鬱を好み、日頃煩悶はんもんを口癖にしてむことを知らない。前記の言葉はその一例であるが、これは浅間麻油の聞きいた(莫迦ばかの)一つ文句であった。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
莫迦ばかげた話を——」と牧場主が云った。「何故と云って、それからその馬車が少しばかりはしり初めた時に、山賊の一人が息せききって駈戻って来たのです。 ...
薔薇の女 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
其登りが莫迦ばかに急だ。登り終って五、六間行くと突然大断裂が現われる。例に依って長次郎に探検を命じた。
八ヶ峰の断裂 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
けぶつてえのつたらひど晴々せい/\してへえつてるやうぢやなくなつた。莫迦ばかつちやつたえ」かね博勞ばくらうはがぶりと風呂ふろおとをさせてたちながらいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
莫迦ばか正直な夏は、私たちの気も知らずにぽかんとそんなことを言ったが、私はあっちイ行けとあごしゃくった。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
自分の最愛な細君へ警戒をしたという莫迦ばからしさとおなじで、女流のなかでさすがに立派な意見だとうなずかれたのは、与謝野晶子よさのあきこ女史と平塚らいてう氏であった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
自分、一遍家を見て来ようと云ったらY、怒り、いらぬこと云うもんじゃない、莫迦ばか、という。引越し、散歩し二人でカルタをして、自分まけ、十一時すぎかえる。
「俺や知らねえ、名前も知らねえ、顔も知らねえんだが、素晴しい豪い人だって事だけは吉公から聞いている」と云ったが、急に莫迦ばかにしたような眼で赤星を見上げ
鳩つかひ (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
それを自分の莫迦ばからしい気のせゐであるといかに思ひ、その不快な幻影を払ひ退けようと頭を打ち振り乍らも脳裡にこびりついた孫四郎の顔は只孫四郎の顔とは思へず
健作——莫迦ばかな。東京の新聞記者は事件には食傷している。我々の園遊会の記事なんざ、どんなに手をまわして運動したって、六号活字で二三行書いてくれるのが関の山だ。
探偵戯曲 仮面の男 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「そんな莫迦ばかげたことを、僕が言うわけはない。言ったとしても、三元が真に受けるものか」
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
莫迦ばかに天候がよいと思ふと小潮や潮変りで、一日海流がのたりのたりしてゐたり、或は出水で瀬が濁り、よい釣場には先着者があつたり、なかなか思ふ様には行かぬものである。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
彼女は私が莫迦ばかなことを云うのを、ただ黙って笑っている。私はなお座にいたたまらない気がして、ふいと起って台所へゆき御飯蒸の蓋を取り、芋に箸を突きさしてみたが、まだ固い。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
「そんな、莫迦ばかなことがあるものか。亡霊が、ラッコの皮を売ってどうするンだ」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)