かんば)” の例文
穂麦ほむぎかんばしい匂がした。蒼白い光を明滅させて、螢が行手を横切って飛んだが、月があんまり明るいので、その螢火はえなかった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
金銀きんぎん珠玉しゆぎよくたくみきはめ、喬木けうぼく高樓かうろう家々かゝきづき、花林曲池くわりんきよくち戸々こゝ穿うがつ。さるほどに桃李たうりなつみどりにして竹柏ちくはくふゆあをく、きりかんばしくかぜかをる。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ても角ても叶はぬ命ならば、御所のいしずゑまくらにして、魚山ぎよさん夜嵐よあらしかばねを吹かせてこそ、りてもかんばしき天晴あつぱれ名門めいもん末路まつろなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
なぜならば、鎌倉同僚間の彼の不人望がそれをあかしているし、頼朝が死んだ後の彼の行いもかんばしいものではなかった。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鎌倉時代から室町の頃にかけては、前期の女性を緋桜ひざくら、または藤の花にたとうれば、梅のかんばしさと、山桜の、無情を観じた風情ふぜいを見出すことが出来る。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いずれも、せんだんは双葉よりかんばしく、強烈な腕ッ節に物をいわせて、いじめっ子の特権を誇示していた。私にとって、苦難時代は、二年か三年つづいた。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
もしも自分の推量のように、妙子の評判のかんばしからぬことが雪子の縁談を妨害しているのであるとすれば、自分にも一半の責任があること、等々を考えると
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこに小さな偽善が存していた。その偽善は、鋭敏な嗅覚きゅうかくにとってはあまりかんばしいものではなく、もし真面目まじめに取られたら、実際胸悪いものともなるべきはずであった。
鴎外の旗色はあまりかんばしくなく、もっぱら守勢であったように見えるが、しかし、庭に落ちて左手に傷を負うてからは「僕には、此時始めて攻勢を取ろうという考が出た。」
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
なお、そこで、二網ふたあみほど入れたが、成績がかんばしくないので、場所を変えることにした。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
子分の者を呼び集めて評定ひょうじょうを開いてみましたけれど、いずれ、道庵の子分になるくらいのものだから、資力においても知恵袋においても、そんなにかんばしいものばかりありませんでしょう。
こゝにこの水流るゝがために、水を好む野茨のばら心地ここちよく其のほとりに茂って、麦がれる頃は枝もたわかんばしい白い花をかぶる。薄紫の嫁菜よめなの花や、薄紅の犬蓼いぬたでや、いろ/\の秋の草花も美しい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
つまんでぬけばすぽっとぬけて、しかも一種のかんばしいを放つ草もある。此辺で鹹草しょつぱぐさと云ふ。丈矮たけひくく茎あかぶとりして、頑固らしくわだかまつて居ても、根は案外浅くして、一挙手に亡ぼさるゝ草もある。
草とり (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
僕はこの頃矢野目源一氏の訳した、やはりフアレエルの「静寂の外に」を読み、もう一度この煙に触れることになつた。もつともこの「静寂の外に」はかんばしい鴉片の匂の外にも死人の匂をも漂はせてゐる。
鴉片 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
われは愛する者と偕にかんばしき乾草ほしぐさに坐らばや。
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
羅馬の春の印象は概してかんばしくなかつた。
或外国の公園で (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
芳葩及外仮 かんばしきはなとも外仮げけなり
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
褪色たいしよくしたしかしかんばしい午前ひるまへの香ひが
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
この不思議なかんばしい酒となり
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
父は夢だ、と云って笑った、……祖母もともに起きてで、火鉢の上には、再びかんばしいかおりが満つる、餅網がかかったのである。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余り同業者間の評判のかんばしくない医師であったことが後に知れたのであるが、いったい、土地の一流の外科医が二人迄も絶望と認めて手術を拒否した病人を
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この度のいくさは、いずれにしてもかんばしからず、ここは御退陣にくはなしと、一にも二にも、不戦主義を唱えられて、いっこう積極的なお考えを持たれぬが——かつて信玄公御在世以来
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柘榴ざくろ色をした真紅のくちびる! その間からのぞいたのは、磁器のようにつやのある真っ白の歯! ムッと感じられる肌のにおい! だが室の中を充たしているのは、かんばしいらんのかおりである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つまんでぬけばすぽっとぬけて、しかも一種のかんばしいを放つ草もある。此辺で鹹草しょっぱぐさと云う、たけひくくきあかぶとりして、頑固らしくわだかまって居ても、根は案外浅くして、一挙手に亡ぼさるゝ草もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ちゝゆめだ、とつてわらつた、……祖母そぼもともにきてで、火鉢ひばちうへには、ふたゝかんばしいかをり滿つる、餅網もちあみがかゝつたのである。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今日の午後四時から五時までの間、己は全く此の世の物としも思われない夢の国に居た。其れは今考えても、体中が戦慄する程にかんばしい、甘い想像の世界であった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
詩人が歌う緑蔭りょくいん幽草ゆうそう白花はくかを点ずるの時節となって、はたけの境には雪の様にの花が咲きこぼれる。林端りんたんには白いエゴの花がこぼれる。田川のくろには、花茨はないばらかんばしく咲き乱れる。然し見かえる者はない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
(ただ一口試みられよ、さわやかな涼しいかんばしい酒の味がする、)と云うに因って、客僧、御身おんみはなおさら猶予ためらう、手が出ぬわ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
容貌ばかりでなく、あの男は中学時代に病気したので上の学校へ這入らなかったと云っていたが、実際は中学校の成績がかんばしくなかったことが分ったので、いよいよ厭気がさしたのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さらについたのは、このあたりで佳品かひんと聞く、つぐみを、何と、かしら猪口ちょくに、またをふっくり、胸を開いて、五羽、ほとんど丸焼にしてかんばしくつけてあった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一時の迷いに過ぎないことを悟るようになる、そして、今まで恋しい/\と思っていた人も恋しくなくなり、見て美しいとか、食べておいしいとか、いでかんばしいとか感じた物が、実は美しくも
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……かんばしい落葉の香のする日の影を、まともに吸って、くしゃみが出そうなのを獅噛面しかみづら
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひつぎまへ銀樽ぎんそん一個いつか兇賊等きようぞくらあらそつてこれをむに、あまかんばしきこと人界じんかいぜつす。錦綵寶珠きんさいはうじゆ賊等ぞくらやがてこゝろのまゝに取出とりいだしぬ。さてるに、玉女ぎよくぢよひだりのくすりゆびちひさきたまめたり。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
恍惚うっとりとなるような、まあ例えて言えば、かんばしい清らかな乳を含みながら、生れないさきに腹の中で、美しい母の胸を見るような心持の——唄なんですが、その文句を忘れたので、命にかけて、憧憬あこがれて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)