艶麗えんれい)” の例文
旧字:艷麗
胸も胴も腰部も、現身うつせみのようになまめいて、薄闇のなかに艶麗えんれいな姿で立っている。あたかも金堂の壁画から抜け出してきたようにもみえる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
蕪村ぶそん七部集が艶麗えんれい豪華なようで全体としてなんとなく単調でさびしいのは、吹奏楽器の音色の変化に乏しいためと思われる。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夏目漱石氏の「幻のたて」の中にもゴーゴンの頭に似た夜叉の顔の盾の表にきざまれてある有様が艶麗えんれいの筆をもつて写されてある。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
その時、艶麗えんれい、竜女のごとき、おばさんの姿を幻にたために、大笹の可心寺へ駈込かけこんで出家した。これが二代の堂守です。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
フーペルネ・デュッセとかグローリアス・デ・ローマとか、なるべく艶麗えんれいなのを選んで妻が花束をこしらえているのを見ると
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
こう言って、薫は感じのいいほどなのあかりで姫君のこぼれかかった黒髪を手で払ってやりながら見た顔は、想像していたように艶麗えんれいであった。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
類聚るいじゅう』に出でし句と覚ゆれど、予のはじめこれを見て艶麗えんれいの感に堪へざりしは、春水しゅんすいの『梅暦うめごよみ』の中にありしなり。
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この年『枕山詩鈔』所載の作を見るに「東都春遊雑詠」といい、「たわむれニ行楽ヲ勧ムルノ歌ヲ作ル。」というが如き艶麗えんれいなる文字をろうするものが多い。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……そのひまにわたしは、彼女の顔にこれほど艶麗えんれいあからみのさしたことは、ついぞなかったことに気がついた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
艶麗えんれいでありながら威厳があり、こんな人に十二単衣ひとえを着せたらばどんなであろうかと思ったものであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
闇太郎は長火鉢のふちに、両手をかけるように、強い眼で、艶麗えんれいな女形の顔を真すぐに見据えるのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
子心こごヽろにも義理ぎりかれてかなかちて胡亂胡亂うろうろするを、さとしいろ/\にたのみて此度このたびふうぶみに、あらんかぎりの言葉ことば如何いかきけん、文章ぶんしやう艶麗えんれい評判ひやうばんをとこなりしが。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
眼の前にあるのは、忘れもしない天狗長兵衛作の聖観音菩薩、春の夕陽を一パイに受けて、かつて十年前に、乳母に抱かれて来た時と、少しも変らぬ艶麗えんれい無比な御姿です。
烏啼は、つと立って奥へ入った、大狼狽だいろうばいの貫一と艶麗えんれいなるお志万をうしろに残して……
而してもう、あの柔和な面影は再び見られない。艶麗えんれいな筆も既に霊なきものとなった。
落花と苗代なわしろとの艶麗えんれいなる暮春の風景に対して、是はまた意外なる寂しい反映である。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あなたは世にいう艶麗えんれいのおひとがらではない、と手紙は書き続けてあった、——だから人にはたやすくはわからないかも知れない、けれどもあなたに近づき、あなたと言葉を交わしていると
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自然がその艶麗えんれいな彩筆をふるう春の季節や、光と色彩の強烈な夏の季節は、芭蕉にとって望ましくなく、趣味の圏外に属していた。これに反して蕪村の名句は、多く皆春と夏とに尽くされている。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
帯を立矢に結び、鹿の帯上げをしているといういわゆる日本むすめの風俗で、極めて艶麗えんれいなもの。童男の方は、頭をチョンまげにした坊ちゃんの顔。五つ紋の羽織の着流しという風俗であった。
と、小さな旋風つむじかぜが起ってそれがうっすりとちりを巻きながら、轎夫かごかきの頭の上に巻きあがって青いすだれたれを横に吹いた。簾は鳥の飛びたつようにひらひらとあがった。艶麗えんれいな顔をした夫人が坐っていた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
フランス王朝風、支那しな宮女風、カルメン風、歌麿うたまろ風など、あらゆる艶麗えんれいまたは優美の限りをつくした衣裳が、次々に舞台の上で、精妙な照明の変化のまにまに、静々しずしずと着用されてゆくのであつた。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
はた甚だ快しとせざる所なるをもて、妾は女生に向かいて諄々じゅんじゅんその非をさとし、やがて髪を延ばさせ、着物をも女の物に換えしめけるに、あわれ眉目びもく艶麗えんれいの一美人と生れ変りて、ほどなく郷里に帰り
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そして一體にふくよかにやはらかに來てゐる、しかも形にしまツたところがあツたから、たれが見ても艶麗えんれいうつくしいからだであツた。着物きものてゐる姿すがたかツたが、はだかになると一だんひかりした。それからかほだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
今のごとき艶麗えんれい無比な機知の吟味となったのです。
艶麗えんれいにあらわれた、大どよみの掛声に路之助ふんした処の京の芸妓げいこが、襟裏のあかいがやや露呈あらわなばかり、髪容かみかたち着つけ万端。無論友染の緋桜縮緬ひざくらちりめん
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
積極的美とはその意匠の壮大、雄渾ゆうこん勁健けいけん艶麗えんれい、活溌、奇警なる者をいひ、消極的美とはその意匠の古雅、幽玄、悲惨、沈静、平易なるものをいふ。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
姉のジーナはえくぼを刻んでパッと眼がめるように艶麗えんれいですし、スパセニアは大空の星でもながめるように、近寄り難い気品を漂わせて、ほんとうの美人というのは
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼のおびただしいオペラの豪華雄麗さに、イタリー的なものが多分に含まれていることは言わずもあれ、彼の晩年を飾る聖譚曲オラトリオの傑作に、イタリー風の艶麗えんれいな色彩感をり入れ
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
一人の宗匠頭巾そうしょうずきんの、でっぷりした、黒い十徳じっとくすがたの老人と、それに並んで、いくらか、身を退しざらせている、限りなく艶麗えんれいな、文金島田の紫勝ちないでたちの女性とを見る。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
本舞台いつもの処に置かれたる格子戸こうしどは恋人を見送る娘をして半身はんしんをこれにらしめ、もっ艶麗えんれいなる風姿に無限の余情を添へしめ、忠臣義士が決然いえを捨てて難におもむかんとする時
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あたかもそれは、路より少し高い所に生えているので、その一本だけが、ひとり離れてそびえつゝ傘のように枝をひろげ、その立っている周辺を艶麗えんれいなほの明るさで照らしているのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ダリアのはなや、カンナのはなや、百合ゆりはななどが、カンテラのにゆらゆらとしたようにらされているのが、ちょうど艶麗えんれいおんなが、幾人いくにんっている絵姿えすがたるようながしました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかも、打睡うちつぶるばかりの双のまぶたは、細く長く、たちまち薬研やげんのようになって、一点の黒き瞳が恍惚こうこつと流れた。その艶麗えんれいなるおもての大きさは銅像の首と相斉あいひとしい。男の顔も相斉しい。
ここぞと、心もこげつくような、紅梅焼の前を通過とおりすぎて、左側、銀花堂といいましたか、花簪はなかんざしの前あたりで、何心なく振向くと、つい其処、ついうしろに、ああ、あの、その艶麗えんれいな。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
畳廊下たたみろうかに影がさして、艶麗えんれいに、しか軟々なよなよと、姿は黒髪とともにしなつて見える。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)