舌打したうち)” の例文
「トム、トム……。」と、二三度呼んだが、犬は食物くいものに気をられて、主人の声を聞付ききつけぬらしい。市郎は舌打したうちしながら引返ひっかえして来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はらたずか言譯いひわけしながら後刻のち後刻のちにと行過ゆきすぎるあとを、一寸ちよつと舌打したうちしながら見送みおくつてのちにもいもんだもないくせ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あくまたおなやうあめつた。夫婦ふうふまたおなやうおなことかへした。そのあくもまだれなかつた。三日目みつかめあさになつて、宗助そうすけまゆちゞめて舌打したうちをした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『まア貴下あなたあれがえないの。アゝ最早もうえなくなつた。』と老婦人らうふじん殘念ざんねんさうに舌打したうちをした。義母おつかさん一寸ちよつ其方そのはうたばかり此時このとき自分じぶんおもつた義母おつかさんよりか老婦人らうふじんはう幸福しあはせだと。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
清水一学は、二人へ挨拶すると、すぐ早駕はやの方へ、眼をやって、舌打したうちをならした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……畜生ちくしょう、いよいよ入りやがったな、と舌打したうちしながらその方へ歩いて往った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「これか」岩はチェッと舌打したうちをした。「小僧に捲きつけられたはがねのロープだが、上のかぎのところはやっとはずして来たが、あとは足首から切り離そうとしても、固くてなかなか切れやしない」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「また始めやがツた。」と俊男はまゆの間に幾筋いくすぢとなくしわを寄せて舌打したうちする。しきり燥々いら/\して來た氣味きみで、奧の方を見て眼をきらつかせたが、それでもこらえて、體をなゝめに兩足をブラりえんの板に落してゐた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
銭占屋は独り舌打したうちしては、いつまでも寝返りばかりしていたが
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
平次は大きな舌打したうちをして、十手を懷にねぢ込みました。
と、座長の角面かくづらがつゞけざま舌打したうちをしながら言つた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あ、失敗しまった!」と、市郎は思わず舌打したうちした。が、現在の位置にあって再び蝋燭をけると云うことは、殆ど不可能であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
藤本ふぢもと來年らいねん學校がくかう卒業そつげうしてからくのだといたが、うして其樣そんなはやつたらう、爲樣しやうのない野郎やらうだと舌打したうちしながら
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼は今更いまさら気がついたように、頭の上にかぶさる黒い空を仰いで、苦々にがにがしく舌打したうちをした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてチェッと舌打したうちをしたが、そのとき後からついていった私がドアに当ってガタリと音を立てたものだから、彼は吃驚びっくりして私の方を振りかえった。その面は、明かに不安の色が濃く浮んでいた。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
山伏やまぶしは又湖水を飲む音。舌打したうちしながら
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いまはと決心けつしんほぞかたまりけんツト立上たちあがりしがまた懷中ふところをさしれて一思案ひとしあんアヽこまつたと我知われしらず歎息たんそくことばくちびるをもれて其儘そのまゝはもとのとほ舌打したうちおとつゞけてきこえぬ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
懐中ふところを探ると、燐寸まっちの箱は空虚からであった。彼は舌打したうちして明箱あきばこほうり出した。此上このうえは何とかして燐寸を求め得ねばならぬ。重太郎は思案して町のかたへ歩み去った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三度目に津田の姿が眼に浮んだ時、彼女は舌打したうちをしたくなった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのあとで彼、酒田は意外なことを発見して強く舌打したうちをした。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
舌打したうち生意氣なまいきなものひで
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
信如しんによこまりて舌打したうちはすれども、今更いまさらなんほうのなければ、大黒屋だいこくやもんかさせかけ、あめひさしいとふて鼻緒はなををつくろふに、常々つね/″\仕馴しなれぬおぼうさまの、これは如何いかことこゝろばかりはあせれども
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)