白髯はくぜん)” の例文
「全くそうじゃ」老翁は白髯はくぜんふるわしながら答えるのだ。「これからは悪智慧わるぢえのある奴が益々増えるから、脅迫は増える一方じゃのう」
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
わしもやはり、月のように輝いた魂を自分のものにしたことがある。恋愛は六千歳の子供だ。恋愛は長い白髯はくぜんをつけてもいい者なんだ。
そこには、おぼろげな電燈の光の中に、白髪はくはつ白髯はくぜん、ロイド眼鏡、寸分違わぬ二人の三笠龍介が、一間とは隔たぬ距離で向き合っていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
仲達のくちをつつんでいる疎々そそたる白髯はくぜんはふるえていた。あきらかに彼は赫怒かくどしていた。——がなお、それを手にしたままじっと見ていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
音楽長は背の曲がった大きな老人で、白髯はくぜん尻尾しっぽのようにあごにたれ、り返った長い鼻をし、眼鏡をかけて、言語学者のような風采ふうさいだった。
老人は自分から胸元を見下し、指を拡げて裏から白髯はくぜんしごいた。長い白髯は春の光の中で、支那素麺そうめんのように清らかに輝いた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私の前の席に居る霜降りマントに黒山高の白髯はくぜん紳士と、左に居る角帽制服のすらりとしたチャップリン髭の青年も大きな声で話を初めたが
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鶴髪かくはつ白髯はくぜん長身ちょうしん痩躯そうく、眼に不思議な光を宿し、唇に苦笑を漂わせた、神々しくもあれば凄くもある、一人の老人が立っていた。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「どうですい。」と、白髪はくはつ白髯はくぜんの、そして朱面の、白い麻の支那服の、頑健そのもののN老人が立ちながら、その頭の上の蕗の葉の一つを仰いだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
この時、よれよれの浴衣に古ぼけた袴といういでたちではあるが、何となく気品のある眼鼻立ちをした白髯はくぜんの老人が、だしぬけに立ち上って言った。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
老人の白髯はくぜんを集めて作ったかぶとの飾り毛を風になびかせ、獣歯の頸掛くびかけをつけた・身長六フィートインチの筋骨隆々たる赤銅色の戦士達の正装姿は、全く圧倒的である。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その先生が今ではこういうとこに隠れて、花を植えて楽んだり鉱泉に老を養ったりするような、白髯はくぜんおきなだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その数カ月前から立派な白髯はくぜんの老人がいつも大きな花束をかかえて屡〻しばしばその家に出はいりしていたが、そんなことを好きな一面のあるこの家の夫婦をおだてて
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
七輪の火が風に吹かれてぱっと燃えあがると白髪はくはつ白髯はくぜん黙々もくもく先生の顔とはりさけるようにすずしい目をみひらいた少年の赤い顔とが暗の中に浮きだして見える。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
闇空の下に、細長く、漂亭と、白髯はくぜん長き老人が、長い杖を突いてすらりと立った立ち姿を、彼は見る——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ふさふさした長い白髯はくぜんを神々しく顔になびかせて、ひと目にそれと見える神官なのです。いや、神主だったことに不思議はないが、意外だったのはその年齢でした。
其處そこ居合ゐあはせた禿頭とくとう白髯はくぜんの、らない老紳士らうしんしわたしこゑふるへれば、老紳士らうしんしくちびるいろも、尾花をばななかに、たとへば、なめくぢのごと土氣色つちけいろかはつてた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
白髪を後茶筌うしろちゃせんに束ねた白髯はくぜんの老翁。鼠色の道服を着し、茯苓ぶくりょうきの金具を杖の代りにして立っていた。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
妙信 (年齢六十に近く白髯はくぜんたくわえ手には珠数を持てり。若僧のものいえる間ようよう上手に進み行きついに肩を並べつつ)今さっき本門の傍でうめいていると思ったが
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
おやぢ臭く思はれる内地がのあたり、脊の高い、大きな鼻のさきの赤い、目の鋭い、巖丈がんぢやうな、白髯はくぜんの老翁と見えて來て、やがて、義雄を力強くその面前に引きすゑて
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
痩身白髯はくぜんよわい古稀に達せる博士は任期すでに満ちて、近く帰国の途に就こうとしていたのであったが、初めは問題をあまり大したことにも考えていなかったのであろう。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そして王子は一生のあいだ、あのくろ着物きもの白髯はくぜん老人ろうじんを、自分の守護神まもりがみとしてまつりました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
土器かわらけのように厚ぼったく節くれだち、そして龍のようにくねった梅の木を想いえがくとき、その下に、曲がった腰を杖に支えて引き伸ばし、片手を腰の上に載せた白髯はくぜんのお爺さんや
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
白髯はくぜん赭顔しゃがんのデビス長老が、質素な黒のガウンを着て、祭壇さいだんに立ったのです。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
瓶子を片手に、長い白髯はくぜんを撫でながら堂守の老人は、その後ろをじっとながめました。奥の院から大見晴らしへ通る木の根の高い細道へ、その人は早くも隠れ去って影だに残してはいません。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
胸衣チョッキの一番下のぼたんを隠すほどに長い白髯はくぜんを垂れ、魂の苦患くげんが心の底で燃えくすぶっているかのような、憂鬱そうな顔付の老人であるが、検事の視線は、最初からもう一枚の外紙の方に奪われていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と一座を見廻して、静かに白髯はくぜんしながら口を切った。
半化け又平 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いずれもが相当な年配の人々で、幾人かは白髯はくぜんであった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
自分はさう云つて白髯はくぜんの父を見た。
新帰朝者日記 拾遺 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
白髯はくぜんおきなも、はたや
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
四十二、三の好色家らしい売卜ばいぼく先生は、実に、白髯はくぜんを剃り落して、頬綿ほおわたをふくみ、音声まで巧みに変えた塙江漢はなわこうかんなのであった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると大きな木のかげに、乞食のようなボロボロの洋服を着た、白髪白髯はくぜんの老人が、ニヤニヤ笑いながら立っているのです。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところで又、その医者というのが吾輩の親友で、鶴髪かくはつ、童顔、白髯はくぜんという立派な風采の先生だったが、トテモ仕様のない泥酔漢のんだくれの貧乏老爺おやじなんだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
長い白髯はくぜんを引っ張るやら、しわくちゃの乳房にかじりつくやら、ひとしきり困らしていたようだが、いつの間にかぐっすりと眠りこけてしまったらしいのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
老いたる白髯はくぜんの観相家は、自ら阿部流と誇称する通り、あたかも阿部の晴明の再来ででもあるかのごとく、いとも厳粛に威容を取りつくろって、気取りに気取りながら
と、むかしをしのぶように、和尚さんは白髯はくぜんをしごきながらじっと目をとじられました。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
くずの衣裳を身に纏い、自然木じねんぼくの杖をつき、長い白髯はくぜんを胸へ垂れた、飄逸洒落ひょういつしゃらくな老人と、その侍童の菊丸とが、富士山麓鍵手ヶ原の、直江蔵人くらんどの古館へ、一夜のやどりを乞うた晩
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
老人は、細長い身を、まっすぐに、左手ゆんでで、しずかに、白髯はくぜんをまさぐったが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
白髯はくぜんの間からのぞいている頬が、いつもより赤味を帯びて光っていた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
気負い立つ紀昌をむかえたのは、羊のような柔和にゅうわな目をした、しかしひどくよぼよぼのじいさんである。年齢は百歳をもえていよう。こしの曲っているせいもあって、白髯はくぜんは歩く時も地にきずっている。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
伸子は二人の間のもつれを、白髯はくぜんのたれた七十近い老人に知らせるのを気の毒に思った。一つ燈の下に、老父と佃と三人で、話という話もなく、毎晩をすごす気づまりから、伸子は編物を思いついた。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
老人は白髯はくぜんを左右に振分けて易の講釈をつづけます。
彼のきれいな白髯はくぜんは、負傷者の血しおに染み、彼の懸命なおもてには、空腹をかこ容子ようすもなく、また、天下の大乱すら知らないもののようだった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白髯はくぜんにうずまった息子むすこと同じようにドス黒い顔が、サッと赤らんだかと思われた。だが、彼はあくまでもしらを切って
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三本並んだ太い生木なまきの柱の中央に、白髪、白髯はくぜんの神々しい老人が、高々とくくり付けられている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「仏が何んだ、仏教が何んだ。要するに夷狄いてきの宗教じゃないか。日本には日本の宗教がある。かんながらの神道じゃ! 我輩の奉ずる古神道じゃ!」——それは白髯はくぜんの老人であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雪のような白い眉の下にまぶた重げに見開いた穏やかな慈眼の中に、そして胸に垂れた白髯はくぜんのそよぎにもそれと推し量られ、我ら一同なんと慰める言葉もなく、顔うな垂れて腰かけていたのであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
二尺近くも白髯はくぜんを貯えて隠者のように暮していた。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かんかぜに赤くひきしまっている顔は、どこか大人たいじんそうをそなえ、大きくて高い鼻ばしらからあぎとにかけての白髯はくぜんも雪の眉も、為によけい美しくさえあった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老師は急に指を引っ込ませて白髯はくぜんの生えた神々こうごうしい顔を静かに彼の前へ差し出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)