うじ)” の例文
谷崎氏は混沌たる今日の文壇に於てうじそだちも共々に傑出した作家である。自分の評論の如きは敢て氏の真価を上下するものでない。
谷崎潤一郎氏の作品 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「やりやがる」とか、「待ってくんねえ」とかいうような言葉が、主膳の口から時々ころがり出すのは、うじより育ちのせいでしょう。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうするとさすがに秀吉だ、「さようにむずかしい藤原氏のつるとなり葉となろうよりも、ただ新しく今までになきうじになろうまでじゃ」
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おもうに渋江うじは久しく和泉橋附近に住んでいて、天明に借りた鎌倉横町から、文政八年に至るまでの間に元柳原町に移ったのであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
つくづくあなたのご生涯しょうがいを思えばただごとではない気がいたします。目に見えぬ悪業あくごうがあなたのうじにつきまとっている気がいたします。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
言えぬあの娘じゃ、弱い、この父親じゃ。時節が来れば何事もわかる。羅門うじ、東儀殿、武士の情けです。見のがしてやって下さい
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中「左様でございますか、中原岡右衞門と申す者、以後御別懇にねがいます…時に藤原うじ、此のたびは貴殿をお召し返しになります」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
網代人は網代の番をする人。千早ちはや人はうじに続き、同音の宇治うじに続く枕詞である。皆、旅中感銘したことを作っているのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
のお鯉御前は、大臣のお目に留り、うじくして玉の馬車に乗り、此の公園の鯉は、罪無くして弥次馬の錆鈎さびはりに懸り、貧民窟のチャブ台を賑はす。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
「なによりでござります。事は密なるが第一。蔵人様、しばらく三宅うじをお借り申したいが、いかがでござりましょう」
そして何かと言えば「うじより育ち」と言う。何のことだかわかりゃしない。大方乳母ばあやを悪く言うつもりなんだろうが、乳母やは誰よりも正直だ。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
うじの長者を許され、関白の職におる忠通に敵対するやからは謀叛人も同様じゃ。弟とて容赦はない。すぐに人数を向けて攻め亡ぼすまでのことじゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ボラは、ひとくちにドロくさいと一般の人からけぎらいされるが、人間ばかりでなく、あの魚もうじより育ちである。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
湯川うじが硫黄にこりだして、山谷さんやを宿とし、幾年か帰らなくなってから、老妻おばあさんはハタと生活にさしせまった。
「これはこれは袴うじ、今お噂をしかけたところで、お待ち申しておりましたよ。やっぱりそんな、噂をすれば影、お見えになるだろうと存じていました」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それに大垣うじは、奥方の御身の上や一藩の運命も気遣ったのじゃ。内聞にしてくれるであろうな、平次殿」
と、呼ばれると、うじも、素性すじょうもない宝沢という気もした。母親は、彼の生れた時に死んだし、彼としては、自分で、落胤だと信じていい何の証拠も無かった。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
うじ育ち共にいやしくなく、眉目びもく清秀、容姿また閑雅かんがおもむきがあって、書を好むこと色を好むがごとしとは言えないまでも、とにかく幼少の頃より神妙に学に志して
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それがならせいとなり遂には煮ても焼ても食えぬ人物となったのである、であるから老先生の心底しんていには常に二個ふたりの人が相戦っておる、その一人は本来自然の富岡うじ
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あるじの歎き一方ひとかたならず、遂に狂ほしき心地と相成り候ひしを、亡き夫人の妹くれがしうじ、いろ/\に介抱し侍りしが力及ばず、遂に夫人と同じ道に入り候ひぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「なるほど。それじゃ、全く小野うじだけが御力ですな。そりゃ、どうも、しからん事になったもので」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
月輪うじ、かまわず先へやってくれッ! 落ちあう場所はかねての手はずどおり……あとは拙者が引きうけたから、娘と刀をシカとお預け申したぞ……! サ拙者を
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「もしもし、大高うじ暫時しばらく、大高氏。」と大風おおふうに声を掛けて呼んだのは、小笠おがさ目深まぶかに、墨の法衣ころも
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わがくに姓名せいめい發生はつせい發達はつたつ歴史れきしはこゝにべないが、えうするに今日こんにち吾人ごじんせいしやうするものはじつは苗字といふべきもので、苗字と姓とうじとはその出處でどころことにするものである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
うじからいっても育ちからいっても、武将の妻として留守城をあずかる覚悟にいまさらおくれのある筈はない、ことにかの女はおとこまさりの生れつきで、小太刀、なぎなた
日本婦道記:忍緒 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
元町というのは大友うじ時代に古い町があったという意味であろうが、今の大分市としてはほとんど郊外になっているところである。車はぞろぞろと田圃たんぼの中の道を行くのである。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
がんらい産土というのはもとどころ(本居ほんきょ)、自分の生まれた土地というだけの意味であって、そこにはうじごとに、一族ごとに、それぞれのちがった氏神を祭っていたのを
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
まして織田家のおん息女たるお方が、ちかごろきゅうに羽ぶりがよいとは申しながらうじもすじょうもさだかにしれぬ俄分限者にわかぶげんしゃのおめかけなどに、なんとしてなられましょうや。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其の金を隠して有った所から其の引き出した度数と月日まで此の権田うじが取り調べて悉く証拠を得たので最早高輪田を処刑し、秀子のえんを雪ぐ事が容易である、けれど道九郎
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
これは「人生婦人の身となかれ、百年の苦楽他人にる」とか、女はうじなくして玉の輿こしとかいう如き、東洋流の運命観から出た、弱竹なよたけの弱々しい頼他的根性から来たのである。
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
じつはこの子のくなりましたちちも、坂田さかたというりっぱなうじったさむらいでございました。
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
良弁僧正は相模さがみの人、姓は漆部ぬりべうじ持統じとう天皇の三年己丑つちのとうし誕生、義淵ぎえん僧正の弟子となり、晩年は東大寺別当に任ぜられた人であるから、聖武天皇の御親任も一入ひとしお厚かったと思われる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
俗にうじより育ちと申すことがございます、仮令公方様の御胤にもせよ紀州に生れて九州に流れ野に伏し山に育って来た天一坊が、公方様にも次ぐ位に似つかわしい筈はございませぬ。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
いろはたとえにもうじよりそだちと申す事あり。子をそだつることは大切なる事なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
……そりゃア悪い了見りょうけんだの、考えがちがう。……あなたを生かしておきたいばっかりに、伝四郎うじとやらが苦労する。それを……、それを、あなたが死んじまったんじゃア身も蓋もない。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
うじの上下は作法 によって知らるるなり、都鄙とひの人々はその言葉によって知らるるなり、ということがありますように、華族は特別に容貌も高尚なる姿があって、その作法もすべて風雅で静粛せいしゅくである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
遊ばせてやるのだと心得れば好かれぬまでもきらわれるはずはござらぬこれすなわち女受けの秘訣ひけつ色師いろしたる者の具備すべき必要条件法制局の裁決に徴して明らかでござるとどこで聞いたかうじも分らぬ色道じまんを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「民谷うじ、ぜんたいこれは」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
更衣ころもがえ母なん藤原うじなりけり
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「父は准大臣じゅんだいじんで従一位の家、兄に三位さんみ、弟には従五位下じゅごいのげ兵衛権佐ひょうえごんのすけがある。その中で育った女、うじと生れとには不足がないけれど……」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「東儀うじ、ごらんなさい、失策どころか、これこそ二人の苦節を哀れんだ、神の賜うた天祐てんゆうです。——この紙入れは塙郁次郎はなわいくじろうの所持品だ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文「いや少しは分りそうだ、兎も角も此方へ……お母様っかさま、藤原うじがまいりました、お母様、分りましたか、お萓も一緒に……」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この蒐集の間に、わたくしは「弘前医官渋江うじ蔵書記」という朱印のある本に度々たびたび出逢であって、中には買い入れたのもある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
慶滋保胤かものやすたね賀茂忠行かものただゆきの第二子として生れた。兄の保憲やすのりは累代の家の業をいで、陰陽博士おんようはかせ天文てんもん博士となり、賀茂うじそうとして、其系図に輝いている。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
俊寛 (ほとんど無感覚になりたるごとくうつろなる目つきにて)無だ! すべてが、すべてが亡びていたのか、わしのうじを根こそぎうばってゆくのか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「妙だね、こりゃおつだよ、以心伝心いしんでんしん、若いものにはなをもたせようとするのかな。湯川うじはそうはいかないぜ。」
「南部様もそんなことをおっしゃいました。——一式うじとこの拙者と、どっちにお前は惚れているかなどと」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うじも系図もない若侍にむざむざと呉れてやらりょうか。不憫でも無慈悲でも是非がない。姫を叱って……いや、とくと理解を加えて思い切らするまでじゃ。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もののふの八十氏やそうぢ」は、物部もののふには多くのうじがあるので、八十氏やそうじといい、同音の宇治川うじがわに続けて序詞とした。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
私がわざわざ飛んで来た甲斐かいがない。小野うじにもだんだん事情のある事だろうから、まあせがれの通知しだいで、どうか、先刻御話を申したように御聞済おききずみを願いたい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)