とど)” の例文
肥後の加藤清正にとどめをさし、西国、北国の大名総計六百三十八万七千四百五十八石三斗の力が傾注されているこの尾張名古屋の城。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それからこの一致はひとり一時代の水平的関係だけにとどまらず、古くあった地名も今ある地名も人の名前ほどには時代の変化がない。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
床は勿論もちろん椅子いすでもテーブルでもほこりたまっていないことはなく、あの折角の印度更紗インドさらさの窓かけも最早や昔日せきじつおもかげとどめずすすけてしまい
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その二人はまだ生きている、とどめを刺そうか。いや待て、と一人が云った。いま若殿に知らせた、若殿のお沙汰を待つことにしよう。
さう一朝一夕に根こそぎにとどめをさすと云ふ事が出来得るであらうかと云ふことを考へて見ますと実にそうした決議が滑稽に思へます。
単にそのゆくえを突きとめるにとどめてて置くのか、あるいはその正体を見あらわす必要上、腕ずくでもそれを取り押えるつもりか
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今はもうアントワープは、俗っぽい商業地になってしまいましたけれど、それでも、尊いお寺やお社が、昔の名残りをとどめていました。
それから、三人はこのことを警察に告げたものかどうかについて、やや真面目に相談したが、結局それは思いとどまることになった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、おとこは、もういも肥料こえをやることなどは、まったくわすれてしまったように、てんで田圃たんぼうえなどにとどまりませんでした。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やいばとどめを刺したのではないが、とにかく、海のくずになったことは分りきっておる。かたがたお墨付をいただいたから、それを
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで彼のなした事業はことごとくこれをまとめてみましたならば、二十ヵ村か三十ヵ村の人民を救っただけにとどまっていると考えます。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
家に帰るべきわがうんならば、強ひてとどまらむとひたりとて何かせん、さるべきいはれあればこそ、と大人おとなしう、ものもいはでぞく。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「いき」の質料因と形相因とが、化粧を施すという媚態の言表と、その化粧を暗示にとどめるという理想性の措定そていとに表われている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
その写真屋の名前を何度も何度も見直してシッカリと記憶にとどめてから、妙にこわばった笑い顔で鄭重に礼を云って区長の家を出た。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何のゆゑとも知らねども正太はあきれて追ひすがり袖をとどめては怪しがるに、美登利顔のみ打赤めて、何でも無い、と言ふ声理由わけあり。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かくのごとくすれば一国の兵備は単に国内の平和を維持し、外に向かいてその国の独立を保守するに足るの度にとどまることを得べし
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
苦しいながらも思わず荘厳雄大なる絶景に見惚みとれて居りますと「久しくここにとどまって居ると死んでしまいますから早くくだりましょう」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
でなくとも、女給をして来た人では、庸三の家政はどうかという意見もほかの人から出たので、彼もそれは思いとどまることにした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それから、尻尾しっぽをつかみ、銃床じゅうしょうで、首筋を、何度となく、これが最後、これがとどめの一撃かと思われるほど、激しくどやしつけた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
食事を半ば終えた頃、彼は、車輪の音を聞いて、手にしている杯を再びとどめた。その音は威勢よく近づいて、館の正面までやって来た。
それと同時に、熊の方でも、初めてこっちの姿を見て、今まで舐めずっていたほの赤い舌の動きをとどめて、きっとこっちを見返しました。
(新字新仮名) / 久米正雄(著)
この悪風の弊害は、決して一家の内にとどまるものにあらず。その波及する所、最も広くしてかつ大なり。ここにその一を述べん。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これは単に長屋の金棒引かなぼうひきのみにとどまらない。日本の新聞紙はまず社会的の金棒引と見て差支さしつかえはない。日本ほど新聞の劣等なところはない。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
娘は親の択り出した人に対して可否かひの返事をするだけにとどむべきものです。決して自ら択り出そうと思うべきものでありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ここにあわれをとどめたのは、密航者の佐々砲弾さっさほうだんだった。折角せっかくここまでついて来たものの、艇長は彼が上陸することを許さなかった。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし杜九如も前言の手前、如何どうともしようとはいわなかった。つまり模品もひんだということを承知しただけにとどまって、返しはしなかった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鯨は魚ではないそうだが……あるいはまぐろ位いにとどまり、あゆや鯉等は針を食する感があっていけなく骨に近い女がいけなく
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
が、それよりも、彼女はこの部屋にとどまっていて、母と青年とが、何知らぬ顔をして、帰って来るのを迎えるのにえなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
けだし音律のつたなき、いまだ我邦より、はなはだしきはあらず。古代、唐楽を伝うといえども、わずかにその譜にとどまり、その楽章を伝えず。
国楽を振興すべきの説 (新字新仮名) / 神田孝平(著)
これらの記念物が簡素なのにもかかわらず、この寺院を訪れる人たちはだれでもそこにいちばん長くとどまっているのにわたしは気がついた。
破風の登りなども、木は伐られ岩は掘りかえされて、生々しい路が美しい緑の斜面と余りにも不調和な人工の跡をとどめている。
思い出す儘に (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「私は結婚ぜんの若い紳士ですが、私に結婚をすつかりおもとどまらせて下さる先輩の方がいらつしやるなら、御近づきになりたいものです。」
職務の分量にとどまらずして職務の品性ひんせいをよくせよというのである。十貫目かんめ荷物にもつになうものに、務めて荷物十一貫目を荷えというのでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
入月とは女の月経の事である。(詩中月経を用ひたのは、この宮詞にとどまるかも知れない。)入用では勿論意味が分らない。
本の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
而して今日物価の騰貴とうきは非常なもので、ほとんどとどまるところを知らずという有様であるから、国民生活は早晩非常な困難に陥ることと思う。
〔憲政本党〕総理退任の辞 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
牝犬めいぬを追う牡犬おいぬのように、店中の若い者が遠慮も気兼も忘れて、ゾロゾロとついて歩いたと言うにとどめることにしましょう。
ここでも仕事は手をぬいたものが少くありません。しかし葛はなめらかでちりとどめませんから、襖地としての需用は長く続くことでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
今更如何いかめたりともそのかいあらんようなく、かえって恥をひけらかすにとどまるべしと、かついさめかつなだめけるに、ようように得心とくしんし給う。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
なぞと、自分たちの失策でもない——と、いうこころを、言外に匂わせて、口々に言うので、広海屋は、苦わらいでとどめて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
欣々夫人の座臥ざが居住の派手さを、婦人雑誌の口絵で新聞で、三日にあかず見聞みききしているわたしたちでも、やや、その仰々しい姿態ポーズに足をとどめた。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
他は犬われは狐、とてもかなはぬ処なれば、復讐あだがえしも思ひとどまりて、意恨うらみのんで過ごせしが。大王、やつがれ不憫ふびん思召おぼしめさば、わがためにあだを返してたべ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
口をかたく結んだ頼政の表情は謀破れた無念さはとどめず、穏かなものがあったという。再び開いた唇は辞世の歌を詠んだ。
あやうくその縁に踏みとどまっているといったようなのは、その日々私をたいへん可愛がってくれた店の若衆の一人だった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
父はしかし祖父の家には永くとどまらなかった。叔父が隣村にいることを知って、私に、叔父のところへ案内しろと言った。
しかも哲学はこの科学批判にとどまらず、更に一般に文化をその批判の対象として生の普遍的自覚にまで自らを拡充した。
メメント モリ (新字新仮名) / 田辺元(著)
この荒涼たる吹雪の景色は、今日も少しも変らない。そしてこの無慈悲な自然の力にしいたげられている人間の姿もまた、往年の名残りをとどめている。
彼また名利に走らず、聞達を求めず、積極的美において自得したりといえども、ただその徒とこれを楽しむにとどまれり。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
してみると、此家ここの軒下にべんべんととどまっているということはあまりに図々しく、ゆるしがたいことなのだ。直ちに決心をしなければならぬ。
(新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
しかも忘れてならないのは、発明は単に手段の発明にとどまらないで、目的の発明でもなければならぬということである。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
いささかなだめんとすれば妻をかばいて親に抗するたわけ者とののしらるることも、すでに一再にとどまらざりけるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)