さつ)” の例文
ははあ、こやつも楮幣に不服なのか。ならばなぜ、折檻せっかんなどせず、表向きに、検非違使けびいしノ庁へつき出さんか。——この良忠から一さつ
信者をだましてまき上げた寄附金をにせさつとすり替えた奴と、それを盗んだ奴と、どちらが罪が重いか、いわなくても分るだろう。
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「君を悪物喰といつたのは小生一生の不覚、自今じこん如何いかやうな事があつても悪物喰などとは決して申すまじ、後日のため一さつよつて而如件くだんのごとし。」
お島は時とすると、さつを二三枚ポケットから取出して、彼等の手に渡した。そして学校の事務員にまで取入ることを怠らなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
毎晩、仮装舞踏会かそうぶとうかいへ出かけたり、お金のさつでたこをこしらえたり、海へ行けば、石のかわりに、金貨で水切りをしてあそんだりしました。
懐にしてペテルブルグ三界へ来るんだろう? ルーブリ銀貨三つか「おさつ」の二枚も持ってか(これはあいつの言い草だ……あのばばあの)
さつびら切る人見えず。今の値頃では、とても俸給生活者には駄目。浅草でさつがとんでいるのは、おでん店だけのようである。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
藩札はあかき紙ぎれ、皺にかびくさきさつ、うちすたり忘られし屑、うち束ね山と積めども、用も無し邪魔ふさげぞと、はふられてあはれや朽ちぬ。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「その上に斯ういう問題で犬馬の労を執って貰うんだから、僕は将来君に頭の上らないようにして置くのが礼儀だと思うんだ。一さつしたためよう」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
乞食同様の男に二十銭はちっと多過ぎると思ったが、云わるるままにさつつかんでその店先へ駈けて行き、男の前に置くやいな一散いっさんに駈け出した。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
四民同等の今日とて地下じげ雲上うんじょう等差ちがい口惜し、珠運をやすく見積って何百円にもあれ何万円にもあれさつで唇にかすがい膏打こううつような処置、遺恨千万
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
という物々しい一さつなのです。まことにどうもこのお墨付の、相当したる挨拶というその挨拶の二字くらい、おびただしく意味深長な文字はない。
ボーイが杉川医師の応急手当を受けてへやを運び出されると、私は直ぐに金丸刑事を呼んで、ボーイが貰った二十円さつを東洋銀行に持って行かせた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
色の浅黒い眉毛まみえの濃い大柄おおがらな女で、髪を銀杏返いちょうがえしにって、黒繻子くろじゅす半襟はんえりのかかった素袷すあわせで、立膝たてひざのまま、さつ勘定かんじょうをしている。札は十円札らしい。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
感情なんて! わたしにはそんなものを持つ時まもなく、機会もありません。わたしは一生、お嬢さん、大きなおさつ皺伸機しわのしを𢌞して過すのですよ。
こればかりは何ういう事か解りません、間がいとい事ばかりで、間が悪いと悪い事ばかりあるもので、運のいゝ方はころんだかと思えばさつを拾い
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
必ず大きなさつを出しておつりを勘定させる、その上に押し合いへし合いお互いに運動を妨害するから、どうしても一人あて平均三十秒はかかるであろう。
あたしが、それでも、そんな筈はないと思つて、よく地べたの上をみますと、まあ、どうしたと云ふんでせう、道いつぱいに、おさつが積つてるんですわ。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
たててゐて困る。たいこもちのやうな男が出て来て、このなつめは五万円だとか、この建水は二万円、茶碗がいくら、うるさいことぢや、あれならいつそさつ
愛情 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
さつを作り出せるような気の利いた、男ではなかった。自分でも偽せ札をこしらえた覚えはなかった。そういうあやしい者から五円札を受取った記憶もなかった。
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
伯母はふところから私の書いた一さつを出してそれをお時のに重ねました。そしてそれを又懷に入れながら
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
「………お金と云ったってほんとうのお金じゃアないんだよう。にせのおさつなんだってば、………」
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
八兄哥、頼むぜ、——今まで泥棒は、さつ旦那(客)や御用聞や医者に化けて、見張の中を大手を
山西は手をふるわして蟇口がまぐちから十銭さつを二枚出すと、投げるように置いてあたふたと逃げだした。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「へえ、三番の野呂さんの財布の中から五圓の御さつに羽が生えて飛びましてん。あたしとこではついぞ其樣な事はおまへんのでしたが、不思議な事があるもんですなあ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
種々さま/″\詫言わびごとなし漸々にして追々に償ふ事をゆるされしかば直樣すぐさま引取の一さつ指出さしいだし久八を連歸りけるは無慈悲むじひなりける有樣なり久八は子供こどもの時より主人を大切と我が身の苦患くげん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日によると黄いろや緑いろのおさつが、香水だの、酢だの、抹香だの、肝油だのとりどりの匂いを発散させながら、方々のポケットに七十ルーブルから詰まっていることがあった。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
氷の上にきた物売りが戦争未亡人だというので、ドブロクを買ってさつを渡すと、その札が風にさらわれて、どこかへ飛んで行ってしまった。渡したあとで、つり銭も受け取っていない。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
廣い天の空氣が吸ひたいのですよ! あなたのおさつが墓場へ持つて行けますか? どのくらゐ私たちは生きられるものだとお思ひなすつて?(間をおいて、考へ込んで)生きる?——私
『人形の家』解説 (旧字旧仮名) / 島村抱月(著)
スルとこんな物があるとさつあらためる邪魔になるといって、わざと上包をかえして遣るなどは随分ずいぶん殺風景なことで、世間の人の驚いたのも無理はないが、今日それが日本国中の風俗習慣になって
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
払戻はらいもどしの窓口へさし込んだ手へ、無造作にさつせられた時の快感は、はじめて想いをげた一代のはだよりもスリルがあり、その馬を教えてくれた作家にふと女心めいた頼もしさを感じながら
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「うんもっともだ。さあこれだけやろう。つりは酒代さかだいだ。」と云いながらいくらだかわけのわからない大きなさつを一まい出してすたすた玄関にのぼりました。みんなははあっとおじぎをしました。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ぽつりと言い、彼は立ってミチに背中を見せて、棚の上に手を延ばし、小さな柳行李やなぎごうりを引き降ろすと、腹の処で蓋を取り、さつ勘定かんじょうし始めた。銀行や郵便局の嫌いな彼は現金をいつも持って居た。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
強盗ごうとうは、地主さんからさつたばをうけとると、こんどはげんかんから出ていきましたが、そこで地主さんのゆうかんな番犬、ナハトに見つかってほえつかれたので、すっかりあわててにげ出しました。
丘の銅像 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
二百円、左様、手の切れるような十円さつでした、二百円呉れました
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
が、腹の胴巻にはさつらしい形がムックリ盛り上っている。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そういって、新しいさつをぽんとなげだす人もあります。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
紙入かみいれからさつだししづに渡した。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「それはおさつなの?」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さつを三枚出した。
毎晩、仮装舞踏会かそうぶとうかいへでかけたり、おさつでたこをはってあげたり、小石の代りに、金貨で海の水を打ってあそんだりしました。
ある時私の女房が——こちらへ来てからもらったのです——その中の一枚をにせさつと知らずに月末の支払いに使ったのです。
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「さあ、二十カペイカは君にチップだ。どうだ、大した金じゃありませんか!」と彼はさつを持った震える手をザミョートフの前へ差し伸べた。
「そのはずさ。いくらでも後から後から紙のさつが出て来るうえに、銭の“乾坤通宝けんこんつうほう”も鋳直いなおしたので、いぜんの物よりまるで銭の質が悪くなった」
その男は芸者は幇間ほうかんを大勢集めて、かばんの中から出したさつたばを、その前でずたずたに裂いて、それを御祝儀ごしゅうぎとかとなえて、みんなにやるのだそうです。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
事情斯くの如くに御座候間小生は御貴殿様に頭の上らぬ代物しろものに御座候。万一にも御恩を忘れ候節は此証文を取引所前にて御公表も不苦くるしからず依而よってさつ如件くだんのごとし
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
憲作はポケットから新しいさつの束を出して机の上に積んでトンとたたいた。徳市の顔をグッと見込んで笑った。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
昼間来て晩方引き揚げるのだったが、この男が帰ると彼女はいつももらったおさつの勘定をするのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さ、諸君は、其処にさうしてつてゐる必要はない。それとも、押川のふところへ、天からさつが降つて来るとでも思つてるのか。が、待ち給へ。僕が一つ、名案を授けよう。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
僕の懐にし其の証書があれば、千や二千の破れさつを欲しがってやアしねえ、助右衞門は僕が殺したのではねえ、君が殺したのだから、君が重罪で僕も同類だけれど