木目もくめ)” の例文
鉄瓶の蔓にも茶箪笥の戸棚の木目もくめにも昔懐しい思出が動いて、春子さんは自然長座になる。お母さんも長男よりは長女が相談相手だ。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
旅行鞄トランクについで、木目もくめ白樺で象嵌ぞうがんをほどこしたマホガニイの手箱だの、長靴の型木だの、青い紙に包んだ鶏の丸焼だのが持ちこまれた。
錦絵、芝居から見ても、洗いだしの木目もくめをこのんだような、江戸系の素質をみがき出そうとした文化、文政以後の好みといえもする。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おな不正ふせいくわだてるのならば、百三十六麻雀牌マアジヤンパイ背中せなかたけ木目もくめ暗記あんきするなどは、その努力感どりよくかんだけでもぼくにはむし氣持きもちがいい。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
家は真実そんなでもなかったけれど、美事な糸柾いとまさすぎの太い柱や、木目もくめの好い天井や杉戸で、手堅い廻船問屋らしい構えに見受けられた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「おれは素人しろうとで、こんな物の眼利きは出来ねえが、彩色いろどりといい、木目もくめといい、どう見ても拵え物じゃあねえらしい。こりゃあ確かに本物だ」
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
平次は豁然かつぜんとしました。二重蓋の中を見ると、容易に見分けは付きませんが、中の札の木目もくめに、何やら異状があるようです。
例えば縦縞の着物に対して横縞の帯を用いるとか、下駄げた木目もくめまたは塗り方に縦縞が表われているときに横縞を用いるとかいうような場合である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
私は堂を廻つてゐる高縁に蹲んでこけの上を眺めてゐた。足の裏に板の木目もくめを氣持ちよく感じながら夜の來るのを待つた。山蟻が柱を傳つて登つて來た。
草の中 (旧字旧仮名) / 横光利一(著)
それがまたすすやらあかやらで何の木か見別けがつかぬ位、奥の間の最も煙に遠いとこでも、天井板がまるで油炭で塗った様に、板の木目もくめも判らぬほど黒い。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
木目もくめを洗出された時代のさびのある板扉いたどの中央に取附けた鎌倉時代の鉄の鰕錠えびじょうが頗る椿岳気分を漂わしていた。
私は教室の硝子が何枚あるかということ、いつも私の立たされる柱の木目もくめがいくつあるかということ、ボールドにいくつの節穴があるかということを知っていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ゆらと陽のを躍らす桧面ひのきめんつや——うるし木目もくめを選びにえらび、数寄を凝らした城中の一部なので……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
中央の木目もくめからうずまいて出るのが、池の小波のひたひたと寄する音の中に、隣の納屋の石を切るひびきに交って、繁った葉と葉が擦合すれあうようで、たとえば時雨しぐれの降るようで
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其れについて幸い木目もくめ見事みごと欅板けやきいたがあるので、戦役記念の題字を書いてくれと先日村の甲乙たれかれが彼に持込んで来たが、書くが職業と云う条あまりの名筆故めいひつゆえ彼は辞退した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
(僕は木目もくめや珈琲茶碗の亀裂ひびに度たび神話的動物を発見していた)一角獣は麒麟きりんに違いなかった。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
米国の都市には汽車を渡す大仕掛けの渡船わたしぶねがあるけれど、竹屋たけやわたしの如く、河水かはみづ洗出あらひだされた木目もくめの美しい木造きづくりの船、かし、竹のさをを以てする絵の如き渡船わたしぶねはない。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
主人は「嘘をつけ」と腹の中で言ったまま、ぷかぷか煙草たばこをふかす。迷亭は天井を見ながら「君、ありゃ雨洩あまもりか、板の木目もくめか、妙な模様が出ているぜ」と暗に主人をうながす。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よくお互いに思想の乾かされた板切れをいくつか持って坐りこみ、それぞれのナイフの切れ味を試みつつそれを削り、カボチャマツのはっきりした黄色がかった木目もくめを賞美した。
出来たてのうちはまだいゝが、追い/\年数が経って、板や柱に木目もくめの味が出て来た時分、タイルばかりが白くつる/\に光っていられたら、それこそ木に竹を接いだようである。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
羽目板を木目もくめの浮き出るまで洗い上げた砂場という蕎麦そばやが角にある。隣に芸妓の検番があって、芸妓や箱やの激しい出入口を除けた向うからずらりと雑多な夜店が並び出していた。
美少年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのもう一まいのドアは、うすい鉄板てっぱん木目もくめに色どったもので、内がわにはめてある鏡も、ごくうすいガラスでできているので、りょうほうで一センチぐらいのあつみしかありません。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何を思うともなく天井の木目もくめを見やっているのも、珍しい事のように快かった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
みずくきのあとも細々ほそぼそと、ながしたようにきつらねた木目もくめいた看板かんばんに、片枝折かたしおりたけちた屋根やねから柴垣しばがきへかけて、葡萄ぶどうつる放題ほうだい姿すがたを、三じゃくばかりのながれにうつした風雅ふうがなひとかま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もっとも冬場ふゆばでも、まぐろの腹部の肉、俗に砂摺すなずりというところが脂身あぶらみであるゆえに、木目もくめのような皮の部分がみ切れないすじとなるから、この部分は細切りして、「ねぎま」というなべものにして
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
そのうちにふと天井の木目もくめが眼に入って突然妙な事を思った※「こう見たところは水の流れたあとのようだな」、こう思うと同時にお勢の事は全く忘れてしまった、そして尚お熟々つくづくとその木目に視入って
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
手慣れたる木目もくめでて桐火鉢
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
木目もくめが盛り上っていらあ。こゝには裸体美人が彫ってある。この頃の中学生は油断がならないな」
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
中央ちうあう木目もくめからうづまいてるのが、いけ小波さゝなみのひた/\とするおとなかに、となり納屋なやいしひゞきまじつて、しげつた擦合すれあふやうで、たとへば時雨しぐれるやうで
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
橋の上には、橋役人の言った通り、血の痕一つありませんが、欄干は、平次の心なしか、たくましい麻縄でれて、少しばかり木目もくめの凹んだところがあるような気がします。
百三十六もある麻雀牌マアジヤンパイ背中せなかたけ木目もくめをすつかり暗記あんきしてしまふといふいんちきのことだ。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
米国の都市には汽車を渡す大仕掛けの渡船があるけれど、竹屋の渡しの如く、河水かわみず洗出あらいだされた木目もくめの美しい木造きづくりの船、かし、竹のさおを以てする絵の如き渡船はない。
のみならず彼の勧めた林檎りんごはいつか黄ばんだ皮の上へ一角獣の姿を現してゐた。(僕は木目もくめ珈琲コオヒイ茶碗の亀裂ひびに度たび神話的動物を発見してゐた。)一角獣は麒麟きりんに違ひなかつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしが見たのは江戸の末で、慶安当時から二百年も経っていましたから、自然に板の木目もくめが高く出て、すこぶる古雅に見えました。さてその絵馬について、こんなお話があるんですよ。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
じつながめる、と鳥居とりゐはしらなかへ、をんな姿すがたいてうつる……木目もくめみづのやうにはだまとふて。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それがほかならぬ麻雀牌マアジヤンパイのあの木目もくめたいしてといふだけにまつたおどろかずにはゐられない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
根付けの木の札の木目もくめから、鍵の大きさ、重さ、それを吊つた麻紐のよりの具合まで。
横町はお岩稲荷へお百度を踏みに来る藝者の行来に、昨日見た時よりも案外賑になまめかしく、両側に立ちつゞく人家の中には木目もくめの面白い一枚板をつかつた潜門くゞりもんに見越しの松なども見える。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「そんなものはありゃしませんよ。台座は木目もくめがきちんとして、継目も合せ目もないし、仏体ものみの跡が揃って、種も仕掛けもありません。何でも名人の作で、たいそう良いものだということですが」