木樵きこり)” の例文
「——山へ」と、眼を上げたが、意地わるく、胃のは空になっていた、それに、炭焼や木樵きこりまで、自分の顔を知らない者はない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はキャンプを張り、幾週間も山中で起きしていた。あたりはかなり深い山懐で、木樵きこりも見かけず、猟師にさえ会わなかった。
孫晋泰君の集めた朝鮮民譚みんたん集七四頁に、木樵きこりが山中で追われて来た鹿を救うと、それは山神の鹿の姿をしているのだったという話がある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こう云って二人の侍は、女のような木樵きこりと三匹の犬とをさも莫迦ばかにしたように見下みくだしながら、途を急いで行ってしまいました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山男はひとりでこんなことを言ひながら、どうやら一人ひとりまへの木樵きこりのかたちに化けました。そしたらもうすぐ、そこが町の入口だつたのです。
山男の四月 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
たまには木樵きこり猟人かりうどがその光る石の所在を知っておってもよかりそうに思われるが、それが必ず炭焼であるには理由がある。
其処そこ魔所ましよぢやとたかい。時々とき/″\やまくうつてしんとすると、ころころとさいげるおと木樵きこりみゝひゞくとやら風説ふうせつするで。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「昔、晋に王質という木樵きこりがあった。或日、山へ行ったら、童子どうじが数名碁を打っていた。王質はおのを置いて勝負を見物し始めた。あの絵は然うだろう?」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
申上度さ、それにお鳥殿に逢い度いばかりに、五年の間、岩吉という木樵きこりを尋ね、源太夫という軽業師を
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その月の光が四辺あたりに拡がったかと思うと、その光の中から湧いて出たように黒い影が現れた。木樵きこりらしい男だった。その男は周章あわてたようにして怪量の傍へった。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これは木樵きこりではありません。あたりまえのお百姓が農閑を見はからって、自分の持山か、或いは人の持山から上木うわきを買取って、それをこなしているだけのものです。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
およそ人の訪れといっては、たまに木樵きこりの木を伐る音と、木から木へ渡り歩く猿の声のみであった。
一番奥まった大きな小屋で、木樵きこり稼業で日本を渡り歩く四十男とその女房が、登山者の来訪にけげんなひとみを向けながら菜っ葉のつけものでお茶をすすめてくれた。
二つの松川 (新字新仮名) / 細井吉造(著)
三国ヶ嶽のふもとに、木樵きこり猟人かりうどのみ知る無蓋自然の温泉いでゆで、里の人は呼んで猿の湯という。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼はコネティカット州の生れだったが、その州はアメリカじゅうに森林の開拓者はもちろん学問の開拓者も供給し、毎年大ぜいの木樵きこりを辺境におくり、教師を田舎に出している。
根雪ねゆきになると彼れは妻子を残して木樵きこりに出かけた。マッカリヌプリのふもと払下はらいさげ官林に入りこんで彼れは骨身を惜まず働いた。雪が解けかかると彼れは岩内いわないに出て鰊場にしんばかせぎをした。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
山路にかかって来ると路は思いの外によい路で、あまり林などはないから麓村ふもとむらなどを見下して晴れ晴れとしてよかった。しかし人の通らぬ処と見えて、旅人にも会わねば木樵きこりにもわぬ。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
苗字みょうじのないという子がいるので聞いてみると木樵きこりの子だからと言って村の人は当然な顔をしている。小学校には生徒から名前の呼び棄てにされている、薫という村長の娘が教師をしていた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
少くも五十丁はあるべしといふ、木樵きこりか炭燒の外には、通ふものなしとさへ聞きつれば、かゝる時こそ道案内の要はあれと、旅になれて覺えしほどを茶盆の上に置き、案内一人ひとり頼みたしといへど
山家ものがたり (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あたかもそこへ来かかった木樵きこりにたのんで、赤児を木の上から取りおろしてもらって、ともかくもここまで抱いてきたが、長い旅をする尼僧の身で、乳飲み子をたずさえていては甚だ難儀である。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ときどき気がくるって渓流のなかへ飛びんではののしりわめいているという木樵きこりの妻とその小娘の話、——そういうような人達のとりとめもない幻像イマアジュばかりが私の心にふとうかんではふと消えてゆく……
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
役人と、役人の周囲にいる木樵きこり、百姓が、一時に、女狩の顔をみた。
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それは一八二四年にアルダンの一人の木樵きこりがすばらしく大きな一本の樫の木を伐り倒した。その幹の中に、生贄いけにえの瓶と、古い貨幣が見出された。此の古い樫は千五百年か千六百年の間生きてゐたのだ。
谷間に繁る森の中、木樵きこりの群の丁々の
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
木を伐っている二人の木樵きこり
畳まれた町 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは木樵きこりでありました。
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
わか木樵きこり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
山男はひとりでこんなことを言いながら、どうやら一人ひとりまえの木樵きこりのかたちに化けました。そしたらもうすぐ、そこが町の入口だったのです。
山男の四月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼は、山伏のすがたではまずいと考えた。おいや杖や服装をすっかり解いて、木樵きこりか農夫かと思われるように身装みなりを代えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女のような木樵きこりと一しょに、たくましい黒犬に跨って、空から舞い下って来たのですから、その驚きと云ったらありません。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
(梢より先ず呼びて、忽ち枝より飛びくだる。形は山賤やまがつ木樵きこりにして、つばさあり、おもて烏天狗からすてんぐなり。腰に一挺いっちょうおのを帯ぶ)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近くは天明の初年に、上州伊香保いかほ木樵きこり、海尊に伝授を受けたと称して、下駄灸げたきゅうという療治を行ったことが、『翁草おきなぐさ』の巻百三十五にも見えている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たまには木樵きこり猟人かりうどがあっても、或いは時に山越えの途に迷った商人が偶然発見した場合があってもよさそうに思われるが、それが必ず炭焼であるから面白い。
岩蔭からころがり出した猟師の惣太。一行はきっと足をとどめて、従卒は鉄砲の筒を向けてみましたが、用心するほどの者ではない、いやしげな木樵きこり山がつのたぐいがたった一人。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
多摩川たまがわべりになった調布ちょうふの在に、巳之吉みのきちという若い木樵きこりがいた。その巳之吉は、毎日木樵頭さきやま茂作もさくれられて、多摩川の渡船わたしを渡り、二里ばかり離れた森へ仕事に通っていた。
雪女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
病気がややよくなって、峻は一度その北牟婁ムロの家へ行ったことがあった。そこは山のなかの寒村で、村は百姓と木樵きこりで、養蚕ようさんなどもしていた。冬になると家の近くの畑までいのししが芋を掘りに来たりする。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しかし二人の侍は、こんな卑しい木樵きこりなどに、まんまと鼻をあかされたのですから、うらやましいのと、ねたましいのとで、腹が立って仕方がありません。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
炭焼や、木樵きこりや、見知らぬ者に会っても、粂之介はすぐお道化どけた。山中なので、怖がってみんな逃げ出してしまう。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風波の恐怖おそれといってはほとんどありません——そのかわり、山の麓の隅の隅が、山扁のぐうといった僻地へきちで……以前は、里からではようやく木樵きこりが通いますくらい
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
農工商、或いは山方やまかたへ出入りの木樵きこり炭焼すみやきで、詩を吟じて歩くようなものはないはず。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紀州の高野こうやの麓の鞆淵ともぶち村あたりでは、昔木樵きこりがあって三人の男の子を持っていた。
その時谷地の南の方から一人の木樵きこりがやって来ました。
土神と狐 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
木樵きこりや炭焼き小屋をうかがっては、持ちあわせの物代ものしろを食にえて来たり、野葡萄のぶどうだのあけびのツルなども曳いて、かつて九重ここのえの大膳寮では見もされぬ奇異な物も
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かばん脊負しよつてたのは木樵きこり権七ごんしちで、をとこは、おうら見失みうしなつた当時たうじ、うか/\城趾しろあと徉徜さまよつたのを宿やどつれられてから、一寸々々ちよい/\ては記憶きおくうちかげあらはす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこで改めて考えて見るべきは、山丈やまじょう山姥やまうばが山路に現われて、木樵きこり山賤やまがつ負搬ふばんの労を助けたとか、時としては里にも出てきて、少しずつの用をしてくれたという古くからの言い伝えである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その時谷地の南の方から一人の木樵きこりがやって来ました。
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ただの百姓家か木樵きこりの小屋でもあれば、暫時ざんじの休息も頼めるし、稗粥ひえがゆの無心ぐらいはきいてもくれるであろうが、旅人を相手に商売している茶店では、一ぱいの茶も
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とぼ/\と辿たどるうち、人間の木樵きこりつた。木樵は絵の如くおのを提げて居る。進んで礼して、城下を教へてと言つて、道案内みちあんないを頼むと、城下とは何んぢやと言つた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
木樵きこり猟人かりうどがおのおのその道によって拝んだほかに、野を耕す村人等は、春は山の神里に下って田の神となり、秋過ぎて再び山に還りたもうと信じて、農作の前後に二度の祭を営むようになった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
けれども木樵きこりには土神の形は見えなかったのです。
土神と狐 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)