是丈これだけ)” の例文
吾儕われ/\事業しごと是丈これだけに揚つて来たのも、一つは君の御骨折からだ。斯うして君が居て下さるんで、奈何どんなにか我輩も心強いか知れない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
書附けると云う馬鹿はせぬなら、此曲者は無論藻西で無いと思わねばならぬ、是丈これだけは誰も異存の無い所だから、此断案だんあんは両君何と下さるゝか
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
其辺は営業上の関係で、著作者たる余には何等の影響もない事だから、それもかろうと同意して、是丈これだけを中篇として発行する事にした。
わたくしおもふには、是丈これだけぜにつかふのなら、かたをさへへれば、こゝに二つの模範的もはんてき病院びやうゐん維持ゐぢすること出來できるとおもひます。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ある評家は胡麻塩頭のアカデミシヤンが是丈これだけ涙つぽい戯曲を書いた事は近頃の成功だとなかば冷笑的ではあるがめて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今こそ、予に残っているものは、唯一つ“創作の歓び”是丈これだけだ。予は最後の宝玉を、(然も自分の血液に等しく、死を以っても手放すことは出来ぬ宝玉を)
是丈これだけあがったって手習丈の物はなくても宜いから無闇に手間賃を出してお遣んなさいよ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
是丈これだけは本当の事だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
頁が足らんからと云うて、おいそれとかめからい上る様では猫の沽券こけんにも関わる事だから是丈これだけ御免蒙ごめんこうむることに致した。
随分如何いかゞはしい飜刻物ほんこくものまじつて居るが、是丈これだけ多数に蒐集せられたところは英仏は勿論本国の日本にも無い事である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
外部ぐわいぶだとか、内部ないぶだとか……。いやわたくしには然云さういことすこしもわからんです。わたくしつてゐることたゞ是丈これだけです。』と、かれ立上たちあがり、おこつた院長ゐんちやうにらける。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夫婦ふうふ坂井さかゐとは泥棒どろぼう這入はいらないまへより、是丈これだけしたしみのしたやうなものゝ、それ以上いじやう接近せつきんしやうとねんは、宗助そうすけあたまにも御米およねむねにも宿やどらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
試みにこの日本まちはひつて見るなら、彼等の微力でもつて善く是丈これだけの日本品を取寄せ、不自由な材料をもつたくみに日本風の設備を為し得た事だと誰も感じるであらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
きみ彼等かれらしんじなさるな。うそなのです。わたし病氣びやうきふのはそも/\うなのです。二十年來ねんらいわたしまちにゐてたゞ一人ひとり智者ちしやつた。ところれは狂人きちがひるとふ、是丈これだけ事實じゝつです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
余は出版の時機におくれないで、病中の君の為に、「土」に就いて是丈これだけの事を言い得たのを喜こぶのである。
もしトライチケの名がニーチエやヘーゲルと同じ意味に於て此戦争の引合ひきあひに出るならば、自分は少なくとも是丈これだけことあたまのうちに入れて置く方が便利だと考へる。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
じつを云ふと、二百円は代助に取つて中途半端ちうとはんぱたかであつた。是丈これだけ呉れるなら、一層いつそ思ひ切つて、此方こつち強請ねだつた通りにして、満足を買へばいゝにと云ふ気もた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし自分の考ではもう少し書いた上でと思って居たが、書肆しょししきりに催促をするのと、多忙で意のごとく稿をぐ余暇がないので、差し当り是丈これだけを出版する事にした。
是丈これだけの関係を明かにすると、自分の癖として、又根本問題に立ち返つて、質問がおこしたくなる。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さうして其中そのなか細長ほそながはりやうなものをとほしては、其先そのさきいでゐたが、仕舞しまひいとほどすぢして、神經しんけい是丈これだけれましたとひながら、それを宗助そうすけせてれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「然し是丈これだけぢや、まだ風説ぢやないか。いよいよ発表になつて見なければわからないのだから」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけ男丈をとこだけおもつてつて仕舞しまつた。けれども是丈これだけでは御米およねこゝろつくしてゐなかつた。御米およね返事へんじもせずに、しばらくだまつてゐたが、ほそあごえりなかめたまゝ上眼うはめ使つかつて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分は点頭録てんとうろくの最初に是丈これだけの事を云つて置かないと気が済まなくなつた。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
傾向小説、理想小説、浪漫派小説、写実派小説、自然派小説などと云うのは、皆在来の述作を材料として、其著るしき特色を認めるに従ってこれを分類したまでである。種類は是丈これだけで尽きたとは云えぬ。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
虚子の小説を評するにあたっては是丈これだけの事を述べる必要があると思う。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
所謂いわゆる二種の小説とは、余裕のある小説と、余裕のない小説である。ただ是丈これだけではほとんど要領を得ない。のみならず言句にまつわると褒貶ほうへんの意をぐうしてあるかの様にも聞える。かたがた説明の要がある。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)