かわ)” の例文
それを聞いて、豊世はお雪と微笑えみかわした。名古屋から送るべきはずの金も届かないことを、心細そうに叔父叔母の前で話した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかるに物かわり時移るに従ひ、この記念的俳句はその記念の意味を忘られて、かへつて芭蕉集中第一の佳句と誤解せらるるに至り、つい臆説おくせつ百出
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そのかわりおれいは二まではずもうし、羽織はおりもおまえ進呈しんていすると、これこのとおりお羽織はおりまでくだすったんじゃござんせんか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その顔にはなんという合図あいずの表情も見えなかった。彼女は仕方なしにお秀を送って階子段はしごだんを降りた。二人は玄関先で尋常の挨拶あいさつかわせて別れた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「喜八郎と入れかわったのだよ、喜八郎は百人町の百兵衛のところにとまって、俺は此処へ戻って来たまでのこと、喜八郎の声色こわいろを使うのに骨を折ったぞ」
人智じんちなるものが、動物どうぶつと、人間にんげんとのあいだに、おおいなる限界さかいをなしておって、人間にんげん霊性れいせいしめし、程度ていどまで、実際じっさいところ不死ふしかわりをしているのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あまり談話の長きにお登和嬢気が気でなし「兄さん、早く召し上りませんとゼリーがけ出しますよ」中川「オヤ何時いつの間にかお皿がかわっているね、大原君、 ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
... 読んでいたらいいじゃないかね。海の上へ出ると気がまたからりとかわるものだから」そして「おおい! ここへ茣蓙ござを敷いて、栗の罐詰と酒を持って来てくれないか」
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
橋がペンキぬりになって、黒塀が煉瓦れんがかわると、かわず、船虫、そんなものは、不残のこらず石灰いしばいで殺されよう。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
でも、私あの方と青木さんとが、こうした物を、お取りかわしになっていようとは、夢にも思いませんでしたわ。屹度きっと誰方どなたにも秘密にしていらしったのでございましょう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして、また別な号外売りがあとからあとへと、かわかわり、表通おもてどおりを流していった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、病み衰えた顔に淋しい微笑を浮べ、梶棒かじぼうの上ると共に互に黙礼をかわしてわかれた。暫らくは涙ぐましく俥の跡を目送みおくったが、これが紅葉と私との最後の憶出おもいでの深い会見であった。
さしかわる番組と、登場者の風俗と、それに伴奏するさまざまの楽器の音と、使用の装飾の道具類とが、見るもの、聞くもの、異常の刺戟でないということはなく、その眩惑げんわくのために
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
星移れば物かわりて人情もまた従つて同じからず。吉原のおいらんを歌舞の菩薩ぼさつと見てあがめしは江戸時代のむかしなり。芸者をすいなり意気いきなりと見てよろこびしも早や昨日の夢とやいふべき。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
地上はすべて新緑である、あまり葉のかわらない松柏しょうはくさえも、目立って若々しい。桃色や青白い大きい、様々な花が、眼の前に、まだハッキリと見えるが、遠方はとぎれとぎれのもやおおわれている。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
袈裟けさ あらたかわる 兗龍こんりゅうほう
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三吉を前に置いて、橋本親子はこんな言葉をかわした。ようやくお種は帰郷の日が近づいたことを知った。その喜悦よろこびを持って、復たお雪の方へ行った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし咄嗟とっさの電火作用は起ると共に消えたので、二人は正式に挨拶あいさつかわすまで、ついに互を認め合わなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのかわり、弟子にはしねえその換り、お前さんが何か書き物をしたら、見てくれろというんなら、必ず見てもあげるし、遠慮のない愚見も述べて進ぜる。
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのかわり少しばかり、重い荷を背負しょわして上げるから、大事にして東京まで持って行きなさい。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
非人ひにんて、死者ししゃや、あしとらえてあななか引込ひきこんでしまうのだ、うッふ! だがなんでもない……そのかわおれからけてて、ここらの奴等やつら片端かたッぱしからおどしてくれる
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
兄はたゞ一人の妹を愛した。ことに父と不和になってから、肉親の愛をかわし得るのはたゞ妹だけだった。妹もたゞ一人の兄を頼った。父からは、得られない理解や同情を兄から仰いでいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それほどまでにいうんなら、仕方しかたがない、あずかろう。そのかわり、太夫たゆうりにたにしても、もう二ふたたすことじゃないから、それだけはしかねんしとくぜ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
この景色に舞台がかわって、雪の下から鴛鴦おしどりの精霊が、鬼火をちらちらと燃しながら、すっと糶上せりあがったようにね、お前さん……唯今の、その二人のおんなが、わっしの目に映りました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人の日本人が倫敦ロンドンの山の手の、とある小さな家に偶然落ち合って、しかも、まだ互に名乗なのかわした事がないので、身分も、素性すじょうも、経歴も分らない外国婦人の力をりて
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな言葉を奥さんとかわした後、先生は高瀬と一緒に子供の遊んでいる縁側を通り、自分の部屋へ行った。庭の花畠に接した閑静な居間だ。そこだけは先生の趣味で清浄きれいに飾り片附けてある。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それとも物質ぶっしつ変換へんかん……物質ぶっしつ変換へんかんみとめて、すぐ人間にんげん不死ふしすとうのは、あだか高価こうかなヴァイオリンがこわれたあとで、その明箱あきばこかわって立派りっぱものとなるとおなじように、まことわけわからぬことである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
我々の個性が我々の死んだのちまでも残る、活動する、機会があれば、地上の人と言葉をかわす。スピリチズムの研究をもって有名であったマイエルはたしかにこう信じていたらしい。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな言葉をかわしながら、姑と嫁とは宿の方へ帰って行った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「見えて? 少しこことかわってあげましょうか」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)