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軒かたむいたごとから逃げ惑って行ったらしい嬰児あかごのボロれやら食器の破片などが、そこらに落ちているのも傷々いたいたしく目にみて
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唐国に使いして多くの文書宝物を得て帰った吉士長丹きしのちょうたんの労をよみして位をのぼし、ほう二百を給し、呉氏くれうじの姓を賜わった如きは、唐国をクレと称し
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
林太郎りんたろうの村も、このふるい歴史をもった村のひとつでした。湖の南の岸の丘の上にあって、戸数こすうは五十ばかりでした。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
深く年来としごろの不孝を悔いて、せめて跡に残った母だけには最う苦労を掛けたくないと思い、父の葬式を済せてから、母を奉じて上京して、東京で一を成した。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
此村ここにはいささかながら物を売るみせも一二けんあれば、物持だと云われているうちも二三はあるのである。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
やがて此報知しらせが上田の町家ちやうかから戸へ伝へられると、その夜の静かに燃える洋燈らんぷの下では、すべての人々がすべての理由を忘れて父の立派な行為を語り合つた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
社会の上層に浮き上らない戯曲がほとんどごとに演ぜられていると云うような事実を敬太郎に告げた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
支那商業団体の各路商会聯合会、納税華人会、総商会の総ては、一致団結して罷市ひし賛成に署名を終えたのだ。学生団はごとの商店を廻り歩いて営業停止を勧告した。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
三一てきすべからねば、おそらくはうけがひ給はじ。媒氏なかだちの翁ゑみをつくりて、大人うしくだり給ふ事甚し。
ユイのじっさいを今すこしくわしく言って見ると、たとえばここに三町歩ちょうぶとか四町歩とか、ちょうどふつうの家の屋根が二葺けるだけの、萱の生える共有地があるとする。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
京大坂の方面から街道を下って来る旅人の話もごとに神棚かみだなをこしらえ、拾ったお札を祭り
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今の徳さんには入院料を支弁する力もない。さりとて仮りにも一を持っている者の家族には施療せりょうを許されない規定になっているので、徳さんはとうとうその家を売ることになった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
疱瘡ほうそうをつかさどる神さまがあって、その神様がいかって疱瘡をはやらせになるから、疱瘡にかからぬようにするには、疱瘡神ほうそうがみをおがめばよいといって、ごとに祭ったものであります。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ちょっと本筋へはいる前にその一例を挙げておきましょう。わたしの宿の主人の話によれば、いつかこがらしはげしい午後にこの温泉町を五十ばかり焼いた地方的大火のあった時のことです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
われく。——正始せいしとき中山ちうざん周南しうなんは、襄邑じやういふちやうたりき。一日あるひづるに、もん石垣いしがき隙間すきまから、大鼠おほねずみがちよろりとて、周南しうなんむかつてつた。此奴こいつ角巾つのづきん帛衣くろごろもしてたとふ。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
子供こどもはなんといわれても、これにたいしておこることもできずに、じいいてまちなかごとにたたずみながらあるいてゆきました。そしてあるみせまえっていると、そのみせ主人しゅじんはまた
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
矯首はじめて見る故園の家黄昏こうこんる白髪の人弟を抱き我をまつはるまたはる
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
其江戸の元日をきけ縉紳朱門しんしんしゆもんことはしらず、市中しちゆうは千もん千歳ちとせの松をかざり、すぐなる 御代みよの竹をたて、太平の七五三しめを引たるに、新年しんねん賀客れいしや麻上下のかたをつらねて往来ゆきゝするに万歳もうちまじりつ。
庭清水藤原村の七ばん 子規
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ところが、すでにその寸前、街道わきの緑蔭静かな一の垣の網代戸あじろどから、さッと走り出てきた田鶴たづるのごとき人品のひとがある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗い道をごとの軒燈が照らしている。その軒燈の一つの前にとまった。野々宮はこの奥にいる。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はやくどこかへいやってしまわなければならぬ、といったものもありました。子供こども毎日まいにちじいいてまちはいってきました。そしてごとの軒下のきしたにたたずんで、あわれなこえなさけをいました。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其江戸の元日をきけ縉紳朱門しんしんしゆもんことはしらず、市中しちゆうは千もん千歳ちとせの松をかざり、すぐなる 御代みよの竹をたて、太平の七五三しめを引たるに、新年しんねん賀客れいしや麻上下のかたをつらねて往来ゆきゝするに万歳もうちまじりつ。
服織はとりという二、三十山村さんそん、みな素朴そぼく山家者やまがものらしいので、その一けん伊勢いせ郷士ごうしといつわって宿やどをかりた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時には六十から一人ずつ出て、その六十人が、仕事を休んで、村のお宮へ寄って、朝から晩まで、酒を飲みつづけに飲んで、ごちそうを食いつづけに食うんだという。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ごとの燈火ともしびへ赤くかすんでいたが——そのうちにいぬいの方からぐわっと地鳴りが聞えて来たかと思うと——もう大地は発狂したかの如くれに震れ洛中の人家九万余戸
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
電気燈のまだごとにともされない頃だったので、客間にはいつもの通り暗い洋燈ランプいていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこへもって来て道路改修のコネまわしである。せまい旧街道に面している村、部落など両側のごとはまったく空箱に泥を塗って並べたような廃墟状態におかれているのだ。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「畑が青い。麦の根がよく踏んである。ごとには、糸をつむぐ音がするし、百姓は、道をゆく他国の者の贅沢ぜいたく身装みなりを見ても、さもしい眼をして、仕事の手を休めたりしない」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都の片すみでは、もう数代のおやおやを経ている中流社会の一であった。そしてこれからも、屋敷畑やしきばたけの芋のように、子蔓こづる孫蔓まごづるを幾代にも世の中へはわせて行くであろうことも確実であった。
の燈籠は一時に消え、歌舞の絃歌げんかは、阿鼻あびきょうや悲鳴に変った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)