年老としと)” の例文
時間じかんがなかつたんだもの』とつてグリフォンは、『でも、わたし古典學こてんがく先生せんせいところきました。先生せんせい年老としとつたかにでした、まつたく』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
おごりませんよ。』と言ふ富江の聲はなまつてゐる。『ホヽヽ、いくら髭を生やしたつて其麽そんな年老としとつた口は利くもんぢやありませんよ。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
年老としとった職工や女房のいるのが多かった。女工たちは所々に一かたまりになって、たゞ立っていた。女の方は別な理由はなかった。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
王は秋月ではないかと思って声をかけようとしたが、それは秋月とは違った年老としとった女であった。王は黙ってその女を見つめた。
蘇生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
年老としとったおんなは、母親ははおやであって、その子供こども戦争せんそうにいって、んだのをふかかなしんでいるからでありましょう。」とこたえました。
強い大将の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
北海道の奥には、たった一人、年老としとったお祖母様ばあさまがいらっしゃるそうですが、あまり遠過ぎて、何分急場の役には立ちません。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その婆さんもその廓へ来ていたのが、年老としとってから私の家の隠居家へ雇われていたのであった。暇さえあれば高山の町の話をして聞かせた。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
やがて年老としとった郷民でも来たら、よく水質をただした上、良い水ならゆるしてやれ。さもなくば、谷から清水を汲ませるがよい
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母親は、年老としとつた人としては、まだ物わかりのいゝ穏やかな人であつた。しかしそれでも家の中の情実に対しては多くの無駄を固持してゐた。
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
など打っている年老としとった紳士も二、三人紛れ込んでいたが、その心持は、周囲の学生連と大した相違はなさそうに見えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いつも桂子の家に手伝いに来ているオバさんの年老としとった夫。私は、桂子に万一のことでもあったのかと、ギョッとして一度に目が覚めてしまう。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
『あ、とうとうだ。』とたれかが叫んでいた。おかしいのはねえ、列のまん中ごろに一人の少し年老としとった人が居たんだ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
垣越しに隣の寺に、年老としとった和尚さんが庭掃除をしていられるのが見えた。私はていねいに挨拶をした。和尚さんは垣のそばへやって来て言った。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私はもう四十だ。さらでも早く年を取る女の事、私は昔馴染なじんだ女の年老としとつたのを見るに忍びない氣がする。強ひても見たくないと思つてゐる………
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
私は、長い間、書面を調しらべた。筆蹟は、年老としとつた婦人のものらしく舊式で、どちらかと云へば覺束おぼつかない方であつた。この條件コンデイションはまづ申分がなかつた。
「……まさか……。そんな事が出来るもんですか。現在いま附き添っているのは年老としとった女中頭が一人と、赤十字から来た看護婦が二人と、都合四人キリよ」
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
し手にして居る羽扇が無かったら、武装して居る天使の図そっくりだ。彼女の面長で下ぶくれの子供顔は、むしろ服装に負けて居る。つれの男は年老としとった美男だ。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうして、若い娘と若い男二人がその奇抜な新宅の設備にかかっている間に、年老としとった方の男一人は客車の屋根の片端に坐り込んで手風琴てふうきんを鳴らしながら呑気のんきそうな歌を唄う。
鴉と唱歌 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もっとも、この戸川さんから来た狆は大分年老としとっているので血気さかんというのでないから、その故もあるか、私たちが狆らしい狆だと思う種類とは掛け離れたものに見えます。
それには年老としとった主人夫婦も当惑して「それでは今晩一晩だけだったら都合しましょう」
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
お爺さんは、アムブロアジヌお婆あさんの年老としとつたつれあひです。アムブロアジヌお婆あさんは家の中の事によく気をつけてゐますし、ジヤツク爺さんはまた畑や家畜の面倒を見ます。
中に一人年老としとれるはすなはち先きに篠田長二の陋屋ろうをくにてる人となれる渡辺の老女なり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
村の者も今迄はかてえ人だったが、う言う訳だがな泊り歩くが、役柄もしながらハアよくねえこッたア年老としとった親を置いて、なんて悪口わるくちく者もあるで、なるだけ他人ひとには能く云わしたいが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こんな状態ではと、わたしはその時既にひそかに思つたのだ。聟が第二の息子むすことなつて、年老としとつて行く義父に涙のこぼれるやうな世話をしてくれる。かういふ美しい光景をわたしは幾つか見て来た。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
入って行くとすっかり年老としとって見ちがえてしまったバンカラの唐茄子が知らない男と獅子をつかっている。楽屋で時々「めでたいめでたい」というような声をかけるのがひどく古風でおもしろい。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
年老としとった婢は何人だれか来たとは知っていたが、めんどうだから知らないふりをしていたところで、名を呼ばれたので顔をあげた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「……どうしましょう。寺には、年老としとった方丈様と、小坊主ばかりで、力の強い寺男は、風邪をひいて、せっているし……」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、さびしい、室の裡に物思いに沈んで、じっと下を見つめて、何事をか考えている、青い顔の年老としとった女があろう。
夕暮の窓より (新字新仮名) / 小川未明(著)
さして年老としとっているというでもない。無論明治になってから生れた人であろう。自分は何の理由もなく、かの男は生れついての盲目ではないような気がした。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あなたは、先頃の明るさにひきかえ、一夜の中に、みにくく、年老としとって、なにか人目をじ、泣いたあとのような赤い眼と手にしわくちゃの手巾ハンカチを持っていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
本当に、何んて云ひ草だい! 年老としとつた私がこれから先き幾年生延びると思ふの。明日にもどうか分らないものを捕へて、俺をあてにするななんてよく云へた。
惑ひ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
けれども、半日まるっきり人にも出会であわないそんなたびでしたから、私は食事がすんでも、すぐに泉とその年老としとった巡礼とから、わかれてしまいたくはありませんでした。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
間もなく福富は先刻さつきの葉書を持つて来て甲田のつくゑに置いて、『年老としとつた人は同情がありませんね。』
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
校長先生かうちやうせんせい年老としとつた海龜うみがめでした——わたしどもは先生せんせいかめ先生せんせいらしてゐました。——
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
お祭をりましたが、一人息子に死なれた年老としとつた両親ふたおやは、稼人かせぎてが無くなつたので、地主から、田地を取り上げられる、税を納めねいので、役場からは有りもせぬ家財を売り払はれる
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そこは小林のめかけの身続きにあたる、ある勤め人の年老としとった夫婦ものであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
此上このうえ寂しいあき屋敷にいるより、思い切って、北海道の奥の年老としとったお祖母様ばあさまの許へ行こう、麗子は悲しくもう決心して、そっとやしきを抜け出し、上野停車場へ行こうとして居るところだったのです。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「またくるがいい。今日きょうは、これでおかえり。あめっているようだから、この子供こどもに、いえまでおくらせよう……。」と、年老としとった、社長しゃちょうはいいました。
新しい町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
父の与次右衛門は年老としとっておることゆえ、自分を代りに召連れて給われと、われら同志の者へっての頼みでした。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このはなしは一どういちじるしき感動かんどうあたへました。なかには遁出にげだしたとりさへあり、年老としとつた一かさゝぎ用心深ようじんぶかくも身仕舞みじまひして、『うちかへらう、夜露よつゆ咽喉のどどくだ!』としました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
今から廿年ばかり前に、北九州の或村はづれに一人の年老としとつた乞食が、行き倒れてゐました。
火つけ彦七 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
「好きは好きだが、毎晩、一合のおしきせがやっとだよ、もう弱ったね、年老としとったからなあ」
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
泣いてやんで悲しんで、ついには年老としとる、病気になる、あらんかぎりの難儀なんぎをして、それで死んだら、もうこの様な悪鳥の身を離れるかとならば、仲々そうは参らぬぞや。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
年老としとつた兩親と、若い妻と、妹と、生れた許りの女兒と、それに渠を合せて六人の家族は、いかに生活費のかゝらぬ片田舍とは言へ、又、儉約家の母親がいかにしまつてみても
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
界隈かいわいに幅を利かしているというそこの年老としとった主、東京に芸者をしていたことがあるとか言ったその後添いの婆さん、仲人の口にだまされて行ったお銀が、そこにいた四ヵ月のあいだのいろいろの葛藤かっとう
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
此様こんな年老としとつた上に、逆事さかさまごとなど見せて呉れない様にの——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
年老としとったは、かわいらしい子供こどもたちに、こんなことをされるのが、さもこのうえもなくうれしそうでありました。
学校の桜の木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ははは、よくよく、りたな。だから、云わんことじゃない。惚れるなら、吾々のような、野暮な用人とか、年老としとったお留守居役に、惚れるものだと」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
受附の年老としとつた役人はさも横風おうふうに龍子の顔を睨みつけた。広い室の中に縦横に置かれた大きな机の前の彼方此方の顔が物珍らしさうに龍子の顔を老人の肩越しに覗いてゐた。
監獄挿話 面会人控所 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
これは土地の者の斎藤といふ年老としとつた首座教員と智恵子と富江の三人は、それ/″\村内むらうちに受持を定めて、兎角乱れ易い休暇中の児童の風紀の、校外取締をすることになつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)