“嬢(じょう)” の例文
旧字:孃
ほんとうに、平常(へいぜい)は、そんな不安(ふあん)も感(かん)じないほど、このへやの中(なか)は平和(へいわ)で、お嬢(じょう)さんの笑(わら)い声(ごえ)などもして、にぎやかであったのです。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
その頃、崖邸のお嬢(じょう)さんと呼ばれていた真佐子は、あまり目立たない少女だった。無口で俯向(うつむ)き勝(がち)で、癖(くせ)にはよく片唇(かたくちびる)を噛(か)んでいた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「君、おい君ったら」と、不意にわたしのそばで、誰(だれ)かの声がした。——「よそのお嬢(じょう)さんを、そんな風に見つめてもいいものかい?」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
青いスミレの花は、かわいらしい海軍士官の候補生(こうほせい)で、ヒヤシンスやサフランに、『お嬢(じょう)さん』と呼びかけては、ダンスにさそうんだよ。
文字通りの熱狂(ねっきょう)的な歓送のなか、名も知られぬぼくなどに迄(まで)、サインを頼(たの)みにくるお嬢(じょう)さん、チョコレェトや花束(はなたば)などをくれる女学生達。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
呆気にとられてそのまま阿母は表へでていったが、やがて仇っぽい粂三郎のお嬢(じょう)吉三(きちざ)の小さな羽子板かかえてかえってきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
あなたなんか、ヤイヤイ云われて貰(もら)われたレッキとした堅気(かたぎ)のお嬢(じょう)さんみたようなもので、それを免職と云えば無理離縁(りえん)のようなものですからネ。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
高麗村(こまむら)の御隠家様がおッしゃった。——次郎よ、道中は嬢(じょう)の体を何分たのむぞ、今年は、おまえがついてゆく番なので、わしも大きに安心じゃ——と。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さてまたかの美しき看護婦(かんごふ)ドルス嬢(じょう)にいたしましても、ここに権力(けんりょく)の残酷(ざんこく)なる命令(めいれい)を実行いたしましたあかつきには、いかにしてあの巧妙(こうみょう)なる弁舌(べんぜつ)をもって
滝田君(くん)に最後(さいご)に会(あ)ったのは今年の初夏(しょか)、丁度(ちょうど)ドラマ・リイグの見物日(けんぶつび)に新橋(しんばし)演舞場(えんぶじょう)へ行った時である。小康(しょうこう)を得(え)た滝田君(くん)は三人のお嬢(じょう)さんたちと見物(けんぶつ)に来ていた。
滝田哲太郎君 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
仙吉が臀を端折って弥造(やぞう)を拵え、職人の真似をして歩くと、信一も私も、しまいには光子までが臀を端折って肩へ拳骨を突っ込み、丁度お嬢(じょう)吉三(きちざ)のような姿をして
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こうした邪気(じゃき)が予備的に私の自然を損なったためか、または私がまだ人慣(ひとな)れなかったためか、私は始めてそこのお嬢(じょう)さんに会った時、へどもどした挨拶(あいさつ)をしました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いえ、思うとおりに事が運んだら、いずれは嬢(じょう)やとお父(とう)様を道場のほうにお迎えしようと……ほんとうにいつまでも、こんな裏長屋に置こうとは思っていなかったんですよ
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
藤本の嬢(じょう)も、二十二といや、一人前、わしは洒落れた言葉は知らんけんど、青春てら、なんとかの目ざめてらいう年頃じゃでな、ちょっと好きな男の一人や二人、ないとも限らん。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
いよいよ、大さわぎになって、ミス・ネールという金持ちのお嬢(じょう)さんは、この試合に二十万円の懸賞(けんしょう)を出すと、これまた新聞に書かせてしまった。なにしろブルは、拳闘(けんとう)の第一選手だ。
小指一本の大試合 (新字新仮名) / 山中峯太郎(著)
だから、そのお嬢(じょう)さんなんざ、年紀(とし)も違うし、一所に遊んだ事はもちろんなし、また内気な人だったとみえて、余り戸外(そと)へなんか出た事のない人でね、堅(かた)く言えば深閨(しんけい)に何とかだ。秘蔵娘(ひぞっこ)さね。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うん、どうもあぶないと僕(ぼく)も思った。こっちは止(よ)そう。とってしまおう。その辺へかくしておいてあとで我(われ)われがとったということにしてお嬢(じょう)さんにでも上げればいいじゃないか。そのほうが安全(あんぜん)だよ。」
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そこにいるお嬢(じょう)さんはねむっていらっしゃるの」
「矢走嬢(じょう)は見つかったかネ」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「このあいだいらしたお嬢(じょう)さんの、オーバーシューズは今晩(こんばん)までのお約束(やくそく)でなかったかな。」と、仕事場(しごとば)を見(み)まわして、いいました。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
内田さんや中村嬢(じょう)のなかに交ってあなたの姿もみえたとき、ぼくは心が定らないまま逃(に)げだしたい衝動(しょうどう)にかられました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
召使たちについて、お嬢(じょう)さんたちも出てきて、もみの木のおかざりを、はじめました。枝にはいろがみをきりこまざいてつくったあみをかけました。
けだし春琴は鵙屋のお嬢(じょう)様であるからいかに厳格な師匠でも芸人の児を仕込むような烈(はげ)しい待遇(たいぐう)をする訳に行かない幾分か手心を加えたのであろうその間にはまた
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうだ、氏素性(うじすじょう)も知れない婦人をと、疑ぐっておるのじゃろうが、心配するな。このお方は、つい先頃までの、この地方県城を預かっておられた領主のお嬢(じょう)さまじゃ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「知らないよ」と令嬢は剣突(けんつく)を食わせる。「ちょっと用があるから嬢(じょう)を呼んで来いとおっしゃいました」「うるさいね、知らないてば」と令嬢は第二の剣突を食わせる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「とんだことです。お嬢(じょう)さん」と、マレーフスキイはつぶやいて、真っ青になってしまった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「おいカン君、お嬢(じょう)さんがきみにきめたとさ。」
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ニーナ嬢(じょう)
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
このお嬢(じょう)さまが、ちょうど劇場(げきじょう)にきて、娘(むすめ)の踊(おど)りを見(み)ていられましたが、踊(おど)りばかりでなく、この娘(むすめ)がたいそう気(き)にいられました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
出帆(しゅっぱん)前の船に、またハワイ生れのお嬢(じょう)さん達が集まって、華(はな)やかな、幾分エロチックな空気をふりまいていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
けれども、まりは、モロッコがわの着物を着ていて、自分では、じょうひんなお嬢(じょう)さんのつもりでいましたから、そんな申し出には返事もしませんでした。
あなたは定(さだ)めて変に思うでしょう。その私がそこのお嬢(じょう)さんをどうして好(す)く余裕をもっているか。そのお嬢さんの下手な活花(いけばな)を、どうして嬉(うれ)しがって眺(なが)める余裕があるか。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「僕(ぼく)は、お別れに来たんです、お嬢(じょう)さん」と、わたしは答えた。——「たぶん、もうお目にかかる時はないでしょう。お聞きおよびのことでしょうが、わたしたちは引揚げるのです」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
また西の部族の扈家荘(こかそう)にも、飛天虎の扈成(こせい)というたいした腕前の一子やら、またその妹には、一丈(じょう)青(せい)の扈三娘(こさんじょう)といって、日月の二刀を馬上で使うという稀代(きたい)なお嬢(じょう)さんもおりますしね……
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そう、そう、今朝(けさ)、拾(ひろ)って、逃(に)がしてやったとんぼは、今夜(こんや)も、寒(さむ)いが、どうしたでしょう……。」と、お嬢(じょう)さんは思(おも)いました。
寒い日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おや、お嬢(じょう)さんに、そんなお骨折りをしていただいては、申しわけありません」
「ここ等(ら)にも大分居(お)ります。先生、あの遠山のお嬢(じょう)さんをご存知かなもし」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「嬢(じょう)が帰った心祝いじゃ。今宵は召使いたちも遊ばしてやれ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お嬢(じょう)さま、せっかくおつれもうして、あの女(おんな)のうたう子守唄(こもりうた)をおきかせすることができません。」と、おかよは、なげきました。
谷にうたう女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あぶないわ。」と、お嬢(じょう)さんたちはさけんで、あわてて火をけしました。そこでもみの木は、もうからだをふるわすこともできませんでした。こうなると、それはまったくおそろしいほどでした。
、恩としてくれるなら、逃げるついでに、このお嬢(じょう)さまを
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お嬢(じょう)さんは、人形(にんぎょう)の行方(ゆくえ)を思(おも)ったのでした。しかし、それは、どこへ、どうなってしまったものか、ほとんど想像(そうぞう)のつかないことでした。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
召使とお嬢(じょう)さんがきて、モミの木をきれいにかざってくれました。枝の上には、色紙を切りぬいてこしらえた、小さな網(あみ)の袋(ふくろ)がかけられました。見れば、どの袋にも、あまいお菓子がつまっています。
「オオ、嬢(じょう)の慰めにはよいものがある。久米之丞」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さあ、早(はや)く、お嬢(じょう)さんの留守(るす)の間(ま)に逃(に)げ出(だ)そう……。」といって、仕度(したく)をしている最中(さいちゅう)に、ふいにお嬢(じょう)さんがへやへはいってきました。
風船球の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「お嬢(じょう)さま、一匹はひきうけましたぞ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、お嬢(じょう)さんの体(からだ)のまわりをおもしろそうに飛(と)びました。けれど、遠(とお)くそこから離(はな)れて、どこへゆこうともしませんでした。
風船球の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ここに、こういう心(こころ)を愉快(ゆかい)にする、オルガンがありますよ。」と、お嬢(じょう)さんは、雑誌(ざっし)の広告(こうこく)を、まだそう年寄(としよ)りでない医者(いしゃ)に見(み)せました。
楽器の生命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
きよは、やさしいお嬢(じょう)さんのことを、国(くに)の妹(いもうと)に書(か)いて送(おく)る中(なか)へと思(おも)って、散(ち)った、真(ま)っ赤(か)なけしの花弁(はなびら)を拾(ひろ)ったのであります。
気にいらない鉛筆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これを見(み)ながら、お人形(にんぎょう)は、お嬢(じょう)さんはいま時分(じぶん)、起(お)きて、学校(がっこう)へゆく支度(したく)をなさっているだろう? などと思(おも)っていました。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)