嫁菜よめな)” の例文
第十八 嫁菜よめな飯 春になって野へ嫁菜が出ましたらやわらかい若芽を摘んで塩湯で一旦いったん湯煮て水へ二、三時間漬けておくとアクが出ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ある日学校の付近の紅梅をえがいてみたが、色彩がまずいので、花が桃かなんぞのように見えた、嫁菜よめなよもぎ、なずななどの緑をも写した。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そして、その手には、草の根を掻きわけて探した、まだ若い嫁菜よめなだの、ふきのとうだの、いろいろな菜根が小笊こざるの中へみこまれて持たれていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ北風の寒い頃、子を負った跣足はだしの女の子が、小目籠めかいと庖刀を持って、せり嫁菜よめななずな野蒜のびるよもぎ蒲公英たんぽぽなぞ摘みに来る。紫雲英れんげそうが咲く。蛙が鳴く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ふくろう木槵樹もくろじゅの梢を降りて来た。そして、嫁菜よめなを踏みながらむらが薏苡くさだまの下をくぐって青蛙あおがえるに飛びついた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その尾花をばな嫁菜よめな水引草みづひきさう雁來紅ばげいとうをそのまゝ、一結ひとむすびして、處々ところ/″\にその屋根やねいた店小屋みせごやに、おきなも、うばも、ふとればわかむすめも、あちこちに線香せんかうつてゐた。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自然にまた小池の足が速くなつて、お光は半丁ほどもおくれた。小池は嫁菜よめなの花が雜草の中に咲いてゐる路傍みちばたに立つて、素直すなほに弱い足を運んで來るお光の追ひ付くのを待つてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
菟芽子うはぎは巻二の人麿の歌にもあった如く、和名鈔わみょうしょう薺蒿せいこうで、今の嫁菜よめなである。春日野は平城ならの京から、東方にひろがっている野で、その頃人々は打連れて野遊に出たものであった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
この土筆は勿論煮てくうのであるから、東京辺の嫁菜よめな摘みも同じような趣きではあるが、実際はそれにもまして、土筆を摘むという事その事が非常に愉快を感ずることになって居る。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
女たちはさすがに驚いたらしく、あわてて彼のかたわらを飛びのいた。が、すぐにまた声を立てて笑いながら、ちょうど足もとに咲いていた嫁菜よめなの花を摘み取っては、一斉いっせいに彼へ抛りつけた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
嫁菜よめなをつんでいるのですか?」と、少年しょうねんは、みちばたのあおくさました。
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
草刈くさかりかまのがれて確乎しつかそのかぶすがつた嫁菜よめなはな刺立とげだつたえだかゝりながらしつとりとあさうるほひをおびる。れたいねにほひ勘次かんじはないた。いなごがぱら/\とあしひゞきれていねわたつてにげた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
七草に更に嫁菜よめなを加へけり
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
花は兎に角、吾儕われら附近あたりは自然の食物には極めて貧しい処である。せり少々、嫁菜よめな少々、蒲公英たんぽぽ少々、野蒜のびる少々、ふきとうが唯三つ四つ、穫物えものは此れっきりであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼の頭は嫁菜よめなの汁で染められた藍色あいいろからむしきれを巻きつけ、腰には継ぎ合したいたちの皮がまとわれていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
、西出丸の空地まで出て、懸命に摘みあつめて来たのです。——せり嫁菜よめなみつばなどを
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折々をり/\そら瑠璃色るりいろは、玲瓏れいろうたるかげりて、玉章たまづさ手函てばこうち櫛笥くしげおく紅猪口べにちよこそこにも宿やどる。龍膽りんだういろさわやかならん。黄菊きぎく白菊しらぎく咲出さきいでぬ。可懷なつかしきは嫁菜よめなはなまがきほそ姿すがたぞかし。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
嫁菜飯よめなめし 秋付録 米料理百種「日本料理の部」の「第十八 嫁菜よめな飯」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
味噌汁は三州さんしゅう味噌の煮漉にごし嫁菜よめな、二椀代ふ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼岸花と云う曼珠沙華まんじゅしゃげは、此辺に少ない。此あたりの彼岸花は、はぎ女郎花おみなえし嫁菜よめなの花、何よりも初秋のさかえを見せるのが、紅く白く沢々つやつや絹総きぬぶさなびかす様な花薄はなすすきである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かけひみづくるとて、嫁菜よめなくきひとみつゝ、やさしきひとこゝろかな、なんのすさみにもあらで、たらひにさしけるが、ひきときぎぬあゐえて、嫁菜よめな淺葱色あさぎいろえしを、菜畠なばたけ日南ひなたいこひて
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「良し。」というと、咒禁師は仰向きに嫁菜よめなの上へくつがえった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
野べの、嫁菜よめなやたんぽぽでもんで来たのか。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)