トップ
>
向側
>
むこうがわ
ふりがな文庫
“
向側
(
むこうがわ
)” の例文
寒い時分で、私は仕事机の
傍
(
わき
)
に
紫檀
(
したん
)
の
長火鉢
(
ながひばち
)
を置いていたが、彼女はその
向側
(
むこうがわ
)
に
行儀
(
ぎょうぎ
)
よく坐って、両手の指を火鉢の
縁
(
ふち
)
へかけている。
陰獣
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
しかし、彼女と並んで
向側
(
むこうがわ
)
を歩いている女が、赤い日傘をさした十五六歳の少女だと気がつくと、声をかけるのが妙にためらわれた。
次郎物語:02 第二部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
間
(
ま
)
もなく
日比谷
(
ひびや
)
の公園外を通る。電車は広い大通りを越して
向側
(
むこうがわ
)
のやや狭い街の角に止まるのを待ちきれず二、三人の男が飛び下りた。
深川の唄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
今の三越の
向側
(
むこうがわ
)
にいつでも昼席の看板がかかっていて、その
角
(
かど
)
を曲ると、寄席はつい小半町行くか行かない右手にあったのである。
硝子戸の中
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
水船の舷側にヘバリ付いてブカブカ遣っていることがわかった……ちょうど
向側
(
むこうがわ
)
だったから
甲板
(
デッキ
)
の上から見えなかったんだね。
爆弾太平記
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
▼ もっと見る
其の日は洗馬に泊りまして、
翌朝
(
よくちょう
)
宿を立って、お繼が柄杓を持って向う側を流して居ると、その
向側
(
むこうがわ
)
を流して
行
(
ゆ
)
く巡礼がある。
敵討札所の霊験
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
店は
熔炉
(
ようろ
)
の
火口
(
ひぐち
)
を開いたように明るくて、馬鹿馬鹿しくだだっ広い北海道の七間道路が
向側
(
むこうがわ
)
まではっきりと照らされていた。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
両側に軒の並んだ町ながら、この小北の
向側
(
むこうがわ
)
だけ、一軒づもりポカリと抜けた、一町内の
用心水
(
ようじんみず
)
の
水溜
(
みずたまり
)
で、石畳みは
強勢
(
ごうせい
)
でも、
緑晶色
(
ろくしょういろ
)
の
大溝
(
おおみぞ
)
になっている。
国貞えがく
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
蒸気車に
乗
(
のっ
)
てあの
地峡
(
ちきょう
)
を
踰
(
こ
)
えて、
向側
(
むこうがわ
)
に出て又船に乗て、丁度三月十九日に
紐育
(
ニューヨーク
)
に着き、
華聖頓
(
ワシントン
)
に
落付
(
おちつい
)
て、
取敢
(
とりあ
)
えず亜米利加の国務卿に
遇
(
あ
)
うて例の金の話を始めた。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
向側
(
むこうがわ
)
に細君を連れて腰を掛けている男が、「
却
(
かえっ
)
て一等の方が
籠
(
こ
)
んでいるよ」と、細君に話していた。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
アッと云う敵の声と同時に、
扉
(
と
)
の
向側
(
むこうがわ
)
からもアッと云う叫びが起った。
水晶の栓
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
男は
向側
(
むこうがわ
)
で体を
背後
(
うしろ
)
に寄せ掛けて、物を案じている。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
それはむしろ薄い小形の本だったので、ついほかのものの
向側
(
むこうがわ
)
へ落ちたなり埃だらけになって、
今日
(
きょう
)
まで僕の眼を
掠
(
かす
)
めていたのである。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
路地
(
ろじ
)
の
内
(
うち
)
は
寂
(
しん
)
としているので、
向側
(
むこうがわ
)
の待合吉川で掛ける電話の
鈴
(
りん
)
の
音
(
ね
)
のみならず、仕出しを注文する声までがよく聞こえる。
雪解
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
すると、墓地の
向側
(
むこうがわ
)
に
庫裏
(
くり
)
らしい建物があって、今丁度そこの入口を開いて、たれかが中へはいるところであった。
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
熟
(
じっ
)
と暮れかかる
向側
(
むこうがわ
)
の屋根を
視
(
なが
)
めて、
其家
(
そこ
)
の
門口
(
かどぐち
)
に
彳
(
たたず
)
んだ姿を、松崎は両三度、通りがかりに見た事がある。
陽炎座
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
天気はまだ少し蒸暑いが、余り強くない南風が吹いていて、
凌
(
しの
)
ぎ好かった。船宿は今は取り払われた
河岸
(
かし
)
で、丁度
亀清
(
かめせい
)
の
向側
(
むこうがわ
)
になっていた。多分増田屋であったかと思う。
百物語
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
此の人は洗馬で
向側
(
むこうがわ
)
を流して居て、宮之越で
合宿
(
あいやど
)
になった巡礼だ、其の時は怖いと思ったから言葉も掛けなかったが、何うも飛んだ災難じゃアないか、此の人は何うしたんだろう、目をまわして居る
敵討札所の霊験
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
健三は時々薄暗い
土間
(
どま
)
へ下りて、
其所
(
そこ
)
からすぐ
向側
(
むこうがわ
)
の石段を下りるために、馬の通る往来を横切った。彼はこうしてよく仏様へ
攀
(
よ
)
じ
上
(
のぼ
)
った。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ホラ御覧なさい。あすこの黒板塀が細く破れているでしょう。丁度あの
向側
(
むこうがわ
)
が人形師の安川の仕事場になっているのですよ。あなたすみませんが、暫くあすこを
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
路地の外で自動車が発動機の響を立て始めたのは、大方
向側
(
むこうがわ
)
の待合からお客が帰る処なのであろう。
雪解
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
東に向いている、西洋風の
硝子窓
(
ガラスまど
)
二つから、形紙を張った
向側
(
むこうがわ
)
の壁まで一ぱいに日が差している。この袖浦館という下宿は、
支那
(
しな
)
学生なんぞを目当にして建てたものらしい。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
小春
凪
(
なぎ
)
のほかほかとした
可
(
い
)
い
日和
(
ひより
)
の、午前十一時半頃、汽車が高崎に着いた時、彼は
向側
(
むこうがわ
)
を立って来て、弁当を買った。そして折を片手に、しばらく硝子窓に
頬杖
(
ほおづえ
)
をついていたが
革鞄の怪
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「恐れ入ります」と小野さんはちょっと笑ったがすぐ眼を
外
(
そら
)
した。
向側
(
むこうがわ
)
の
硝子戸
(
ガラスど
)
のなかに金文字入の洋書が
燦爛
(
さんらん
)
と詩人の注意を
促
(
うな
)
がしている。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「鏡をじっと見つめていると、
怖
(
こわ
)
くなりやしませんか。僕はあんな怖いものはないと思いますよ。なぜ怖いか。鏡の
向側
(
むこうがわ
)
に、もう一人の自分がいて、猿の様に人真似をするからです」
目羅博士の不思議な犯罪
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
表の
窓際
(
まどぎわ
)
まで立戻って雨戸の一枚を少しばかり引き開けて往来を眺めたけれど、
向側
(
むこうがわ
)
の
軒燈
(
けんとう
)
には酒屋らしい
記号
(
しるし
)
のものは一ツも見えず、場末の街は宵ながらにもう
大方
(
おおかた
)
は戸を閉めていて
すみだ川
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
時々はその箱火鉢の
向側
(
むこうがわ
)
にしゃがんで、世間話の一つもする。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
行き当りを見ると一間ほどの入口が明け放しになって、中を
覗
(
のぞ
)
くとがんがらがんのがあんと物静かである。その
向側
(
むこうがわ
)
で何かしきりに人間の声がする。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
二本榎高野山の
向側
(
むこうがわ
)
なる
上行寺
(
じょうぎょうじ
)
は、
其角
(
きかく
)
の墓ある故に人の知る処である。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
右手を見ると、
向側
(
むこうがわ
)
の電燈が、緋色のカーテンを、美しく照らしている。
魔術師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
上野は浅草へ行く
路
(
みち
)
である。同時に日本橋へ行く路である。藤尾は相手を墓の
向側
(
むこうがわ
)
へ連れて行こうとした。相手は墓に向側のある事さえ知らなかった。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
建物の壁は、蔭になっているけれど、
向側
(
むこうがわ
)
の月あかりが反射して、物の形が見えぬ程ではありません。ジリジリと眼界を転ずるにつれて、果して、予期していたものが、そこに現われて来ました。
目羅博士の不思議な犯罪
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
しかしこの煙りが晴れたら——もしこの煙りが散り尽したら、きっと見えるに違ない。浩さんの旗が壕の
向側
(
むこうがわ
)
に日を射返して
耀
(
かがや
)
き渡って見えるに違ない。
趣味の遺伝
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
湿
(
うるお
)
える燄は、
一抹
(
いちまつ
)
に岸を
伸
(
の
)
して、明かに
向側
(
むこうがわ
)
へ渡る。行く道に
横
(
よこた
)
わるすべてのものを染め尽してやまざるを、ぷつりと
截
(
き
)
って長い橋を西から東へ
懸
(
か
)
ける。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と云うのは、
向側
(
むこうがわ
)
に腰をかけている母が、嫂と応対の
相間
(
あいま
)
相間に、兄の顔を
偸
(
ぬす
)
むように一二度見たからである。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
戸の
向側
(
むこうがわ
)
に足音がしないから、通じないのかと思って、再び敲子に手を掛けようとする
途端
(
とたん
)
に、戸が
自然
(
じねん
)
と
開
(
あ
)
いた。自分は敷居から一歩なかへ足を踏み込んだ。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
御前のような
夷狄
(
いてき
)
は東京にゃ調和しないから早く帰れったら、
私
(
わたし
)
もそう思うって帰って行きました。どうしても、ありゃ万里の長城の
向側
(
むこうがわ
)
にいるべき人物ですよ。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
お延は隠れるように身を
縮
(
ちぢ
)
めた。それでも
向側
(
むこうがわ
)
の双眼鏡は、なかなかお延の見当から離れなかった。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
寒い時分だから池の中はただ薄濁りに
淀
(
よど
)
んでいるだけで、少しも
清浄
(
しょうじょう
)
な
趣
(
おもむき
)
はなかったが、
向側
(
むこうがわ
)
に見える高い石の
崖外
(
がけはず
)
れまで、縁に
欄干
(
らんかん
)
のある座敷が突き出しているところが
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
念のため、手を離さずに足元の様子を見ると、
梯子
(
はしご
)
は全く尽きている。踏んでいる土も幅一尺で切れている。あとは
筒抜
(
つつぬけ
)
の穴だ。その代り今度は
向側
(
むこうがわ
)
に別の梯子がついている。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
宗助は微笑しながら、
急忙
(
せわ
)
しい通りを
向側
(
むこうがわ
)
へ渡って、今度は時計屋の店を
覗
(
のぞ
)
き込んだ。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
うららかな
春日
(
はるび
)
が丸窓の
竹格子
(
たけごうし
)
を黒く染め抜いた様子を見ると、世の中に不思議と云うものの
潜
(
ひそ
)
む余地はなさそうだ。神秘は
十万億土
(
じゅうまんおくど
)
へ帰って、
三途
(
さんず
)
の
川
(
かわ
)
の
向側
(
むこうがわ
)
へ渡ったのだろう。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その時K君は地中海の
向側
(
むこうがわ
)
へ渡るんだと云って、しきりに旅装をととのえていた。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
千代子はすぐ叔母の
傍
(
そば
)
へ来て座に着いた。須永も続いて
這入
(
はい
)
って来た。そうして二人の
向側
(
むこうがわ
)
にある涼み台みたようなものの上に腰をかけた。清もおかけと云って自分の席を
割
(
さ
)
いてやった。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
かみさんは、いつの
間
(
ま
)
にか盆を拭いてしまって、菓子台の
向側
(
むこうがわ
)
に立っている。自分は不意と眼を上げて神さんを見た。すると神さんは何と思ったか、いきなり、
節太
(
ふしぶと
)
の手を皿の上に
翳
(
かざ
)
して
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ぽつりぽつりと
窓硝子
(
まどガラス
)
を打つたびに、点滴の
珠
(
たま
)
を表面に残して砕けて行く雨の糸を、ぼんやり眺めていた
四十恰好
(
しじゅうがっこう
)
の男が少し上半身を前へ
屈
(
かが
)
めて、
向側
(
むこうがわ
)
に
胡坐
(
あぐら
)
を
掻
(
か
)
いている
伴侶
(
つれ
)
に話しかけた。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
向側
(
むこうがわ
)
を見ると
青嶋
(
あおしま
)
が浮いている。これは人の住まない島だそうだ。よく見ると石と
松
(
まつ
)
ばかりだ。なるほど石と松ばかりじゃ住めっこない。赤シャツは、しきりに
眺望
(
ちょうぼう
)
していい景色だと云ってる。
坊っちゃん
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
やがて、山を降りて梨畠へ行こうとしたが、正門から
這入
(
はい
)
るのが面倒なので、どうです
土堤
(
どて
)
を乗り越そうじゃありませんかと案内が云い出した。余はすぐ賛成して
蒲鉾形
(
かまぼこがた
)
の
土塀
(
どべい
)
を
向側
(
むこうがわ
)
へ
馳
(
は
)
せ
下
(
お
)
りた。
満韓ところどころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
だんだん
磨
(
す
)
って少しこっち側の半径が長過ぎるからと思ってそっちを心持落すと、さあ大変今度は
向側
(
むこうがわ
)
が長くなる。そいつを骨を折ってようやく
磨
(
す
)
り
潰
(
つぶ
)
したかと思うと全体の形がいびつになるんです。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
すると
摺硝子
(
すりガラス
)
の
向側
(
むこうがわ
)
で、ちょっと明けなさいと云う声がする。
満韓ところどころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
向
常用漢字
小3
部首:⼝
6画
側
常用漢字
小4
部首:⼈
11画
“向”で始まる語句
向
向日葵
向島
向後
向脛
向背
向直
向合
向柳原
向山