トップ
>
佗
>
わ
ふりがな文庫
“
佗
(
わ
)” の例文
凡てに縁遠いような自分の姿が
佗
(
わ
)
びしく顧みられた。そして面倒くさかった。為すべきこと、在るべきことが、面倒くさかった。
生あらば
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
草庵というのも、
佗
(
わ
)
び住んだ庵で、必ず草で
葺
(
ふ
)
いた庵ではなく、
草家
(
くさや
)
というのも必ず草で葺いた家ではない。草戸もそれと同じ事である。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
互に慰めもし、慰められもしたそんな一人の姉が、
佗
(
わ
)
びしい仮住の家で、二番目の子を生んで亡くなったのは、それから間のない事だった。
姨捨
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
よし、それは養蚕期の都合によるにもせよ、また、あまりにごちゃ/\と何か強力のものからこゝへと逃れ
佗
(
わ
)
びた恰好に見受けられました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
渋谷の
淋
(
さび
)
しい奥に住んでいる詩人夫妻の
佗
(
わ
)
び
住居
(
ずまい
)
のことなどをも想像してみた。なんだか悲しいようにもあれば、うらやましいようにもある。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
▼ もっと見る
しかし自分の新らしく移った住居については何の
影像
(
イメジ
)
も浮かべ得なかった。「時」は
綺麗
(
きれい
)
にこの
佗
(
わ
)
びしい
記念
(
かたみ
)
を彼のために払い去ってくれた。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
就中此の夫人の、
佗
(
わ
)
びしい、しょざいない、泣くにも泣かれない孤独な
生涯
(
しょうがい
)
を
想
(
おも
)
うと、事実こう云う顔つきをしていたらしい気もするのである。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
彼女は、ここを立ち去る力もなく、ただ八月の月半ばまでには帰って来るであろうところの私を待ち
佗
(
わ
)
びていたのです。
赤耀館事件の真相
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
秀吉はいったい何処へ行っていたかというと、実は、城外
玉造
(
たまつくり
)
町の、狩野
永徳
(
えいとく
)
の
佗
(
わ
)
びたる住居を、訪れていたのである。
新書太閤記:11 第十一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その音は、食堂で酔いつぶれている保羅さんの寝息といっしょになって、なんともいえぬ
佗
(
わ
)
びしい
階音
(
アルモニイ
)
をつくる。
キャラコさん:05 鴎
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
世を
佗
(
わ
)
びて、風雅でもなく洒落でもなく、
詮方
(
せんかた
)
なしの裏長屋、世も宇喜川のお春が住むは
音羽
(
おとわ
)
の里の片ほとり。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
ですから、埋葬式の夜、私はまんじりともせずに、あの
電鈴
(
でんれい
)
の鳴るのをひたすら待ち
佗
(
わ
)
びておりました。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
彼は家の外に出て
俥
(
くるま
)
の姿を待った。冷えて降りだしそうな暗い空に
五位鷺
(
ごいさぎ
)
が叫んでとおりすぎる。そうして待ち
佗
(
わ
)
びていると、ふと彼は遠い
頼
(
たよ
)
りない子供の心に陥落されていた。
美しき死の岸に
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
その卑小さが私はむしろ
佗
(
わ
)
びしく、哀れ悲しむべき俗物的潔癖性であると思うが
如何
(
いかが
)
。
大阪の反逆:――織田作之助の死――
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
その開通を待ち
佗
(
わ
)
びていた邦夷の心が、阿賀妻には手に取るように
判
(
わか
)
るのだ。こんなに早く——まだ暗いうちから身支度を整えて、
足許
(
あしもと
)
の白むのを待っていた。いくらか
焦
(
じ
)
れていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
いつか
話
(
はな
)
した
錦繪
(
にしきゑ
)
を
見
(
み
)
せるからお
寄
(
よ
)
りな、
種々
(
いろ/\
)
のがあるからと
袖
(
そで
)
を
捉
(
と
)
らへて
離
(
はな
)
れぬに、
美登利
(
みどり
)
は
無言
(
むごん
)
にうなづいて、
佗
(
わ
)
びた
折戸
(
をりど
)
の
庭口
(
にはぐち
)
より
入
(
い
)
れば、
廣
(
ひろ
)
からねども、
鉢
(
はち
)
ものをかしく
並
(
なら
)
びて
たけくらべ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
浮世に
馴
(
な
)
れぬ女気に人の邪正を
謀
(
はか
)
りかね、うかとは
口
(
くち
)
を利かれねば、黙して様子を見ているうち、別室に伴われ、一人残され寝床に臥して、越方行末思い
佗
(
わ
)
び、涙に暮れていたりし折から
活人形
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
恋
佗
(
わ
)
びつつも心を貫かんとにはあらず、由無き縁を組まんとしたるよと思ひつつも、
強
(
し
)
ひて今更
否
(
いな
)
まんとするにもあらず、
彼方
(
かなた
)
の
恋
(
こひし
)
きを思ひ、こなたの富めるを
愛
(
をし
)
み、自ら決するところ無く
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
難なきもの平安なものから、茶器を取出した茶人の眼はこの上なく
慕
(
した
)
わしい。そうして「
佗
(
わ
)
び」「渋み」というが如き美の規範を、そこに定めた彼らの心には、驚くべき正しさがあり深さがある。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
かよわき身の
詮方
(
せんかた
)
もなく、案じ
佗
(
わ
)
び候ひし折柄、此程の秋の取り入れごと相済み候ひて、
稍
(
やや
)
落ち付き侍りし
今宵
(
こよい
)
の事、
彼
(
か
)
の雲井喜三郎といふ御仁、
御供人
(
おんともびと
)
も召し連れ給はず、
御羽織袴
(
おはおりはかま
)
も召されぬ
儘
(
まま
)
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
寒い冷めたい臭い茎の桶に自分から手を突込むというところに
佗
(
わ
)
びしい心持もあるが、同時に何処やら得意なところもある。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
そう云う上﨟が実際この家に宿を求め、世を住み
佗
(
わ
)
びていたかどうかを問う用はない。せっかく主人が信じているなら信じるに任せておいたらよい。
吉野葛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
閑居している
佗
(
わ
)
び牢人に、そんな生活費のいるはずはない。しかし、幸村の手から、その金銀はまた、零細な幾千人の生活費になってゆくのである。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
住み
古
(
ふ
)
るした家を引き払って、生れた町から三里の山奥に一人
佗
(
わ
)
びしく暮らしている。卒業をすれば立派になって、東京へでも引き取るのが子の義務である。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
やっとランプが
点
(
つ
)
いた。それから私達は看護婦の運んで来てくれた食事に向い合った。それは私達が二人きりで最初に共にする食事にしては、すこし
佗
(
わ
)
びしかった。
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
その間、妾は貞雄をどんなに待ち
佗
(
わ
)
びたことだろう。堪えかねた妾は幾度も、南八丈島の彼の許へ手紙を出したけれど、それは
梨
(
なし
)
の
礫
(
つぶて
)
同様で、返答は一つもなかった。
三人の双生児
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
子供のうちから真の肉
身
(
ママ
)
の親しみというものを味ったことがなく、いつも永遠の父、永遠の母というような漠然としたものを恋い
佗
(
わ
)
びている寂しい性根があるからは
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
地上の
佗
(
わ
)
びしいならわしが、さいわいに、あなたの国のならわしでもあり得ますならば、忍び得ぬ嘆きに堪えて、なにとぞ地上にとどまり下さい。償いは、私が、地上で致しましょう。
紫大納言
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
己ればかりで淋しくてならない、いつか話した錦繪を見せるからお寄りな、
種々
(
いろ/\
)
のがあるからと袖を
捉
(
と
)
らへて離れぬに、美登利は無言にうなづいて、
佗
(
わ
)
びた折戸の庭口より入れば、廣からねども
たけくらべ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
曇り勝ちで
佗
(
わ
)
びしい一週間が過ぎた。
湖水と彼等
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
年齢は老人でなくっても時代遅れの職業に携っている男というのがやはり老人同様の
佗
(
わ
)
びしい感じを抱かせるのである。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
とある四辻を
鍵
(
かぎ
)
の手に曲っている
佗
(
わ
)
びた荒壁の塀の屋根の、丸瓦の上からのぞいているうつぎの花を
眺
(
なが
)
めたとき、要は老人のこの言葉をおもい出した。
蓼喰う虫
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
話しながら、何気なしに日本橋の方へ待ち
佗
(
わ
)
びた眼をやると、今度こそたしかにそれ!
早
(
はや
)
を打たせて
四手駕
(
よつで
)
、三
挺
(
ちょう
)
、エイ、ホイとこっちへ棒を指してくる。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
宿屋に
寐
(
ね
)
ている苦しい人と、汽車で立って行く寒い人とを
心
(
しん
)
から気の毒に思った健三は、自分のまだ見た事もない遠くの空の
佗
(
わ
)
びしさまで想像の眼に浮べた。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
しかしこの事は彼女に
佗
(
わ
)
びしいとか、
悔
(
くや
)
しいとか、そう云うような感情を生じさせる
暇
(
いとま
)
は殆どなかった。一つの想念が急に彼女の心に拡がり出していたからだった。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
花ならば
饐
(
す
)
え腐った
蕾
(
つぼみ
)
の
滓
(
かす
)
、葉ならば霜に
朽
(
く
)
ち
佗
(
わ
)
びた葛の裏葉の、返して春に、よも逢う女ではあるまいと、不憫がる眼の
眇
(
すが
)
め方をするのはあまり面白いものではありません。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
いつか話した
錦絵
(
にしきゑ
)
を見せるからお寄りな、
種々
(
いろいろ
)
のがあるからと
袖
(
そで
)
を捉らへて離れぬに、美登利は無言にうなづいて、
佗
(
わ
)
びた折戸の庭口より入れば、広からねども鉢ものをかしく並びて、軒につり
忍艸
(
しのぶ
)
たけくらべ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
これが五六日も続く
佗
(
わ
)
びしさを考えていたのであったが、その晩は又ゆくりなくも十畳の座敷に妙子と二人、何年ぶりかで姉妹が
枕
(
まくら
)
を並べて横になった。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
余は犬の眠りのために
夜
(
よ
)
ごと悩まされた。ようやく寝ついてありがたいと思う間もなく、すぐ眼が
開
(
あ
)
いて、まだ空は白まないだろうかと、
幾度
(
いくたび
)
も
暁
(
あかつき
)
を
待
(
ま
)
ち
佗
(
わ
)
びた。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
柱は細く、天井は低めに、
佗
(
わ
)
びたる荒壁の小床には、
蕎麦
(
そば
)
の一輪ざしに、梨の花が一枝、投げてあった。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
が、それも年々思わしくなくなる一方で、もう米次郎には挽回の策のほどこしようもなく、とうとう
愛宕下
(
あたごした
)
の
裏店
(
うらだな
)
に退いて、余生を
佗
(
わ
)
びしく過ごす人になってしまった。
花を持てる女
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
牡蠣殻
(
かきがら
)
を載せた板屋根、船虫の穴だらけの柱、潮風に
佗
(
わ
)
びてはいるが、此の辺の漁師の親方の家とて普通の漁師の家よりはやや大型である。庭に
汐錆
(
しおさ
)
び松数本。その根方に網や
魚籠
(
びく
)
が散らかっている。
取返し物語
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
思ひ
佗
(
わ
)
び此夜寒しと寝まりけり
五百五十句
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
ひとりで帰るような
佗
(
わ
)
びしさはないけれども、幸子母子はそう長いこと滞在する筈はなく、悦子の学校が始まる頃には帰西するに違いないので、それから先
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
人通りの少ないこの
小路
(
こうじ
)
は、すべての泥を雨で洗い流したように、
足駄
(
あしだ
)
の歯に
引
(
ひ
)
っ
懸
(
かか
)
る
汚
(
きた
)
ないものはほとんどなかった。それでも上を見れば暗く、下を見れば
佗
(
わ
)
びしかった。
硝子戸の中
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
近ごろ、武人の間に、茶は非常な流行をみせていたが、公卿仲間では、晴季はじめ、とんと、こういう“
佗
(
わ
)
び”とか、“
閑寂
(
かんじゃく
)
”とかいうものに、興味をもっている者はない。
新書太閤記:11 第十一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ゆうべから待ち
佗
(
わ
)
びていた女房どもが、そのままにしてしまうのも何だからと云って、きのう飾ってあった桃の花を再び取り出してきたので、その花の一と枝を折って手にすると
かげろうの日記
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
初めはいかめしい
築地
(
ついじ
)
の邸がつゞいていたのが、だん/\みすぼらしい
網代
(
あじろ
)
の
塀
(
へい
)
や、屋根に石ころを置いた
佗
(
わ
)
びしい低い
板葺
(
いたぶき
)
の家などになったが、それも次第に
疎
(
まば
)
らに
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
自分は
佗
(
わ
)
びしい光でやっと
見分
(
みわけ
)
のつく
小桶
(
こおけ
)
を使ってざあざあ背中を流した。出がけにまた念のためだから電話をちりんちりん鳴らして見たがさらに通じる
気色
(
けしき
)
がないのでやめた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
こんな場末の
汚
(
きたな
)
い寺の、こんな苔だらけの墓の中に、おまけに生前に見たこともないような人達と一しょになって、——と云うよりも、その
佗
(
わ
)
びしい墓さえ、いまの私には、いわば
花を持てる女
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
佗
漢検1級
部首:⼈
7画
“佗”を含む語句
佗住居
佗国
佗住
待佗
門佗
佗人
跋難佗
華佗巷
華佗
思佗
心佗
佗田
佗牢人
佗波古
佗暮
佗年月
佗助