伺候しこう)” の例文
安土あづちにある三法師君さんぼうしぎみも、明けて五歳になった。この正月を迎え、そのすこやかな成長を拝すべく、年賀に伺候しこうする大名も多かった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう決心するとともに、彼はその日の昼過ぎから、ちょっと石町こくちょうまで伺候しこうしてくると同宿の二人に断って、ぶらりと表へ出た。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「実は僕も今会社から帰りがけですがね。どうも暑いじゃあありませんか。——とにかくちょっと伺候しこうして来ますから。失礼」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
訪問ということにかけて異常な活躍を示したと言っても差支えなく、彼は医務局の監督から市の建設技師にまで敬意を表しに伺候しこうしたのである。
もう一度、院の御前に伺候しこうし、お別れをしたいと思いますが、おとがめをうけた身となっては、却ってご迷惑がかかってはと思うのでございますが
殿との御覽ごらうじ、早速さつそく伺候しこう過分々々くわぶん/\御召おめしの御用ごよう御用ごようだけ、一寸ちよつと世辭せじくだかれ、てしか/″\の仔細しさいなり。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼はその夜すぐに関白忠通ただみち卿の屋形に伺候しこうして、世にめずらしい才女の現われたことを報告すると、関白もその歌を読みくだして感嘆の声をあげた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この大城に詰めている者はいずれも彼の股肱ここうの臣で、もっとも毎日交替に各部落からその組頭と副組頭とが伺候しこうした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
唯この狭い密房の中より発するわが不束な口籠くちごもりならば、或は愍み給はむも知れぬ。しゆよ、かゝる老の身の予は、今こゝに白衣を着て御前に伺候しこうし奉る。
法王の祈祷 (新字旧仮名) / マルセル・シュウォッブ(著)
殿下はプラットホームにお立ちになったまま伺候しこうの人々に謁見を賜わり、お荷物の積入れが済むとぐ御乗込みになって、列車は有明駅に向って出発した。
伺候しこう奉仕するものもないような深山のやぶの下に崩御ほうぎょされていようとは、まったく思いもかけないことであった。
なおなはなだしきはおおやけに旧君の名をもって旧家来の指令を仰ぎ、わたくしにその宅に伺候しこうして依托することもあらん。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
邸の修理をすべき職人はついに来ず、杉山は圓月荘に伺候しこうするのも全く、昔の恩義に対するサーヴィスで、自分も、この歳になりながら、禿頭とくとうの汗を拭きふき
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
そのつぎの日には富田さんと家庭教師三名がうちそろって伺候しこうした。小さな扁桃腺へんとうせん一つに大きな騒ぎをする。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すなわち紹介しょうかいを求めて軍艦奉行ぐんかんぶぎょうやしき伺候しこうし、従僕じゅうぼくとなりて随行ずいこうせんことを懇願こんがんせしに、奉行はただ一面識いちめんしきもと容易たやすくこれをゆるして航海こうかいれつに加わるを得たり。
旧藩主は町の一部に、別の御屋敷おやしきをもって、一年の半ばは其処に住んでおられた。そして人々はお正月には「殿様のところへ伺候しこうする」習慣をずっと守っていた。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
丁度其時に将門もまた親王の御許おんもと伺候しこうして帰るところで、従兄弟同士はハタと御門で行逢ふた。彼方かなたがジロリと見れば、此方こちらもギロリと見て過ぎたのであらう。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
大公爵夫妻が演奏を聞きたいと思いつく時に、クリストフは宮邸に伺候しこうするようにとの命令を受けた。
たまには伺候しこうすることもあったが、帰りにいつものつぼねへは間違っても足を向けず、そっちは鬼門きもんだと、自分で自分に云い聞かして、すうっと出て来るようにしていた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はやるがんりきを控えさせて置いてから、不破の関守氏は、醍醐から帰ったはずの女王様の御機嫌伺いにと本邸の方へ伺候しこうしましたが、ほどなくわがいおりへ戻って来てから
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
れば小松殿も時頼をすゑ頼母たのもしきものに思ひ、行末には御子維盛卿の附人つきびとになさばやと常々目を懸けられ、左衞門が伺候しこうの折々に『茂頼、其方そちは善きせがれを持ちて仕合者しあはせものぞ』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
遠山は辞を低うしてそのやしき伺候しこうした種彦をば喜び迎え、昔に変らぬ剰談じょうだんばなしの中にそれとつかず泰平の世は既に過ぎ恐しい黒船は蝦夷えぞ松前まつまえあたりを騒がしている折から
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
十太夫の同勢は新規の足輕二百人に徒歩衆かちしゆう、働筒衆をあはせて三百五十人、市兵衞の一行は僅に上下三十八人である。山鹿へ著いて正勝の旅館に伺候しこうすると、正勝はかう云つた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
そのわけは、旗本の国賀帯刀くにがたてわきの前に必ず伺候しこうしなければならぬ約束があったからである。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仰せをこうむった三右衛門は恐る恐る御前ごぜん伺候しこうした。しかし悪びれた気色けしきなどは見えない。色の浅黒い、筋肉の引きしまった、多少疳癖かんぺきのあるらしい顔には決心の影さえほのめいている。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
オブライエンは今宵はじめてこの大統領私室への単独伺候しこうを許されたのであるが、入って来るがいなや、大統領のこの途方もない笑い声にぶつかって、あっけにとられたのである。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
御贔屓ごひいきになる縁の初まりで、殿様が侯爵になってからも、邸内にM屋出張所を設け、毎日店員が伺候しこうして新柄珍品を御覧に入れ、お料理してたてまつる玉子しか御承知のない、家附女房のお姫様ひいさま
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
言わぬばかりに膝こごめながら、御前の近くに伺候しこうしようとしたとき
……下総の古河で実高十二万五千石。かり伺候しこう……
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかし酔余すいよ余興よきょうに、三、四度伺候しこうしたことがある。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
第百五十二回 再び宮殿に伺候しこう
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
まだその頃、北面ほくめん伺候しこうの二十六、七の若武士にすぎなかった卜部兼好うらべかねよしには、それが初恋だった。火となって、女の許へ通った。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中にもしかく端麗なる貴女の奥殿に伺候しこうするに、門番、諸侍の面倒はいささかもないことを。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このうわさで京中はわき立ったが、御産所の六波羅の池殿いけどのには、法皇が行幸されたのをはじめとして、関白殿以下、太政大臣など官職をおびた文武百官一人ももれなく伺候しこうした。
ところが、この他ならぬ鷲が一歩その部屋を出て、自分の上役の部屋へ近づくと、たちまち鷓鴣しゃこのようになってしまい、書類を小脇にかかえたまま、鞠躬如きっきゅうじょとして伺候しこうするのだ。
故に黒田の殿様が江戸出府しゅっぷあるいは帰国の時に大阪を通行する時分には、先生は屹度きっと中ノ嶋なかのしまの筑前屋敷に伺候しこうして御機嫌ごきげんを伺うと云う常例であった。或歳あるとし、安政三年か四年と思う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ようやく二階へ伺候しこうして話を切り出したには切り出したが、金助がお銀様にあらかじめ白状してしまった要領には触れずに、巧妙ないい廻しをして味を持たせたつもりで下へおりて来ました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼が本院の館に伺候しこうした折、左大臣からあの北の方のことをいろ/\尋ねられたので、ついうっかりと、好い気になっておしゃべりをしたのが始まりであることを思えば、彼は誰を恨むよりも
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
屋の上で鴟の鳴くのは飯綱の法成就の人に天狗が随身伺候しこうするのである意味だ。旋風の起るのも、目に見えぬ眷属けんぞくが擁護して前駆ぜんくするからの意味である。飯綱の神は飛狐ひこっている天狗である。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして、前月来伜主税が逗留している石町の旅人宿小山屋に、左内の伯父と称して宿泊することになった。江戸にあった同志は、それとばかりに、人目を忍んで、かわるがわる内蔵助のところ伺候しこうした。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
改めて、客殿へ伺候しこうするとしようか
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのあいだに、好きな角力すもうを見たり、山陽、山陰その他の戦場から戻って、折々、伺候しこうする部将をねぎらっては、大いに酒宴も張り、例の
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……当日は伺候しこうの芸者大勢がいずれも売出しの白粉の銘、仙牡丹にちなんだ趣向をした。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
座敷を隔てたお銀様の間へ伺候しこうしてみたが、そこに尋ねる人がおりません。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平中が此の時平のところへしば/\伺候しこうしたのは、権門にびて出世のいとぐちつかもうと云う世間並な下心もないことはなかったであろうが、一つには此の大臣と兵衛佐とは話の馬が合うせいでもあった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
同乗するもの八人、程、しょう、楊、牛、ひょう、宋、史なり。は皆涙をふるって別れまいらす。帝は道を溧陽りつように取りて、呉江ごこう黄渓こうけいの史彬の家に至りたもうに、月のおわりを以て諸臣またようやあいあつまりて伺候しこうす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ある日弓之進が伺候しこうすると
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
義元は、戯れ顔に、そんなことをいって、近習から伺候しこうの人々にまで、残らず杯を与えて、いよいようるわしい機嫌であった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
順慶の藪原撿挍が始めて伺候しこうした頃には三十二歳だったであろう。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「で早速伺候しこうした」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)