仕合しあわせ)” の例文
これほど世の中は穏かになって来たのです。倫理観の程度が低くなって来たのです。だんだん住みやすい世の中になって御互に仕合しあわせでしょう。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時、私が水を掛ける真似まねをしたら、「いい御主人を持って御仕合しあわせ」と言って、御尻をたたいて笑った女が有ましたろう。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
丈「それが有るから斯うやって金を貸すほうで、足手あしてを運んで、雪の降るのに態々わざ/\橋のたもとまで来たのだから、本当に金貸かねかしをもって仕合しあわせではないか」
今更子供の取消とりけしも出来ないので、困つた事をしたものだと、可愛かあいらしい顔をしかめてゐたが、仕合しあわせ小才こさいの利いた男が
ところ仕合しあわせにもミハイル、アウエリヤヌイチのほうが、こんどは宿やど引込ひっこんでいるのが、とうとう退屈たいくつになってて、中食後ちゅうじきごには散歩さんぽにと出掛でかけてった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
『そう。でもまあよかった。人殺しなんかあると他のお客さんが嫌がるでしょうからね。脳溢血なら、これや仕方がないわ。こちらはまあお仕合しあわせでしたね』
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
本田のぼると言ッて、文三より二年ぜんに某省の等外を拝命した以来このかた吹小歇ふきおやみのない仕合しあわせの風にグットのした出来星できぼし判任、当時は六等属の独身ひとりみではまず楽な身の上。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私のこの性質が私を或点まではどの仕事の時にも私を仕合しあわせにしたり私に面白い目を見せて呉れたのよ。でも結局は仕事ですもの。仕事となれば何だってつらいのよ。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それより以下幾百万の貧民は、たとい無月謝にても、あるいはまた学校より少々ずつの筆紙墨など貰うほどのありがたき仕合しあわせにても、なおなお子供を手離すべからず。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何を云う? そげな事あッてよかもんか! 骨に故障が有るちゅうじゃなし、請合うて助かる。貴様は仕合しあわせぞ、命を拾うたちゅうもんじゃぞ! 骨にも動脈にも触れちょらん。
にわかにハッと顔をあからめて、我も仕合しあわせとおもい顔にニッコリ笑ッて、起ち上ろうとして、フトまた萎れて、蒼ざめて、どきまぎして、——先の男が傍に来て立ち留ってから
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
まだ仕合しあわせに足腰も達者だから、五十と声がかかっちゃあ身体からだ太義たいぎだが、こうして挊いで山林方やまかたを働いている、これもみんなすこしでも延ばしておいて、源三めにって喜ばせようと思うからさ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さては両人共崖にち候が勿怪もっけ仕合しあわせにて、手きずも負はず立去り候ものなど思ひながら、ふと足元を見候に、草の上に平打ひらうち銀簪ぎんかんざし一本落ちをり候は、申すまでもなくかの娘御の物なるべくと
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
太夫たゆう。つまらないつらあてでいうわけじゃないが、おまえさんは、いいおかみさんをちなすって、仕合しあわせだの。——おびはたしかにわたしのから、おせんのとこへかえそうから、すこしも懸念けねんには、およばねえわな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
偶然の思いつきで、趣味深い時刻に来た仕合しあわせを語り合いつつ出る。
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
静穏な時代や芸術は如何にも望ましい仕合しあわせである。
ぶんにならるるよめ仕合しあわせ 利牛りぎゅう
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
盥が無くて仕合しあわせ仕合。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
かるやきかつ私家名淡島焼などと広く御風聴被成下なしくだされ店繁昌つかまつりありがたき仕合しあわせ奉存ぞんじたてまつり製法入念差上来候間年増し御疱瘡流行の折ふし御軽々々御仕上被遊候御言葉祝ひのかるかるやき水の泡の如く御いものあとさへ取候御祝儀御進物にはけしくらゐほどのいもあとも残り不申候やうにぞんじけしを
藤尾と約束をした小野さんは、こんな風に約束を破る事が出来たら、かえって仕合しあわせかも知れぬと思いつつ煙草の煙を眺めている。それに浅井の返事がまだ来ない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
娘「御親切様、有難う存じます、私共わたくしども母親おふくろは事によったら焼け死んだかも知れませんが、焼け死にますれば、わたしの身体は身抜けが出来て、かえって仕合しあわせでございます」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
天より我に与へ給へる家のまずしきは我仕合しあわせのあしき故なりと思ひ、一度ひとたび嫁しては其家をいでざるを女の道とする事、いにしえ聖人のおしえ也。若し女の道に背き、去らるゝ時は一生の恥也。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
楽しい幸福は到るところに彼を待っているような気がした。彼は若い男や女の交際する場所、集会、教会の長老の家庭なぞに出入ではいりし、自分の心を仕合しあわせにするような可憐かれんな相手を探し求めた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一方の指揮となれば其任いよいよ重く、必死に勤めけるが仕合しあわせ弾丸たまをも受けず皆々凱陣がいじんの暁、其方そのほう器量学問見所あり、何某なにがし大使に従って外国に行き何々の制度能々よくよく取調べ帰朝せば重くあげもちいらるべしとの事
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
左様そうすればお前得心ずくでなくきずを付けられて、ほかへ縁付く事も出来ねえ、それよりはうんと云って得心さえすれば弟御おとうとご仕合しあわせ、旦那もんな挙動まねを為たくはねえが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのの夢に藤尾は、驚くうちはたのしみがある! 女は仕合しあわせなものだ! と云うあざけりれいを聴かなかった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文明の進歩駸々しんしんとして我党の空想を実にしたるのみか、かえってその空想者の思い到らざる所にまで達して、遂に明治の新日本を出現したるこそ不思議の変化なれ、望外ぼうがい仕合しあわせなれ。
「滝のような男の細君に成ったものは、そりゃ仕合しあわせですよ」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蘭「此方こちらへ来てから一年半ばかりして旦那様がねんごろに御介抱して下すって、葬式も立派に出て、何も云置く事もなく私の身の上も安心して母もくなったから誠に仕合しあわせだよ」
しかも、その家へ呼ばれて御馳走ごちそうになったり、二三日間朝から晩まで懇切に連れて歩いて貰ったり、昔日せきじつ紛議ふんぎを忘れて、旧歓きゅうかんを暖める事ができたのは望外ぼうがい仕合しあわせである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目的なしの勉強かくに当時緒方の書生は十中の七、八、目的なしに苦学した者であるが、その目的のなかったのがかえっ仕合しあわせで、江戸の書生よりもく勉強が出来たのであろう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
実に御信実ごしんじつなお言葉、恐れ入りました、拙者も飯島を殺す気ではござらんが、不義があらわれ平左衞門が手槍にて突いてかゝる故、止むを得ずかくの如きの仕合しあわせでございます
「それでも田口が箆棒べらぼうをやってくれたため、君はかえって仕合しあわせをしたようなものですね」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ず/\怪我をせんのが仕合しあわせでした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
御当家さまへあがりまして、旦那さまは誠に何から何までお慈悲深く、何様どんな不調法が有りましても、お小言もおっしゃらず、斯ういう旦那さまは又とは有りません、手前が仕合しあわせ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自分は今危険な病気からやっと回復しかけて、それを非常な仕合しあわせのように喜んでいる。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
後の世の仕合しあわせであると申したという、お咳などには大妙薬である、かゝる結構な物を毒とは何ういう理由わけもっとも其の時に盜跖とうせきという大盗賊が手下に話すに、れはいものが出来た
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今では大変仕合しあわせだと書いてあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
原さんと名主幸左衞門さんとが来るんだよ、お侍様が百姓のうちへ養子に来るのだから勝手が知れめえから、お前も気を付けて上げな、あの方が此のうちへおいでになるとお前も仕合しあわせだよ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
己がお組へ往って届けて呉れようと、親切に石屋の親方とわしと三人で一緒にめえり、お組屋敷のおかしらに届けやんしたら、お頭も段々次第しでいを聞き、大きに感心なことだ、往来の者の仕合しあわせ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私を附けて此処に幾日いっか何十日入らっしゃっても何とも御意遊ばさないじゃアありませんか、それで貴方どんな我儘を仰しゃっても、柳に受けて入らっしゃる、貴方はお仕合しあわせじゃアありませんか
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
手前てめえうちに置かれないからと栄町へ裏店うらだな同様なとこ世帯しょたいを持たして、何だか雇いばゞあとも妾ともつかぬ様な仕合しあわせで、私も詰らねえから、何しろ身を固めるには夫を持たなければ心細いからと思いまして
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)