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仄
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ほの
ふりがな文庫
“
仄
(
ほの
)” の例文
人が出入りするのを見かけたこともなく、いつ
覗
(
のぞ
)
いても、店のなかは
仄
(
ほの
)
くらくしずまりかえっていて、チラとも人影が動かなかった。
キャラコさん:09 雁来紅の家
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
垢
(
あか
)
染みた、
硬
(
こわ
)
い無精髭が顔中を覆い包んでいるが、鼻筋の正しい、どこか
憔悴
(
やつ
)
れたような中にも、
凛
(
りん
)
とした
気魄
(
きはく
)
が
仄
(
ほの
)
見えているのだ。
地虫
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
仄
(
ほの
)
暗い彼女の部屋は、萩戸と目の細かい
絵簾
(
えすだれ
)
に囲まれながらも、冷ややかな香のけむりと、密やかな
嗚咽
(
おえつ
)
を今朝から閉じこめていた。
夏虫行燈
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
仄
(
ほの
)
かに聞き知っているが、父親が質屋の金しか借りたことがなく、それも借りたい
金高
(
きんだか
)
を番頭が因業で貸してくれぬことがあっても
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
見ると
幸
(
さいわい
)
小家の主人は、まだ眠らずにいると見えて、
仄
(
ほの
)
かな
一盞
(
いっさん
)
の
燈火
(
ともしび
)
の光が、戸口に下げた
簾
(
すだれ
)
の隙から、軒先の月明と
鬩
(
せめ
)
いでいた。
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
▼ もっと見る
そのうちに、三人の女の働くさまもよくは見えない位に成って、冠った手拭のみが
仄
(
ほの
)
かに白く残った。振り上ぐる槌までも暗かった。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
荒廃した
仄
(
ほの
)
暗い金堂の
須弥壇
(
しゅみだん
)
上に、
結跏趺坐
(
けっかふざ
)
する堂々八尺四寸の金銅
坐像
(
ざぞう
)
であるが、私は何よりもまずその
艶々
(
つやつや
)
した深い光沢に驚く。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
屋根の上の闇のなかにたくさんの洗濯物らしいものが
仄
(
ほの
)
白く浮かんでいるのを見ると、それは洗濯屋の家らしく思われるのだった。
ある崖上の感情
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
碑は、鉛めいた色に
仄
(
ほの
)
見えていたが、はたして、南無妙法蓮華経という、七字の名号が、
鯰
(
なまず
)
の髭のような書体で、刻られてあった。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
彼女はその、細い、
仄
(
ほの
)
かな音を、こんなにも可愛い鼾があろうかと、感心しながら聞いていたが、その時寝ていると思った妙子が
細雪:03 下巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
鰹舟
(
かつおぶね
)
の
櫓拍子
(
ろびょうし
)
が
仄
(
ほの
)
かに聞こえる。昔奥州へ通う浜街道は、此山の上を通ったのか。八幡太郎も
花吹雪
(
はなふぶき
)
の中を馬で
此処
(
ここ
)
を通ったのか。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
印度人には違いないのだが、非常に薄く
鳶色
(
とびいろ
)
を
刷
(
は
)
いて、その上へ
仄
(
ほの
)
白く
蒼
(
あお
)
みを掛けたとでも形容したら言い表わせるのだろうか。
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
最後に居残ったランジェも
暇
(
いとま
)
をつげて、
仄
(
ほの
)
暗くなった廊下へ出ると、マダム・ヴァンクールがそっと追かけて来て早口にいった。
ふみたば
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
引廻して前にて結び、これを帯に
推込
(
おしこ
)
みて
仄
(
ほの
)
かに
其一端
(
そのいつたん
)
をあらはす、
衣
(
きれ
)
と帯とに照応する色合の可なるものまた一段、美の趣きあるあり。
当世女装一斑
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
……南側の煤けた障子に
仄
(
ほの
)
かな黄昏の光が残っていて、それが彼女の美しい横顔の線を、暗い部屋のなかに幻の如く描きだした。
鼓くらべ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
それともそれが本当に見え出してきたのか、どちらかよく分からない位の
仄
(
ほの
)
かさで、いくつかの花文がそこにぼおっと浮かび出していた。
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
その酢っぱい
腥
(
なまぐさ
)
いにおいは、バラックの生々しい赤や青の屋根の間を
仄
(
ほの
)
かに漂うて、云うに云われぬイヤラシイ深刻な気分を作っている。
街頭から見た新東京の裏面
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
及第とさえきまっていればそれでも好かろうがと間接に不賛成の意を
仄
(
ほの
)
めかして見ると、彼は試験の結果などには存外冷淡な
挨拶
(
あいさつ
)
をした。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「ぢや、ロザマンド・オリヴァは?」とメァリーが
仄
(
ほの
)
めかした。この言葉は我にもあらずメァリーの唇から
滑
(
すべ
)
り出たらしかつた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
また多くは、一つの声音、街路を通る一人の男、風の音、内心の
律動
(
リズム
)
、など
些細
(
ささい
)
なものからにわかに呼び起こされる、
仄
(
ほの
)
かな明滅する感覚。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
終日
霏々
(
ひひ
)
として降り続いている春雨の中で、女の白い
爪
(
つめ
)
のように、
仄
(
ほの
)
かに濡れて光っている磯辺の小貝が、悩ましくも印象強く感じられる。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
仄
(
ほの
)
あかるい空の下に、若葉の色がキラキラと光って見える。うす靄に
掩
(
おお
)
われた青田のみずみずしさが眼に
沁
(
し
)
みるようであった。
親馬鹿入堂記
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
葉子は大分前にも、ちょっとそれを
仄
(
ほの
)
めかしていたが、アパアトヘ立て籠もろうとしたのも、それを完成したいためであった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
モンパルナスのキャフェ・ド・ラ・クーポールの
天井
(
てんじょう
)
や壁から折り返して来るモダンなシャンデリヤの白い光線は、
仄
(
ほの
)
かにもまた強烈だった。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
追って来る御用提灯もなく、夜の雨が遠くの町筋を
仄
(
ほの
)
白くけむらせている——あれほどはりつめた捕手の網もどうやらくぐりぬけ得たらしい。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
対手の眼を見つめているうちに、
仄
(
ほの
)
めかされた言葉の内容が、徐々に、その重要性と具体的な意味とで分って来る。——
刻々
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
わたしが前に
仄
(
ほの
)
めかしたとおり、ひとりで行く者は今日にも出発することができるが、他人と旅行する者は相手が準備できるまで待たねばならず
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
と、相手はいったが、しかし、その口調には、今までのような、冷笑と、
侮蔑
(
ぶべつ
)
とは、響かなかった。ある感嘆と、好奇心とが、
仄
(
ほの
)
めいて来ていた。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
お鶴を貰ってくれないかというようなことも
仄
(
ほの
)
めかしますと、平造は嬉しいような、迷惑らしいような顔をしまして
平造とお鶴
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
気に入らぬ一切の物に背を向けて遺ることの出来る快感を感じるのはこの時であると
仄
(
ほの
)
かながらも覚えると云ふ歌。
註釈与謝野寛全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
厠
(
かわや
)
の縁に立って眺めると、雪もやがて
霽
(
は
)
れるとみえ、中空には
仄
(
ほの
)
かな光さえ射している。ああ静かだと貞阿は思う。
雪の宿り
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
たゞ一と色に黒い闇とばかり見えた向うの方も、よく見れば栗の木も山羊の檻も
仄
(
ほの
)
かに黒ずんだ形が見分けられた。
桑の実
(新字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
仄
(
ほの
)
かな哀感の霞を隔てゝ
麗
(
うらゝ
)
かな子供芝居でも見る樣に懷かしいのであるが、其中で、十五六年後の今日でも猶、鮮やかに私の目に殘つてゐる事が二つある。
二筋の血
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
大分歩いた頃、突然空がぼうっと
仄
(
ほの
)
黄色く野の黒さから離れて浮上ったような感じがした。月が出たのである。
盈虚
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
然
(
さ
)
うすると私達も、いつかは茸のやうな
這麼
(
こんな
)
仄
(
ほの
)
かな風味に
舌鼓
(
したづゝみ
)
を打つ興味に感じなくなつて
了
(
しま
)
ふかも知れぬ。
茸の香
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
それにこういう賢明な粒よりのお歴々を任用している当局はまことに絶大な賞讃に値するなどと
仄
(
ほの
)
めかした。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
柳田先生の与えた影響は、かく
仄
(
ほの
)
かなものとして過ぎたが、そう言えば、内容にも影響を見る事が出来る。
詩語としての日本語
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
それで、こういう風の定りというものは『万葉集』等には
仄
(
ほの
)
かに見えるけれども、まだすべてを調べない。
古代国語の音韻に就いて
(新字新仮名)
/
橋本進吉
(著)
遠くの木立ちは、すべて
仄
(
ほの
)
黒く、煙りだっていた。そして、丘裾の部落部落を、深い
靄
(
もや
)
が
立
(
た
)
ち
罩
(
こ
)
めていた。
蜜柑
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
彼女は自分の決心を語る準備として、「芸術は宿命的に感情硬化に到達するのではなかろうか」という質問に事寄せて、彼女の焦慮とアンニュイとを
仄
(
ほの
)
めかした。
感傷主義:X君とX夫人
(新字新仮名)
/
辰野隆
(著)
チラリチラリと
仄
(
ほの
)
かに視野に入る横顔の噛み付き度い程愛らしい鼻の上に淡褐色の色眼鏡が懸けられ、長火鉢の縁に肱を突き乍ら南京豆を噛じって居るのですが
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
そういう可能性は今私がただ
仄
(
ほの
)
めかしているだけのことですが、次のことは私もはっきり知っています。
城
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
半分潰れかかって、それがまたかたまったような佐柄木の顔は、話に力を入れるとひっつったように
痙攣
(
けいれん
)
して、
仄
(
ほの
)
暗い電光を受けていっそう凹凸がひどく見えた。
いのちの初夜
(新字新仮名)
/
北条民雄
(著)
母は
仄
(
ほの
)
かな
侘
(
わび
)
しさを感じたのか、私の手を強く
握
(
にぎ
)
りながら私を引っぱって
波止場
(
はとば
)
の方へ歩いて行った。
風琴と魚の町
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
夜空には
仄
(
ほの
)
かに新月が立っていた。私は少年の髪の香を嗅ぎながら不安と愉楽とを
交々
(
こもごも
)
味わっていた。
光り合ういのち
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
あるのは涙ではなくせいぜい
仄
(
ほの
)
かな詠嘆である。けれども多くの文学が繊弱なもの病的なものの強調に偏しているほどにはソーローはその逆の方向に偏してはいまい。
森の生活――ウォールデン――:01 訳者の言葉
(新字新仮名)
/
神吉三郎
(著)
「寄席」は昭和十七年十一月、十二月の二回にわたる発表(神田花月、昼席)だったが、あの噺の中で志ん生はお
艶
(
えん
)
ちゃんの
仄
(
ほの
)
白い顔をチラッと美しく描いてくれた。
随筆 寄席囃子
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
と操さんは手っ取り早いところから説きつけようと思って、家門より個人という意味を
仄
(
ほの
)
めかした。
脱線息子
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
取出でていうほどの奇はないが、二葉亭の一生を貫徹した潔癖、俗にいう
気難
(
きむず
)
かし屋の気象と天才
肌
(
はだ
)
の「シャイ」、俗にいう
羞恥
(
はにか
)
み屋の
面影
(
おもかげ
)
が
児供
(
こども
)
の時から
仄
(
ほの
)
見えておる。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
仄
(
ほの
)
かに
硫黄
(
いおう
)
の
香
(
かおり
)
の残っている
浴後
(
よくご
)
の
膚
(
はだ
)
を
懐
(
なつか
)
しみながら、二人きりで冷いビールを
酌
(
く
)
み
交
(
か
)
わした。そのとき彼の口から、この事件の一切の
顛末
(
てんまつ
)
を聞くことが出来たのだった。
赤外線男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
“仄”の意味
《名詞》
(ソク)仄韻。また、その字。
(出典:Wiktionary)
仄
漢検1級
部首:⼈
4画
“仄”を含む語句
仄暗
平仄
仄白
仄明
仄々
仄紅
逼仄
仄闇
仄聞
仄見
仄青
仄筆
仄赤
仄紅色
仄白々
仄浮
仄起
仄透
仄歩
仄黄色
...