上手じょうず)” の例文
女の好きな国文の素養があって、歌や韻文も上手じょうずなら芝居や音楽をもかじっていて、初対面のものを煙に巻く博覧の才弁を持っていた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それだから、上手じょうずの芝居を見て泣くのも、下手へたの芝居を見てあくびをするのも生理的にはただ少しのちがいかもしれないと思われる。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
男というものは女に向かってうそ上手じょうずに言うものであるらしい、愛していない人を愛しているふうに巧みな言葉を使うものであると
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
甚兵衛は口惜くやしくてたまりませんでした。それでいろいろ工夫くふうをして、人形を上手じょうずに使おうと考えましたが、どうもうまくゆきません。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ところがホイストの上手じょうずということになると、心と心とがたたかうすべての、もっと重大な事業にも成功できるということを意味する。
としちゃん、きょうは、ラジオで、ハーモニカの上手じょうずかたがなさるから、よくおききなさいね。」と、おねえさんが、いわれました。
年ちゃんとハーモニカ (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは後になってから分りましてんけど、教育家いうよりは学校商売上手じょうずな人やのんで、つまり一種のやり手やのんですねんなあ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
始めは牛飼から曲を教わったが、牛飼の知っている五つの曲はじき覚えてしまい、しかも木之助の方が上手じょうずにひけるようになった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
賢夫人は、相手にするに足らずといった、ツンとした顔で、上手じょうずにひっこみをつけると、脇玄関から垣のぞきをしている石田氏に
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
レシタションが上手じょうずであったことは、同情のない喜多村筠庭きたむらいんていが、台帳を読むのが寿阿弥の唯一の長技だといったのを見ても察せられる。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
東片町ひがしかたまちにある山村氏の屋敷には、いろいろな家中衆もいるが、木曾福島の田舎侍いなかざむらいとは大違いで、いずれも交際上手じょうずな人たちばかり。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小田原の敵の夜討を知ったのは、氏郷の伊賀衆のかしら、忍びの上手じょうずと聞えし町野輪之丞という者で、毎夜毎夜忍びて敵城をうかがったとある。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
秀継は、赤面したが、なお何とかして、利家を思い止まらせようと試みてか、わざと、うらない上手じょうずをよんで、出陣の吉凶をうらなわせた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りっぱな音楽家で、ピアノがお上手じょうずです。あの人の前では、あなたのことを批評はできません。あなたにれこんでるのですから。
また、伊勢人は一体に物につましく、貨殖の道が上手じょうずなところから、ねたみ半分にこんな悪名をかぶらせたのだという説もあります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まず、女たちと上手じょうずに別れなければならぬ。思いがそこに到ると、さすが、抜け目の無い彼も、途方にくれて、溜息ためいきが出るのだ。
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
……花田さん、あなたは才覚があって画がお上手じょうずだから、いまにりっぱな画の会を作って、その会長さんにでもおなりなさるわ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
六十代醍醐天皇だいごてんのう延長年間えんちょうねんかん、三井寺に興義こうぎという僧があった。絵が上手じょうずだったので、名人という評判を世間から立てられていた。
彫ってくれない? きれいに。上手じょうずに。え? そしたらあたしこんなうれしいことないわ。このあたしが聖母様に似ようってわけだから!
私には何の事かさっぱりわからなかった。私はただ、私はわからないという、私の一番上手じょうずなフランス語を繰返して置いた事を記憶する。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
しかし親しみということは上手じょうずという意味ではない。演奏も録音もハイフェッツの方に充分の勝味かちみのあることは言うまでもない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
私は元来英語は上手じょうずじゃない。どうかするとチベット語が出てしまう。そこで英語とチベット語と双方で話すようになったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
剣とともにおんなをくどくことが上手じょうずで、その糸のような眼でじろっと見られると、たいがいの女がぶるると嬉しさが背走せばしる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「はい。針仕事は上手じょうずでございまして、それになんにも用がないもんですから、隠居所の方で毎日なにか仕事をして居ります」
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これも上手じょうずに重ねて葺けば、なかなか見ごとな屋根ができたが、それには、遠くから専門の職人をたのんでこなければならぬ。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
名人めいじんとか上手じょうずとか評判ひょうばんされているだけに、坊主ぼうずぶ十七八の弟子でしほかは、ねこぴきもいない、たった二人ふたりくらしであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
すべて天狗てんぐかぎらず、幽界ゆうかい住人じゅうにんばけるのが上手じょうずでございますから、あなたがた何卒どうぞそのおつもりで、わたくし物語ものがたりをきいていただぞんじます。
上手じょうずな仕立屋で着物をこしらえれば、着たてから、からだに合ったのを持ってくるが、下手へた裁縫屋したてやあつらえたら当分は我慢しないと駄目さ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三ヶ津の総芸頭そうげいがしらとまで、たたえられた坂田藤十郎は傾城買けいせいかい上手じょうずとして、やつしの名人としては天下無敵の名をほしいままにしていた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
上手じょうずに対して飛車落ち程度でさせるようになると、そろそろ定石を無視して自己流の差し方をするものであるが、それは厳重に慎まねばならぬ。
名人上手に聴く (新字新仮名) / 野呂栄太郎(著)
ついて来た藤原は、その腰のメスを抜いて見習いの仕事着を上手じょうずに切り裂いた。そして、彼の寝間着が、上にかけられた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「やあ。わしはちょっと町を見物したいのである。誰か、おとなしくて話の上手じょうずな案内人を、ひとりやとってもらいたい」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小さなからだのくせに、大がらな茂緒の着物を上手じょうずに着こなして、彼女は、彼女の些細ささいな原稿を売りに出かけるのだった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
「いやこれは大変、浪さんはいつそんなにお世辞が上手じょうずになったのかい。これではえりどめぐらいはやすいもんだ。はははは」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
好きこそものの上手じょうずなりけれ、うん、それはよかった。ああ、なるほど、金沢の裁判所に……うむ、検事代理というのかい
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かなり熟練が入るのですが、お母様はお上手じょうずでした。私などが手を出して見ましても、とかく不揃ふぞろいになるので嫌われます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ばあさんになってもそうですが、若い娘さんなんか特に目立ちます。しかしおなじ紅白粉べにおしろいをつかっても、上手じょうず下手へたとでは、たいへん違います。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
手術てわざが持ち前で好き上手じょうずであるので、道楽半分、数奇すき半分、慾得よくとくずくでなく、何か自分のこしらえたものをその時々の時候に応じ、場所にめて
加工が上手じょうずであるから、肌がなめらかでつや々とし、質に軽い脂肪を含んでいて、齒に絡まるほどのねばりを持っている。
蜻蛉返り (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
相馬の地は馬の産で名があり、野馬追のまおいの祭や三春駒みはるごまなど、馬にちなんだものが多いのであります。慣れた図柄ずがらですから焼物の上にも上手じょうずに描きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そこで工芸学校の先生は、山男へてて上手じょうずな手紙を書きました。山男がその手紙さえ見れば、きっともう出掛でかけて来るようにうまく書いたのです。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
道場での稽古ぶりもずっと穏やかになり、上手じょうずな者よりも下手へたな者のほうに時間をかけ、手を取って教えるというふうな、入念なやりかたに変った。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「婆さんや、今度の航海の記念に、せめてこの卵のからだけでもしまっておきたいから、上手じょうずに割っておくれ。」
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
ちよつとこの題目ばかり見れば余り懸隔しをる故、そを置き違へるとは受取れぬ様なれど、実際俳句をものする上に上手じょうず下手へたを問はず絶えずある事なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
中納言ちゅうなごん奥方おくがたもびっくりして、ぬほどかなしがって、上手じょうずうらなしゃにたのんでみてもらいますと、やはり大江山おおえやまおにられたということがわかりました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
太物ふともの問屋のお嫁御よめごになって、連合つれあいに別れたので、気苦労のないところへと再嫁して、浜子さんを生んだ時に、女の子だったらば、琴が上手じょうずになるようにと
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
小さな私がそんな自分よりももっと幼い子の真似まねをして、花莚にくるまって寝ていると、たかちゃんは小さな母親のように、上手じょうずにいろいろとあやしたり
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
王様の上手じょうずな話に引きこまれている中に、謙一と祥子の叔父さんは、何かしきりに話しこんでいるらしかった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
いよ/\上手じょうずのように思われておよそ一年ばかりは胡摩化ごまかして居たが、何かの拍子ひょうしにツイばけの皮が現われて散々さんざんののしられたことがある、と云うようなもので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「内藤さん、いずれお家へご相談申しあげます。先生はお上手じょうずですから、痛くもなんともありませんのよ。照彦と内藤さんとはどちらが強いでしょうね?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)