一時いつとき)” の例文
なんね、一時いつときでん住み馴れた土地ば離るつていふもなあ、なんとなしい、心寂しかもんたい。早かもんたい、丸三年になるけんね。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
いまこそ彼女かのぢよは、をつとれい純潔じゆんけつ子供こどもまへに、たとへ一時いつときでもそのたましひけがしたくゐあかしのために、ぬことが出來できるやうにさへおもつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
また一時いつとき廬堂いほりだうを廻つて音するものもなかつた。日は段々けて、小昼こびるの温みが、ほの暗い郎女の居処にも、ほと/\と感じられて来た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
敬之進のことは一時いつときもお志保の小な胸を離れないらしい。柔嫩やはらか黒眸くろひとみの底には深い憂愁うれひのひかりを帯びて、頬もあか泣腫なきはれたやうに見える。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お前さんは今日はあまりはげしく心を動かされたので、気がどうかなつてゐるのぢや。一時いつときの感動に駆られて、さういふことを
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
それでも五人ごにんや十人ぐらゐ一時いつときわたつたからツて、すこれはしやうけれど、れてつるやうな憂慮きづかひはないのであつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うつむいてゐる、白髮をかきあげたうなじが細かつたが、そのあたりからひさは眼を一時いつときもそらさなかつた。おちかは、結局は、金を貸してくれろといふのだ。
第一義の道 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
氣候は一時いつときに驚くほど暑くなつて、午過ぎの往來には日傘を持たぬ通行の人が、早くも伸びて夏らしく飜へる柳の葉を眺め、人家の影の片側へと自然にあゆみを引寄せる。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
しかしおしなんだとき野田のだへのぎはがよくなかつたことを彼自身かれじしんこゝろにもゆるところがあつたのでひていや勘次かんじ挨拶あいさつをして一時いつときなりとも肩身かたみせまくせねばならないのを
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
で三四杯あほり立てたのでよひ一時いつときに発してがぐらぐらして来た。此時このとき
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
をんなせまいもの、つとつては一時いつとき十年じふねんのやうにおもはれるであらうを、おまへおこたりをわしせゐられてうらまれてもとくかぬことよる格別かくべつようし、はやつていてるがよからう
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「局中手勢の者ばかりにて、右徒党のもの、三條小橋縄手に二ヶ所屯致たむろいたし居候処へ、二手に別れ、夜四つ時頃打入候処、一ヶ所は一人も居り申さず、一ヶ所は多数潜伏し居り、兼て覚悟の徒党故、手向ひ戦闘一時いつとき余の間に御座候」
ばゝうても、一時いつとき辛抱おし。」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
あゝ、先輩の胸中に燃える火は、世を焼くよりもさきに、自分の身体をき尽してしまふのであらう。斯ういふ同情おもひやり一時いつときも丑松の胸を離れない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
どやどやどや、がら/\と……大袈裟おほげさではない、廣小路ひろこうぢなんぞでは一時いつとき十四五臺じふしごだい取卷とりまいた。三橋みはし鴈鍋がんなべ達磨汁粉だるまじるこくさき眞黒まつくろあまる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
寧ろかう云ふ理由から、自分は今まさに、自分が此の世に生れ落ちた頃の時代のうちに、せめて虫干の日の半日一時いつときなりと、心静かに遊んで見ママうとあせつてゐる最中なのである。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その馬鹿にすることのなかにたとへ一時いつときでも却つて人を力づけるやうなものがあり、時には經驗がものを云つて實際に助けになることもあるので、人々に愛され親しまれてゐる。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
あゝ何故なぜ丈夫ぢやうぶうまれてれたらう、おまへさへなくなつてれたならわたし肥立次第ひだちしだい實家じつかかへつて仕舞しまふのに、こんな旦那樣だんなさまのおそばなにかに一時いつときやしないのに、何故なぜまあ丈夫ぢやうぶうまれてれたらう、いや
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
明王の前の灯が一時いつとき、かつと明くなつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
何時いつ例のことを切出さう。』その煩悶はんもんが胸の中を往つたり来たりして、一時いつときも心を静息やすませない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まだ一時いつときだな、コレ有樣ありやう今夜こんやおいらは立待たちまちだからことがならねえ、此處こゝな、つててもはなし出來できやす。女「あほらしい、わたしつてはなしノウすることは、いや/\。 ...
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふん一時いつときと、此方こつち呼吸いきをもめてますあひだ——で、あま調そろつた顏容かほだちといひ、はたしてこれ白像彩塑はくざうさいそで、ことか、仔細しさいあつて、べう本尊ほんぞんなのであらう、とおもつたのです。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今朝一時いつときに十一と、あわたゞしく起出でて鉢をいだけば花菫はなすみれ野山に満ちたるよそほひなり。
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あきなに一時いつときの、女氣をんなぎなみだぐんで
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)