一斉いっせい)” の例文
旧字:一齊
それは伊藤や須山の影響下のメンバー、新しい細胞に各職場を分担させて一斉いっせいに「馘首かくしゅ反対」の職場の集会を持たせることだった。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
室内にいた二十人ばかりの男女の視線が一斉いっせいに、立竦んでいるぼくに注がれた気がして居たたまれず、すぐ表に出てしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
午後七時になるとレストラントのとびら一斉いっせいに開く。誰が決めたか知らない食道しょくどう法律が、この時までフランス人の胃腑いのふに休息を命じている。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
誰かぱちぱちと手をたたいたものがあった。すると、今までペンを走らしていた人たちまでそのペンをいて一斉いっせいに彼の方を見た。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
この時堂上の僧は一斉いっせい合掌がっしょうして、夢窓国師むそうこくし遺誡いかいじゅし始めた。思い思いに席を取った宗助の前後にいる居士こじも皆同音どうおんに調子を合せた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、たちまち鶏のむれが、一斉いっせいときをつくったと思うと、向うに夜霧をき止めていた、岩屋の戸らしい一枚岩が、おもむろに左右へひらき出した。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
生徒はみんなきちんと手をひざにおいて耳を尖らせて聞いていましたが、この時一斉いっせいにペンをとって黒板の字を書きとりました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
引き明けた戸口から、石でも投げ付けるように、小さな声が一斉いっせいに叫び立てた。万夫婦は吃驚びっくりして声も出なかった。子供達の叫び声は続いた。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
といふ歌は万口ばんこう一斉いっせい歎賞たんしょうするやうに聞き候へば、今更取り出でていはでもの事ながら、なほ御気のつかれざる事もやと存候まま一応申上候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それが着かざった女なんかだと、それでも、ベンチの落伍者らくごしゃ共の顔が、一斉いっせいにその方を見たりなんかするのですね。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夜勤やきんの署員たちは、熊岡の声に、一斉いっせいに入口の方を見た。しかし今しがたまでギーッ、ギーッと動いていた重い扉はピタリと停っていわのように動かない。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ぽつりと、頬にひとつ、来たという沢田の声に命令されたように、さあと大粒の雨が一斉いっせいにまっ白く降り出した。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そして、なんだか寒い程引きしまった気持の中で、一斉いっせいに開こうとする花束のような、おびただしい微笑がふくらみ、やがて静かななみだとなって溢れ出すのを感じた。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その声に応じて、デッキまではのぼって来ない壮士ていの政客や某私立政治学校の生徒が一斉いっせいに万歳を繰り返した。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
がやがや騒いでいたのに、僕がはいって行ったら、ぴたりと話をやめて、五人の男が一斉いっせいに顔を挙げて僕を見た。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それが次第に近寄って、むくむくと大蛇だいじゃが横にうように舟のへさきへ寄って来たかと思うと、舳をならべていた小舟は一斉いっせいに首をもたげて波の上に乗りました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
あれよ/\とののしり騒ぐ内に、愚なる白、弱い白は、斜に洪水の川をおよぎ越し、陸に飛び上って、ぶる/\ッと水ぶるいした。若者共は一斉いっせいに喝采の声をあげた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
気がつくと、仕事場中の物音が一斉いっせいにとまっていた。さっと風が吹いて一切の物音をさらって行ってしまったあとのようだ。変に気味わるく静まりかえっている。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
いま開け放しておいたふすまから七つ八つの、いずれも穏かならぬかおがさいぜんから現われて、この無作法ぶさほうな浪士の後援をつとめていたのがいま一斉いっせい弥次やじり出した。
マメが邑里ゆうりの生活に何よりも大事なことは異存がない。ただネブタを災厄さいやくとして放ちてようというのは如何と、カルモチン常用者輩は一斉いっせいに批難するかも知れない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それで約一キロメートル前方の山腹で一斉いっせい射撃の煙が見えたら、それから一秒余おくれてたまが来て、それからまた二秒近くおくれて、はじめて音が聞こえるわけである。
耳と目 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
頼朝がそう云ったら、或いは、危なげを抱いて、一斉いっせいいて来なかったかも知れなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平清盛たいらのきよもりの専横に抗して、頼政よりまさをはじめ、伊豆の頼朝よりとも、木曾の義仲よしなか等源氏の一党が、以仁王もちひとおう令旨りょうじを奉じて一斉いっせいに挙兵した年である。この前後は東大寺の性質もむろん変っていた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
日暮れて式場なるは申すまでもなく、十万の家軒ごとに、おなじ生首提灯の、しかもたけ三尺ばかりなるを揃うて一斉いっせいひともし候へば、市内の隈々くまぐま塵塚ちりづかの片隅までも、真蒼まっさおき昼とあひなり候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その日ちょっとまた面白い事があった。二里ばかり行くとごくあらけない四人ばかりの人が私の馬に乗って居る前まで来て立止まり、一斉いっせいに礼拝を行うてお願い申したいことがあるという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それから牧師の祈りと、熱心な説教、そしてすべてが終わって、堂の内の人々一斉いっせい黙祷もくとう、この時のしばしの間のシンとした光景——私はまるで別の世界を見せられた気がしたのであります。
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
長吉には鉄棒からさかさにぶらさがったり、人のたけより高い棚の上から飛下りるような事は、いかに軍曹上ぐんそうあがりの教師からいられても全級の生徒から一斉いっせいに笑われても到底出来べきことではない。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ことに大向うと言わず土間も棧敷も一斉いっせいに贔負贔負の名を呼び立てて
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
私が見返した時に、二人はちょうど今門を出るところであったが、一斉いっせいに玄関の方を振り向いたので、私とパッタリ視線が会うた。私は限りなき羞かしさに、俯向いたまま薬局の壁に身を寄せた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
意外な満蔵の話に人々興がり一斉いっせいに笑いをもって満蔵の話を迎える。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
フランス全体の正しい人々の一斉いっせいの奮起を、促したく思っていた。
フトまた云合せたように一斉いっせいにパラパラとふさッてしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
人々は一斉いっせいに二人を見た。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
という歌は万口ばんこう一斉いっせい歎賞たんしょうするように聞き候えば今更いまさら取りいでていわでものことながらなお御気おきのつかれざることもやとぞんじ候まま一応申上もうしあげ候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
彼らは、鮮血にまみれたとらの顎を想像しながら、でもこわいもの見たさに、そらしていた眼を、一斉いっせいに舞台に向けた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つぼみはみんなできあがりましてございます。秋風あきかぜするどこながその頂上ちょうじょうみどりいろのかけがねけずってしてしまいます。今朝けさ一斉いっせいにどの花も開くかと思われます
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ガチャリと電話機を掛けると、当直はあわただしくホールを見廻した。そこには一大事いちだいじ勃発ぼっぱつとばかりに、一斉いっせいにこっちを向いている夜勤署員の顔とぶっつかった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして三人がいよいよ成功してそのアメリカ人を取巻とりまいて巣へ引上ひきあげようとかかるとみんな一斉いっせい
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「え?」試験官たちは、一斉いっせいにさっと緊張したようであった。主任のひとも、眉間みけんにありありと不快の表情を示して、「じゃ、なぜ春秋座へはいろうと思ったのですか?」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
五百余人の剣士が一斉いっせいにヒヤヒヤとした時、意外にも文之丞の身はクルクルと廻って、投げられたように甲源一刀流の席に飛び込んで逸見利恭の蔭に突伏つっぷしてしまいました。
急に、辺りの者が、一斉いっせいにべたべたと大地へ土下座し始めたので、平次郎もあわてて坐った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜、ロスアンゼルスからの帰りに、自動車をめさせ、みんな一斉いっせいに降りたって、小便をしたとき、故国日本をおもいだすような、かえるの鳴声をきいたことも、ほのかにおぼえています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
船首のほうに群がって仕事をしながら、この様子を見守っていた水夫たちは一斉いっせいに高く笑い声を立てた。そしてその中の一人はわざと船じゅうに聞こえ渡るようなくさめをした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
寄合の席にいた男たちは、どうかしてほんとのところが知りたいという気持で一ぱいだったので、それをきくと一斉いっせいに立ちあがり、残らずキーシュの雪小屋へ出かけてゆきました。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
女たちはさすがに驚いたらしく、あわてて彼のかたわらを飛びのいた。が、すぐにまた声を立てて笑いながら、ちょうど足もとに咲いていた嫁菜よめなの花を摘み取っては、一斉いっせいに彼へ抛りつけた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
果ては声音せいおん一斉いっせい軒昂けんこう嗚咽おえつして、加之しかも始終しじゅう斗満川とまむがわ伴奏ばんそう
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
群集ばらばらと一斉いっせいに左右に分れ候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その調子が、何となく意味ありだったので、酒に気をとられていた、一座の男女が一斉いっせいに緑さんの方を見た。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
するとどううわけかみんなもどっと笑ったのです。一斉いっせいにその青じろい美しい時計の盤面ダイアルを見あげながら。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかれどもその芭蕉を尊崇するに至りては衆口一斉いっせいに出づるが如く、檀林等流派を異にする者もなほ芭蕉を排斥せず、かへつて芭蕉の句を取りて自家俳句集中に加ふるを見る。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)