鶺鴒せきれい)” の例文
諸鳥と爬虫類これを不快で集会す。その時一番に蜥蜴、人と豚の行きぶりを変ずべしというと、鶺鴒せきれいは元のままで好いと主張した。
つばめをツバクロまたはツバクラというだけでも一つの有力な証拠であるが、紀州の串本くしもとでは鶺鴒せきれいをチンチクロ、鹿児島県の一部では
たゞ、いひかはされるのは、のくらゐなこと繰返くりかへす。ときに、鶺鴒せきれいこゑがして、火桶ひをけすみあかけれど、山茶花さざんくわかげさびしかつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そうして私の前の小さな流れの縁を一羽の鶺鴒せきれいさびしそうにあっちこっち飛び歩いているのにぼんやり見入っていると、突然
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
鶺鴒せきれいが鳴いていた。林檎の朝食を採ったあとで、汽船で行徳へ行った。スケッチをした。行徳の町はこれですっかり見た訳。
川水は荒神橋の下手ですだれのようになって落ちている。夏草の茂った中洲なかす彼方かなたで、浅瀬は輝きながらサラサラ鳴っていた。鶺鴒せきれいが飛んでいた。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
エンジンを入れてボートを湖面にすべり出さすと、鶺鴒せきれいの尾のように船あとを長くひき、ピストンの鼓動こどうは気のひけるほど山水の平静を破った。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
露時雨つゆしぐれ夜ごとにしげくなり行くほどに落葉朽ち腐るる植込うえごみのかげよりは絶えず土のくんじて、鶺鴒せきれい四十雀しじゅうから藪鶯やぶうぐいすなぞ小鳥の声は春にもましてにぎわし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「チェッ」という舌打ちの音、縁へ飛びあがった城之介、またもや鉄杖を突き出したが、小さく刻む鶺鴒せきれいの尾、上下へヒョイヒョイと動かした。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
川の水温と鰍は密接な関係を持っている。北風に落葉が渦巻いて、鶺鴒せきれいの足跡が玉石に凍るようになれば、谷川の水は指先を切るほど冷たくなる。
冬の鰍 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
しかし、岸は近いし水も浅い所なので、二人濡れもせず、石を投げられた鶺鴒せきれいみたいに、パッと向う岸へ飛び上がって
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宿の庭の池に鶺鴒せきれいが来る。夕方近くなると、どこからともなく次第に集まって来て、池の上を渡す電線に止まるのが十何羽と数えられることがある。
浅間山麓より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ちんな話ではつい其処の斗満川原で、鶺鴒せきれいが鷹の子育てた話。話から話と聞いて居ると、片山君夫婦がねたましくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
近処の喧嘩の怒号の声も聞こえず、破戸漢や酔漢の脅かしの憂ひも無く、静かに草葉をゆする風と鶺鴒せきれいがピイピイと鳴く声を松の蔭に聞くのみである。
今こそ別けの合図をと思う矢先に、今まで静かであった文之丞の木刀の先が鶺鴒せきれいの尾のように動き出して来ました。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
しかし鶺鴒せきれいのようですぐ種々なことをやるガヴローシュは、もう石を一つ拾っていた。彼は街灯に心を向けていた。
右頬を軽く支えている五本の指は鶺鴒せきれいの尾のように細長くて鋭い。そのひとの背後には、明石あかしを着た中年の女性が、ひっそり立っている。呆れましたか。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
川に臨んだ背の低い柳は、葉のない枝にあめの如く滑かな日の光りをうけて、こずゑにゐる鶺鴒せきれいの尾を動かすのさへ、鮮かに、それと、影を街道に落してゐる。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
妻籠つまご吾妻橋あづまばしといふはし手前てまへまできますと、鶺鴒せきれいんでました。その鶺鴒せきれいはあつちのおほきないはうへんだり、こつちのおほきないはうへんだりして
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
爽やかな風がそよそよと池を渡って合歓の木の葉が揺れると寂然ひっそりとしている池の彼岸あなた鶺鴒せきれいが鳴いている。
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
緋鯉ひごひの背の浮ぶ庭の池の飛石に、鶺鴒せきれいが下りて來て長い尾を水に叩いてゐる。さうして紺青こんじやうの空! このうるはしい天日の下に、一體何が世には起つてゐるのか?
嘘をつく日 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
きょうは一天晴れ渡りて滝の水朝日にきらつくに鶺鴒せきれいの小岩づたいに飛ありくは逃ぐるにやあらん。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
うぐいすかしら? 鶺鴒せきれいかしら? と思いながら、暫くそれを眼で追っていた。梅の向うの野菜畑で、じいやがフレームのふたを開けて、何かの苗を畑へ植えているのが見える。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この図は左から斜めに出た小枝に鶺鴒せきれいが二羽飛び下りざまに止ったところを描いてあるだけで、これまた極めて簡単な図柄であるが、枝には風のそよぐ感じが出ているし
画室の言葉 (新字新仮名) / 藤島武二(著)
あなつめむれ鶺鴒せきれい群れ飛べど目にもとまらず。いづこにかひよは叫べど、風騒ぐけはひも聴かず。
鶺鴒せきれいが街道に沿った岩かげに巣をつくった。背のびをしなくても手の届くほどの高さであるが、今まで誰れも気がつかなかったらしい、ということをある夕方瀬川君が来て話した。
鶺鴒の巣 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
流れの中には岩の姿が、遡るに伴れてあちこちに現れ、鶺鴒せきれいが飛び交はしてゐたりしたが、勾配が増して行くに随つて水勢は滝のやうな音をたてて、花々しい水煙りを挙げてゐた。
繰舟で往く家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
金箔きんぱくを押した磔刑柱はりつけばしらを馬の前に立てて上洛したのは此時の事で、それがしの花押かきはん鶺鴒せきれいの眼のたまは一月に三たび処をえまする、此の書面の花押はそれがしの致したるには無之これなく
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
同時に昨日きのうまで彽徊ていかいした藁蒲団わらぶとん鶺鴒せきれいも秋草もこいも小河もことごとく消えてしまった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この川は小舎のうしろへ流れ落ちるのだそうだ、水から飛び上った鶺鴒せきれいが、こっちを見ていたが、人が近づいたので、ついと飛ぶ、大石の上には水で描いた小さな足痕が、紋形をして
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
木場の甚は、敷居をなめそうにひれ伏していて、主従の去ったのも知らないようすだ。雪白のまげが、鶺鴒せきれいの尾のように、こまかくふるえていた。そうしたまま、いつまでもうごかないのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
波ともいわれない水のひだが、あちらの岸からこちらの岸へと寄せて来る毎に、まだ生え換らない葦が控え目がちにサヤサヤ……サヤサヤ……とそよぎ、フト飛び立った鶺鴒せきれいが小波の影を追うように
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
竜之助の色が蒼白あおじろさを増します。両の小鬢こびんのあたりは汗がボトボトと落ちます。今こそ分けの合図をと思う矢先に、今まで静かであった文之丞の木刀の先が鶺鴒せきれいの尾のように動き出してきました。
「おお、発破はっぱだぞ。知らないふりしてろ。石とりやめで早ぐみんな下流しもささがれ。」そこでみんなは、なるべくそっちを見ないふりをしながら、いっしょに砥石といしをひろったり、鶺鴒せきれいを追ったりして
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
小屋へ腰を掛けて居ると鶺鴒せきれいが時々蟲をくはへて足もとまで來ては尾を搖しながらついと飛んで行く。脇へ出て見ると射干ひあふぎが一株ある。射干があつたとて不思議ではないが爺さんの説明が可笑をかしいのだ。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
道は川に沿ひ、翳り易い日向に、鶺鴒せきれいが淡い黄色を流して飛ぶ。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
鳥居へおりていったら桟橋のうえに鶺鴒せきれいが一羽いた。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
鶺鴒せきれいLa Bergeronnette
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
鶺鴒せきれいの尾にぞあられのはじかれし 蒼苔
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
鶺鴒せきれいのように尾を振り合つて
如月や鶺鴒せきれいへる防波堤
普羅句集 (新字旧仮名) / 前田普羅(著)
吉田巌君説(『郷土研究』一巻十一号六七二頁)に、国造神が国土を創成するとき、鶏は土を踏み固め、鶺鴒せきれいは尾で土を叩いて手伝った。
其處そこには山椿やまつばき花片はなびらが、のあたり水中すゐちういはいはび、胸毛むなげ黄色きいろ鶺鴒せきれい雌鳥めんどりふくみこぼした口紅くちべにのやうにく。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
九月初旬三度目に行ったときには宿の池にやっと二三羽の鶺鴒せきれいが見られた。去年のような大群はもう来ないらしい。
あひると猿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その水玉の傘が地まで落ちないうちに、河中の鶺鴒せきれいはぱっと跳んで返って、いわゆる抜く手も見せない間髪に、狡智こうちけたその卑怯者を斬りなぐった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからまだあるのは、この日月のお形の下に、一方には鶺鴒せきれいという小鳥、他の一方にはにわとりが彫り入れてあることで、説明がないとこれだけはよく解らない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
嶮しい山々に囲まれながら、起伏して拡がっている芒の原は、小松を雑えて青味立ち、ちょろちょろ水をところどころに流し、鶺鴒せきれいや山鳥の飲むにまかせていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
上越国境の山々が初冬の薄雪を装い、北風に落葉が渦巻いて流れの白泡を彩り、鶺鴒せきれいの足跡が玉石の面に凍てるようになれば、谷川の水は指先を切るほどに冷たくなる。
姫柚子の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
波の上に飛びかう鶺鴒せきれいたちまち来り忽ち去る。秋風に吹きなやまされて力なく水にすれつあがりつ胡蝶のひらひらと舞い出でたる箱根のいただきとも知らずてやいと心づよし。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
早い落葉がしきりに舞い、川中の白く乾いた岩の上で、鶺鴒せきれいが黙って尾羽根を振っていた。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)