とき)” の例文
夜が明けると、相も変らず寄せ手の激しい攻撃が始まって、鉄炮の音、煙硝えんしょうの匂、法螺貝ほらがい、陣太鼓、ときの声などが一日つゞいていた。
十四五人が、ときを上げて、走り上ると、敵は、周章てて、塀の中へ、隠くれてしまった。そして、銃声が、硝煙が、激しくなった。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
高折又七郎の指揮する、栃木大助以下五十人の先鋒隊と、それを包む三百の馬場勢は、ときをつくって敵陣のまっ唯中へ斬り込んだ。
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
孔明のつかのある定軍山に雲がおりると今でもきっと撃鼓げきこの声がする。漢中の八陣の遺蹟には、雨がふると、ときの声が起る。「干宝晋記かんほうしんき
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、勢揃いした源平の両陣は、声を合わせてときをあげた。その声は西海の波をはるかに越え、遠く梵天ぼんてんまでも聞えるほどであった。
つづいてそれがどっと雪崩なだれを打つときの声に変ります。わたくしはほとんどもう寝間着姿で、寝殿しんでんのお屋敷にじ登ったのでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
桟敷の手摺りをたたく者がある、しまいにはときをつくってはやし立てるという未曾有みぞう騒擾そうじょうを演出したので、他の観客もおどろかされた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
聴衆は一度にどっとときげた。高柳君は肺病にもかかわらずもっともおおいなる鬨を揚げた。生れてから始めてこんな痛快な感じを得た。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、突然ときの声が起こった。お館の方へ行くらしかった。門を叩く音がした。烈しい叱咤しったの声がした。バタバタと逃げ去る足音がした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
篝火かがりびを焚いたり、ときの声を挙げなば引ッ捕えられぬやも知れぬゆえ、鳴りを鎮めていなくばなりませんぞ。——御仁。旅の御仁!
土地によっては千度参りの人たちは、やしろの前に立って大きなときの声をあげる。それが病人のまくらもとまでこえてくることもしばしばある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ときを作って踏み込んだまではいいが、奥の一間に、富五郎の屍骸なきがらに折り重なってよよとばかりに哭き崩れる女房を見出しては
するともなく、「うおっうおっ。」というやかましいときこえげて、なんにんとないさむらいが、もりの中からしてました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
が、たちまち鶏のむれが、一斉いっせいときをつくったと思うと、向うに夜霧をき止めていた、岩屋の戸らしい一枚岩が、おもむろに左右へひらき出した。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その時吹いてきた風は、太鼓のとどろきやときの声や一隊の兵の銃火の音や警鐘と大砲との沈痛な応答の響きなどを、はっきりと伝えていた。
馬烟うまげむりときの声、金鼓きんこの乱調子、焔硝えんしょうの香、鉄と火の世の中に生れて来たすぐれた魂魄はナマヌルな魂魄では無い、皆いずれも火の玉だましいだ
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
身体じゅうの脈管がそれに応じて一時にときの声をあげはじめ、血が逆流して頭のなかをぐるぐるかけ巡るのがきこえてくる。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
他の店の黄色或いは丹色の日覆いも旗の色と共に眼に効果を現わして来た。包囲したときの声のような喧騒に混って音楽の音が八方から伝わる。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
船名はサンチャゴ……サンチャゴとはイスパニヤ語の八幡大菩薩にあたり、合戦でときの声をあげるとき、サンチャゴと叫ぶのだということである。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
過れば一望の原野開墾年々とし/″\にとゞきて田畑多しこれ古戰塲桔梗きゝやうはら雨持つ空暗く風いたはし六十三塚など小さき丘に殘れり當年の矢叫びときの聲必竟ひつきやう何の爲ぞ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
浅草の空に翻る旗差し物、鐘、太鼓、鳴り物の響き、ときの声、矢叫やたけびの音は、皆この一人当たり一円六十八銭弱の争奪戦のどよめきと見るべきである。
雄風凜々ゆうふうりんりんとして、ときの声を上げんばかりの張り切りようです。夏の早暁の、さわやかな朝風をいて、昨夜二人と別れたあの石橋のところまで来ました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
五月五日、この日、道明寺玉手表には、既に戦始り、幸村の陣取った太子へも、そのときの声、筒音など響かせた。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうして聞くに堪えない罵詈讒謗ばりざんぼうを加えてはどっときの声を揚げる有様は、まるで一揆いっきのような有様でありました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
心がときの声をあげた。そして、彼女の道を遮り行く手を拒むあらゆるものに向って戦いが宣せられたのである。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
見物達の驚きは申すもくだである。彼等はこんな不思議な生首舟を、いまつて見たことも聞いたこともなかった、ワーッと云う一種異様のときの声が上った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、同時に寄せ手の軍勢は、ときの声をあげ、城門も吹っ飛べとばかり、何万かが束になって押し寄せてきた。
老狸伝 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そのとき、突然武器庫ぶきぐらから火が上った。と、同時に森の中からは、一斉にときの声が群衆めがけて押し寄せた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
或る人がなかごう枳殻寺からたちでらの近所を通ると、紙の旗やむしろ旗を立てて、大勢が一団となり、ときの声を揚げ、米屋をこわして、勝手に米穀をさらって行く現場を見た。
一時間ばかり待っていて、救世軍の婦人から、「ときこえ」を売りつけられた時、自分の悧巧でないことが少し分った。そこへ絹子さんのお父さんがやって来た。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ときの声が聞える。五六人の声だ。中に、量のある了輔の声と、栄さんのソプラノなのが際立つて響く。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
全体には恐ろしい真実性があり、精神がこもってできあがっている。怪物の開いた口からほとばしり出てくる意味のわからぬ勝利のときの声が聞えるような気さえする。
トロ族群衆の興奮と激昂げきこうとはその頂点に達した。ついに彼らはときの声をあげて、僕の方へ殺到した。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二十万の親なし児がときの声をつくって南部オデッサの方面から、或いは貨車の下に掴まり、あるいは国道のほこりにまみれて、今や市内へ雪崩なだれ込もうとしているのだ。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
竹矢來を取卷く見物は、高潮する劇的なシーンに醉つて、時々ドツ、ドツとときの聲をあげます。
俺も森をはたへ駈出してたしか二三発も撃たかと思う頃、忽ちワッというときの声が一段高く聞えて、皆一斉に走出す、皆走出す中で、俺はソノ……もとの処に居る。ハテなと思た。
丑満ごろに、闇をつんざいて聞えたときの声、ただならぬ廊側の足音、てつきり『山賊襲来』と思つたのは、丑の刻を知らせる田村旅館の番頭達の怒鳴り声であつた。童謡一篇。
大利根八十里を溯る (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ぞっとしてきびすを返して、一生懸命に野を横ぎり、又もや村里のかたを指して程少し来ると思う時分に百万の軍勢がときを造って、枯野を駆けるがようにごうと風やら、雨の物音が耳許みみもとを襲う。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
例えば御飯の時など、九工場の担当は鶏がときをつくるような調子で、喫飯キッパン! と突拍子もない大きい声を出したが、その人は静かにただ「御飯。」と云った。すべてがそういう風だった。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
くさむらからピリピリイと笛が鳴りひゞきました。あちらからもこちらからも黒い頭が、白い穂芒の間に現はれてワアツとときの声をあげました。向ふから蔓草つるぐさをたすきにかけた一隊が出てきました。
文化村を襲つた子ども (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
(鑿を試み、小耳を傾け、ときのごとく叫ぶ天守下の声を聞く)
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どんどん割れます、今、ときの声があがりましたろう」
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
潜水艦からどっとときの声が起った。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
つづいてそれがどつと雪崩なだれを打つときの声に変ります。わたくしはほとんどもう寝間着姿で、寝殿しんでんのお屋敷にぢ登つたのでございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
諸所へ火を放ち、矢束を射込み、鼓を鳴らし、ときの声をあげなどして、張飛の夜襲はまことに張飛らしく、派手に押しよせてきた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ただ何処にでも沢山いて、小憎らしい程卵を産んで、毎朝毎朝ときの声を上げて、平凡主義を発揮するので、それで珍重されない迄さ。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
飯の出る前に、何の拍子ひょうしか、先に暗くなった電灯がまた一時に明るくなった。その時台所の方でわあと喜びのときの声を挙げたものがあった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると彼の真後まうしろには、白々しろじろと尾を垂れた鶏が一羽、祭壇の上に胸を張ったまま、もう一度、夜でも明けたようにときをつくっているではないか?
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
法師丸は自分の部屋と定められた所に一日じっと引きこもっていて、遥かにきこえて来る鉄炮てっぽうの音やときのこえを耳にしながら
その時、時を見計っていた木曽勢は、時来れりとばかり、七手の軍勢を一手に集め、用意した白旗をさっと掲げると、一度にときの声をあげた。