こつ)” の例文
そんなのをかたぱしから研究材料にして切り散らしたあげく、大学附属の火葬場で焼いてこつにして、五円の香典を添えて遺族に引渡す。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただ市村いちむら座の向側に小さい馬肉の煮込を食わせるところがあり、その煮方には一種のこつがあって余所よそではあじわえない味を出していた。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その土蔵の長持の底には、美しい歌舞伎役者が白いこつになって横わっているかと思うと、わたくしは身の毛がよだって逃げ出しました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「まだ人なみのこつがらも持たぬ乳臭児にゅうしゅうじの分際で、宗規しゅうきみだし、烏滸おこがましい授戒など受けると、この叡山の中にただはおかぬぞと」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし十六位の少年が平氣でこの力仕事に從つてゐるのを見ると、力だけのことではなく、これもやはりこつのものなのであらう。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
ベシー・リイは確かに生まれつきよい才能をもつた娘だつた。何をしても手際てぎはよくやつたし、また話を面白く聞かせるこつをも心得てゐた。
それどころか東京に着いたときは、おやじはとっくにこつになっていた。北海道とちがって東京はヤケに暑く、屍体がもたないんだそうだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「そんなに怒るもんぢやないよ、お前がそんなに言ふんだつたら、これからお前の亡くなるまでは、もう人のこつなぞ食べやしないから。」
給仕にチップをやるこつも心得、テーブル・スピーチなども、極めて要領よく当らず触らずにこなす呼吸も呑込のみこんで居りました。
その折のこつを用いて他流試合に参ったごとく持ちかけ、そちの手にあまる者が飛び出て参るまで、当て身、遠当て、程よく腕馴らしやってみい
仕事は少しずつ捗取はかどって来た。進行するにつれて原文になずんでも来たし、訂正のこつ自然ひとりでに会得されて来た。作そのものにも興味が出て来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その暗謨尼亜を造るには如何どうするかと云えば、こつ……骨よりもっと世話なしに出来るのは鼈甲屋べっこうやなどに馬爪ばづ削屑けずりくずがいくらもあって只呉ただくれる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
駕籠を突き刺す場所まで、一つ一つ大次郎には決っていて一瞬間の居合いのこつ、手許の狂うことは断じてないのである。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
手先仕事のちょっとしたこつなら傍から見ていて、すぐに覚えとってしまう眼であった。眼分量のよくきく眼であった。
忘れがたみ (新字新仮名) / 原民喜(著)
「このこつだ。それ。」と懸声して、やっと一番活を入るれば、不思議や四足しそくをびりびりびり。一同これはと驚く処に
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕は蝋細工の工場へ行って見ましたが、少しこつを飲込みさえすれば、素人にだって出来相な、ごく簡単な仕事です。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これが、あの、昔のお京じゃろか? まるきり、しなびた胡瓜きゅうりのごとなって、せんこんこつ、ふた眼とは見られん。じゃが、お京にはちがいなかった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
何しろその道にかけちゃ、俺たちはみんな達人だからな。第二のほうだってちょっとこつを覚えりゃなんでもない。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
みこのおこつをおめ申したところは私がちゃんと存じております。おそれながら、みこには、ゆりの根のようにおかさなりになったお歯がおありになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
昨年あねが外国でくなりました時は、取敢えずおこつを嫂の実家の墓地へ同居させてもらっておきましたが、この度兄と一緒にまつることにいたしましたので
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そこで、さっそく、はしの下の地面じめんをほりかえさせてみますと、殺された弟のがいこつがのこらずでてきました。
「諸君! お欣びなされい! かねての宿願が叶い申したぞ。明日、こつヶ原で腑分ふわけがある! 腑分がある!」
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかし真の知的直観とは純粋経験における統一作用其者である、生命の捕捉である、即ち技術のこつの如き者、一層深くいえば美術の精神の如き者がそれである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
何処どこと云って知己しるべもございませんから、どうか火葬にして此の村へ葬り、こつだけを持ってまいりとう存じますが、御覧の通り是からはわたくし一人でございますから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
美しかった異国の町は跡形もなく消え失せて、ただ眼前に残った物は黒暗々たる淵の底の渦巻き返る水ばかり。と見ると足もとの水底に白々と置かれたこつがある。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうだ、ここは俗に千住の小塚ッ原、一名をこつはらという——仕置にかけて人間を殺すところなのだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから見世物にじゃこつだといってよく出ているのがあれも牛の軟骨をかためたのだそうです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
千鶴子母子おやこが右の問答をなしつるより二十日はつかばかり立ちて、一片の遺骨と一通の書と寂しき川島家に届きたり。こつは千々岩の骨、書は武男の書なりき。その数節を摘みてん。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ここは、病院びょういんの一しつでありました。そこには、五つになるおとこが、ろっこつカリエスにて、もうながらく入院にゅういんしていました。その看護かんごには、しんのおかあさんが、あたりました。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そんなつもりはこれっぱかりもなかった、ほんとよ、もしあんたを騙すつもりなら、おこつをあんなところに置いときゃあしない、いくらあたしだってそのくらいの知恵はあってよ」
それはいわばこつ、気合の冴えとでもいわるべきものである。耐えることは最早放棄しか有得ない極みに於いて、何物かに身を委ねる。それはフォームといわんにはあまりにも流動的である。
近代美の研究 (新字新仮名) / 中井正一(著)
妾がアングロ・サクソンの諾威ノルウエー人によって子宮炎を起し、チュトン族の独逸ドイツ人によって戦術を会得し、ケント族のフランス人から無意味で得体のしれぬラブ・レタと嬉しがらせのこつを覚え
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
良人の話ですと、戸部の伯父は何んでも抵当流れで儲けたんだそうですが、その抵当物の鑑定のかけひきのこつは誰れにも掴み得ないとのこと、資産も莫大なものだろうなど申して居りました。
旅役者の妻より (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
さとされてゐる。これは富木常忍入道どきじやうにんにふだうが母のこつをもつて、身延にゆき、日蓮上人に母死去のせつ妻の尼御前あまごぜんがよく世話したことや、妻が病氣がちだつた事をはなしたので書かれたものと見える。
ねえ、利七さん、あなたのこつはあたしが長崎迄抱いて行ってあげますから
併し、慣れるにれて、こつみ込んで了ふと、すべてが御しやすくなつて来た。見物といふものも初めは恐かつたが今は可愛かはいくなつた。彼は彼等の心もちを自由に浮沈させる事が愉快になつて来た。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
桑はその言葉に従って李の塚を開いてこつを得て帰り、それを蓮香の墓に合葬した。親戚朋友がその不思議を聞き伝えて、祭祀の時のような服装をしてきたが、期せずして二三百人の者があつまった。
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
目にとめてうちしらみゆくこつ火気ほけ箸につきあはせ拾ひつつあはれ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「えい、……何でも夜明までおこつが上らなんださうな。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「それじゃあ、一体、とっておいて何に使おうってんだね? それに、こつだの墓だのは、もとのまま、こちらに残るんですよ。取引は証書面だけのことですからねえ。さあどうです? どうするんです? 何とか返事だけでもして下さいよ。」
しゅの勝久は若年でまだ二十六歳。その下の孤忠の臣たり一代の侠骨鹿之介幸盛は、三十九歳の稜々りょうりょうたるこつがらの持主であった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とりわけ女を取扱ふのには、何よりも先にそのこつを覚えなければならぬ。女は茶入と同じやうに、結構な芸術品だからである。
料理のこつが憶えたくて堪らないので、教えを乞うと、親方は庖丁を使いながら彼の方を見やり、「黙って見ていろ」と、ただ、そう呟くのだそうだ。
(新字新仮名) / 原民喜(著)
乞食という商売は——私は敢えて商売と申します——決して楽な商売ではありません「右や左の旦那様——」をやるこつもすっかり板に付いてしまって
毎日毎日練習用のフォードのぼろ車をいじくっている内に、妙なもので、少しはこつが分って来た。この分なら、もう一月もしたら、乙種おつしゅの免状位取れ相だよ。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
葬式とむらいこつあげに着て行く自分の着物のことなどが気にかかった。田舎から来る、叔母の身内の人たちの前も、あまり見すぼらしい身装みなりはしたくないとおもった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
歌舞伎座と市村座でこつせの岩藤を演じたが、先代菊五郎のった一昔の前には見物は喜んで見ていたのが、今ではこつが寄るのを見ると、いずれも見物は笑った。
当今の劇壇をこのままに (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御串戯ごじょうだんで、中へ入ると、恐怖おっかねえ、その亡くなった奥さんのこつがあるんじゃありませんかい。)
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞いてみると、なあんだ、と云ひたいやうなことで、さつきからやつてゐたことのやうな氣もするが、切れなかつたところを見ると、やはりこつといふものはあるのであらう。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
と六樹園はそれがこつだと教えるように三馬に言った。三馬は表情をあらわさなかった。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)