はし)” の例文
其頃は夏の日の光線にかゞやいた碧い空が、山と谷との上を蔽うて、電車が明るい快い姿を溪畔から山の町の方へとはしらせて行つた。
日光 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
暴風雨あらし模様の高浪を追越し追越し、白泡を噛み、飛沫しぶきを蹴上げて天馬くうはしるが如く、五島列島の北の端、城ヶ島を目がけて一直線。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
両側には山毛欅やまぶな、いたやかえで、斎墩樹ちさのき、おおなら、大葉柏などの落葉喬木類が密生していた。馬車はぼこぼこと落ち葉の上をはしった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ところがその時です、私が、列車がの地点をはしっているかということに気づいたのは。そして到底脱線の外はないとあきらめました。
まさに死に墜ちる瞬間の、物凄い形相が、画面からぞわぞわと滲出にじみでて、思わずゾッとしたものが、背筋をはしるほどの出来栄えだった。
魔像 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
今、彼等のトラックが、どうしてフール・スピードではしらずにいられよう! この秋晴れの日に。その故郷へ向う日本の道の上を。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼らが水上をはしる時は、宝船に則った軽舟を用い、また陸上を走る時は、彼ら独特の「手組輿」——そういうもので走ったそうである。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四山環翠、一水澄碧の湖上に輕艇をはしらすれば、凉風おもてつて、白波ふなばたに碎くるさま、もとより爽快の好い心持である。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この高原の嶺を境にして、道は甲州、中山道なかせんどう、北国街道の三方にわかれているし、水はみな北へはしって、越後の海へ落ちてゆく。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一個々玉をあざむこいしの上を琴の相の手弾く様な音立てゝ、金糸と閃めく日影ひかげみだしてはしり行く水の清さは、まさしく溶けて流るゝ水晶である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし絶対者である仏の慈悲を感ずること、美しい偶像と音楽とのもたらす法悦に浸ることは、愛欲にはしる多くのものにも不可能ではない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
幌は破れ、車体はゆがみ、タイヤは擦り減り、しかもごろた石の凸凹でこぼこの山坂道をはしり上るのである。揺れるの揺れないのでない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「この流れは余り急過ぎる。少しも余裕がない。のべつにはしっている。所々にこう云う場所がないとやはり行かんね」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、現地の事情について何ら知るところのない私がそこまで筆をはしらせることは不謹慎であるから、ここではそのような具体策にまでは触れない。
映画と民族性 (新字新仮名) / 伊丹万作(著)
そういった次長も、上衣うわぎをつかむが早いかすぐエレベーターの方にはしっていた。社長を至急探しださねばならない。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
頭の中には夢のかすが一杯に詰まつてゐるやうな気がする。とみ子、妻それから今かゝつてる創作のプロット、そんなものがちぎれ/\に眼の前をはしる。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
其度毎そのたびごとに渦を巻いたり白い泡を立てたりして、矢のようにはしる川がちょいちょい脚の下にのぞまれる。峡勢窄迫さっぱくして、黒部川特有の廊下がそろそろ始まったのだ。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
夫婦島めをとじまの方に帆舟が一つはしつて居る。櫓聲靜に我舟の行くまゝに、鴨が飛び、千鳥が飛ぶ。やがて舟は一の入江に入つて、紅葉館の下に着いた。女中が出迎へる。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
一昼夜に三百十五六マイルはしる快い速力で、岸本を乗せた船はドバアの海峡を通り越して行った。航海の五日目には、英吉利沿岸の白く光るがけも遠く後方うしろになった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そんな空想をのんきにはしらせて釣り歩るく。然し川釣りになると、町や村も近いし、夜は灯が多いし、あたりに必ず人間もゐるから、馬鹿馬鹿しい空想も起らない。
伊勢の国大湊おおみなとから出た若山丸は無事に伊勢の海を出て、東海の航路をはしって行ったのでありましたが、乗手の中にただ一人、無事でなかったのはお玉でありました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
湿っぽい夜更けの風の気持好く吹いて来る暗い濠端を、客の少い電車が、はやい速力ではしった。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
少年の時に地理書で教へられた長い隧道トンネルを越えて伊太利イタリイはひり、マヂオル湖に沿うて汽車のはしまゝに風物は秋に逆戻りして、葡萄ぶだうの葉は赤く、板屋楓プラタアン広葉ひろばを光らし
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
なみの音が穏かにざあざあと云うように聞えて来た。それとともに、波のしずかな海がどうしてあんなになるのだろうと思った。その考えはやがて海の上をはしっている船へ往った。
海嘯のあと (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
渠水きよすゐを望めば、燈影長く垂れて、橋を負へる石弓せりもちの下に、「ゴンドラ」の舟のよりもはやはしるを見る。忽ち歌聲の耳に入るあり。諦聽すれば、是れ戀愛と接吻との曲なり。
而して再びその暗がひらけた時、汽車は既に故郷の殘影である燈火の群から遠くはしつてゐた。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
その石垣の中から蜥蜴とかげの銀光の肌がはしり出したかと思ふと、ついとまた石垣の穴にかくれた。午頃ひるころちまたは沙漠のやうに光が澱んで居た。音のない光を限り無く深くたゝへて居た。
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
断崖の上のみをはしるので眺望の点においてはるか自動車道ドライブ・ウェー以上であることを附記して置く。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
ながら海上海底かいじやうかいてい光景くわうけい觀測くわんそくすることべく、自動照凖器じどうせうじゆんきをもつて潮流てうりう速力そくりよくり、波動はどう方向ほうかうさだめ、海戰かいせんすではじまらは、てい逆浪げきらう怒濤どたうそこ電光でんくわうごとはしる、そのあひだつて
落葉松濃かに、黒狐、三毛狐其蔭に躍り、流水涓々けんけんとして処々にはしり、玉蜀黍穫べく馬鈴薯植うべく、田園を開拓するものは賞与の典あり、而も遷徒の土人、新楽土を喜ばずして、帰心督促
無論はしつて居るには違ひないが、此處から見ては、唯ポッチリとした黒い星、動いてるのか動かぬのか、南へ駛るのか北へ向くのか、少しも解らぬ。此方へ來るなと思へば、此方へ來る樣に見える。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それも途絶えた闇の湖を、はしる駛る船の帆が、夜の墨色に消されもせず、燃え立つばかりに赤いのは、纐纈布であるからであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鹿のはしるような物音が寺園の奥に響いた。その跫音を追いまわしていた一僧は、やがて息をあえぎながら茶屋の庭面にわもへ駈けて来て
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、名刺を渡して、明朝行けるようだったら本斗から電話をかけるからということにして、またリンリンリンリンでパルプ工場へはしらした。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
北海道十勝の池田駅で乗換えた汽車は、秋雨寂しい利別川としべつがわの谷を北へ北へまた北へ北へとはしって、夕の四時㓐別りくんべつ駅に着いた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのとき船は阿弗利加アフリカ沖をはしっていたが、ガルールは仏領南亜米利加アメリカはギヤーヌの徒刑場へ流されたくるしい経験を思いだし
水清く魚すこやかに、日光樹梢を漏りてかすかに金をふるふところ、梭影さえい縱横して魚はしるさま、之を視て樂んで時の經つのを忘れしむるものがある。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
夜は深閑と更けて、彼方の骸骨のような森の梢には、細いいまにも破け落ちそうな月がひっかかり、新聞紙がもののけのように風にのってはしっていた。
蝕眠譜 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
研究所へ来る郊外電車は、時間のせいか思ったよりすいていて重吉は吊革につかまりながら窓外をはしりすぎる森や畑の景色を飽きずにじっと眺めていた。
風知草 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「爆弾」——というと、人造人間はツツーとはしって、博士の寝台のすぐ前でピタリと停った。これを見ている一同の顔には、アリアリと恐怖の色が浮んだ。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかして僧の如き、佛陀の如き、臥牛ぐわぎうの如き、奔馬の如き小山脈はこれに從ひて遙かに西にはしれるを見る。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
アイヌはそこに立ち止まって、若い農夫の見当を遮ったまま、珍しい馬車での通行者を、いつまでも見送っていた。機会は、馬車と共に原始林から村里へとはしって行った。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
弦月丸げんげつまるして航路かうろ海波なみてらしつゝ、ずん/″\と前方かなたはしつた。
フイロソフイストは、「人は考へる為めに生れて来た」といふが、われわれフアンテエジストは、「人は空想する為めに生れて来た」と云つてもよい程、用もない時は空想ばかりはしらせてゐる。
速力大なる先鋒隊の四艦をつかわして、赤城比叡をする敵の三艦を追い払わせつつ、一隊五艦依然単縦陣をとって、同じく縦陣をとれる敵艦を中心に大なるじゃの目をえがきもてかつはしりかつ撃ち
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
無論はしツて居るには違ひないが、此処から見ては、唯ポツチリとした黒い星、動いてるのか動かぬのか、南へ駛るのか北へ向くのか、少しも解らぬ。此方こつちへ来るなと思へば、此方へ来る様に見える。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼の心は神戸から自分を乗せてはしって来た仏蘭西船へ行き、あの甲板の上から望んで来た地中海へ行き、紅海へ行き、亜剌比亜アラビア海へ行った。恐ろしい永遠の真夏を見るような印度インド洋の上へも行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「明暦義党とやら申します輩が、多勢小船で乗りつけまして、お船を奪い取り何処いずこへともなく、はしり去りましてござります」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近くは深沈としたブリュウブラックのうしおめんに擾乱する水あさぎと白の泡沫。その上をおおきな煙突の影のみがはしってゆく。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
荒れがむと、海上は静かななぎになって、船は爽やかな風に満帆を張って、気持よくはしった。皆が思う存分に御馳走を食ったり、酒を飲んだりした。