わか)” の例文
秀吉は、この栄を、さらに、家臣にもわかつべく、七本槍の若者以下、有功の将三十六人、その他へも、広汎こうはんな論功行賞を同時にした。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸将僚もこれにうなずいた。全軍の将卒に各二升のほしいいと一個の冰片ひょうへんとがわかたれ、遮二無二しゃにむに遮虜鄣しゃりょしょうに向かって走るべき旨がふくめられた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「そう? もう出来たの?」と私も鄭と共に喜びをわかちつつ、それを手にとって見た。が、内容については私はもう知りぬいていた。
あゝ比類たぐひなき智慧よ、天に地にまた禍ひの世に示す汝のわざは大いなるかな、汝の權威ちからわかち與ふるさまは公平なるかな 一〇—一二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
やさしい海軍の飛行将校たちは、僕等を救助し、飛行機に乗っけてくれたばかりでなく、いろいろ珍しい携帯糧食を、わかち与えてくれた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
羅摩これを見て大いに悔い、二子にその国をわかち、恒河のあたり隠栖いんせい修道して死んだというのが一伝で、他に色々と異伝がある。
天筠居が去年の夏、複製して暑中見舞として知人にわかった椿岳の画短冊は劫火ごうかの中からかろうじて拾い出された椿岳蒐集の記念の片影であった。
不破の関守氏から一樽をわかちもらって来て道庵に授けたものですから、そのよろこびといっては容易のものではありません。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なめらかなる大理石の床は、蝋燭の光を反射し、鐵の格子をめぐらしたる火鉢(スカルヂノ)は、程好きあたゝかさを一間の内にわかてり。
で役者の方でも、狂言にちなんだ物を娘たちにわかって人気を集めたもので、これを浅草の金華堂きんかどうとかいうので造っていた。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
阿羅岐あらき蘇古珍スコチン酒、裸形らぎやうの妖女に溺れつくして狂乱、泥迷に昼夜をわかたねば、使ふに由なき黄金は徒らに積り積るのみ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
またたとい可能であっても、自分の力を文字どおりに平等に万人にわかつという意味での公平は賢きものではあるまい。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「こう老爺様じいさんまあ待ちねえ、婆様ばあさんちょいと。」と呼留めて、売溜うりだめの財布より銅貨四銭取出とりいだし、二人の手にわかち与えて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
未だいくばくならぬに、竜池はまさ刑辟けいへきに触れむとしてわずかに免れた。これは女郎買案内を作って上梓じょうしし、知友の間にわかった事が町奉行の耳に入ったのである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
電気以前のレコードはもはやプレスの問題に上せたくないが、ビクター会社はせめて、残る電気の六枚をプレスして同好の士にわかつべきであると思う。
故に将士は営に至れば、すなわち休息するを得、いとまあれば王射猟しゃりょうして地勢を周覧し、きんれば将士にわかち、塁を抜くごとにことごとるところの財物をたまう。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこでこれを一旦また他の好者すきものわかちまして、そうして新しい刺激を得るような古陶器を再び取り入れようというのが今度展観する私の目的であります。
見られよ、私たちのために形を整え、姿を飾り、模様に身を彩るではないか。私たちの間にして悩む時もすさむ時も、生活をわかとうとて交わるのである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その笑顔には、いわば秘密のわかちあいめいた暗黙の連帯と、それを恥じながら認める感情の手ごたえとが、たとえ力無くではあろうと含まれていたのだ。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
書中雅意きくすべし。往時弁論桿闔かんこうの人に似ざるなり。去歳の春、始めて一書を著わし、題して『十九世紀の青年及び教育』という。これを朋友子弟にわかつ。
将来の日本:02 序 (新字新仮名) / 田口卯吉(著)
書中雅意きくすべし。往時弁論桿闔かんこうの人に似ざるなり。去歳の春、始めて一書を著わし、題して『十九世紀の青年及び教育』という。これを朋友子弟にわかつ。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
糖尿試験食の皿と普通の皿と、ベッド・テーブルの上に並べられると、御馳走ごちそうのある試験食の方の皿から、普通食の皿へ、妻ははしでとって彼にわかつのだった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
十二月の二十日過ぎに中宮ちゅうぐうが宮中から退出しておいでになって、六条院の四十歳の残りの日のための祈祷きとうに、奈良ならの七大寺へ布四千反をわかってお納めになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
なおまた伝吉の墓のある笹山村の慈照寺じしょうじ浄土宗じょうどしゅう)は「孝子伝吉物語」と云う木版の小冊子しょうさっしわかっている。この「伝吉物語」によれば伝吉は何もした訣ではない。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の大地が静かに永遠に抱き葬つた百千もゝちの霊魂とともに未来永劫にわたつて可能なる無限無数のまだ生れない生命とともに、さては地の喜びをわかつ空の星とともに
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
部署既ニおわルヤ出デヽ朝廷わかツ所ノ府県奉職規則ヲ示シカツコレニ告ゲテ曰ク、余東京ヲ発スルノ前幾日、皇上便殿べんでんニ宣光ラヲ引見シ詔シテ曰ク民ハ国ノ本ナリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そしてそれが単に自分一人の問題ぢやなくて、すべての自分の信頼の的である父が、同じ悩みをわかつてゐるのだと思ふと、急に安心したやうな横着な気がきざして来た。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
品性が、それから書物の品位が、幾らかいやしくなり勝ちである。理想的に云えば、自費で出版して、同好者にただわかつと一番良いのだが、私は貧乏だからそれが出来ぬ。
謡曲界では観世宝生を始め、それぞれめでたい文句の小謡を新作して節付けしたのを門中へわかつ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
女は二つの茶碗ちやわんを置並ぶれば、玉の如き真白の粉末は封をひらきて、男の手よりその内にわかたれぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
アリョーシャにはこれまでどおりの生活をするのが、奇怪で不可能なことにすら思われた。聖書にも、『もしまったからんと欲せば、すべての財宝をわかちてわれの後より来たれ』
如上じょじょうの自分の喜びをわかつ意味と、し秋田さんの話が貴下に初耳ならば、御仕事をなさる上にこの御知らせが幾分なりとも御役に立つのではないかと実はこの手紙を書きました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
日の出る方をもとつ国、清い霊魂の行き通う国、セヂの豊かにあふれて、惜みなくこれを人間にわかとうとする国と信じていたとしたら、それこそは我々の先祖の大昔の海の旅を
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
天平感宝てんぴょうかんぽう元年五月九日、越中国府の諸官吏が、少目さかん秦伊美吉石竹はたのいみきいわたけの官舎で宴を開いたとき、主人の石竹が百合の花をかずらに造って、豆器ずきという食器の上にそれを載せて、客人にわかった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
特に天平時代は金光明経が国民全体の福祉のために盛んに用いられた時代で、吉祥天の崇拝もまた盛んであった。天平末に政府が吉祥天女画像を国分寺にわかったごときはその一端であろう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
翁はまた此様なものを作ったと云って見せる。場内の農家にわか刷物すりものである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私達に特別の明察めいさつと忍耐力を与え給え。私達は単に知識をわかつ丈けで満足すべきでありません。当学園の教育方針は教員各自実践躬行じっせんきゅうこう、もってクリスチャン・ゼントルマンを養成するにあります。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
春風の心を人にわかたばや
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「てまえに、兵三万をおわかち下さい。巴蜀はしょくのほうに、のこのこ頭を出してきた張飛の軍を、一叩き叩いて後の憂いを断ってきますから」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし粗密のみこれが原因もとならば、同じ一の力にてたゞわかたれし量を異にしまたはこれを等しうするものすべての光の中にあらむ 六七—六九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しん石崇せきそうあざな季倫きりんふ。季倫きりんちゝ石苞せきはうくらゐすで司徒しとにして、せんとするとき遺産ゐさんわかちて諸子しよしあたふ。たゞ石崇せきそうには一物いちもつをのこさずしてふ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見られよ、私たちのために形を整え、姿を飾り、模様に身を彩るではないか。私たちの間に伍して悩む時もすさむ時も、生活をわかとうとて交わるのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
なほ六美女は当時十八歳なりしが、かねてより六字の名号みょうごうを紙に写すこと三万葉に及びしを、当来の参集にわかちしに、三日に足らずしてくせりといふ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
予しばしばしところ斥候は始終番し続け少しも自ら集めず、因って退陣事終って一同の所獲をわかつと察す。
竜池は我名のかくの如くに伝播でんぱせらるるを忌まなかった。ただにそれのみではない。竜池は自ら津国名所と題する小冊子をあらわして印刷せしめ、これを知友にわかった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
希望者には実費でわかちますから見本としてお持ち帰り下さいというようにしなければ会の性質が分らない。
何ゆえその財を貧しいものにわかたないのか。耶蘇は「二枚の衣あらば一枚を隣人に割け」といった。自分はそれだけの愛がまだ無いのを恥じるというのはいい。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
が、この飜訳は前にビェリンスキーを飜訳したと同じく、自ら傾倒するツルゲーネフを紹介して公衆に興味をわかとうとしたので、原稿料を取るためではなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
さきに御相談申し候尊攘堂の本山ともなるべし。人物集り書籍集りたる上にて、神道を尊び神国を尊び 天皇を尊び、正論ばかり抜き取り一書として天下にわかつべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
同じ九年胡惟庸こいよう命を受けて釐正りせいするところあり、又同じ十六年、二十二年の編撰へんせんを経て、ついに洪武の末に至り、更定大明律こうていたいみんりつ三十巻大成し、天下にわかち示されたるなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)