頑丈がんじょう)” の例文
これ、さっきは、瓔珞の頑丈がんじょうをたよって不覚をとったが、こんどは、果心居士かしんこじ相伝そうでん浮体ふたいの法をじゅうぶんにおこなっているためだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
良平はひとりいらいらしながら、トロッコのまわりをまわって見た。トロッコには頑丈がんじょうな車台の板に、ねかえった泥がかわいていた。
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
海ぞいに立て連ねた石杭いしぐいをつなぐ頑丈がんじょうな鉄鎖には、西洋人の子供たちがこうしほどな洋犬やあまに付き添われて事もなげに遊び戯れていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
運転手達は、傲慢ごうまんな調子で、いい捨てたまま、部屋を出て行ってしまった、ガラガラと閉める頑丈がんじょうな扉、カチカチと鍵のかかる音。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
先刻ちらと見たなつかしい顔に、親愛なる母親に、または、「死も噛み込めない」岩のように感ぜられる、自分の頑丈がんじょうな一身に……。
あまり暴れるので俺が大きなつなでぐるぐるまきにしばっておいたのに、どんなに頑丈がんじょうにしといても何時の間にか抜けてしまうのだ
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
煙草の煙が、未来の影を朦朧もうろうめ尽すまで濃く揺曳たなびいた時、宗近君の頑丈がんじょうな姿が、すべての想像を払って、現実界にあらわれた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
体格は骨太ほねぶと頑丈がんじょうな作り、その顔はまなジリ長く切れ、鼻高く一見して堂々たる容貌ようぼう、気象も武人気質ぶじんかたぎで、容易に物に屈しない。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
男は六十歳くらいかとも思われ、悲しそうなまじめな顔つきをしていて、退職の軍人かとも見える頑丈がんじょうなしかも疲れ切った様子をしていた。
間数まかずが三十ちかくもあるであろう。それも十畳二十畳という部屋が多い。おそろしく頑丈がんじょうなつくりの家ではあるが、しかし、何の趣きも無い。
苦悩の年鑑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「シューッ、シューッ」それは頑丈がんじょうな男が、歯をくいしばってその歯のあいだから、ゆっくり息をおし出すような音だった。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
軒の垂木たるきまでも漆喰しっくいで包んだ土蔵作りの店の構え、太い角材を惜しげもなく使った頑丈がんじょう出格子でごうし、重い丸瓦でどっしりとおさえた本葺ほんぶきのいらか
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
頑丈がんじょうに、これでは沈没した時に決して間に合わないと、証拠立てられるほど、それほど頑丈に、くどくどとデッキや煙突にまで、綱を引っぱった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
それから間もなく一ちょう輿こしが、頑丈がんじょうな男にかつがれながら、藪原長者の館を出た。深編笠の武士が、輿の後から悠々と、つき添いながら歩いて行く。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして悪魔は、方々の掃除口を探して歩きましたが、どこもここもみな、頑丈がんじょうな鉄の蓋が閉め切ってあって、下水道へはいり込む隙間すきまもありません。
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
小劇場の舞台ほどもある広いおりの中には、頑丈がんじょう金網かなあみへだてて、とぐろをいた二頭のニシキヘビが離れ離れのすみを陣取ってぬくぬくとねむっていた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
神着の部落とちがって、ここでは家々もそう頑丈がんじょうでなく、何かき出しな荒々しい空気が部落の上を通っていた。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
頑丈がんじょうな、馬来マライ半島渡来の竹籐ラタン籠編かごあみにできていて、内部は、箱のようになっているらしかったが、表面は、全体を雲斎織ドリルスで巻き締めてあって、上から
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
指のそりかえった頑丈がんじょうな足をみると、生存を歓喜しつつ大地をかけまわった古代の娘を彷彿ほうふつせしむる。その瞑想と微笑にはいかなる苦衷の痕跡こんせきもなかった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
むかし、戦争せんそうのあった時代には、人びとはこういう大きな頑丈がんじょうなおしろに、喜んでじこもっていたものでした。
愛くるしい顔だちだが、からだつきは頑丈がんじょうで、肩や腕などまるまるとふとっているのだ。膚が陽に焼けていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
四カ月も、五カ月も不自然に、この頑丈がんじょうな男達が「女」から離されていた。——函館で買った女の話や、露骨な女の陰部の話が、夜になると、きまって出た。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
と声をかけて裏口からはいって来たのは、日ごろ、寺へ出入りの洗濯婆せんたくばあさんだ。腰にかまをさし、※草履わらぞうりをはいて、男のような頑丈がんじょうな手をしている山家の女だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
縁は町家並の三尺ですが、欄干は頑丈がんじょうで木の香もまだ抜けて居りません、それが東から南に回って、お照の刺されたのは、丁度その角のあたりになって居ります。
いま上人の前に出た五十ぐらいの頑丈がんじょうな男、その男には上人が容易たやすく名号を渡すことをしませんでした。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
頑丈がんじょうな体格の重吉は自分で自分の体をもて扱っているらしく、寝返りを打った時にねじけたままのようになっている足を実枝は真直ぐに直し、寝衣の前を合せた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
陸戦の士官の持つような頑丈がんじょうな軍刀に片手を支え、酒盃しゅはいに伸びた手の指が何か不自然なほど長かった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
以前にも増して頑丈がんじょうに、以前にも増して高々と、てっぺんに硝子ガラスの破片を光らせて、建設された。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
精巧な少量のものは専ら売るために織り、めいめいの着ているのは太い重い、蚊帳かやだの畳のへりだのに使うのと近い、至って頑丈がんじょうなもので、これが普通にいうヌノであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すぐにノックの音が聞え、この家についぞ見かけたことのない一人の男がはいってきた。すんなりとはしているが、頑丈がんじょう身体からだのつくりで、しっくりした黒服を着ていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
此のばゞあは元は深川の泥水育ちのあばれもので、頭の真中まんなかが河童の皿のように禿げて、附けまげをして居ますから、お辞儀をすると時々髷が落ちまする、頑丈がんじょうな婆さんですから
私はいつの間にか頑丈がんじょうな鉄のおりの中に入れられている。白い金巾かなきんの患者服を着せられて、ガーゼの帯を捲き付けられて、コンクリートの床のまん中に大の字なりに投げ出されている。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だんだん近くなりますと、それは頑丈がんじょうそうな変に小さな腰の曲ったおじいさんで、一枚の板きれの上に四本の鯨油げいゆ蝋燭ろうそくをともしたのを両手に捧げてしきりにう叫んで来るのでした。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
頑丈がんじょうな男でしたが、年を取っており、無口で無愛想なので兄のお気に入りでした。人込ひとごみだろうが、坂道だろうが、止めろ、と声を掛ければすぐ止めます。用事の外は口を開きません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そんな頑丈がんじょうな身体をしているし、辛抱強いのに、机の前でいじけてるのはつまらないじゃないか。先日こないだ山から見た島を借りて桃をえても、後の泥山をひらいても何かできそうじゃないか。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
けやき材を用いて、これに頑丈がんじょうな鉄金具をまとわせ立派な技を見せました。千石船の禁止と共にその種の船箪笥ふなだんすは終りましたが、箱造りの技は続き、主に衣裳箪笥や帳箪笥ちょうだんすを作り始めました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この頑丈がんじょうな建物も、柱やはりがきしみ、雨戸は鳴り、あるとも思えなかった隙間から吹き込む風で、他の部屋の奥にあるさわの部屋でさえ、行燈あんどんの火がいまにも消えそうに揺れまたたいた。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ゆたかな水はそれだけ厚く頑丈がんじょうに凍結した。イシカリの原野を二つに区切るこの大河も冬は眠って了うのであった。水は底ひくくもぐって鳴りをひそめた。その上に雪が降り積っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
先年いつか汽車の中で、こういう種類の政治家らしい人が、ふとって頑丈がんじょうな肩をいからせながら、地方の代表者らしい人を二、三人前に置いて、盛に高説をきかせていたのを見たことがある。
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかし無残にも漆喰は残らず落ちて、衣物きものはすっかりがれておりました。私は暫く立って見ていましたが、どうも如何いかんともしがたい。ただ、骨だけがこう頑丈がんじょうにびくともせずに残っただけでも感心。
葉子は倉地の後ろから着物を羽織はおっておいて羽がいに抱きながら、今さらに倉地の頑丈がんじょうな雄々しい体格を自分の胸に感じつつ
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
食物といっては、正に獄人に食わせるようなものを、朝夕二度、頑丈がんじょう荒格子あらごうしの窓から番卒が給与してくれるものだけである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして厳然たる様子でこのやせた二十歳の青年は、太い頑丈がんじょうな人夫を一枝のあしのようにへし折って、泥の中にひざまずかした。
単純で健全で頑丈がんじょうで、それほど理屈ぽくなくてただ愛してくれる、美しい平民の娘のほうが、やはり好ましいのだった。
木製の頑丈がんじょうなベッドが南枕みなみまくらで四つ並んでいて、僕のベッドは部屋の一ばん奥にあって、枕元の大きい硝子窓ガラスまどの下には
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
毛繻子張けじゅすば八間はちけん蝙蝠こうもりの柄には、幸い太いこぶだらけの頑丈がんじょう自然木じねんぼくが、付けてあるから、折れる気遣きづかいはまずあるまい。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
………と、そう云い出したので、小泉さんの所なんかきっと大丈夫だよ、あの家は頑丈がんじょうだし、平屋だから、………と、輝雄がその尾について云った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
時計の針といっても、長さ二メートル半、はばは三十センチもある、頑丈がんじょうな鉄の板ですから、丈吉君の力では、とても、おしもどすことはできません。
塔上の奇術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
階段をのぼり切ったところに、頑丈がんじょうな扉がしまっている。じょうがおりていると見え、せど叩けどびくとも動かない。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
山形で一番さきに春の訪れるのを感じるのは、この桑の若芽のずる頃である。たけの低い、ふしくれだった頑丈がんじょうなその幹と枝ぶりはゴッホの筆触を思わせた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)